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stageB『東方幼白虎』

ずっと昔、閻魔に言われたことがある


俺の罪は重く、いくら償っても償いきれないと……


それでも俺は許せなかった


彼女を裏切った人達のことが許せなかったんだ



「はぁ? 俺が神様になった理由だ?」


 霊緋の突然の質問に驚く桔梗。


 今は夜中、霊稀が起きないようにと霊緋は桔梗の口を手でふさぐ。


 霊緋の目からして真剣な話のようだ。


「気になってしょうがないのよ。だってあんた元妖怪でしょ?」


「まあな、白虎だし。ってかそんなに知りたいのか?」


「知りたい知りたい」


 桔梗は悩むそぶりを見せる。


 それに対して霊緋は桔梗の反応をじっと見つめた。


「実はな……」


「実は?」


「倒して力を奪っtぐはっ!」


 ノーガードだった桔梗の顔面に霊緋の飛び蹴りが炸裂する。


 ふっとばされた桔梗はと言うと、タンスの角で頭を打って止まった。


「どう? 最近編み出したハクレイキックの味は」


「そ、そんな叫ばないと発動しない某ロボットゲームの必殺技みたいなネーミングsぐがはっ!」


  2かいあたった▼


「何の話よまったく。また無駄な労力を使っちゃったじゃない」


「解せぬ……」


「そうじゃなくって、真面目に答えてよ」


「わかったよ。……実はな?」


「天から降ってきた~なんて言わないよね?」


「先読み……だと……」


「あんたの考えてることぐらい容易に想像出来るわよ」


「はぁ」


 桔梗はとうとう観念したのかため息をついてうなだれる。


 霊緋は勝ち誇ったような笑みを浮かべてお酒を自分のコップに注いだ。


「話す前に一つ言っときたい。後悔はしないよな?」


「え?」


 いつになく暗いトーンで話す桔梗に少し動揺する霊緋。


 しかしここまできて引き下がるのはもったいない。


 霊緋は黙って頷く。


「わかった。長くなるからその辺は覚悟してくれよ」








 まず俺の種族からかな。


 白虎の一族ははるか昔より代々、人間達を狂暴な妖怪から守る守護妖怪として生きてきた。


 俺達が人間を脅威から守る代わりに、人間達からは俺達への食料の援助が約束されている。


 相互に異論はなく、一族と人間達との間には固い結束があった。


 俺が生まれるまではな。


 一族には古くから伝わる伝承があった。


 ほらアレだ、こんなやつが生まれたら災いが起こるとか言うベタなやつ。


 俺の一族は全員、青い毛が混じってる。


 俺は違った、見てのとおり紫の髪が混じってる。


 そんな俺を見て、俺の両親は俺に桔梗と名前を付けた。


 どれだけ忌み嫌われても、せめて桔梗のように咲き誇ってほしいとな。


 二人は一族の中でもそれなりの地位にいたから、なんとかごまかしが効いた。


 でもそれを快くないと思う連中がいるのはどのご時世でも同じだ。


 やがて人間達に知れ渡り、苦渋の決断を迫られる。


 俺を殺すか、一族から追放するかだ。


 猶予は一週間、当時事の重大さがまったくわからなかった俺は、夜遅くまで話し声やすすり泣く声が止まなかったのを不思議に思っていた。


 そして一週間なんてあっという間に過ぎ、与えられた猶予の最終日に決断は下された。


 両親はせめて生き延びてほしいと、追放の選択肢を選んだんだ。


 翌日俺は一族から追われた。


 その時の族長の冷たい目や、土砂降りの雨は今でもまだ覚えてる。


 今まで優しく接してくれたはずの誰もが俺の敵になった瞬間だった。


 あれは、本当に辛かったよ……










 なぜ? どうして?


