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どうやら勇者やってた異世界に転生したらしい  作者: おばあさん
第一章『子供でいられるのは一瞬』
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Ep.7 元勇者が入学試験を受けた場合

 母と別れて奥に進むと、受付の場所までまっすぐ進む。


「おはようございます。入学試験の受付ですか」


「はい。三人です」


「三人ね。はい、これ」


 受付の女性から渡されたのは番号の付いたブレスレットと、この学校の見取り図だ。


「その二つ、特にそのブレスレットは失くさないようにね。それがこの学校で今日入る施設のパスと、受験番号にもなっているから。――はい、ではまず地図を見てください」


 俺たちは頷いて地図を見る。


「あなた達は今、ここにいます。ここから一番のところへ向かってください。"ホール"と呼ばれる場所です」


「分かりました」


「では頑張ってください」


 「次の方ー」とすぐに次の仕事に移る女性に、見えなくとも小さく礼をしておいて邪魔になるので二人を引っ張って進む。


「ブレスレットは付けた?」


「おう」


「うん」


 ダグラスが一五〇一と、ロゼが一五〇〇ね。俺が一四九九だから、もしかしたら離れる心配はないかもしれない。でも一応注意しておこう。


「ここから先、離ればなれになって一人で試験を受けなきゃいけなくなるかもしれないから、言われたことはよく聞いて、地図を見ながらちゃんと移動しよう」


「分かった」


「うん」


「よし行こう」


 さあ、俺たちの入学試験の始まりだ。






 一番のホールと呼ばれる場所は、待合室のようなところであった。そこで自分の受験番号を告げると、その番号がでかでかと印された必要書類の束を受け取った。といっても、受験者が書く場所は一番上の紙だけで、それより下は実技試験の評価用紙らしい。


「届け先ってどうすりゃいいんだ?」


「責任者ってお父さんとか?」


 この段階で離ればなれになっていなくて良かったと心底思う。

 とりあえず俺にもわからないところが多少あったので、そばにいた係員の人に聞いてなんとか書き終えた。とりあえず二人には届け先は我が家、責任者は自分の両親を書いてもらった。最初は合否結果が届けばいいので、近くて双方合意の上なら家が同じでもいいらしい。ありがたくそうさせてもらった。


 そして、最後にダグラスが書き終えた直後。


「では、受験番号一〇〇一番から一五〇〇番までの方はまず筆記試験になりますので、部屋番号二番から十六番までの部屋に移動してください。部屋に入る際は自分の受験番号を――」


「……」


「……」


「……」


 俺とロゼでダグラスを見る。ダグラスは俺とロゼを交互に見る。とりあえず、ダグラスに言えるのは一つだけだ。


「「……頑張って」」


「待って!置いてかないで!」


「一五〇一番から二〇〇〇番までの方は実技になりますので――」


「置いてかないで~!」


 かなりの不安要素(ダグラス)を置いて、俺たちは二人で筆記試験会場へと向かった。






 筆記試験とは、、"算数"百五十点、"歴史"百五十点、"魔法理論"二百点の計三つ五百点満点だ。筆記試験の平均点はおよそ四割五分、合格者平均点はおよそ六割弱(らしい)。中々厳しい試験だ。

 だから、会場に入った時の雰囲気が剣呑としているのは当然と言えよう。まるで戦場のようにピリピリとしている。隣の席の誰かと話すなんてことは一切していない。

 この中で人をタイプで大きく二分するなら、雰囲気醸し出すタイプと、それに呑まれてしまうタイプだろうな。俺は少数派最大派閥のマイペース派です。最低ラインは七割で安定してます。……手応えがなかったら実技でぶっちぎるだけだし。

 だが、俺の後ろにいるロゼは紛れもなく後者だ。


「み、みんな勉強してるよ……大丈夫かなあ。ねえオルト」


 襟をぐいぐい引っ張って周りを気にするロゼ。引っ張ってる手がわずかに震えてる。とてもしおらしくなっている彼女は、かなり雰囲気に呑まれてる。俺と(多分だが)ダグラスはアロンソのおかげでこういう雰囲気には耐性があるのだけど、ロゼはそうもいかないようだ。

