Ep.16選択って難しい
模擬戦の翌日。
俺に対するアリアの懐き度がマックス最高値だった。
「オルトオルト!」
「何?」
「特に用はない!」
登校してきて教室に入ったその瞬間、アリアが飛び込んでくる。
小動物のような彼女は、いつの間にか俺のことをファーストネームで呼ぶようになっていた。
悪い気はしないから、別にいいのだけど。
「お、オルトが“爆炎姫”を手懐けてる!」
「さ、流石は“氷結王子”。あのアリアさんを手懐けるとは……」
あと、周囲(五、六組)の俺たちを見る目に、畏怖(に近いような何か)が込められるようになった。
変な仇名が付けられてる気がするけど、それは無視だ。
「我は爆炎姫ではない! 紅蓮の天使であるぞ! ひれ伏せ!」
『ははー!』
ついでにアリアのアレは平常運転だった。……クラスの皆もコレが平常運転っていうのは、些か嫌である。
だが、それ以上に。それ以上にだ。
「あー。姫と王子じゃーん。おっはーだし」
「あ、あの……お二人ともおはようございます」
「……おはよう」
「おはよう! しかし我は姫ではなくて――」
苦い顔をしながら、カリナとエレーナに挨拶を返す。……王子だけは、勘弁してほしいな本当。どうしてそうなったのだろう。
同じように姫と呼ばれていたアリアはやはり変わらない。どころか熱く自分の設定を語ってらっしゃる。エレーナは真面目に受け取り過ぎて困惑し、カリナは笑顔で往なしている。――あ、カリナがそれとなく話題逸らした。上手いなあ。
女三人、寄れば姦しいとは言うが、まさにその通りとなった。昨日一昨日以上に俺の入る余地がなくなった。
いたたまれなくなって、同じく一人のブルクハルトに視線を向けたら、……気付いてくれたけど逸らされた。普通にショックだった。
「み、みなさーん。せ、席に着いて、ください」
誰にも気づかれず、悲しげに小さく叫ぶ先生が見える。同じ寂しさを味わう者同士、シンパシーを感じたので、カリナとアリアを席へと返す。
でもまず、先生はもっと堂々と胸を張るべきだと思います。
「では、配った紙に書かれた通りに……選択授業の、オリエンテーションに、向かってください」
さて。今日は、残りの選択授業の決定だ。本当は昨日の実技の仮決定もある。はずなのだが……皆が決める中、何故か俺、アリア、ブルクハルトはお預けを喰らった。
まあ、考えてもしょうがないので、気持ちを切り替えて配られた紙を見る。とはいえ、大体俺が取る授業は決まっていた。
「オルトさんはどこに行かれるんですか?」
「んー。氷魔法中級と光魔法初級・中級の三つかな」
エレーナに聞かれたのでそう答える。これが、俺が選択科目で取るつもりの授業だ。
「最低限ですね……」
エレーナは納得してるような、できてないような、そんな複雑な表情だ。
選択の授業は最低三つ、最高五つまで選べる。俺はモチロン最低限にさせてもらうつもりだ。
一年生が選べる授業は、各属性の初級と中級。剣術・槍術などのメジャーな武術。一年生の内容に、もっと深く突っ込んだ各学問などがあった。けど、その中で俺の興味をそそるようなものはなかった。……勇者史が、少しだけ気になったけど。
「えー! オルトは格闘術とらないのか!?」
前の席から突撃してきたアリアが、愕然とした表情で俺を問い詰めた。
俺はそれに、あっけらかんと答える。
「取らない」
「うぬぬぬぬ! なんでだぁぁぁ!」
俺と戦いたがる――というか、一緒にいたがる――アリアが喧しいししつこい。「なつかれたねーオルト。流石だし」って、カリナ。何が流石なんだ?