 いくら問うてみても何も返って来ない。


 自分が捨てられたことにすら気付かず走り続ける白虎の子供。


 やがて彼の足がもつれ、木の根に引っかかる。


「くそっ……くそぅ……」


 怒りをぶつけられる物もなく、桔梗は木の幹を力一杯殴りつけた。


 何度も、何度も、何度も。


 やがて両手の平に爪が食い込み、幹で傷付いた指と合わせて手が真っ赤になった。


 雨の粒が傷口に当たる度に激痛が走る。


 痛い……怖い……寂しい……辛い……苦しい……


「うわぁあぁぁぁぁぁぁぁああぁ!」


 行き場をなくした感情が逆流し、虚しい叫び声だけが木々の間をこだまする。


 誰にも聞こえないし、誰も答えない。


 ただ雨の中に掻き消えていく。


 今さらになって気が付いた。


 本当は味方なんていなかったんだ、と。


 壊れた日常はもう戻らない……








 そこから先のことはあまり覚えちゃいない。


 川沿いを歩いてた時に、土砂崩れにあったんだ。


 成すすべもなく飲み込まれて、土砂と一緒に川にダイブさ。


 どれぐらい気を失ってたのかな。


 誰かの呼ぶ声が聞こえたような気がして目をうっすらと開けたんだ。


 そしたら誰かが俺の腕を掴んで川から引き上げようとしてた。


 でもそこまでで俺の意識はまた途切れる。


 覚えていた断片的な記憶だ。


 は? 誰かって誰?


