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どうやら勇者やってた異世界に転生したらしい  作者: おばあさん
第二章『楽しい学生生活は』
11/26

Ep.10 新しい友達と、入学式

 『入学式』。そうデカデカと書かれた立て看板と、彩り豊かな花のアーチが正門を飾る。

 俺と同じ、新品でぴかぴかの制服を纏った新入生ら、あるいはもう着馴らした上級生らがそれを潜っていく。

 俺もその流れに乗って歩いていくと、途中で二手に分かれた。勿論、上級生と新入生にだ。

 上級生はそのまま進んでいくのだが、新入生は係の先輩方に案内されて、クラスが掲示されている場所に案内される。

 辿り着いた場所には然ることながら新入生が集まっていた。

 どうやらまだ誘導の指示がないらしい。クラス表を眺める者、近くにいた人と談笑している人などが多かった。

 その中で、ちょっと目立っていた子がいた。

 背中まである真っ直ぐな緑髪を左右に揺らしながら、きょろきょろとあちこちを見ている一人の女の子。翡翠色の瞳も揺らしながら誰かを探している。よく見れば目尻に涙が溜まりつつあるではないか。

 ――その女の子は、ロゼだ。


「あ。オルト!」


 彼女は目聡く俺を見つけると走り寄ってきた。彼女が俺の名前を読んだ時、周りの人たちがちらっと反応していたが全く気にすることなく駆け寄ってくる。いや、気にする余裕がないのかもしれない。

 そんな俺は揺れる彼女のスカートの方に目が行った。

 赤と黒のチェックのミニスカート。指定の黒のニーハイソックスとの間からチラリと見える白い太ももから目が離せない。

 ――それプラス、襟に赤のラインが入った黒のブレザーと白のブラウスが女子の制服だ。彼女のブレザーから覗く白いブラウスの方に目が行くのは、五年ぐらい後か、もしくは永遠に来ないか。

 それにしても、なんだかミニスカートというのは新鮮である。バルダンでは彼女はロングスカート主だったのであまり見なかった姿だ。だから、俺は見てしまう。ヤマシイ気持ちなんてこれっぽっちもない。

 

 ――なんて考えたら両肩をがっしりと掴まれ、ずいと顔を近づけてきた。やべ、怒られる?


「どうしよう! 私、友達できないかもしれない!」


 そして彼女は自身の心中を大暴露した。俺を含めた、みんなに。

 彼女の状況は予想していたことだったため驚きはなかった。だがそれを急に面と向かって言われると(かつ、変な事考えてたので)ビックリしてしまう。

 一旦落ち着いて彼女の手を取って優しく退ける。友達が出来ないのにも理由が色々あるので、まずはそれを尋ねる。


「……イヤなヤツでもいた?」


 彼女は無言で首を振る。


「なんか……話しかけるの怖い。なに話せばいいか分かんない」


「話しかけてくれる子はいなかったの?」


 気まずそうに一度目を逸らす。そろーっと視線を俺に戻しながら、申し訳なさそうに言った。


「いたけど……逃げちゃった」


「相手が?」


「……わ、私が」


 『どうしたらいい? どうしたらいい?』と視線が問い詰めてくるので苦笑してしまう。

 ロゼのメンタルは対人関係でもめっぽう弱い、と。バルダンの人々や王都の騎士団の人にはこんな様子、欠片も見せなかったのに。


「アロンソ様たちには、そうでもなかったよね?」


「あれは、凄い人たちだから、怖いと言うより緊張しちゃって……でも優しかったからすぐ慣れた、というか……それに……」


「それに?」


 聞き返すと顔を俯かせた。前で組んだ手の人差し指がクルクルと動いている。


「……お、オルトがいたから」


「……」


「あ、あとダグもね!」


「……そっか」


 なんとも言えない空気が流れる。というか、ついでのようなダグラスがほんのちょっとだけ哀れだ。

 どうしようかと悩んでいると、ロゼが何かに気付いたらしい。慌てて切り出した。


「そ! そういえばダグは? わざわざ起こしに行ったから、てっきり一緒に来るのかと」


 それ一番最初に気付くとこだと思う。先ほど自分でダグラスの名前を出してようやく気付いたのか。

 まあそんなこと言うのも野暮なので、逸れた話題に乗ることにする。


「起こして、置いてきたよ。流石に遅刻はしたくなかったし」


「オルトのことだから準備まで全部手伝うと思っていたわ」


 意外そうな顔をするロゼ。調子が戻りつつある彼女に、俺は肩を竦めて頭を振る。俺も流石にそこまではしなかった。……制服はクローゼットから出しておいたけど。

 それに俺はダグラスの遅刻以上に、ロゼが一人の方がわりと不安だった。

 あの遅刻魔の彼は遅刻して式の最中に入ってきて大恥をかいたところで、大したことない。

 だがロゼを一人にしておくと、しまいには泣くんじゃないかと思ったのだ。現に先ほどまで泣きそうになっていたし。

 それに俺がダグラスをどうにかして起こすと言った時のロゼは。


『じゃあ私は一人で行くわ! いいのね!? オルトも遅刻しても知らないからね! 行っちゃうわよ!? 今なら二人で一緒に行けるわよ! 遅刻しないわよ! 本当にいいのね!?』


