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どうやら勇者やってた異世界に転生したらしい  作者: おばあさん
第一章『子供でいられるのは一瞬』
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Ep.3 騎士様に会いに行く

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魔法名を以下のように変更

ジエーラ→フリーゼ

シャデル→イシクル

ブフェラ→スノーム

 翌日。昼過ぎ。今日は平日なので父がいない。魔法の訓練はお休みである。けれど、それを無視して魔法を使うことが俺は出来る。


 騎士様のところに行くのだ。


「オルト、持ち物は大丈夫?」


「だいじょうぶ」


 心配性の母はこの質問を昼食の時から総じて九回は繰り返している。持っていくものなど水筒くらいなものなので、そんなに聞かなくても本当に大丈夫なのだが。


「転ばないようにね!!」


 そこまで鈍くさくねえよ。元勇者なめんなよママン。と、心の中だけで言う。


「うん!いってきます」


「行ってらっしゃい!」


 今にも泣きそうな母に手を振って俺は我が家を出る。ちなみにこれはもはやお決まりの流れだ。


「ケガしないようにね!!」


「うん!」


 心配し過ぎだって本当。外履きをはいてないのに、今にも玄関から出てきそうだ。


「ははは!オルトがまた"お転婆メリーちゃん"に心配されてらあ!」


「アルのとこのは落ち着きがないかんな!」


 すると丁度通りかかったおっさん二人に冷やかされる。

 ガハハと笑う二人に母は「オルトはまだ子供なんですから当たり前です!」と可愛い怒り顔を見せる。モチロン、二人は怖がっていない。大げさに怖がるふりをして母をおちょくっている。

 よし、ここは俺も乗るか。


「おさわがせして、すみません?」


 俺がお辞儀してやると、一瞬静まりかえって、ドッと笑いだす。


「オルトの方がしっかりしてら!」


 口を揃えてそう言うもんだから、母は怒りの中に恥ずかしさも表情に混ざった。


「オルトのバカ!もう知らない!」


 ……なぜ矛先が俺に向くのだろうか。ちょっと悪意はあったけど、一応ナリは子供なんだけど……。


 子供同士の喧嘩みたいな捨て台詞を残して家の中に戻ってしまった母。『晩御飯はオルトの嫌いな食べ物にしてやるー!』なんて言っていた。けど。


「オルト食えないものあるのか?」


「なんでもたべます」


 だよなー!と口を揃えてまた笑い出す二人。そして始まったのは我が家の今晩の献立予想。上がるのは全て母が嫌いなものだ。

 この二人、母が幼い頃から知っているので母のことなら大体知っている。ついでに父も。その父とは今では飲み仲間だそうだ。


 いつの間にか母の昔話を始めていたので、キリがいいところで俺は退散する。どこで何するか聞かれたので答えたら頑張れと一言くれた。ありがたい。

 その後も道行く人に声をかけられては、応援の言葉をもらっていた。




 俺の住んでいる町から砦までは、道が綺麗に舗装されてある。物資の補給などで人が頻繁に行き来するからである。

 それゆえに、"魔除けの灯篭"と呼ばれるかなり高価な魔法具が一定の間隔で道路の両脇にずらーっと並んでいる。この魔除けの灯篭とは一定レベルの"魔物"を寄せ付けない聖なる灯で周囲を照らす魔法具である。

 陽の出てる昼間では分かりづらいが、夜になると幾つもの青白い炎が一直線に森の中を伸びていて少し幻想的である。


 ちなみに、魔法具というものはそのまま魔法が使える道具である。

 この道具が普通の魔法を用いるのと違うのは"得意属性が一致しなくとも扱える"ところだ。

 例えば魔除けの灯篭を人が同じように用いるには火と光の属性を使えなければならないが、一度作り上げられた魔法具はどんな属性が得意でも構わない。使用限度を超えるまでは魔力を注げば何度でも扱える素敵で便利な道具だ。

 これも勇者の発明である。これらは正しくは"人工魔法具"と呼ばれるものであるらしい。言わずもがな俺の時代にはなかった。


 閑話休題。


 つまるところこの一本道を通れば十中八九安全に砦まで行けるのだ。母が俺を過剰に心配するわりには付いて来ることをしないのはそこにある。

 たまにそこそこ強い魔物が寄ってくることもあるけど、その時は別の魔法具が反応して町の方に報せが届くので町の常駐の騎士達が迅速に対応する。今は砦側にも報せが届くようになっているみたいだ。


 だが、逆に。この灯篭の間を抜けて道から逸れてしまえば、この森の中に入ってしまえば、子供の命など塵芥と同列にしかみない"魔物"が跋扈する世界に踏み入れることになる。