 それは今から話すから黙って聞いてろよ。


 俺だって思い出したくもないことしゃべってんだ。


 ええと、どこまで話したっけ? ああそうそう、俺を川から引き上げたやつの話だな。


 次に俺が目を覚ましたのは、小さな崖に出来た空洞の中だった。









 寒い……


 桔梗は自分の身を刺すような寒さに目を覚ました。


 周囲の状況がイマイチよくわからない。


 ふと、起き上がって自分の両手を見る。


 いつの間にか怪我をした両手にあまり綺麗とは言えないが、包帯が巻き付けられていた。


 身体の節々が痛む。


 土砂崩れに巻き込まれた際にあちこちぶつけたようだ。


「あ、起きた? 怪我は大丈夫?」


 空洞の中に入って来る人影。


 痛む身体に鞭打ってすぐさま身構えた桔梗は、牙を剥いて低い唸り声で相手を威嚇する。


「大丈夫、怖がらないで」


 さらに近寄って来る影。


 桔梗もじりじりと後ろに下がるが、先に足に限界が来た。


 痛みに耐え切れず左足が崩れ、桔梗は膝をつく。


 影はその様子を見ると、あわてて駆け寄ってきた。


 痛みで動けない桔梗は死を覚悟して目をつぶる。





 しかしいつになっても死の痛みはやって来ない。



 それどころか、どこか懐かしい暖かさだけが桔梗を包む。


「大丈夫、大丈夫だから。私はあなたの味方よ」



 さっきの影の声。


 目を開けると、一人の女の子が桔梗に抱きついていた。




 だんだんと消えていく恐怖。


 それにつれて隠れていた寂しさや悲しみがあふれてくる。



 いつしか桔梗は泣き出していた。


 これが全ての始まりだった……








 その子は近くの街に住んでいて、俺に街の医者の元へ行くように言った。


 でも俺は妖怪、彼女は人間。


 俺の手当のためだけに彼女を面倒に巻き込むわけにはいかなかったから断った。


 それに人間よりかははるかに回復力があるからな。


 俺は空洞の中で回復を待つことにする。


 彼女も昼を過ぎた頃に見舞いに来てくれた。


 一週間ぐらいして傷もほぼ完全に治ったころから、俺は空洞の外にいることが増えた。


 食料も自分で捕るようになったし、彼女に連れられていろんな場所に行った。


 そりゃ楽しかったさ。


 絶望のどん底から彼女が引き上げてくれたからな。


 いつしか捨てられたことも忘れて、俺は大事なことを見失った。



 俺は妖怪、人間である彼女とは深く関わってはならない。


 誰かが言ってたよな、人は同じ過ちを繰り返すってさ。


 その通り俺は、同じ過ちを繰り返してしまった。


 彼女は俺と一緒にいるところを街の人間に見られてしまったんだ。




 人間達の間でどんな話があったかは知らない。



 でも、彼女は……


 街を出て少しした路地で街の狩人に背後から射抜かれた。





 俺は彼女が遅いことを心配して普段通ってるらしい路地を見に行った。



 そこでは二人の狩人が彼女に刺さった矢を抜いて、運ぼうとしていた。




 その時、何かが切れるような音がしたのを覚えてる。




 気が付けば音は狩人を殺し、彼女に駆け寄っていた。




 彼女は俺に何かを言おうとしていた。



 必死に口をぱくぱくさせて、声にならない声を絞りだそうとしていた。




 でも、それは無駄な足掻きだった。


 彼女は俺の腕の中で息絶えた。


 名前すら聞けないまま……







「ふと、彼女のことが自分に重なった。妖怪と仲良さそうにしていた彼女も、街にとって要らない存在になってしまった」


 桔梗の話を何もせずに黙って聞いていた霊緋は、ただじっと桔梗を見つめる。


 その先は何となく想像が出来た。


「完全にキレた俺は街を一つ滅ぼした。男も、女も、老人も、子供も……みんな殺したし、みんな壊した。なぜ彼女を捨てたのか、ただその思いだけが俺を突き動かした」


「…………。」


「今でもまだこの手が血に塗れて見えるぐらいにな」


「それから、どうしたの?」


「どうもしないさ。さっき最初に神の力は倒して奪ったって言っただろ?」


 そういえばそんなことも言ってたなと頷く霊緋。


 しゃべりっぱなしだった桔梗もお茶を飲むと、その場に寝そべった。


「それもあながち間違いじゃないんだ。その時の俺は近付く物を全てを拒絶した。それはたまたま見回りに来ていた神様でも同じだ」








「うがあぁぁああぁぁぁぁ!」


 桔梗は爪を振り下ろすと、そのまま妖力を球状に固めたものを投げつけた。


 さすがの黄龍もあまりのスピードに付いていけず、右腕に一撃をもらう。


 その隙に黄龍の背後にまわる桔梗。


 しかし背後からの奇襲は失敗に終わる。


 黄龍の放った衝撃波が桔梗にクリーンヒット、大きく吹き飛ばされた。


 咳込む桔梗、全身の感覚が麻痺しているようだ。


 ぼやける視界に写る黄龍の影。


 既に疲労が溜まっていた身体は動かない。



 無我夢中で手を伸ばすがその手は何も触れず、桔梗は気を失った。







 黄龍は幻想郷を形作るために必要な支えを探していたんだ。


 俺は黄龍を殺そうとした。


 でも黄龍は黄龍を助けてくれた。


 多分黄龍の眼鏡にかなったんだろうな。


 これは後から聞いた話なんだが、俺がなんであんなことをしたのかも、なんで捨てられたのかも全部知ってたんだと。


 黄龍は俺の元々持っていた能力を封じて、新しい力をくれた。


 それがお前も知ってる通り秋と西方に関した能力、幻想郷の形を固めるための能力だ。


 ま、これがだいたいの経緯だな。


 わかったか?









「……ごめんなさい」


 話を一通り聞き終えた霊緋はしばらくしてから口を開いた。


 外はだんだんと明るくなってきている。


 桔梗には後悔するなと言われたが、真っ先に口から出たのは謝罪の言葉だった。


「ま、今さら隠す必要もないことだしな。何やったって彼女が帰って来るわけじゃないんだ」


「でも……でも!」


「いいから、早く寝ないと朝になっちまうぞ?」


 押し黙る霊緋。


 桔梗も寝てしまったのか、音がしない。


「…………桔梗?」


「なんだよ」


「最後に一つ聞いていい?」


「ああ」


「あんたを捨てた両親のこと……今はどう思ってるの?」


「……そうだな、考えたこともなかったよ。でもさ」






 過去のことをあんまりネチネチと考えても始まらないだろ?


 そんな小さな男にはなりたくねぇし、そんなの俺らしくないからな

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