stageE『髪飾り大騒動』
作者
「スマホの画面割れたorz」
桔梗
「m9^A^)」
作者
「(´・ω・`)」
私は今、すごく困っている。
まあ原因は今目の前でうずくまっているチビすけなんだが。
「なあチビすけ、そろそろ神社に帰らないか?」
ルーミアは霊稀に声をかける。
しかし霊稀はだまって首を横に振った。
ルーミアとしては早く霊緋か桔梗に預けたいところだが、霊稀はルーミアのスカートの裾を握ったまま微動だにしない。
なぜこんなことになってしまったのか……。
その理由は二時間ほどさかのぼることになる。
「今日は晴天、ふとんがよく乾きそうね」
霊緋は服の袖で汗を拭うと、空を見上げた。
今日も幻想郷は平和そのもの、暇過ぎてまた寝てしまいそうだ。
霊稀も今日は霊緋について洗濯物の手伝いをしている。
まだ小さい霊稀は物干し竿に手が届かないので、洗濯物を竹篭から取り出してはシワを広げる作業を任された。
しかし広げては渡してを繰り返していると、竹のささくれたところに黒い服が引っ掛かってしまった。
昨日霊緋が汚してしまった桔梗の上着だ。
「うー……」
しぶしぶ篭を持って縁側に向かうと、中身をひっくり返して桔梗の上着を外す。
幸い桔梗は今神社にはいない。
少し布がほつれてしまったので霊稀はホッと息をつくと、服を篭に戻し始めた。
その時だった。
「ああっ!」
神社の社の中は開け放つと風がよく抜ける。
今度はその風に乗った霊緋の髪飾りが飛んでいってしまった。
急いで服を篭に戻すと霊緋をちらっと見る。
運がよかったのか悪かったのか、霊緋は取材に来た綾音としゃべっていた。
早く探さないと大変だ。
霊緋はあの髪飾りがお気に入りなのを前聞いたことがある。
霊稀は二人が気付いてないことを確認すると、神社の階段を駆け降りた。
「あれ、こっちだったと思うんだけど……」
階段を駆け降りる霊稀は一番下までたどり着くと、辺りを見渡す。
当然、飛ばされた髪飾りはどこにも見当たらない。
「どうしよう……」
とりあえず人里に抜ける道をあてもなく走りだす。
だんだんと泣きたい気分になってくる。
もし見つけられなかったら霊緋はどれだけ怒るだろうか。
すると神社と人里との中間あたりで見慣れた人を見つけた。
「あれ、どうしたチビすけ」
ルーミアだ。
まだ名前の決まっていなかった霊稀をチビすけと呼ぶ。
そんなことはどうでもいいが、このタイミングで会えたのはかなりラッキーだった。
早速霊稀は一部始終をルーミアに話して協力を頼んだ。
「霊緋の髪飾りか……幻想郷は広いぞ?」
「…………。」
頭をかくルーミアを涙目でじっと見つめる霊稀。
いくらルーミアと言えどもそんな顔をされたのでは断りようがなかった。
「わかった、わかったから。とにかくどっちに飛んで行ったか教えてくれよ」
ルーミアが協力してくれるとわかると、霊稀は喜んで髪飾りの飛んで行った方を指差した。
「竹林か……またやっかいなところに飛ばされたな」
竹林、通称『迷いの竹林』はその名前の通り一度入ると出るのは至難の技だ。
しかし了承してしまった以上、協力するしかないだろう。
「はぁ……行くしかないか」
で、今に至るというわけだ。
どうやら迷ったっぽいし、いったん上に出て現在地を確認したいけど、こうもしがみつかれちゃ身動きがとれない。
「まったく、こっちも泣きたくなるよ……」
「泣くのは勝手だが一応理由は聞いてやるか」
「お気遣いどうも……って!」
ようやく背後に立つ人影に気付いたルーミアは飛びのいて霊稀を自分の後ろに隠した。
「なんだい、せっかく助けてやろうと思ったのに」
「なんだ案内屋か……びっくりした」
竹林の案内屋、藤原妹紅は腰に手を置くと呆れたような視線をルーミアに向ける。
「人食いの次は人さらいかい? 感心しないね」
「巫女なんてさらったら大問題でしょうが」
ルーミアは後ろに隠した霊稀を自分の前に出した。
初対面なだけに霊稀はどこか怯えているようだ。
「あれ、博麗の巫女ってこんなにチビだっけか?」
「これは二代目、霊緋なら多分神社でお茶でもすすってると思うわ」
「ぶぇっくしょぉいっ!」
「霊緋、くしゃみが年寄り臭いよ」
「あ、綾音ぇ、誰かが噂してるぅ……」