とにかく、目の前の小動物を宥めるとしよう。
「戦いなら毎週一回は総合あるし、同じクラスなんだから選択は別にいいだろ?」
「でもぉ……」
「我慢なさい。遊べるときは遊んでやるから」
「うううう……分かった」
我慢するアリアに、偉い偉いとあやす様に頭をぽんぽんと叩いてやって、俺は気づいた。
「流石。まるでお母さんだし」
カリナのからかいを、ちょっと否定できなかった。
俺はその場から逃げるようにしてオリエンテーション――氷魔法の中級――の教室へと向かった。
「来ると思っていましたよ。オルト・シュヴァイツァ君」
俺が向かった教室では、金の髪を結い上げた優しげな美人教師が、微笑みを携えて出迎えてくれた。
……そりゃ、まあ。いるでしょうね。いるでしょうよ。もしも氷属性が使えなくても、いるでしょうよ貴方なら。
「おはようございます……サラ先生」
「おはようございます」
タイトスーツが強調するメリハリボディがなんだか背徳的なエロスを感じさせる学校長、サラ・マグナがそこにいた。
彼女に促されて俺が席に座ると、サラ先生も教壇に立つ。表情を微笑から、パッと真剣な顔に戻して、彼女は話し出した。
「時間は早いですけど、恐らく、人はもう来ないと思うので、早速オリエンテーションをしてしまいましょう」
「どうして分かるんですか?」
「学校長ですので、全学年全員――つまるところ全生徒の属性は把握しています。今年度の氷使いは四人いますが、君以外はまだ全員初級レベルですから、ここにはいきなり来ません。二年生は氷使いゼロです。三年生は一人いますが、上級に行くそうです。ですので、初めのオリエンテーションで氷魔法中級に来るのは、恐らく君だけです」
本当に残念だよ!!! という感情を押し殺して、無表情のまま「そうなんですか」と返事をする。
「なので、もし本決定の際に氷魔法中級の受講者が君一人だった場合は、貴方と私のマンツーマンレッスン――ではなく、私の研究を手伝ってもらえないでしょうか」
……なんだと?
「えっと、授業は?」
「授業は、必要なら先生を呼びます。ですがそもそも、既に二級魔法を一つ十二分に使いこなせているオルト君に、中級の授業が必要なのでしょうか?」
「ええっとぉ……」
中級の授業範囲というのは、どうも二級魔法の追加習得と習熟らしい。他にも、凝った座学があるみたいだが、その程度だ。他の二級魔法を覚えたいこと以外は、確かに俺には不必要かもしれない。
なんとかして言葉を探すが、先にサラ先生が畳み掛けてきた。
「昨日の模擬戦、見させてもらいましたよ。正直な話、中級より上級に行った方がいい気もします」
ああもうあかん……。そりゃ見てるだろうよ『五、六組には度々~』とか言ってたし。関わらないと決めていたのに、これでは自分から突っ込んでってしまったようなものだ……。
「ですが、一年生はまず、授業体系に慣れてもらわないといけないので、この一年間は一人でも中級で我慢してください。――と、言うのは他の授業でもやれるので建前に過ぎません。私は、現状において可能性の塊にして実力者でもある貴方に実験を手伝ってもらいたいのです」
……意外と狡いよなこの人。流石、と言っておくべきだろうか。まあ、このことは内心に留めておくことにしよう。
もうどうしようもないところまで来てしまってるので、腹を括って話を聞くことにする。
「具体的に、何をするんですか?」
俺のその反応を肯定と受け取ったのか、表情を輝かせながら彼女は説明しだした。
「簡単です。私がため込んで、そして自分で消化できない実験を、オルト君が実行するだけです。もしよければ、考察も一緒に考えてくれたら嬉しいですね。私はやはり、氷使いではないので」
なるほど。やはり彼女は氷属性は使えないのか。だから代わりに俺が、か。だがそれなら。
「他の人では、ダメなのですか?」
俺がそう突っ込むと、輝かせていた顔がドンドンと暗くなっていった。
「……彼らは彼らで、別の研究所に行ってしまっていますから」
つまりスカウトに失敗していて、その上研究で遅れを取ってしまっている、と。後半は完全な推測だが、気落ちした顔を見る限り、強ち間違いでもないだろう。
「ですから、今回は他の研究者に声をかけられる前に、なんとかしてオルト君と話そうと思って、それで丁度いい場が出来たので……」
粉をかけに来た、と。
この場にはサラ先生しかいない。恐らく、他の先生は彼女が払ったのだろうな。話し易いように。なんというか。
