表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/26

Ep.0 日本→異世界→日本→異世界!?

初めまして。よろしくお願いします。

 突然だが俺こと柳生(やぎゅう)せいは、異世界で勇者をやっていた日本人である。


 妄想なんかではなく単純な事実で、しかしあまり人様に言いふらすことのできないような黒歴史である。


 高校二年生のある日、突然魔法で異世界に召喚されて『魔王を倒して世界を救って』と言われた俺はワケも分からぬまますぐさま戦場に駆り出されて、望まない殺戮と闘争に巻き込まれた。


 ある程度落ち着いた頃には状況をちゃんと理解したが、理不尽に苛立ちを禁じ得なかった。けれど動かなければなんにもならなかったので魔王退治は引き受けた。


 紆余曲折あって、およそ三年ぐらいかけて魔王を倒した後、更になんやかんやあって俺は日本に戻ってきた。


 その間の元の世界では半年間が経過し、俺は行方不明者として扱われていたらしい。記憶喪失を装って事態を有耶無耶にしたのを覚えている。父と母には思いきり叱られて、泣かれて。とても迷惑をかけたのが心苦しかった。


 勇者として努めた三年間は得るものはあったがそれ以上に失うものが大きく、日本に戻ってから数年は無気力に生きていた。


 適当な大学に入ってアルバイトをしながら普通に卒業。そこらへんの中小企業に入って、好きでもない人と付き合いなあなあと結婚。


 けれど結婚して子供が出来てからは一変してやる気に満ち溢れた。息子と娘。生意気に淑やかに育ってくれた二人がとても可愛くて、もう一度魔王を倒せと言われたら『よろこんで!』と引き受けられるくらいにはやる気だった。


 子供二人にお父さんカッコいいと言われたくてはしゃぎまくったし、早く帰りたいから仕事なんて定時には全部終わらせてた。他人の分の仕事もやってたけどまったく気にも留めてなかった。そんな俺のやる気は両親や妻、果てや友人にまで伝わって『まるで別人のようだ』と言われた。


 そんな風に俺にまた希望を与えてくれた二人と、二人を生んでくれた妻には感謝してもし足りない。床に伏せがちの両親の笑顔が喜ばしい。――そんな幸せな日々を享受していたのだが。



 俺は、死んでしまった。



 死んでいくと分かった俺は、子供たちと交わした約束を守れないこと。愛なく結婚して今まで辛く当たってきた妻に何も返せなかったこと。無気力な自分を支えてくれた両親を見送れなかったことに、激しい悲しみを覚えた。


 もっとこうしておけばよかったと、あの勇者として生きた日々に何度も味わったのと同じ、果てしない後悔を胸にしながら俺は意識を失った。

























 ――――の、だが。


 今、俺はなぜか意識がある。目の前は真っ暗で、音も何もないけれど、確かに意識があるのだ。これは一体どういうことだ?俺の身に何が起こっている?疑問に思ったその直後、眩い光に包まれた。


 あまりの眩しさに反射的に目を閉じる。


 目を閉じる?世界はまた暗くなる。


 暗くなる?視覚が作用しているのか?


 それに聞き取れないけど、周りがやけに騒がしい。聴覚まで機能しているらしい。更に混迷を極めると、どうやら背中を叩かれたようで思わず咽た。


「おっ、ぎゃーーー!おぎゃーーーーーー!」


 なんだこの声。赤子か?赤子が泣いてるのか?聞き取ったついでに、俺の喉が震えるのが分かる。


 ――おいおい、まさか。


「奥様!無事に生まれましたよ!」


 年老いた女性の声が聞こえる。それはどうも日本語ではないらしいが、俺には理解できる。


 ――おいおい。おいおいまさか・・・?


「ああ、よかった。とても、とても元気そう」


「大きな声で泣いています。これからもっと元気になりますよ」


「ああメシアス様。貴方の慈悲を有難く思います」


 大人に抱き上げられる感覚。内耳が感じ取る泣き声。日本語ではないのに、理解できる言語。


 勇者をしていた時に、何度も聞いた言語。何度も聞いた世界神の名。


「嗚呼。このフィロスフィアに生まれた新たな命に、祝福を」


 ――かつて救った、世界の名。




 どうやら俺は、かつて勇者をやっていた異世界に転生してしまったらしい。




 ………これほど不幸なことはない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