「なるほど、かわいい巫女見習いさんじゃないか。で、今日は何用で竹林に入ったんだい?」
「それが……」
ルーミアと霊稀は事の成り行きを軽く説明する。
すると妹紅は何か知っているのか、ため息をついて頭をかいた。
「あー、それならついさっき見たよ。というか拾った」
「え? ちょっ、どこにあるのよ!」
「うわっ、やめっ、揺らすな!」
妹紅を掴んでガクガク揺らすルーミア。
妹紅はなんとかルーミアから逃れると、首元をさすった。
「まったく、不死身だからって痛くないわけじゃないんだからな!」
「ご、ごめん……」
「その髪飾りなら見たのは確かだけどてっきり永遠亭の患者が落としたものかと思って届けたよ」
「もうダメだぁ……おしまいだぁ……」
どういうわけかルーミアはその場にへたりこむ。
何がなんだかさっぱりわからない妹紅と霊稀はお互い見合わせてからルーミアを見下ろす。
「医者は嫌いなんだよぉ……」
「なんだそういうことか」
これには二人とも苦笑い、そんな様子をルーミアは恨めしい目で見つめる。
「なら私とこの子だけで行ってくるよ。あんたはここで待っていればいいさ」
「ま、任せた……」
「時に霊緋さん」
「何よ急に改まって。気持ち悪い」
「桔梗さんとのその後の進捗は?」
「ブーッ!」
霊緋は飲みかけだったお茶を盛大に吹き出す。
お茶の被害はニヤニヤしながら霊緋の反応を楽しんでいた綾音にまで及び、応接間は大惨事になった。
「ちょっと、何するのよ! ただ気になったから聞いてみただけじゃないの!」
「何するのよじゃないでしょ! いきなりなんてこと聞くのよ!」
顔を真っ赤にして慌てふためく霊緋。
とりあえず吹き出したお茶はその辺に置いてあった手ぬぐいで拭き取る。
綾音の服は自分で拭かせた。
「なんだかんだ言って二人仲良いじゃないですか。こっちとしては早くくっついてくれた方がありがたいんですよ、記事的な意味で」
「絶対に記事にはされたくないわ。なんであいつなんかと……」
「こそばゆいですなぁ。では霊緋の見事なまでの照れっぷりを一枚」
カシャッ
「ちょっ、何撮ってるのよ!」
綾音は必死に顔を隠そうとする霊緋の手をかい潜りつつ、シャッターを高速で切っていく。
「おお、赤い赤い。可愛いお顔が真っ赤ですよ~」
「あぁのねぇ!」
「あややっ!」
霊緋は綾音の隙をついて腕を掴むと、そのままの勢いで押し倒した。
必死に抵抗する綾音を押さえつつ、押し倒した時に転がって行ったカメラに手を伸ばす。
「そうはさせません、ちゃんと霊緋には明日の朝刊の一面を飾ってもらうんだから!」
綾音も負けじと霊緋を妨害しつつカメラの行方を目で追う。
「あっ、ちょっとどこ触ってるのよ!」
「そっちだってさっき……いたたたた!」
「こら! 服を引っ張るな!」
「その前に私から早く下りてよ、霊緋太った?」
「こんのぉ、食べるものがないんだから太るわけないでしょ!」
カメラの取り合いをやめて睨み合う二人。
その時……
「霊緋、俺の上着に……」
何も知らない桔梗が頭をかきながら襖を開けて部屋に入ってくる。
夢中になっていた二人が突然入って来たに気付けるわけもなく、目を合わせた三人は一瞬にして固まった。
「あ……えと、悪い。邪魔しちまったみたいだな」
部屋の中を見た瞬間に状況を悟った桔梗は回れ右するとそっと部屋から出ていく。
その素早い動きに弁解する間すら与えられなかった霊緋は襖に手を伸ばすとがっくりと肩を落とした。
「明日の朝刊の見出しは『博麗の巫女に同性愛疑惑!?』ですかね」
「殺して焼き鳥にするわよ」
「おお、怖い怖い。大丈夫よ、記事にはしないから」
「信用出来ない」
「アイヤー、カラス、ウソツカナイ」
「じゃあこのカメラをこう……ぱきょっと」
「調子こいてすんませんでした絶対記事にはしませんだからカメラだけはせめてそのカメラだけは!」
「あら、珍しいこともあるものね。あなたが博麗の巫女と一緒だなんて」
永遠亭の客間、妹紅と霊稀はここの医師である八意永琳に事情を話した。
「というわけであの髪飾り、この子に返してやってくれないだろうか?」
「ええ。てゐが管理してくれているはずだけど……てゐ?」
永琳は廊下に顔を出して、ここに出入りしている兎である因幡てゐを呼ぶ。