「職権乱用してません?」
「うっ……すみません。少々強引な手を使いました。いけないことだとは、分かっているのですが」
堅物の雰囲気はどこかに吹っ飛ばし、縮こまってバツの悪そうな顔で俯くサラ先生。
……っはあ。
ほんっとにオルファの爺さんにそっくりだな。もっとも、爺さんの場合は強がってそっぽ向いてたけど。
「まあ、そこらへんは俺が口出すことじゃないですし、黙ってます」
「あ、ありがとうございます」
学校長に礼を言われる一年生、俺。そこは、置いておく。
さて、俺が彼女の研究を手伝うかについてだが。
「良いですよ。やります」
「……ほ、ほんとですか?」
バッと跳ねるように顔を上げるサラ先生。
「ええ、本当です。だって――」
一瞬、本当のことを言いそうになって、口を噤んで、言い直した。
「だって、どうせそれしかすること、なさそうですしね」
「…………あ、ありがとうございます」
サラ先生は、なんとかその感謝だけを捻りだした。
「……ただ、職権乱用はほどほどにしてくださいね」
「あ、はい。もうしません」
嬉しいことがあった後に注意をすると素直に聞く。ほんと、よく似た子孫だよ。
その後は、他愛もない話(という名の一方的な質問責め)をした後、時間が来たのでその場はお開きになった。
今後のことは、授業が決まって始まってからとなった。まだ、俺が一人であると確定したわけではないからである。
そして、その後の光魔法初級・中級については……特筆することは何もない。ふっつーにオリエンテーションしただけである。面白味は何もなかった。
――――翌日。授業の本決定である。俺は予定通り、先述の三つを選んだ。
そして、昨日お預けを喰らった実技だが、どうも俺たちは中級しか取れないらしい。しかも一つは総合に決められてしまった。これは、仕方ないことだと割り切って、俺は魔法実技中級を選んでおいた。
ダグラスとロゼには昨日の夕飯時に聞いたところ、それぞれの属性中級と、ダグは剣術と格闘術。ロゼは魔法論理と勇者史の三つらしい。曰く、他に面白そうなものがなかったらしい。実技は聞いてないが、どうせダグラスは運動、ロゼは魔法だろう。
そして、アリアはと言えば。
「我は格闘、火中級、魔法理論だ! 実技も魔法にした!」
「へえ、魔法理論?」
「魔舞は強力だが、中々隙が大きいこともあるからな! 魔法陣にもしっかりと手を付けようと思ったんだ!」
彼女の言い分に、俺は「へえ」と声を漏らす。教えるつもりだったんだけど、自分で気づいてたらしい。なんという才児。
どうだと言わんばかりに胸を張るアリアの頭を、とりあえず撫でておく。
「私は水の初級・中級と数学、勇者史の四つですね。もう一つは、取ってしまうと余裕がなくなってしまうと思いましたので、やめました。実技は魔法中級と総合初級です」
「私は土初級と魔物と薬学だし。聞いてて一番、面倒そうじゃなかった感じ。実技は魔法初級と総合初級ね」
堅実に自分に合ったもの、学びたいものを選んでいくエレーナと、ひたすら楽を選ぶカリナ。うん、ある程度予想はしてた。
「カリナは物臭だな!」
「それほどでも~」
笑いながらバシバシと背中を叩くアリアと、照れ笑いするカリナ。褒めてないだろと、何故か言えなかった。
「カリナさんの物臭はもうしょうがないですけど、明日からの授業はしっかり受けてくださいよ?」
「善処するー」
それ、やらない人の言うセリフだぞ。そう言おうと思って。
「オルトさんもですよ」
と、何故か釘を刺された。
「……いやいや。流石にそこまで不真面目じゃないから」
至って真面目にそう返したけど、おっかなびっくりだったのは内緒である。
さて。その日の夕食時のことである。相も変わらず三人で食べていたところ、思わぬ来客があった。
「オルト・シュヴァイツァ」
「……ん?」
黙々とシチューを食べていた俺が顔を上げると、そこにいた声の主は、ブルクハルトであった。ビックリした。
「あらどうしたの?」
俺より先に声を上げたのはロゼだった。口調も、表情もニュートラルなままだ。二度目のビックリだった。
危うくスプーンを取り落しそうになった俺には目もくれず、ブルクハルトはふっつーにロゼと話し出した。
「ああ。少し、話がしたくて来た」
「ふーん。そう。私たち邪魔?」
「いや、特にそういったものではない」
「じゃあ座っちゃえば? ダグの隣になるけど」
おお、おおおお……! 初めて見た。ロゼが普通にしてるの初めて見た!!
