stageG『妖精大発生(後編)』
新たな仲間、チルノが加わった一行の前についに姿を現す黒幕
果たして、本誌記者の運命はいかに!
そして、春を取り戻すことは出来るのか!!
あれから一行はそれぞれもう少し情報を集めると、博麗神社に戻った。
「さて、チルノが加わったわけだが」
「ちょっと情報を整理してみますか」
文はメモを取り出すと、今まで集めた情報を書き出した。
「まず容疑者は三人、それぞれ同じような見た目で霧の湖のそばではあまり見ない。でしたね?」
チルノが頷く。
「そして今まで探ったところ、どうやら増えた妖精は一緒に行動していることが多いそうです」
「あと付け足し。力の強い妖精ほどたくさん増えてるみたいよ」
てゐの情報が新しくメモに書き足される。
だが肝心のところがわからず、四人はまた壁にぶちあたった。
「だめですね、お手上げですか」
寝転がる文。
てゐとチルノも既にあきらめかけている。
霊稀も頬杖をついてメモを眺めるだけだ。
「みんな、一つ聞いていいか?」
「何ですか?」
「今から妖怪の山へ行くだけの気力は?」
三人は顔を見合わせると不思議そうな顔をした。
「そりゃ別に大丈夫だけどなんで妖怪の山?」
「いい質問だてゐ。ちょっと思い当たる節がある」
立ち上がって上着を羽織ると、霊稀は先に出て行ってしまう。
「あ、ちょっと巫女?」
三人も急いで身支度をすると、霊稀を追いかけた。
「哨戒天狗、ご苦労だな」
霊稀達は妖怪の山の麓、哨戒天狗の待機小屋の前に降り立った。
「巫女、と……何かすごい組み合わせですね」
「椛、サボってないですか?」
「あなたと違ってサボりようがありません」
哨戒天狗、犬走椛は剣をしまうと、近くの岩に腰掛ける。
「何か用ですか? 文様がいるんで通しても大丈夫だとは思いますけど」
「いや、今日はお前に用があって来たんだ。哨戒天狗ならわかるだろ? ここ最近、よく出入りする三人組がいたはずだ」
「よくわかりましたね。河童の子供が三人、最近よく出入りしてますね」
椛は袖のポケットから砥石を取り出すと、剣の手入れを始める。
「私はいなかったので知りませんけど、同僚は大きな荷物を抱えた三人を見たって言ってましたよ」
「大きな荷物? それってもしかして!」
真っ先にチルノが反応する。
「そう、それが妖精の大発生の原因だ。恐らく河童の発明品だろうな」
「河童の発明品、子供のいたずらか……やれやれ、そんな程度の話なら竹林から出て来るんじゃなかった」
この異変が子供のいたずらと知っててゐは盛大にため息をつく。
しかしこのまま放っておくわけにもいかない。
霊稀は椛に他にはなにかないかと聞く。
「他ですか? そうですね、今日は出て行ったっきり帰ってません」
「ならこのままあたい達はここで待っていれば……」
「いや、チルノ。ここは私達から打って出よう」
霊稀は笠と上着を椛に預けると、刀をしっかりと腰に固定した。
「出て来な」
さっと振り返る霊稀。
その視線の先では河童の子供が三人、あわてて木の影に隠れた。
「あれが犯人か、くっそー!」
「待て、よせ!」
霊稀の制止を無視して突っ込むチルノ。
氷で大剣を作り出すと、機械目掛けて振りかざす。
しかし剣は直前に溶けて消えてしまった。
「なんで!」
着地して周りを見渡す。
理由は簡単だった。
炎の妖精が振り下ろされる直前にチルノの剣を攻撃していたのだ。
「ちぃっ!」
いくら妖精の中でも力が強いからと言っても、さすがに氷は炎には勝てない。
幾重にも氷の壁を形成すると、チルノは後ろに下がった。
「だから言っただろ。多分増やした妖精を自由に操れるんだ」
霊稀も刀を抜くと、すぐさま構える。
「チルノ、お前は下がってろ。烏、てゐ、哨戒天狗、行くぞ!」
「……ツッコミ入れたら負けですね。行きますよ椛」
てゐ、文、椛の三人はそれぞれ思い思いの武器を取ると、河童の元に向かった。
文と椛が牽制し、てゐが捕獲する。
打ち合わせはしていなかったが、見事なコンビネーションだ。
「残り一体!」
攻撃を盾で防ぎつつ椛が叫ぶ。
その声を聞いて文は妖精を見つけだすと、手に持つ扇を大きく振った。
吹き飛ぶ妖精。
そのままてゐの仕掛けたトラップにホールインワンした。
「あとはっ!」
椛と霊稀が装置に猛スピードで接近する。
「や、やばいよ!」
「うわぁぁぁぁ!」
カチッ
スイッチの音と共にまばゆい閃光が二人を包んだ。