 と、煩かったししつこかった。

 それに言い知れぬ不安を覚えたから、俺は管理人さんに頭を下げまくって、彼を叩き起こすだけに留めて、ロゼが泣く前に来れたのだ。

 まあ、それを口にする気はサラサラない。


「オルトおじさんに似てきたわね。おばさんの失敗のカバーをしてるおじさんに」


 だから好き勝手言われても我慢する。グッとこらえて、別の話題に変える。


「そんなことよりロゼのともだ――」


「お、オルトはクラス表見た? 見てないよね。私も見てないから一緒に見に行こうよ!」


「――……そうだね。行こうか。話はそれからだ」


 露骨に逸らそうとしたので釘を打っておいた。笑みが引きつって調子も逆戻りしているがお構いなしだ。

 逃げるように駆けだすロゼを追って、俺もまた掲示板へ走る。

 列挙された名前の中から自分を探す。大きな掲示板なので、移動しながらになる。

 入学者はおよそ二百八十人。一つのクラスは基本三十一人で計九つのクラスがある。その中で特待生が特定のクラスに多く固まることはないらしい。一つのクラスに基本二人で、どれか二クラスが三人を有する形になるようだ。

 なんでそんなことが分かるかというと、そうなっているからとしか言えない。名前の列が九つあり、一つに三十余人の名前があり、特待生は太字で書かれていて一目瞭然なのだから。

 そう、一目瞭然だった。俺の名前は太字なので簡単に見つかった。


 結果を言おう。俺のクラスは六組で、特待生を三人有している。


 俺と。


 見たこともない誰かと。


 見たこともない誰かだ。


「……」


 隣の五組の欄には二人。ダグラス・バルカンとロゼ・ロールズ。これは知っている人なのになあ。

 錆びた機械のような動きでロゼを向く。先ほどとは別の意味で顔が引きつっている。


「……わ、私はダグと一緒みたいね……あは、ははは」


「……」


「あ、アリア・ベルさんとブルクハルト・M・エーレンベルクさんってどんな人かしらね……良い人たちだと、いいわね」


 さっきまで一人で泣きそうだった女の子に慰められる俺。

 ……そうだ前向きに考えよう。この二人を自立させる第一歩として俺が抜けたんだ。そうだ。そういうことだ。

 なあに。友達くらいすぐできるさ。日本に帰って留年した時、友達できなかったけど。


「一組から番号の順番に名前を呼びますので、呼ばれた人は集まってくださーい」


 誘導の準備が始まるようで、少し離れた位置で続々と点呼を取っている。このタイミング、狙ったのか?


「わ、私もしばらくダグがいないから一人だなぁ……」


 そして俺はまた慰められる。――あ、違う。これはマジの不安だ。よく見ると指先が震えてる。

 とりあえず彼女には、話しかけられたら逃げないで、質問されたらしっかり答えろと言い聞かせた。会話が途切れたら聞き返してみろとも。『ロゼならできるから』とゲシュタルト崩壊しそうになるほど言った。


