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どうやら勇者やってた異世界に転生したらしい  作者: おばあさん
第一章『子供でいられるのは一瞬』
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Ep.1 最強の元勇者、五歳児になりました

6/11

魔法名を以下のように変更しました。

ゲヴィト→ライグト

 どうも。勇者をやっていた異世界――フィロスフィア――に転生してしまった男、柳生(やぎゅう)せいだ。

 この世界での俺の名前は、オルト・シュヴァイツァ。使える魔法は氷と光。将来有望な五歳児である。……というのはすぐそばで喜んでる両親が言ったことをいくつか抜き取った言葉である。

 その両親は、得意魔法の判定結果が元勇者セイ・ヤギューと同じでウルトラご機嫌である。ご機嫌過ぎてキスし合ってる。この美男美女の両親はどうも人目を憚ることはしないらしい。……周りの方も全然気にしてないご様子。

 同じなだけでこんなにご機嫌なら、これで俺の魂がそのセイ・ヤギューだと知ればどれだけ驚くのだろうか。気になるけど将来がとても怖いのでカミングアウトはやめておく。




 ここまでかなりすっ飛ばしてしまっているので、俺が生まれ変わってから今日までのことをいろいろ説明しよう。




 あの日、この世界に生まれ落ちた俺は赤ん坊の性質を利用してもうわんさか泣いた。泣きまくった。生まれてから半年は夜泣きの酷い子と大層迷惑をかけたものだ。それでも根気よく接してくれる両親が日本の両親を彷彿とさせて更に泣いたのだけど。


 泣いてスッキリした後は周囲の状況の整理に勤しんだ。俺が知るフィロスフィアとは違う点の調査や、俺自身のことを知るための実験が主だった。けれど夜泣きの酷さのせいで監視の目がきつくて(自業自得と言わざるを得ない)三年も費やした。その間に分かったことをまとめるとこうだ。


 まず、俺の周辺のことから。


 俺は異世界・フィロスフィアにある王国・エルデヴァロンの辺境の町に生まれ落ちた。家は三人家族で、父は騎士、母は元魔法士であるらしい。かなり裕福な家だ。不自由なくこの五年間すくすくと育った。

 俺が住んでいる町――バルダンはとても平和な場所だ。近隣の人との関係も良好で、穏やかに暮らしていくには最適である。

 父と母も生まれはこの町らしく、一度は王都で暮らしていたが父がこの町に騎士隊長として派遣されるのを機に母も戻ってきたらしい。その折に父と母は結婚し、俺ができたというわけだ。

 先ほども述べた通り両親共に美形なため、俺自身も父寄りの美形である。そして、どこか元の世界の柳生 誠の面影を残している。父譲りの銀灰の髪も、ところどころ黒みがかっている。いわゆるメッシュというやつになってしまった。髪を染めたことのない俺は今の髪の毛が少し恥ずかしい。けどそれ以上に、これに気づいた両親の疑問の目が怖かった。でもなんとか過ごせている。


 ここらで一度俺のことは置いておいて、次はフィロスフィアの現状について。


 今の時代は六代目勇者セイ・ヤギューが活躍してから、およそ千年後の時代。

 その間に召喚された勇者の数は八人。俺が帰った後も、魔王という存在は完全に絶えることはなかったらしい。百二十五年に一度くらいのペースか。この世界、勇者も魔王もバカスカ出てき過ぎである気がする。

 それゆえか、文明の発展は早くないらしい。だが、俺がいた時代よりもかなりいいことは間違いない。俺が生まれ住んでいる場所はフィロスフィアの王国の辺境。このあたりは地球でいうところの中世ヨーロッパレベルとでも言うのか。木造の建築は見当たらない。このあたりはそこそこ発展している方らしい。

 でもこの国の王都や他大国の首都なんかとはかなり発展の差があるらしい(父曰くまるで世界が違う場所)。そこのところがイマイチ分からない。

 ただ俺がいた時代の辺境なんてもう、"家が十軒ある村が一つあればいい方"なレベルだった。滅多に使われない寂れた砦がポツンとあるだけなのがザラ。そう考えれば結構な進歩か。

 王都と他国についての説明は割愛する。――地形や名前が変わってるかもしれないし、これ以上はもっと大きくなってから調べないとちょっと監視の目がキツかった。


 次に俺自身の勇者の力について。何度か目を盗んで"実践"で測った俺の力は、かなりやばい。


 ――勇者の力を存分に使える。俺はそう断じた。


 それは勇者としての資質(というよりこの世界の魔法の力の資質)が魂の資質に依るものであるからだ、と言われている。そして記憶や経験というものも魂の構成に根強く関わっているから、というのも関係してくる。この魂の理論に関しては勇者である俺自身もあまり詳しく知らない。

 完全に記憶を保持したままの転生により"柳生(やぎゅう)せいの魂"がそのまんまこの体に宿ってしまった。故に俺は勇者セイ・ヤギューの力も宿してしまった、と考えるのが一番妥当なのだ。顔に面影が残っているのも、髪の毛に黒が混じっているのも恐らくそのせいだ。