眩んだ二人は思わず足を止めて目をふさぐ。
「なんだ、今のは!」
「目、目が……」
目がよく見える分、椛にはきつい光だったようだ。
しきりに目をしばたかせている。
「何が起きたんだ?」
ようやく視界が戻ってきた霊稀は目をこするとあたりを見渡す。
幸い、怪我はないようだ。
「あわ……あわわわ!」
「どうした白狼天狗」
「あ、あれ……」
河童の子供の方を指差す椛。
「なっ!」
一瞬自分の目を疑ったが、これは紛れも無い事実だ。
目の前にもう一人霊稀が立っている。
「まさかまた装置で! 今までの妖精なんかとは強さの桁が違いますよ!」
剣を構える椛。
いくら本人がいるとは言っても相手は博麗の巫女、たとえ文達が合流しても勝てるかどうかはわからない。
「幻想郷最速のブン屋参上! ってなんで霊稀さんが二人?」
「また装置が動いたってことね。うさうさ……」
「と、とにかく戦わないと!」
「その必要はないぞチルノ」
霊稀は増えた霊稀を一瞥しただけで刀を収めると、チルノの肩をぽんぽんと叩く。
「え?」
チャキンッ
「うわぁぁ!」
チルノがなぜと聞くよりめ先に偽霊稀が動いた。
一瞬にして刀を抜くと、機械のスイッチを持っている子供の首元に突き付ける。
「あ、あややや?」
「やっぱりな」
やれやれといったそぶりを見せる霊稀は装置のパネルを刀の鞘で貫く。
バチバチと火花を上げる装置。
鞘を抜き取ると、あちこちで点滅していたランプが一つ、また一つと消えていった。
その様子を河童の子供たちは怯えた表情で、偽霊稀は涼しげな表情で見つめる。
やがて装置の火花がおさまると、静まり返った空間に偽霊稀が刀を収める音だけが響いた。
「終わったな」
さて、ここまで書いてみたものの私には今回の異変は不可解なことだらけだ。
まず河童の子供たちはなぜ妖怪でなく力の弱い妖精を手駒にしたのか。
そしてなぜ巫女はあの少ない情報から犯人が河童であるとわかったのか。
あと一つ付け加えるならなぜ偽の巫女は私たちでなく河童を攻撃したのか。
一つ目の理由はだいたいの見当がつく。
装置の特性上、分身を作り出すには対象に接近する必要があるからだ。
力が弱い河童の子らは他の強い妖怪に接近するのが怖かったのだろう。
で、残りの二つは……。
「霊稀さん」
「なに?」
「なんで犯人が河童だってわかったんですか? 他の妖怪の能力のせいかもしれなかったんですよ?」
「ああ、あれか」
霊稀はそっと刀に手を伸ばすてゐの手を叩くと座布団の上に座りなおした。
「簡単な話さ。実はな」
「実は?」
「神社を出たあたりからずっとこっちの様子を伺っていたからだ」
「…………。え?」
「いや、言おうかと思ったのだがお前がしつこく春を取り戻すだのなんだの言うから。話をややこしくしたくなかったからな」
文の思考はそこでフリーズした。
え? そんな頃から犯人割れてたの?
「まさか気付いてなかったのか? 泳がせて反応を見るつもりなのかと思ってたのだが」
よくよく思い出してみれば確かにそれっぽい気配はしていたのだが、まったく気にしてなかった。
というか春告げ精の一言が頭の大部分を占めていて考える暇などなかったのだ。
「うさうさ、そんなことだからいつまで経っても春が来ないんだよ」
「ぐっ! うぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
てゐの一言がとどめになり発狂しだす文。
てゐと霊稀はやれやれと首を振る。
「行きますよ霊稀さん!」
「どこへ? 夜中だぞ」
「もちろん私たちの春を探s……ひでぶっ!」
また霊稀の服の衿を掴もうとした文の頭頂部に刀の鞘がめり込む。
「いい加減にしろ!」
霊稀はそのまま床に捩じ伏せると文の腕を背中にまわしてギリギリとしめた。
「お前、何か忘れているようだな」
「あややや! 痛い! 本気と書いてマジで痛い!」
「私はな……」
文の腕を掴む手に更に力を加える。
「他人に利用されるのが一番大っ嫌いなんだ!」
「お、折れます! 伝統の幻想ブン屋のか弱い腕が折れます!」
「問答無用!」
「えっあのっ冗談抜きで折れ……」
「ああ、やっぱり今回はだめだったよ。子供は引き際ってものを知らないからね」
「で、次はどうするの?」
「そうだなぁ、次はもうちょっとマシな人材が欲しいね。私の言うことをちゃんと聞いてくれるような……」