「じゃ、じゃあ行ってくる」


「ファイト。あ、ダグラスのこと言っておいて」


「分かったわ……」


 よたよたと歩いていくロゼ。見ているだけで不安が伝播してくる。俺も一人だという事実を目の当たりにしたから、更に気分がブルーになったのだ。

 こういう時にダグラスがいれば幾分か気がまぎれるのに……。いや、よく考えたら二人で行ってしまうから余計にダメージを負うのか。


「――六組六番、オルト・シュヴァイツァさーん!」


 とうとう俺の名前が呼ばれる。「はい」と俺が返事をして向かおうとすれば、色んな視線が突き刺さる。

 不安は増し増し。重い足取りで列に向かう。願わくは、前後の人のどっちかでもいいから喋ることだ。


 俺が並ぶ場所にはプラカードを持った青い髪の男の先輩がいた。彼は俺に気付くとにこやかにほほ笑み、その場を俺に譲る。


「ここに並んで待っててくださいね」


「はい」


 そして俺の後ろに来ると、次の人の名前を呼び出す。残りのクラスはココを含めた四クラス。時間は十分というかあり過ぎて困る。

 まずは目の前にいる人――女の子と少し難易度が高い――に話しかける。

 ちょいちょいと指先で短い亜麻色の髪の少女の肩を叩く。叩いていいものなのか一瞬躊躇したけど、子供なのだから深く考えてはいけないと勢いでやった。

 少女が振り向く。ここで俺は先ほどの先輩を思い出す。笑いかける方が印象が高い。できているか自分では分からないが、両の口角を上げて笑みを作る。目元も忘れない。


「こんにちは。一年間よろしく」


「……コ、コンニチハ」


 茶のキツネ目を見開いて固まった彼女は、絞り出すようにそう言うとすぐに前を向いてしまった。……失敗だっただろうか。


「じゃあここに並んで待ってて」


「分かりました」


 ファーストチャレンジの終了後、すぐに後ろの子が来た。声からしてどうもまた女の子らしいが臆してはいけない。

 振り向いて再挑戦。


「こんにちは」


「あ。こんにちは」


 そこにいたのは青い髪のツーサイドアップと黒縁のメガネが印象的な女の子。髪色と同じ目が、クリッとしていて愛らしい。


「一年間よろしくね」


「よろしく」


 結構ハキハキ喋る子だ。笑顔に笑顔で返してくれた。この子はいけるかもしれない。


「……俺はオルトっていうんだ。君は?」


「カリナ。あなたたちのことは、エントランスでよく見てたから知ってる感じ」


「あ、ははは……ウルサくてごめんね」


 ぎゃ、ギャラリーの方でしたか。穴があったら入りたい気分だ。

 カリナは俺の方を――いや、正確には俺の後ろの茶髪の子を指した。


「あなたの前にいる彼女も見てたわよ。その子も見てるの、よく見たし」


「……え?」


 ばっと後ろを見る。しばらくして、おずおずとこちらを振り返るキツネ目の少女。苦笑いを浮かべながら頷いて見せる彼女。


「面白くて……つい見てました。ごめんなさい」


「そっかー」


 「あと、さっきは素気なくてごめんなさい」と、バツの悪そうな顔のキツネ目の少女。

 なるほど。遠巻きに見ていただけの俺が、急に自分に話しかけてきたからどうすればいいか分からなかったのか。穴を掘って入りたい気分だ。

 けど、これはチャンスでもある。頑張れ俺。

 羞恥心を押しとどめて、俺は話し続ける。


「手が掛かるヤツでさ。ダグラスって言うんだけど、昔からあんな感じだった」


「へー」


「やっぱり幼馴染なんですね」


 興味津々といった様子で俺の話を聞いてる彼女らに、俺は密かにガッツポーズ。あんまり人をダシにしたくないけど、ダグラスには散々な目にあわされたから恨むなよ。


「そうだよ。ずっとあいつと、もう一人の緑の髪の子と一緒に三人でいたんだ。俺たちの年は、近い子がいなくて必然とそうなったというか」


「でもしっかり仲は良いし」


「羨ましいですよね」


 少女二人が顔を見合わせて頷きあう。


「代わってみる?」


 そう冗談を口にしてみれば二人は苦笑気味に首を振る。 


「ダグちゃんはオルトのお世話を望んでいる感じ」


「オルトさんは第二のお母さんですね」


「そんな馬鹿な」


「あははは」「ふふふ」


 口を衝いてそんな言葉が出れば彼女らは笑う。カリナは大口を開けて、キツネ目の少女は口に手を当てて。


「あ、申し遅れました。私、エレーナ・B・エイミスと申します。よろしくお願いしますね」


「男爵家かー。私はカリナ・オッド。王都生まれ王都育ちの一般市民だし」


「俺は――」


「「オルト・シュヴァイツァ。特待生で、ダグラスのお母さんだし(でしょう?)」」


「違う!」


 三人して笑いあう。丁度移動が迫りつつあったから軽く(さっきとは別の)先輩に諌められた。

 お母さんと呼ばれたのは不服だが、しっかり距離を縮められたのだから結果は上々だ。


「これからホール入口に移動します! しっかり付いて来てください!」


 青髪の先輩の声が響く。


「さあもっと話すし」


「ええっ。もう移動ですよ?」


 しかし我関せずとばかりのカリナ。それを諌めながらもチラチラとこっちを見るエレーナ。

 しょうがない。


「……式が始まるまでね」


「さすが~」


「もう、始まるまでですよ?」


 そこからは度々怒られつつも、式までの間、談笑を続けた。

 ちなみに、ダグラスが来たのは一組の入場の直前だった。ホントに危なっかしいヤツだと思う。







 ホールには大勢の人間がいる。そのほとんどがこの学校の人間で、ほぼ全ての人間が集まっているらしい。一学年におよそ三百名弱の生徒が新一年を含めて六学年なのでおおよそ千八百名。教員およそ八十名。その他お偉方と思しき人々百名。この場には二千人弱もの人が座席に座っていた。