 魔物とはかなりざっくり言えば人間を襲う知性を持たない生物のことである。それらの生態ははっきりとしていない。分かっているのは、人を見かければすぐに襲いかかる。敵わぬと知れば逃げる。生きて捕えてもひっきりなしに暴れ続ける、手懐けられたケース一切なし。殺すと"魔晶"と呼ばれる石を落として消えてしまう。と言った程度だ。

 そんな凶暴な魔物を倒すにはそれなりに訓練が必要だ。この世界で一番弱い魔物でも、訓練なしの一般的な成人男性では大ケガは免れない。子供であれば火を見るより明らか。

 それにここは辺境である。ある程度の発展した町ができたとはいえど、元々は未開の地であった。町ができるとともに一定数駆逐されてはいるが、決して弱くない魔物がウロウロしている。

 だから普通はこの道には立ち入れない。この道に入るにはゲートを潜らねばならず、その横には必ず二名の衛兵がいる。

 入るためには彼らに要件を伝えて、確認が取れたらある物を持たされてやっと入らせてくれる。

 それは"魔感球"と呼ばれるガラスのような球体型の魔法具だ。指定した魔力に近づくか遠退くかで反応するという魔法具なのだが、その反応には三つ種類がある。"輝く"、"割れる"、そして"音を出す"だ。この渡された魔法具は遠退いたら音を出すタイプだ。

 つまりこれを持ったままこの道をそれると、魔除けの灯篭の範囲の外に出た途端に魔感球が反応してものすごい大音量を出すのだ。一度聞いたことがあるが、我が家からこの道まではかなり距離があるのにそれでもはっきり聞こえるくらいには音が響く。なので衛兵や砦にはすぐ伝わるため、すぐに騎士達が飛んできてめちゃくちゃ怒られる。

 そしてこの魔感球、魔法具なのでモチロン魔力を使っている。しかも、所有者からその魔力を常に吸い上げるタイプだ。その残存する魔力量が三分の一を切ると、その時もまた音を出す。その時間なんと二分。なので置いて行ってもバレるのだ。


 だから、普通の人ではこの街道を逸れて森に踏み出すことはできない。たとえどんな目的があってもだ。


 ――まあ、俺は何度も森に入ってますが。




「よう坊主!また砦で特訓かい?」


 黙々と歩いていると、砦の方から見知った顔の騎士が歩いてきた。


「はい。きょうはアロンソさまにみてもらおうと」


「おっ!とうとうかい。まあ頑張んな!お兄さん応援してるぜ」


「ありがとうございます、テッドさん」


 すれ違いざまに肩を叩いて、笑いながら手を振って去るテッドと言う騎士も王都から来た騎士だ。俺が氷の魔法を教えてもらっている騎士のアロンソの直属の部下であるため、彼とは顔なじみになった。というか、砦の騎士とは大体顔なじみだ。


 そうしてそこから少し歩けば、最初は小さく見えていた砦はもうすぐそこにあった。


「また来たなオルト。今日は剣と魔法、どっち練習するんだい?」


「まほうです。アロンソさまにみてもらいます」


「そろそろだとは思ってたよー」


 砦の門の前にいる二人の騎士に話しかけられる。この二人はまだ見習いで、よく門番をしている。たまに別の人がいて見ない時があるのだが、その時は踵を返している。見習いの訓練時であるから邪魔になってしまうからだ。

 俺は彼らに魔感球を渡して門を潜る。そしてそのまま淀みない足取りで奥に進んでいく。

 その道中で俺を見かけた騎士達は軽く声を掛けてくれる。その都度同じことを返すと頑張れと声を掛けてくれる。中には『団長は丁度訓練場にいるよ』という情報もくれた。有難い話である。その足でそのまま訓練場に向かった。




