第38話 秋元先輩の心
「秋元先輩、どうかしたんですか。今日の秋元先輩は何か辛そうな表情をされているように俺には思います」
俺は秋元先輩の人となりも、結構好きだからな。こういう辛そうな表情をされてるのを見るのは少し辛い。俺でよかったら、なんでも相談してほしい。
「山田君……あ、会長のスピーチがこれから始まるようだわ」
何かを言おうとしていたみたいだが、会長のスピーチが始まるのに気づいた秋元先輩はそれを言い留めて、藤堂会長の方を指差した。
広間の最前の真ん中あたりに、マイクを持った藤堂会長がいる。
「私の誕生日パーティーにご来席の皆様、本日は誠にありがとうございます。今日、私、藤堂彰は18歳になりました。昔で言えば、とっくに一人前と呼ばれる年齢なのかもしれません。ですが、私は多くのご来席の皆様とは違い、まだまだおしめの取れたばかりの雛鳥に過ぎません。これから、私はこの藤堂家の後継者の一人として、これまでよりもさらに一層励んでまいりたいと思っております。これからもご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いします」
長くはない、むしろ短いスピーチだが会長の意気込みが伝わってくる。
ああ、こういうところが、学園生徒の支持、信頼を得ているだな。
自分より2つしか上じゃないのに、届かないところにいる存在のように思えてくる。
挨拶の終わった藤堂会長のもとにドレスを着た令嬢たちが集まってるな。
あの人たちって親戚なの?なんかそれっぽくないような気もするんだけど。
「あの人たちは藤堂グループの取引先のお嬢さんたちよ。本当は、身内だけのパーティーだったはずなんだけど、会長ももう18歳。そろそろ、色んなところに顔を売っておく必要があってね。それで今回は何人もの取引先で取締役や会長をされているような方たちとそのご家族も呼んでいるのよ」
秋元先輩は不思議そうな顔をした俺に気づいたのか、説明してくれた。
「私は……醜い……」
秋元先輩はぼそっと呟いた。
「えっ?」
秋元先輩……
「あら、山田君。なんでもないのよ。それじゃあね」
そう言って、すぐに秋元先輩は俺から離れようとした。今の秋元先輩を放っておくのはあまりよくない。この様子は藤堂会長とのことで何か悩んでいるに違いない。
「ちょっと待ってください。俺一人じゃあちょっと居心地悪いのでもう少し話相手でもしてくれませんか」
俺はそう言って、秋元先輩をひきとめた。
「うふふ、会長には子供のころは・・・・・・なこともあったのよ」
「へー、そうだったんですか」
秋元先輩をひきとめて、話し相手を頼んだ俺だけど、全然話が頭の中に入ってこない。
俺は正直悩んでいる。
本当にいいんだろうか。
知覚眼を使うというのは、その人の心の中を様子見ることだ。
人の気持ちを知りたいからと言って、無暗に使っていいものじゃない。
何度も使ってきた俺が言うのもなんだけど、本当に悩んでいるような人に対して使っていいものだろうか。
人には知られたくないのに、それを盗み見る。最低だと思う人もいるだろう。
だけど、俺は自分に良くしてくれる、会長や部員の皆、先輩には笑っていてほしい。
これは俺のエゴだ。だから、先輩ごめん。
俺はテーブルの上に置かれたジュースを一気飲みすると、知覚眼を使った。
熱!辛!何このジュースってアルコール?
秋元先輩の気持ちが流れ込んでくる。
(私は醜い。今、彰様の周りにいる子たちを嫉妬している。それも殺してやりたいくらいに)
(どうして、あそこにいるのが、彰様の隣にいるのが私じゃないんだろう)
(私は御当主様から彰様から婚約者候補の一人として認めていただいた。でも、ただそれだけ……)
(私が彰様のお傍に立つことは藤堂家にとって何のメリットもない……)
(私を娶るくらいなら、あそこにいる女の子を娶る方が藤堂家にとってプラスになる)
(私は単にお爺様が藤堂家の家宰で、彰様の幼馴染に過ぎない)
(辛い、どうして私は秋元家に生まれたのだろう。どうして、もっと良い家柄に生まれなかったのだろう)
(お爺様もおばあ様も、そして両親も愛している。でも、こんな気持ちを抱いてしまう私は醜い)
(こんな醜い気持ちを持ち女が彰様を思うのは間違い。彰様に近づく他の女を盛りのついた雌猫呼ばわりする私は、その雌猫達よりはるかに醜い)
(それでも私は彰様を愛している、愛している……)
切ない、どこまでも切ない想い。秋元先輩は悩んでいる。自分が藤堂会長にふさわしくないと悩んでいる。俺にはいったい何ができるって言うんだろう。
アルコールが回ってるのか?ちょっとぼんやりしてくる。ああ、あれって相当強い酒だったの?