 だというのに、ざわざわとした感じが一切しない。厳かな雰囲気。葬式もかくやとばかりの静けさに、喋りだす人はいない。


「――お通夜じゃないんだから、もうちょっと堅さ取れない感じ?」


 隣の青い子が思いっきり喋ったけど状況は変わらなかった。茶色のキツネっ子は黙って前を見ているだけだ。俺もそれに倣う。

 カリナは渋々、喋ることを諦めた。


 壇上に、凄い髭を生やした老爺が出てきた。始まるらしい。


「静粛に」


「……もうしてるし」


 口にチャック出来ないカリナがボソッと溢す。またこいつは……と呆れながら反対を向けばエレーナの口元がひくついている。ふっと息が漏れているので、多分笑いを耐えているのだろう。


「これより、第六九五回、王立魔法学校――アカデミー入学式を開始する。起立」


 皆が立つのを見届けると、髭が立派な老爺は壇上を降りる。そして入れ替わりに上がってきたのは、どこかでなんとなく感じたことのある雰囲気をもった妙齢の女性だった。

 タイトなスーツに包まれた体は、メリハリがしっかりとしている。艶やかな金の髪は結い上げられてなお腰辺りまで伸びている。顔立ちはとても整っていて綺麗というより可愛いらしく、垂れ目も相まって全体的には優しげだ。なのにその雰囲気は荘厳。視線の力強さが実直さを醸し出しているように見える。

 見れば見る程、誰かに似ているように感じてくる。一体、誰?

 疑問に思っていると、壇上の彼女は答えを示した。


「二十二代目学校長、サラ・マグナと申します。ご存じかもしれませんが、六代目勇者セイ・ヤギューに仕え、彼の特殊派生属性たる氷属性の体系化に成功した宮廷魔法士、オルファ・マグナの直系の子孫にあたります。とはいえ、かなり遠いものですが」


 ――吹き出しかけた。そして得心がいった。あの柔和そうなのにクソ真面目そうなオーラはあの爺さんの遠い孫だからか。


「まあ私のことは置いておきましょう。


 新入生諸君。この度は、ご入学おめでとうございます。


 才能に満ち溢れ、幅広い選択肢を持つ若者たちがまた、この学校へ入ってきてくれたことを嬉しく思います。

 特に今年は、良い意味で異例の事態が多いと聞きます。素晴らしい才能を持っているのか、死ぬほどの努力をしたのか、それは定かではありません。

 ですが、確かな実力を持った方々が揃っているのには違いないのでしょう。喜ばしい限りです。


 しかし、この学校に入ることはゴールではありません。スタートラインでしかありません。そして、この学校はゴールまでの過程の一つでしかないのです。

 最初の成績の上下なんて、アテになりません。どんな才能もどんな努力も、驕って怠れば水泡に帰すことでしょう。


 だからこれからも努力を怠らないでください。

 自分の内に秘めた夢のために、全力を尽くしてください。自分の中にある夢を確固としたものとし、叶えられるよう努力を惜しまないでください。

 私たちはそれに手を差し伸べ、全力で支えていきます。自分が伸びるために、夢を掴むために私たちを利用してください。


 最後にもう一度。ご入学、心からお祝いいたします」


 校長が礼をする。生徒である俺たちは礼をし、お偉方は拍手で以て答える。ちらりと横をみやれば、カリナは欠伸を噛み殺し、エレーナは目を輝かせていた。

 俺は、ああやっぱりあの爺さんの子孫なんだなと思っていた。あの堅苦しい喋り方が透き通るソプラノボイスじゃなく、しゃがれた老爺の声だったら脳内再生は完璧に行えただろう。

 ――もしかしたらこの先、こうやって昔の仲間の子孫に会うのだろうか。なんて、意味もなく考える。姿形の変わった俺が、今更何もすることなどできないだろう。力を曝したら話は別だが。


 ちょんちょんと、カリナに腕を突かれる。なんだと思ってカリナを見れば、退屈そうに腕を差し出して「じゃんけんしよう」とのたまった。


「在校生代表の言葉――」


 式はまだ続く。あまり遊ぶのはヨロシクない。だが、校長のインパクトのせいで集中力が下がってしまってまともに聞く気が起きない。もしかしたら立ったまま寝そうになって物音を立ててしまうかもしれない。それは嫌だ。

 俺は「しょうがないな」と手を差し出す。にんまりとカリナが笑う。


「十回負けたらバツゲーム」


「お手柔らかに」




 ――俺とカリナは、式が終わるまで静かな激戦を繰り広げた。


 どちらかのバツゲームが決まる最後の勝負に熱中し過ぎて、エレーナに叩かれるまで移動に気が付かなかったのだった。

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