Ep.17 オルト・シュヴァイツァの黒歴史
※幕間ではなく、本編入りまーす!
7/17誤字誤謬訂正
朝の寝覚めは最悪であった。
気分はあんまり、よろしくない。寝不足だ。しかし、今日から授業だ。待ちに待った……とまでは言わないが、やっとか、という感覚はある。朝から幸先は悪いが、致し方ない。これから真面目に取り組んでいくしかない。
さて、一時間目だが……数学である。正直、語る所もないから割愛する。中学校の頃はこんなんやってたなー、なんて懐かしく思えました、としか言いようがない。
二時間目は、魔法基礎だ。これも特筆することはない。先生が延々と魔法について語ってただけだった。
三時間目は魔物基礎。先生が延々と魔物の危険について語ってただけでした……。
……そして、その時は、来た。
「――――では、四時間目。歴史の授業を始めたいと思います」
しんと静まり返った教室に、若い男の先生の声だけが響く。
しかしそれは、次に放った一言で一転する。
「まずは今日明日で、歴代勇者のおさらいをしましょうか」
『おおお!』
さあさあさあやって参りました歴史の授業。やって来てしまいました歴史の授業。避けられないことは重々承知ですが、なんとしてでも避けたかった歴史の授業。
別に歴史を全否定するわけではないが、俺は、俺のことが語られるのを聞くのだけは嫌である。寝てたい。
「まずは、初代からですね」
寝てたいけど、三時間目に爆睡してしまったので眠れませんでした。
――勇者史の始まりは、もちろん、この世界に勇者が降りたところから始まる。
突如として世界各地で、魔物の動きが活発化し、魔族による侵攻が多発。それは後に活動期と呼ばれる、魔王降臨の兆候だった。
今までにない事態に、状況は次第に悪化していく。最早、自分達だけでは成す術がないと、当時の三つの大国はある決断をした。
救世主の、召喚。
藁にも縋る思いで、あらゆる方法を以てして、その魔法――魔法陣による召喚魔法――を作り上げた。一刻の猶予もない中で、やっとの思いで完成したその魔法は、当時の技術では考えられない代物であったらしい。
そして、人々の救世主として、フィロスフィアに召喚された男。
その男の名は、ハジメ・アマノ。――初代勇者だ。
彼の存在が、フィロスフィアの救世主――勇者の存在意義を、全てとはいかないまでも、決定づけたと言っても過言ではない。
彼は、弱きを助け、強きを挫く。それの典型的な例といえただろう。常に光を与える側で、施しを一切受けない、まさに勇者と言った存在だった。
仲間たちとともに世界を周りながら、魔大陸の中央に位置する巨城――キャスル・サターナ――で待ち構えていた魔王を討伐。人々に、安寧をもたらした。
しかし、人と魔族――勇者と魔王の戦いは、これで終わりではなかった。
活動期は、魔王が討たれて凡そ百年後に、再び来た。そしてそれは、幾度にもわたって繰り返された。
二代目。フドー・リューゼンジ。
彼は、曲がったことが許せないタイプの人間だったらしい。理不尽と言う理不尽から人々を守り、彼の大きな背中に当時の人々は憧れを抱いたらしい。
そして彼は、人々に強くなるように説いた。大事な人の命を、自分の手で守れるよう、強くなれと。彼は魔王の討伐後、力の振るい方を教えて回ったと言う。
三代目のキョージ・シンドーは、前の勇者とはちょっと違っていた。
彼は徹底的な利己主義で、勝利のためなら平気で村や町を見捨てたと言う。当時の人々からも、現代の人々からも彼はあまり好ましく思われてない。――だが、魔法陣の基礎を残したのは、他でもない彼だった。
彼は、“元の世界に帰る”ことに固執していた。そのために、この世界に唯一存在する召喚陣を研究し続けていた。その過程で出来上がったのが、魔法陣だ。尤も彼は、それ自体は粗方纏めた後すぐに研究を放り投げているらしいのだが。
長い年月を経て彼は、送還魔法を完成させた。そして、元の世界へ帰還した。勇者で初めての帰還勇者となったらしい。
四代目、ミヤビ・ハナサカは流浪の勇者だ。魔王を倒した後、各地を旅して踊りを広めた。かなり女性的な美しさを持った男の人だったらしいこともあって、彼の踊りは大衆にウケたそうだ。
そして言わずもがな、魔舞の基礎を作った人でもある。三代目とは違って、自分の生み出した技術に対してとことん真摯に向き合ったそうだ。
五代目はツトム・ジャクソン。名前からして、ハーフの勇者だろう。
彼は人一倍の努力家であったらしい。誰よりも誰よりも努力し、その結果、史上最速で魔王を倒したらしい。その間、たったの三か月。早いなんてレベルではない。俺もそんぐらい早くこなしたかった。尚、帰還勇者である。