 訓練場は、ただならぬ冷気に包まれていた。その原因は間違いなく、その場の中央で佇む男によるものだ。

 その男を中心に、直径五メートル程の魔法陣が地面に広がる。


「――≪スノーム・ディ・スパイロ≫」


 男が静かに唱えると、猛烈な吹雪が彼を中心に渦を巻いた。その及ぶ範囲は面積でいえば魔法陣の四倍。

 今の彼に近づこうとすればたちまち凍えて死ぬ。いや、それ以前に弾丸のように荒れ狂う氷に身を引き裂かれて、貫かれて死ぬのが先かもしれない。


「……アルバートのところの坊主か」


 俺に気づいた男――アロンソは魔法の維持を止める。

 鍛錬で邪魔だったのであろう一つに纏め上げられていた長髪を解き、それを揺らしながら歩いてくる。その銀髪の輝きは先ほどの氷雪の輝きにも似ていた。


「どの程度できるようになった」


 大の男でも立ち竦んでしまいそうになる冷たい眼光を真っ向から受け止めて、俺はフリーゼを唱える。母の前で作ったものよりも早く、大きく氷柱を作る。その数は二本。


「今できるのは、このくらいです」


「…………。そうか」


 しばらく俺の目を見続けて、そして一瞬氷柱に視線を落とすとようやくあの凍える視線は閉じられた。


「そう言うなら、そうしよう」


 何故だろう。この人には手を抜いてることを見抜かれた気がする。態度といい、言い方といい。


 再び彼が目を開くとそこに冷たさはなく、代わりにほんの少しの温かみが含まれていた。


「新しく三級魔法サード二つを教えてやる。魔法陣に関しては暴姫アバレヒメに教えてもらえ。代わりに魔舞を少し教える。その時は、お前の友人も誘って来るといい」


 暴姫――正しくは"塵雷の暴姫ジンライのアバレヒメ"と言うらしい――とは、言わずもがな母のことを示す異名である。全てを灰塵に帰す雷を四方八方敵味方問わず巻き込んでぶっ放す無茶苦茶な魔法士だから、だそうだ。


 そんなことより。


「……いいんですか?」


 毎度毎度ここに遊びに来るのは、(俺にとって意味のない訓練だったとしても)かなりアンフェアだと思っていた。まさかそのことを話す前から騎士団長直々に許可が貰えるなんて。


「いい。俺が許可しよう。何人だ?」


「ふたり。ひがとくいなこと、かぜがとくいなこ」


「分かった」


 なんだこの人。意外に優しいじゃねえか。俺はアロンソの評価を上方修正する。


「後で伝えておこう。今はお前に教えるのが先だ」


 そう言ってアロンソは俺の肩に手を乗せる。剣を扱うだけあって硬い。けどどこか柔らかさが残った手だ。もう片方の手は俺の前方を指さしている。そこを見ていろと言うことか。いつの間にかアロンソの顔は隣にあった。女顔だなあこの人。


「まずはイシクルだ。よく見てろ――≪イシクル≫」


 唱えてすぐ、前方に地面からデカい氷柱が生えてきた。女性一人分の高さがある。


「次はさっき使っていたやつだ。≪スノーム≫」


 そして先ほどよりは弱めだが、依然として強烈なままの吹雪が氷柱に当たる。カカカッと音を立てて氷柱に当たるが、氷柱はビクともしていない。これで終わりかと思ったが、魔力に動きがみえたので再び注視する。

 すると吹雪が氷柱を迂回するように動き出した。半分ほどは曲がりきらずに氷柱に当たったままだが、もう半分は見事に迂回して向こう側に吹き付けている。


「イシクルは攻防一体の氷柱。スノームはある程度自由の効く吹雪だ。風ほどじゃないがな」


 男にしては少し高めの、落ち着いたアルトボイスが耳に優しい。肩に置いていた手はそのままに、指さしていた方の手を俺の頭に持ってきて撫で始めるアロンソ。


「今の二つを今ぐらいできるようになってみせろ。そしたら二級魔法セカンドを教えられる」


「ほんとう?」


「本当だ」


 振り向いて尋ねれば、そう微笑付きで帰ってきた。この人に対する評価を更に上方修正します。この人好きだわ俺。この人の撫で方なんだか気持ちいいし。

 俺はしばらく、されるがままでいた。多分、五分くらいだっただろうか。


「団長ー。お仕事の時間ですー」


「……む。すまない。本当は何回か見てやるつもりだったんだが」


 あまりにも夢中になっていたせいか、アロンソは申し訳なさそうにしていた。それに首を振ってこたえる。


「いえ。なでられて、うれしかったです」


「……そうか」


 プイとアロンソは後ろを向いてしまった。照れてるのだろうか。


「気の済むまで練習していくといい」


「ありがとうございます」


 アロンソが訓練場を出るまで見送っていると、彼は思い出したようにこちらを向いた。


「三日後だ」


「三日後?」


「その日は俺が休みだ。二人を連れて来い」


「……ありがとうございます」


 俺がお礼を言うと「気にするな」と手を振って今度こそ訓練場から去って行ってしまった。


 王都第二騎士団長アロンソ。第一印象は良くなかったが……優しい人だ。あんな感じのお母さんでも良かった。あの人男だけど。

 しかし母の抱きつきもまた手放しがたい。あの豊満な胸に抱かれるのは気分がいい。殺されかけたことはあるが。度々うっかりさんなのが玉に瑕だよなあ。

 あ、足して二で割った女性がパーフェクトじゃね?アロンソがうっかりさんでなければの話だが。


 そんなことを考えながら、俺はしばらく教えてもらった魔法の訓練に勤しむ。しばらくした後、帰ってきたテッドを相手に剣の訓練をする羽目になったのだが、楽しかったのでそれも良しとする。


 一時間ほどした後、新兵の訓練が始まるとのことだったので、邪魔にならないように俺は砦を後にすることにした。

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