もはや否定のしようがない俺の保護者的精神が舞い上がる。今夜はお赤飯……いや、もう遅いわ。
「ん? 座るの? じゃあ詰める」
カツカレーにがっついていたダグラスがようやく顔を上げると、そそくさと奥に詰める。……少々机が汚い。それを見たブルクハルトが、片眉を吊り上げた。
「……バルカン。貴様、綺麗に食べられないのか?」
「えー? 別によくない?」
「拭く手間が掛かるだろう。少し待ってろ。食事をとりに行くついでに、布巾を取ってくる」
「おー。ありがとう!」
「口に物を入れて喋るな。マナー違反だ」
ぶつくさと言いながら、ブルクハルトは行ってしまう。
俺は、彼と友達になりたいなって、心底思った。
夕食を食べ終わった後、ロゼとダグラスがデザートを食べる最中、俺はブルクハルトと膝を突き合わせる。
「先ほども言ったが、聞きたいことがある」
「はあ」
彼は紅茶を一口、口にした後、改めて切り出してきた。背筋を真っ直ぐと伸ばして、綺麗な佇まいをしている。雰囲気もあるせいで、俺も自然と姿勢を正す。
「何故、上を目指そうとしないのか。それが、聞きたい」
「……それはつまり、なんで俺が王都の騎士団目指さないのか、ってことでいいの?」
「そうだ」
肯く彼を見て、ようやく色々な事の合点がいった。要はあれだ。エレーナが言ってたみたいなもんだ。
「貴様の強さは、この目で見たからもう疑いようもない。そこの犬と、二人掛かりで挑んでも敵わないだろう」
「……え? 犬って俺?」
「だからこそ、知りたい。何故、上を目指そうとしないのか……いや、これは少し違うな。何故、貴様の町の騎士団に入ろうと思うのか。それが聞きたい」
「ねえ、犬って俺のこと!?」
吠えるダグラスを尻目に、俺はスッと目を細める。聞き方が違うだけで、同じ内容に思えるが、実際は全然違う。
ロゼもまた気になっているようでこちらを見つめていた。そちらを向くと、『早く答えろ』と言わんばかりにブルクハルトへ顎を向ける。ちょっとそれは女の子的にどうなの? ブルクハルトも顔顰めてるよ。
「貴様には、向上心がないわけではないのだろう。強く在ろうとして、そして強く在るのだろう。ただ、それを積極的に表に出すのが躊躇われるだけだ。必要とあらば、惜しげもなく見せる。俺にはそう思えた」
彼の推測の大半は正解だ。
ただ、向上心はない。強く在ろうとしているのではない。
何の因果か、俺は強く在るだけだ。――まあ、それはオルトという“俺”だけを切り取ったらの話だ。
“俺”という存在そのもので言わせてもらえば。
“俺”は強く在らねばならなかった。
……ただ、それだけである。
…………それは今、関係ないな。思考がずれてしまった。つい先日、懐かしいものを見たからだろうか。
「だから知りたい。何故、そこなのか。何故そこで、貴様の力を使うのか」
口調こそ中々偉そうだが、その姿勢は真摯だ。彼は、納得したいのだろう。そしてそれは、己の向上のためだ。さすがにこれを、のらりくらりと躱すのは心が痛いな。
「両親を守りたい。それが一番かな。勿論、町の皆も守りたいけど、一番は両親だ」
「……オルトのお父さんもお母さんも、相当強いと思うんだけど」
「まあね」
ロゼのご指摘はご尤もである。彼らは守られるほど弱くはない。少なくとも今はそうだ。だから俺は今ここにいるわけだし。
それでも俺は、今も尚不安なのだ。“地獄”にしか見えなかった異世界を知っているから。
俺の手が届かないところで、何の前触れもなく、非劇的に散っていく命を知っているから。