「今まで話した五代の勇者は、当時の文献が少なく、他の勇者よりも圧倒的に情報が少ないです。彼らを研究の題材にしている学者さんたちは、文献を求めるあまり、自分達で色んな地を渡り歩いてます。なので、武闘派研究者なんて言われます」
私が言ったことは内緒ですよと、口に手を当てて笑う先生。生徒たちもクスクスと笑いを溢す。
ただ、俺は笑えない。もう、次が怖くて仕方がない。耳を塞ぎたかったが、やったら先生に怒られた。
「さて次は、皆様お待ちかねの六代目ですよ」
――上がるクラスのテンション。下がる俺のテンション。ニコニコ顔の先生が、嬉しそうに黒板に書き始めた。おかしいな、さっきまで黒板なんて使わなかったのにな。
今から、千年前。五代目勇者が帰還してからおよそ六十年後。
この世界で史上最悪と言われた、魔物と魔族の活動期。暗黒期と呼ばれる時代が来た。
地獄のような時代であった。魔物や魔族が、至るところに大量出没。辺境から都市の中枢に至るまで、大きな被害を受けていた。
人族の危急存亡の秋、召喚された勇者が、彼だ。
六代目勇者――セイ・ヤギュー。後に、歴代最強・史上最強と呼ばれる勇者だ。
彼は召喚されるや否や、剣を取って戦ったと言われている。自分がこの場に呼ばれた理由も聞かず、ただひたすらに、襲い掛かる魔を切り払った。体中がボロボロになりながらも戦い抜いて、召喚されてたった三日で、大国を一つ救ったのだ。
そこからは、破竹の勢いであったという。彼は信頼できる仲間を引き連れ、魔王降臨の報せが来るまでの二か月の間で、大半の土地を取り戻したそうだ。
「その後、魔王降臨の報せが届いたのち、彼はなんと、単身で魔大陸へ侵入します」
――そして、彼はたった一人で魔王と戦った。
史上最悪の魔王と言われる、ジャガ・ナートと。
「その戦いは、熾烈、なんて言葉では生温いとされています。強烈な魔力光が人族大陸にまで見えた、とか。三日三晩戦い続けたとか。定かではありません。ですが、あの戦いは間違いなく、史上最高の頂上決戦であったことは、後の勇者の多くが断言しています」
ジャガ・ナートとの死闘を制した後、彼は人族大陸へ凱旋。『もうこの時代に、自分は必要ない』と、数々の人に見送られながら、この世界から去ったと言う。
俺からの一言。『やめて』。
なんというか凄い。子供にするための授業とはいえ、すっっっっごい! 脚色されてる。俺そんなこと思ってないとか、実際はそんなんじゃないとか、色々と物申したい。
周りを見渡す。クラスメイト達は、その話を聞いて目を輝かせるばかり。アリアなんて、『ふふふ聞いて驚け我にはセイ様の力の片鱗が埋め込まれて』とかなんとか言ってる。いや、それはあり得ないから。俺ここにいるし。
……だけど、話の結末。あれには違和感を覚えた。
あれは、あれだけは脚色とかじゃなく、根本から違ってしまっている気がする。いや、違うと断言できる。なのに、あんな美談のように語られている。
その理由は、恐らく――。
……いや、考えるのは止そう。今の俺にはもう、関係のない話だ。
「はい!」
「どうぞ、アリアさん」
「どうやってセイ……ヤギューが最強だって証明されたのだ?」
前のめりに立ち上がるアリアが聞いたのは、俺も気になっていた点だ。どうして俺は最強だと証明されたのだろう。他の勇者の方が、もっとヤバい可能性が微かにあるのではないだろうか。
「それは――あっ」
先生が説明をしようとした途端、チャイムが鳴ってしまった。
「今日の授業はこれで終わりですね。少々六代目に時間を割きすぎてしまいました」
『えー!』
「六代目以降の勇者は明日です。ああそうそう。もし先ほどの質問が気になるのでしたら、魔法理論で聞いてみるといいですよ」
さっさと荷物をまとめて、教室を去っていく先生。教科書をしまって、昼休みとなって少しずつ散らばっていくクラスメイト達。
もやもやとした感情に、次第に思考が蟠る。
「オルト!」
バン! と。叩かれた俺の机。乗せていた教科書が少し跳ねる。
びっくりして顔を上げると、そこには満面の笑み――しかしなんだか硬いような――で俺を見つめる、アリアがいた。
「我とっ、昼食を共にすることを許可しようっ!」
「なんでそんな上からなの」
ジトッと睨むと、途端に焦りだすアリア。
「言い直しなさい」
「……わ、我と一緒に昼食をとってください」
「いいよ」
俺の快諾に、パッと花が咲いたような笑顔になったアリア。
それを見て、俺は苦笑する。……ちょっとだけ、助かった。
明るい笑顔のまんま、カリナとエレーナも一緒に誘ってきたアリア。今日は、三人と昼食をとることとなった。
学食は寮の食堂よりも広く、綺麗であった。ご飯もかなり美味しかった。
だが、それのせいで、はしゃいだアリアに疲れさせられた。プラマイゼロ。むしろマイナスだ。昼休みなのに、休まった気がしなかった。