 このままだと実力を発揮しきれないだろうな。ロゼが一人でなくて良かった。この組み合わせは、不幸中の幸いだったかもしれない。


「ペンしか持ってきてないよ……勉強する道具持って来ればよかったかなあ」


「気にしなくていいよ」


 首が絞まってきたので、そっとその手を取って小さく握ってやる。半身になる形で椅子に座る。


「ロゼは今までで一度も、ダメな点数取ったことないでしょ。だからいつも通りでいいんだよ」


「……ホント?」


 俺の目を見て真偽を問うロゼに、力強く返す。


「本当だよ。歴史だと俺も敵わないんだ。ロゼなら満点だって狙えるよ」


「……えへへ」


 ちなみにただの励ましじゃなくて事実だ。理論魔法も互角だ。算数だって半分切ったことはない。つまり筆記では彼女は余裕。不安なのは、何度も言うがやはりダグラスなのだ。


 もうロゼには呑まれた雰囲気はなく、小さな笑みを浮かべるくらいには余裕ができたみたいだ。

 にっこりと、俺を見て。


「私、頑張るね」


 俺の手を小さな二つの手が包む。

 なんというか、最近は女の子らしくなってきてる。五歳の頃の彼女は剣持って振り回してもおかしくないくらい勝気だったのだが。

 だが、次の瞬間には目をギラリと輝かせて。


「全員ぶっちぎってやるわ!」


 ……おうおう頼もしいことで。後者であったどころか、前者に成り変わろうとしてる。


「これから試験を開始します。勉強用の本などは、自分のカバンに――」


「じゃあ、ロゼ。頑張ろうね」


「オルトも、ね。負けないから」


 ……周りを見ると、何人かがロゼのやる気に呑まれていた。まあ、勝手に落ちてくれるなら都合がいいや。


 それ以降、試験が全て終わるまで私語もせずに、ひたすらにやるべきことをやった。




 算数は、言わずもがな日本でいう小学生六年生までの算数である。公式ややり方さえ分かってしまえば解ける。試験のレベルもそのくらいである。学校に入ればもちろん教科名は数学に化ける。十歳で数学かー、なんて思いながら解いた。


 歴史は、ザックリとしたこの世界の歴史である。参考文献なんかを読ませる問題もあるので、国語も混じっていると言える。学校に入ると、もっと詳しくやるみたいだけど、俺は自主的には絶対取らないと誓った。だって、やたらと勇者が美化されててこっ恥ずかしい。俺が活躍してた時代とか絶対やだ。恥ずかしい思いをしながら解いた。


 魔法理論は、魔法についての学問である。これはどんな魔法式だとか、これはどれと置いたらどうなるだとか、起動しない魔法陣はどれかとか。歴史よりはできるけど、気を抜いたら点が取れないのがこの教科だと思う。配点が一番高いから、ここが一番の勝負どころなのだけど。イメージでぶっ放せる勇者としては、一々細かすぎるとぐちぐち心でぼやきながら解いた。