 もっとも体のつくりや魂の定着などが不完全なせいもあって、今から全盛期の勇者パワーを使うことは不可能だ。だがもうあと十年経ったら俺の肉体は作り替えられ、魂が完全に定着するだろう。……恐らく魔王を倒したあの頃と同じ力を振るうのは容易いと思う。

 そうなれば大変だ。勇者の代わりにこき使われること間違いない。あんな目に会うのはもうごめんなのだ。できれば平穏無事に暮らしていきたい。


 けどまあそんな願いも虚しくである。


 俺はさっき、俺の時代にはなかった魔法の判別を行ってもらった。何代目の勇者か忘れたが、そいつが作り上げた変な魔法で属性魔法の一番得意なものが判別できるらしい。便利なものだ。

 だが俺には無意味だ。俺の魔法は俺自身が身に染みて分かっているのだ。受ける意味もないし受けたくなかった。でも両親にそんなこと言えるわけもないので、俺は甘んじてその無用の長物の恩恵を受けた。

 その結果が両親大興奮。俺の王都魔法学校行きが決定。

 変わった王都には興味があるし、魔法学校は卒業できれば将来安泰らしいので入っといて損はないかなあと思うのでそれ自体は文句ない。

 けど過度な期待はやめてほしい。王都の近衛騎士団長とか興味ないから。王都の騎士団なら下っ端騎士でも十分高給だから。分隊長までなら吝かではない。

 でもそれ以上王都の中心――王城――に近づくのは絶対に駄目だ。危ない予感がする。元勇者の勘は中々

アテになるよ。


「オルトいいなー!ゆうしゃセイとおんなじなの!」


 一緒に受けに来た近所の仲良し、男の子のダグラスが羨ましそうに言う。


 彼の属性は先ほど聞いた限りでは火属性だった気がする。その勇者さまは勇者始めた頃は火の魔法使ってみたかったらしいよ。これ、オフレコだけど。


 ……しかし、それにしても。


「ねえねえ。なんでセイさま?がいいの?」


 自分のこと様付けて呼ぶのってくっそ恥ずかしいな。


 そこは置いておいて、両親もダグラスも、ついでに判定してくれたばあちゃんもどうして俺の名前を出すのか気になった。


 そしたら。


「セイさまはねえー。いっっっちばん、つよいゆーしゃさまなんだよ!」


「めざすならセイのようなゆうしゃだぜ!!」


 その答えはもう一人の仲良しの女の子のロゼ(この子は風と判定された)がくれた。そしてダグラスがまるでそれが男の子の間の常識であるかのように畳み掛ける。おお、そうかそうか。



 つまり俺はこの世界で最強の存在らしい。



 両親に聞けばセイ・ヤギューは属性魔法"氷"の初めての使い手であり、歴代で最強の勇者でもある。他の追随を許さぬ程に圧倒的な力を誇るらしい。

 同じく歴代で最強だと言われる魔王を打ち滅ぼした故に、"史上最強"の看板すら背負っちゃってるらしい。

 どうしてそんなことが分かるんだと聞いたら、難しいことで一杯だよとはぐらかされた。おし、信じない。証拠がないなら信じないぞ。

 通りかかった年下の女の子に「サイキョウってだれ?」って聞いたら「セイさま!」って返ってきたけど信じない。


 とにかく、俺は目立たないように生きなければ将来波乱しか待っていないのである。







 魔法判定の翌日。我が家の庭。


「じゃあ今日は魔法の使い方を練習してみよっか!」


「はーい!!」


 我が母の言葉に元気よく返事をしたのは子供たち二人――ダグラスとロゼだ。俺も子供の内に含まれるが、乗り気じゃなかったので返事してない。


「オルトの声が聞こえないよー??」


「……はーい」


「オルト。げんきだせー!」


 俺が気の抜けた返事をするとダグラスが背中をばしばし叩く。元気なんて出ようがない。だって俺、魔法の練習より鬼ごっこの方が楽しいもん。遊びたいんだもん。この広い庭を駆け回り続ける自信あるよ。勇者補正なしで。


「オルト。今日は基礎の基礎だから貴方でもできるわよー」


「だって!オルト!!」


 にっこにっこ笑いかける母とめっちゃ顔が近いロゼ(あと耳元でうるさい)。どうやら俺が元気ない理由を勘違いしてるらしい。


「でも、いいなあ。きしにおそわるなんて」


「ダグ!きし"さ・ま"!!」


「しょうがないわ。氷や光なんて、あまり出回ってる属性でもないし……。でも騎士様に教わるのは、とてもいい経験になると思うの。だから、今のうちに基礎を頑張っちゃいましょ?」


「おーー!!」


 俺の代わりに返事する二人。いやいや、お前らじゃないだろうが。


 ――氷と光属性は使える人がまだそう多くないため、俺の氷属性は教えられる人が今現在この付近にはいないのだ。そこで急遽伝手を辿ってどちらかの属性が使える人を探すことになり、それが王都の騎士になった。近々遠征でここに訪れることになり、その滞在の期間中は俺の魔法の面倒を見てくれるそうだ。