そして後の五時間目の魔法理論だが、先生が強敵であった。聞いてるうちに眠くなる先生だったのだ。食後も相まって、誰も彼もが舟を漕ぐ中、質問がないかと問われて、元気に手を上げたのはアリアだった。
「はい! なんでセイ……ヤギューは史上最強だと言われるようになったのだ!?」
「唐突ですねェ。前の時間は……歴史ですか。なるほどねェ。皆さん眠そうですし、授業はキリがいいですし、答えてあげましょう」
俺を含めた全員が背筋を伸ばした。
色々な勇者が六代目の最強説に太鼓判を押した中で、一番初めにそれを認めたのは、よく忘れられる八代目の勇者らしい。
八代目――エータ・なんとか(名前までは出てきたが苗字不明)は、魔法を得意とした勇者だったらしい。それを行使することも然ることながら、研究と言う分野でも彼は才能にあふれていた。これは余談だが、“光”の対となる特殊属性である“闇”を体系化させたのは、彼だそうだ。
そんな彼は、ある時ふと思い立ったらしい。『史上最悪の魔王と、史上最強の勇者は、どのくらい強かったのか』と。彼は再び魔大陸へと旅立った。信頼できる助手を何人か引き連れてだ。
ここで初めて知ったのだが、俺と魔王ジャガ・ナートとの戦闘で、流れた魔法や剣撃が魔大陸の地形を変えていたらしい。
そしてその全てが、“過剰過ぎる魔力濃度によって生物が足を踏み入れられない”地帯へと変貌していたらしい。極寒の地であったり、猛暑の地であったり、形態は様々だが、それ以前に生物に馴染めない魔力――もはや強烈な毒と言える――が周囲一帯に蔓延っていたらしい。
「これが、超濃度魔力の残留による汚染……“魔力汚染”だ。まんまだねェ。まあそれはともかく、八代目はその現象を初めて発見、研究して……しながらに思ったそうだよ」
――魔王はともかく、六代目の勇者は、同じ人の身にあるように思えない。
「これがキッカケになって後の勇者の多くが、魔大陸にいる最中にその汚染地域に足を踏み入れようとするんだけどね……近づけもしなかったそうだよ。勇者以外となれば、もっとダメだった。……ああそうだ。前の代の勇者のツクル・シロサキ。彼もまた“戦略兵器”とやらで魔力汚染を引き起こしたねェ。でも、後にこう述べて言い逃れようとしたそうだ」
――これでも六代目の足元にも及ばないどころか、見えもしない程度なので、どうか勘弁してください。
「ってねェ。どんな言い逃れだって感じだけど、『自分の作った兵器は魔力を貯めるのに十日余り掛かるのに対して、六代目はひょいと剣を振るだけでその始末なのだから』――なんて言われて妙に納得してしまったらしいよ。被害地域が魔大陸だったこともあって、兵器の解体以上にお咎めはなかったよ」
あははと、クラスに笑いが溢れる。俺も笑った。何も言えねえや。
とりあえず、俺は世界に絶望したら滅ぼすくらいはできそうだ。嬉しくない事実である。
六時間目の地理――は今日はないそうだ。最初の一か月の間だけ、一年生は早く授業を終えるらしい。拍子抜けはしたが、擦り切れた心には優しかった。後、授業中に寝る程度では足らず、寝不足が辛くなってきた。
の、だが。爛々と目を輝かせながら向かって来るアリアを見て、身構えた。
「オルト! ちょっと我と戦ってくれ!」
「やだよ」
「うええ!?」
嫌に決まっている。ちょっと申し訳なく思えるが、俺の心身のコンディションが悪すぎる。
明日は実技があるのだからと宥めて、俺は一足先に帰ろうとする。
すると。
「オルト! 闘技場って解放されてるらしいから久々に戦ろうぜ!」
戦馬鹿第二号、ダグラスが単身六組に乗り込んできた。何事かとクラスメイト達は目を向けるが、『ああなんだ』とすぐに興味を失くした。
俺は頭を抱えて、打開策を出した。
「お前ら二人でやっててくんない……?」
アリアは戦いたい。ダグラスも戦いたい。俺は戦いたくない。じゃあアリアとダグラスで戦う。それで解決ではなかろうか。
荷物を全て仕舞った鞄を手に取ると、その手と逆の手をガッシリ掴まれた。
「「オルトと戦りたいんだ(のだ)!」」
「ふざけっ、ちょっと、離せこら!」」
どうもそれでは不満らしい。ガッシリ掴まれた手を強引に引っ張られ、俺は二人に連れられていく。
そして俺は、寝不足気味のまま二人を立て続けに相手することになって、イライラのあまり厳しく指導してしまった。
些か八つ当たりが過ぎた気もするが……謝らない。世界を滅ぼせる人間の不機嫌を買ってその程度なのだ。感謝してほしいくらいである。
体を動かしたおかげか、スッキリとしてよく眠れたけどねっ!
今回は、短いです。キリが良かったのと、これ以上書くのはどうしても上手く行きそうになかったので。
追記:とんでもない悪役をうっかり作ってしまって申し訳ございません。自分でやったことに大笑いしながら訂正しました。
訂正前:強気を助け弱気を挫く
訂正後:弱きを助け強きを挫く