 やれるところは全てやった。見直しも問題なかった。不明瞭な個所、分からない個所もいくつかあったが、合格に支障をきたすレベルではない。


「これで試験は終了です。この後、一度一番の待合室まで戻って待機していてください」


「おわったあ~~!!」


「お疲れロゼ」


「お疲れオルトー!」


 喜色満面のロゼ。手応えはばっちりなご様子。


「後は実技だけね!……流石に実技でオルトには勝てないかな」


「まあ、理論寄りのもの以外で負けるつもりは微塵もないよ」


 忘れ物をチェックした後、意気揚々と会場を後にする俺たち。何人かが恨めしそう(羨ましそう)に俺たちを見ているが、無視である。


「ダグラスはどうなったかな。最後の見直しが終わった後、それだけが心配で」


「問題ないでしょ。だって――」


『なあ聞いたか?実技で火の二級魔法セカンドぶっ放したヤツがいたらしいぞ!』


『失敗したとかじゃなくて?』


『コントロールも完璧!試験用の的だけが木端微塵だってよ!他にもそいつ、いろんな試験でトップレベルだって噂だ!』


「――ね?」


「あはは。そうみたいね。問題は、この後ね」


 そうして二人で笑いあいながら、一度一番の待合室に戻る。試験後にこうして余裕を保っている俺たちは、周りと比べて少々浮き気味であったけど。






「筆記やりたくねえええええ!!!」


 待合で出会った実技トップ(推定)の方の第一声がこれである。


「別によくない!?もう筆記とかいらなくない!?」


「色んな方面のエリートを育てるために、一応どっちも必要だから」


「私とオルトはもう憂いはないわ。後はダグラスが頑張るだけよ!」


 大声で泣き付かれてるから周りの視線が痛い。その上『おい、あの茶髪ってさっきの……』と実技試験者からの視線が強すぎる。


「ロゼはいいよなー!勉強得意で実技もいけて!オルトなんてどっちも俺より凄いんだしぃー!」


「「ちょっと」」


 こいつワザと?ワザとハードル上げてんの?飛び越えられるけど視線が嫌だよ。

 ハッと、何かに気づいたダグラスが言った。


「二人とも答え教えて!」


「確か問題が変わるらしいから無理だと思うよ」


 すぐに現実を突き付けてやった。……何人か知らん人も聞き耳立てて落ち込んでやがる。


「もう!実技ちゃんとできたんでしょ!なら書けるだけ書けば合格できるわよ!」


「いつもより簡単だったしね」


 「ホント?ホント?」と小首を傾げるダグラス。まるで犬のようだ。


「なんか犬みたいよダグラス」


 ロゼが言っちゃった。っておい。座るな犬になんな。周りドン引きだぞ。


「一五〇一番から二〇〇〇番までの方はこれから筆記試験になりますので――」


「ほら行きなさい犬。こんなとこにいても邪魔だから!」


「わう!」


「ちゃんと歩いて行ってね。そのまま行ったら絶交だから」


「……おう」


 とぼとぼと筆記試験に向けて歩き出すダグラス。悲しそうにしてるけど、お前のせいで『あの緑髪の嬢ちゃん容赦ねえ』とか『銀髪冷てえ』とか言われてるこっちの身にもなって。


「――実技!」


 途中まで行って、何か思い出したようにこちらを向くダグラス。


「実技、全部余裕だから!頑張れよ!」


 余計なお世話だなあ。まったく。


「頑張るに決まってるじゃない!ダグこそヘマしないでよ!」


「お前の記録全部抜くから。ダグもその気でやれよ」


 「無理に決まってんじゃーん!」と楽しげな声でダグラスは奥の方へと消えていった。

 多分、ダグラスは大丈夫だろう。全体の平均を下回ったことはないんだし、なんとかなるだろう。


「一〇〇一番から一五〇〇番までの方は実技試験になりますので、まずは二十番の実技試験者用の待合室に移動してください」


「よし!女子一番目指していくわよ!」


「じゃあ俺は全体トップ」


「……オルトならなってもおかしくないわよね」


 それは、ノーコメントとしておこう。






 実技は、まず待合室に着いた後に試験の受け方の説明をされた。

 試験を受ける時は自分の番号が呼ばれた後返事をして中に入る。手に持った書類を試験官に自分で渡し、準備ができ次第声をかけて試験官の『始め』の合図で試験スタート。

 ――と言う流れを何度もやるらしい。いくつかの試験では多少違ったことがあるようだが、それはその都度説明されるので、とりあえず今言った基本の流れだけは頭に入れておくように、だそうだ。


 オリエンテーションが終わった後、また番号ごとに試験会場が割り振られて移動を終えた。一つのグループで五十人なのだが、入るとその三倍の人数が入ってもあまりそうな広さをしている。どうやらこの会場一つで全部の試験を行うようだ。

 今俺とロゼは、待機場所での順番待ちである。順番に回っていく形式らしく、どんどんと人が流れていく。後半になると、最初に呼ばれた人が戻ってきつつある。


「オルトとは番号が隣同士だから離れないのよね」


 嬉しそうに、だけど半分残念そうにロゼが言った。


「イヤ?」


「ちょっとだけ。オルトの後にやるのはプレッシャーだなって」


「……それは、仕方ない。許して」


「じゃあ他の人たちを圧倒しなさいよ?」


 できるでしょ?と言外に言われて、笑顔の圧力に俺は頷かざるを得ない。


「『後の女の子、前の男の子と比べちゃうとちょっと……』なんて言われたくないし。比べるのもおこがましいぐらいに圧倒して」


「……わかった」


 いつも通りにやればいいと思ってたけど、圧倒しろ、か。俺のいつも通りはダグラスほど派手じゃないからな。インパクトに欠ける。


「期待してるから」


 下ろしていた髪を一つに結い上げて、動く準備を整えたロゼ。


「それでロゼがしょぼいなんて言われたら、ロゼ自身のせいだからね」


「流石にそこまで馬鹿じゃないわ」


 と、ここで一四九九番――俺が呼ばれた。返事しないと。


「はい!」


「じゃ、頑張って」


「そうだね。頑張るよ」


 とりあえず、最善を尽くすとしよう。






 試験一、運動技能測定其の一。三十秒の間に緩急をつけてあちこちから飛んでくるボールをひたすら避けた。これは余裕だったのでとりあえず全部避けておいた。

 試験二、運動技能測定其の二(試験四と選択可)。色んなところから出てきて逃げようとする人形をひたすら斬った。これもとりあえず全部斬っておいた。

 試験三、魔法技能測定其の一。自分のできる基礎魔法コモンを一通り使う。とりあえず三級魔法サード五つと二級魔法セカンド一つ、習ったものは全部使っておいた。いつもより気持ち大きめで。