 辺境の騎士隊長の父と、元宮廷魔法士の母の伝手というのは、結構すごいものだなあと聞かされた時は思った。……魔法士については、一言言っておくならばエリートである。詳しくは後々。

 とどのつまり、その間俺は魔法は基礎中の基礎しか使えない。だから俺に元気がないのだろうと目の前の三人は思い込んでるのだ。かくれんぼがしたいなんて言ったらどんな顔するだろうか。仕方ないので大人しく魔法の練習をしよう。


「じゃあまずは――」


 そして始まったのはあくびが出るような母の長い長い魔法に関する諸注意だった。例えるなら、校長先生のお話だろうか。

 人に向けて撃っちゃダメとか、勝手に魔法を使ったらダメとか箇条書きを読む程度の説明でいい筈なのに、例え話(誰かの失敗談。主に金髪の人が出てくる。失敗の原因は過剰なやる気)を挟みながら『どうしてそんなに長くなるの?』と疑問に思うくらいに長々と話している。あ、ダグラスが寝た。ロゼは機械的に頷いている。俺はあくびをかみ殺している。

 そんな話が十分は続いたと思う。流石に子供二人が限界だろうから(ダグラスは既に寝てるけど)口を挟んだ。


「おかあさん」


「――だから……?なあにオルト?」


「じかんなくなるよ」


 あらー、と頬に手を当てて苦笑する母。ロゼが先ほどの機械的なものとは打って変わって、ぶんぶんと凄い勢いで首を縦に振っている。寝ているダグラスは足を蹴っておこしておく。


「でも、本当に危ないから話しておかないと……」


 ええ?もういいじゃん。というかまだ続けられるのかよ。例え話聞きすぎて失敗している金髪の人が母だって、俺もう分かっちゃったよ……。


「みたらわかる」


「ああ!そうね。見た方が早いわね!」


 そう言ったら母は手をポンと合わせて――次第に体の内の魔力を外に迸らせた。


 え?


「三人とも見ててね!」


 バチバチと弾ける紫色の魔力とは別に突き出した右手にかなり濃い魔力が集まるのが見える。


「二人ともこっち!」


 急いでダグラスとロゼを引っ張って射線を離れる。それと同時に母の手から魔法陣が展開した。母の手から放たれる魔力によって次々とそこに魔法文字コードが書かれる。


 完成した魔法陣は、俺の見たことがない魔法陣だ。けど、その魔法陣の構成の一部は分かる。ゆえに、放たれる魔法も若干だが分かる。


 俺の知らない属性の、一点破壊コンセンタ型の総合二級魔法トータルセカンド。それが、我が家の庭で放たれようとしてた。


「≪ライグト・テト・コンセンタ≫!!」


 魔法陣が輝く。否、輝いたのは魔法陣それではない。


 ――放たれた、槍のような幾つもの稲妻だ。


「ッ」


 息を飲む。刹那。雷鳴と破壊音がほぼ同時に響いた。


「……」


 目を覆いたくなるような惨状。それに子供二人は口をあんぐりと開けて呆けている。俺は降りかかってくる土の塊を払いのける。二人のも払ってるけど気づいてはいないようだ。


 もうもうと立ち込める土煙が晴れればそこには、幅五メートル程度の穴。斜めから穿たれたが故に、洞窟のように見えなくもない。

 外からはなんだなんだと大声が飛び交っている。ちらりと母を見ればもう見るからに"やっちまった"って顔してる。


「おかあさん」


「な、なあにオルト?」


 そんな母に一言くれてやる


「さすが、"きんぱつのひと"?」


「うっ……!!」


 その後、近所の人たちにしこたま怒られ、急いで帰ってきた父にもしこたま怒られて意気消沈した母は、せっせと庭を直す羽目になった。

 ついでに、魔法の練習は父がいる休日にしかできなくなった。ダグラス達は残念がっていたけど、俺はいつも通り遊べる時間が多く確保されて少しうれしかった。……なんか精神が幼児退行してる気がする。

 そして更に余談になるが、父に母の長話の金髪の人について聞かせたら大笑いしてた。母が真っ赤な顔で俯いてたのが可愛らしかった。その日の夜は、なんかうるさかったけど。なんかね。子供だからよくわかんないわ。突然だけど俺、あの可愛くて綺麗な金髪の母さんの乳吸ってた時期あったんだぜ。


 あの両親の情事は放っておいて今後の方針を決める。


 とりあえずは向こう三年は子供のように勝手気ままに振る舞えばいいだろう。時折目を盗んではこの家にある書物を眺めていればそれで十分だ。その後二年は準備期間で、王都に行ってからが本格的な始動だろう。生き急ぐ必要はない。振り出しに戻された一人きりの人生ゲームは、ゆるゆると過ごせればそれでいい。もう戦うなんてまっぴらごめんだ。




 ――この五年。朝になって、再び目を開けたらそこに、残してきた家族がいるのを、毎夜毎夜期待し続けている。



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