「色々と、理由はあるけど」
その諸々は、押し込めてしまう。話す意味もない。話す価値もない。俺が話したところで、目の前の彼らには荒唐無稽でしかない。
「俺の目の届かないところでいつの間にか死んでいる、なんて絶対嫌なんだよ。できる限り近くがいい。だからもしも二人が、どこか別の町に行くならそれについていくし、もしも王都に引っ越してくるなら、王都騎士団に入る」
「……なるほど、な」
カップをソーサーから離し、静かに口元へと運ぶブルクハルト。そして、止めた。何か思いついたらしい。
「もしもだ」
そして、衝撃的なことを尋ねた。
「もしも、貴様の両親くらいに大切な人が出来たら……貴様は、どうするつもりだ?」
「――」
静止した。――答えられない。
「まあ、これは俺の最初の質問とは、かけ離れている。まだ少し不可解ではあるが、貴様のことについては粗方納得できた。無理に答えなくてもいい」
ブルクハルトはそう一息に言うと、ようやく紅茶を口にした。
「オルト・シュヴァイツァ。貴様を貶めた発言、謝罪しよう。すまなかった」
「……いいよ。あんま気にしてなかったし」
「感謝する」
どうにかこうにかそれだけ口にして、ぎこちなく笑う。
「――時間も遅くなりつつある。そろそろ戻らなければならないな」
「あ、ホントね。って、ちょっとダグ! ここで寝るんじゃないわよ!」
「うぇ? ああ……ごめん」
「では、俺は先に失礼する。――ああそうだバルカン。貴様、先日は煩すぎだ。一度勝ったくらいで、調子に乗るなよ。次は俺が勝つ。またな」
「お~? 次も俺が勝つし……ねむ……」
「あ、こら。寝るんじゃないわよ! ああもうまたね! ちょっとオルト、ダグ起こすの手伝って……オルト?」
ハッと、我に返る。いつの間にか目の前は空席になっていて、ロゼが訝しげに俺を見ていた。
「――あ? ああ……ごめん、何?」
「だから、ダグ起こすの手伝ってって――ああ、もう寝てる!」
「……俺が運んどくよ。ほっといていい」
俺は向かい側の席へと座って、ダグラスを揺する。どうにも起きそうにない。
「オルト」
「……?」
ロゼに呼ばれて、顔を向ける。彼女は恐る恐るといった様子で、俺に問うた。
「オルトは私たちのこと、大切?」
「……もちろん、大切だよ」
「じゃあ、オルトのお父さんたちと比べたら?」
子供というのは、究極の二択をよく突き付ける。よく、カレー味のウンだとか、ウン味のカレーだとかあったもんだ。
「……分かんない」
答えの見つかっていない俺は、それを答えることから逃げた。
「でも、ロゼやダグに何かあったら、守ってみせるよ」
そして、誤魔化した。
「そ、そっか。えと……ありがと。あのその……私も、オルト守れるように、強くなるから」
「あはは。ありがとう」
「じゃ、じゃあ! また明日!」
恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして走り去ってしまったロゼ。それを、俺はどんな顔で見ているのだろう。
――できるのだろうか。大切な人が。また。そしたら俺は、どちらを選ぶのか。どちらの傍にいるのか。
「……半分寝てていいから、起きろダグ。部屋に戻るぞ」
「んぁ~、お~?」
肩でダグラスを担ぎながら、思いに耽る。
困ったなあ。明日から授業なのに、今日は眠れそうにない。
二重の意味で、頭を抱えた。
今回は本当にどう切り出そうかとかどっから書こうかとかもうめちゃくちゃ悩んだ末、こうなりました。