しかしいっこうに返事もなければ、こちらに来る様子もない。
「あれ、おかしいわね。また出かけているのかしら」
「ああ、なんか嫌な予感がしてきたよ」
頭を抱える妹紅。
てゐの手に渡った以上、簡単には取り返せそうにない。
そんなことがわかるはずもない霊稀は、妹紅の様子をただ不思議そうに見ている。
「しょうがない、計画は捕獲に変更だ。なんとかして見つけて捕まえないとな」
妹紅は霊稀の手を握ると、永琳に礼だけ言って永遠亭を後にした。
しかし特に当てがあるわけでもなく、また竹林をさ迷い歩く作業に戻ることになる。
「いないね」
「ああ」
「…………」
「…………」
ふと、妹紅の服を握っていた霊稀の手が離れた。
霊稀は竹林の一点を見つめたまま動かない。
「どうした?」
「あれ……」
霊稀に近付いて指差す方を見る妹紅。
そこには何やらぴょこぴょこと動く耳のような物が。
「いた、行くぞ!」
妹紅は霊稀の手を引いて走り出す。
服装自体は他の兎とあまり差はないが、首からニンジンの首飾りを下げている。
間違いなくお目当てのてゐだ。
が、いきなり妹紅が霊稀の視界から消えた。
恐らくてゐが仕掛けたと思われる落とし穴に妹紅がはまったのだ。
当然、引っ張られていた霊稀も妹紅に続いて落とし穴に落っこちた。
「いたたた……大丈夫か?」
とっさに霊稀をかばって下敷きになった妹紅は下から霊稀の顔を覗く。
が、覗いた瞬間に覗かなければよかったと後悔することになる。
霊稀が今にも泣き出しそうなのだ。
「ちょっと、何作ったそばから引っ掛かってるのよ、もう一回作り直しじゃんか!」
落とし穴の上、物音に気付いたてゐが顔を出す。
霊稀の下から文句を言う妹紅。
しかし効果があったのは妹紅の文句ではなく、半泣きの霊稀だった。
「な、なんだよ……そんな顔で見るなよ……」
それでも見つめるのをやめない霊稀。
やがててゐは走って逃げてしまった。
「大勝利だな、ちっこい巫女さん?」
妹紅は霊稀を背負うと、落とし穴から抜け出した。
てゐはと言うと、ずっと太い竹に頭を打ち付けている。
「ウサぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ふう、後は髪飾りを取り返すだけだな」
その様子を見て妹紅はおぶっている霊稀にピースサインして見せた。
「ああ、いたいた」
どこからか声がする。
妹紅と霊稀が空を見上げると、見慣れた二人が下りてきた。
霊緋と綾音だ。
「おお、別の大小紅白コンビですか。なかなか珍しい組み合わせですし記念に一枚」
一枚とは何だったのか、綾音は様々なアングルから霊緋を背負った妹紅を撮っていく。
霊稀は妹紅の背中から降りると、霊緋の足元に駆け寄った。
「まったく、勝手にいなくならないでよ。びっくりしたじゃない」
「ごめんなさい……」
霊稀の頭をなでる霊緋。
「あまり怒らないでやってくれよ? その子はあんたの髪飾りを探すためにここまで来たんだから」
いつまで経っても頭を打ち付けるのを止めないてゐを押さえると、妹紅は事情を説明する。
話を聞いたてゐは霊稀に近付くと、服のポケットから紅白の布切れを取り出した。
今まで探していた霊緋の髪飾りだ。
「これは返すよ。その……えと……ごめん」
恥ずかしいのか俯いて謝るてゐ。
霊稀はにこっと笑って受け取ると、てゐに抱き着いた。
「うん!」
「髪飾り騒動もこれで終わりか……いやあ長かった」
妹紅の案内で竹林の出口を目指す一行。
空はもう真っ赤に染まっている。
やがて出口が見えてくると、桔梗とルーミアが迎えた。
「あ……」
「おい案内屋、私のこと忘れてただろ!」
「ごめんごめん、すっかり忘れてたよ」
「き~さ~ま~」
ルーミアは相当根に持っているようだ。
逃げた妹紅を追ってどこかへと走って行ってしまった。
「で、桔梗は何でここに?」
「怪我人の搬送さ、竹林の医者のところまで人担いでひとっ走り」
桔梗自身も何やら怪我をしているようだが、こちらはなんともなさそうだ。
「それとさ霊緋」
「なによ」
「次からは戸を叩いてから入ることにする」
満面の笑みでサムズアップする桔梗。
次の瞬間桔梗が派手に吹き飛んだのは言うまでもないだろう。
夕暮れの中、それぞれの影が長く伸びていった。