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stageA『それはまるで』

私は博麗の家に生まれたことを、実は悔いている


両親の前ではあんな態度を取ってたけど、先のことを考えると正直言って怖い


そんな折に彼と出会った


彼は私にこう言った

『へっぴり腰の巫女を誰が怖がる? 怖い思いをしたくなければもっと巫女らしくしてろ』


と…………

 私には一つ気になっていることがある


 まあ簡単に言えば桔梗のことなんだけど、彼の種族は白虎だ。


 伝承によると、白虎の一族は代々守護妖怪として人間達を守ってきたという。


 そう、彼は本来なら妖怪。


 ではなぜ彼は四神の一人として、神の力を手に入れたのだろうか……


 ずっと気になっていたけどなかなか言い出せなかった。


「どうした霊緋、何ぼけーっとしてんだよ」


 そして当の桔梗はさっきからうちに一つしかないうちわを独占している。


 所々に紫の毛が混じった銀色の髪が風に当たってサラサラと揺れる。


 女の人みたいに長い髪。


 しばらくすると桔梗は耳をひくつかせて立ち上がり、ブーツを履いて表に出た。


「どうしたの?」


「いや、ちょっと……」


 桔梗はそのまま鳥居の方まで出ていってしまった。


「はぁ……」


 今日も幻想郷は平和そのもの、博麗の巫女もここのところ開店休業状態だ。


 あ、そういえば人里でスイカをもらったんだっけ?


 意識が朦朧としている。


 とにかく今日の夕飯を考えないと……桔梗が持って来た猪肉と山菜、あとは何かあったっけ?


 やがて誰かが走って来る音がした。


「霊緋、大変だ。ちょっと来てくれ!」


「また異変? 面倒だからあんたが行きなさいよ」


「異変……と言ったら異変なのか? いや、そんなことより大変だぜ。鳥居の下に人間の捨て子だ」


「はあ?」


 反応がワンテンポ遅れる。


 妖怪があふれかえるこの幻想郷で、人間の捨て子は珍しい。


 大概は妖怪に食べられてジ・エンド、その子の存在は綺麗さっぱりと消えてしまう。


「人間? 確認したの?」


「ああ、ありゃどう見ても人間の赤ん坊だ」


 人間な上にさらに赤ん坊ですか……また面倒な。


 とりあえず私も下駄を履いて外に出る。


 うう……肌が焼けるようだわ。


 桔梗が指を指したのは鳥居の近くの木の下、ちょうど木陰になっていて見えにくいが確かに白い何かが落ちてる。


「丁寧に布で包まれちゃってさ、このクソ暑い日によ」


 私は赤ん坊を抱き抱えると、顔にかかっていた布を払った。


 赤ん坊は不思議そうな顔をしていたが、私を見るとやがて手をバタバタ動かしだす。


「霊緋、こいつは……なんか違わないか?」


 やっぱり桔梗も気付いたのね。


 人間と妖怪、このまったく異なる二つの種族にも共通するものが一つある。


 霊力の波長、まあこれは誰でも感じられるものではないから一概には共通点とは言い難いけど。


 とにかくこの子には特別な何かが宿っている、そうとしか考えられない。


「……で? どうするよ霊緋」


「どうするって言われたってねぇ」


 今まで襲われた形跡はないにしろ、このままだといつ襲われるかわかったものじゃない。


 今の神社の賽銭では養うのは難しいかもしれないけど、不可能ではないと思う。


「桔梗……私、この子育てるわ」


「おい本気かよ。この間だって俺が遊びに来た時腹減って動けないって倒れてたじゃないか」


「でも、こんなところに放っておくわけにはいかないでしょ!」


 腕組みをして考える桔梗。


 確かにちょっと無茶かもしれないけど、やってみる価値はあるはず。


「わかった。香澄にも相談してみるよ、あいつなら子育てとか得意そうだし」






 こうして、霊緋はその捨て子を育てることになったわ。捨て子というのはもちろん、あなたのことよ」


「わかっている」


 霊稀は立ち上がると、神社の屋根から飛び降りた。


 下では紫が空に浮かぶ真っ青な月を見上げている。


 あれから数年、桔梗と香澄の行方もわからないまま幻想郷はその月日をゆっくりと重ねていった。


「私は生い立ちとか、そういうことにはあまり興味がない」


「そのようね……」


 夏独特の生暖かい風が夜の博麗神社に吹く。


 霊稀は右手に一振りの刀を持つと、その鞘をスラッと抜いた。


「私にはやるべきことがある。お義母さんと桔梗さん、二人が守った幻想郷を今度は私が守る。今はそれだけで十分……十分よ」


 刀を構える霊稀、その刃は月明かりに照らされて蒼く輝く。


 しかし紫の目には別のものが写っていた。


 刀を構える霊稀の背中に手を添える二人の面影。


 それはまるで、二人の生き写し……


 霊稀の背中を見つめる紫は、人知れず涙を流していた


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