 試験四、魔法技能測定其の二(試験二と選択可)。遠くで動く的にひたすら三級魔法サードを当てる。全部撃ち抜いた。属性毎に試験内容が若干異なるそうだが、まあ関係ないな。

 試験五、総合実技試験其の一(試験五・六・七の内一つを要選択)。武器を用いての先生との組手。これは受けてない。

 試験六、総合実技試験其の二(試験五・六・七の内一つを要選択)。魔法を用いての先生との組手。これも受けてない。

 試験七、総合実技試験其の三(試験五・六・七の内一つを要選択)。武器、魔法を用いての先生との組手。これは――。


「しょ、勝負あり……。勝者……オルト・シュバイツァ、です」


「……ありがとう、ございました」


 審判の先生と戦った先生に対し礼をした後、紙一枚となってしまった書類を受け取って立ち去る。


 ――試験のアロンソの足元にも及ばないレベルの先生だったのでついつい打ち負かしてしまった。まあそれでも先生相手なので時間も体力もギリギリの辛勝だったが……待機場所の反応を見る限り、これで良さそうだ。


「お疲れ様」


 どうやら、ロゼの方が終わるのが早かったようだ。「お疲れ」と返したあと息を整える。


「……ふう。早かったね」


「嫌味?」


 そういう意味ではなかったのだけど。

 困ったように首を振る俺を見てロゼが「嘘よ」と笑う。


「最後の試験は、"十分でどれだけ粘れるか"がポイントなのに……勝っちゃうんだもの。おかしいわ」


「ロゼはどうだった?」


「七分半くらい。五分くらいした後攻撃の手を緩めちゃったから、そっから防戦一方になってガタガターって。それがなくても時間一杯戦うのなんて無理だわ」


 「そう考えると引き分けに持ち込むのも十分おかしいわね」と悔しそうにぼやく。それは恐らく、ダグラスのことか。

 気になったことがあったので、待機場所に着いてしまう前にこっそりと聞いておく。


「平均は?」


「四分前後。あなた達はぶっちぎりもぶっちぎりね」


 そう言われて、他の受験者の視線を一身に受けて、苦笑するしかない。束ねられていたのを下されてなびく、ロゼの薄緑色の髪を眺めてちょっと現実逃避。


「やり過ぎた」


「でも私の期待どーり。私は文句なーし」


 ふふんと胸を張るロゼを見て、ならいっかと思ってしまう。

 と言うか、そう思っておかないとこの視線には耐えられそうになかったのだった。






 そこからはもう一度一番の待合室に戻って、残った書類に不備がないかを確認した後、それをブレスレットと一緒に渡して解散した。

 言わずもがな、その時に俺たち三人に向けられる視線は大量だった。


「オルト勝てたの!?くっそー、俺もあと三分あれば……!」


「精進しろダグラス」


「その前に筆記はどうなのよ」


 ピタッと固まったダグラスに一抹の不安を覚えたが、すぐ後にビシッと立てられた親指に払拭される。


「人生最高の出来!」


「なら安心ね」


「後が不安だけどね」


 俺がそう溢すと「学校入ったら二人になんとかしてもらう!」と宣言しました。


『どうする?』

 

『手伝わないわよ』


『了解』


 幼馴染故にこの程度ならアイコンタクトと身振り手振りで可能である。見破られる可能性もあったが、ダグラスが一番前にいる形なのでばれなかった。


「ところでどうやって帰るんだ?」


「「……さあ」」


 そういえばどうするのか母に聞いてなかったな。

 日はもう既に沈み始めようとしている。三人で顔を見合わせて止まる。

 しばしの無言の後、俺が結論を出す。


「とりあえず、待ってるしかないと思う」


「だな」


「そうね」




 そこから母が迎えが来るまでに、日は半分ほど沈んでいたのだった。

そろそろちゃんと見直しもしないと。変なところがあったら報告してくれると嬉しいです。

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