俺、アルコールって今までビールを一口くらいしか飲んだことなかったのに……
うわあー、ちょっと頭くらくらしてきた。
「ふはははは、恋する乙女のために我輩参上!さあ、黒縁眼鏡とおさげと言うベタな地味女から生まれ変わった美女よ、会長の元へと参るぞ」
おいおい、左眼、いくら俺が酒飲んだからっていきなり出てくるなよ。
でも、やるなら上手くやってくれ。
「山田君、ってお酒臭い……山田君飲んじゃったの?」
地味女と言われたことにちょっとお怒りのご様子の秋元先輩。
すいません、飲もうと思って飲んだわけじゃないです。
「ノンノン!今の我輩は龍星真矢、恋する乙女を救う救世主!さあ、いざ会長の元へと参るぞ。ふはははは!!」
おうおう、今日は行け行け。今日は俺は抑えんぞ。お前の好きにやれ。
「ちょっと、やだ。山田君、腕を引っ張らないで。私は行きたくない!!行きたくないの!!」
秋元先輩、そんな行きたくないとか言わないで。本当は会長の傍にいたいくせに。
「なんのなんの!嫌よ嫌よも好きのうち、さあ!いざ参らん!」
本当に酷い言葉だよな。嫌よ嫌よも好きのうちって、普通に考えて、単なるセクハラだな。
最悪性犯罪者になりかねない言葉だわ、あはは。
「おい!そこ!少し騒ぎすぎ、って山田!お前何をしているんだ!!」
お、藤堂会長。いやー美人侍らして良い御身分ですね。こちらの美人とかどうすっかねえ。
そっちのきつめの美人とかよりはよっぽどいい子ですよ。
「ふははは、会長。我輩、秋元先輩を会長のお傍にお連れしようとしただけのことよ」
「って、お前、今、酒飲んだだろ。酷く臭うぞ」
「何の!酒は命の水よ、少々飲んだところで問題などありはせん!ふはははは!!そんなことより会長、せっかく秋元先輩も会長の誕生日を祝ってくれているのに放置とは我輩許せん!」
そうだ、そうだ、会長。秋元先輩はあなたのこと心から愛しているんですよ。いつまでも鈍感系主人公を演じるのとかやめてくれませんかね?今日の左眼ってば、超素敵!
「おい、山田。とりあえず水でも飲んで落ち着け」
そう言って、会長が俺を落ち着かせようとする。
やーだ、俺を構うくらいなら秋元先輩を構えよ。このニブチン男。
「何の何の、我輩こそ沈着冷静と言う名にふさわしいナイスガイよ。そんなことより会長、秋元先輩の今日の姿を見て、何か言ってやったか?」
なあ、左眼。今日の秋元先輩ってば美人だもんな。こんな美女を放置して、他の女とよろしくなんざ、男の風上にも置かねえ。
「いや、春香は毎年誕生日パーティーに参加してくれてるから、今日は初めての方たちに挨拶をだな」
いいじゃん、いいじゃん。秋元先輩は婚約者?婚約者候補なんだし、会長の幼馴染なんだから一緒に挨拶にでも回れば。
「ほほう、秋元先輩がどうでもいいと。いつでも会えるからどうでもいいと」
「そんなことは一言も言ってない!!」
そんなに怒るなら、大切にしてやってよ会長~
「では、いつでも会えるというのなら、今日は我輩、秋元先輩のお時間をいただいて、一夜限りのアバンチュールでも楽しませて……」
うん、誘ったところで即座に断られるんだろうけど、これなら会長もちょっとは焦るだろ。
自分の気持ちにすら気づけないようなニブチンでも困るだろ~
「馬鹿を言うな、どうしてお前なんかに春香の時間を与えなくてはならないんだ!酔っ払いは寝ておけ!!春香行くぞ。こいつは給仕たちに任せて、俺と一緒に来い!お前は俺の傍にいろ!」
怒った藤堂会長が秋元先輩の手を握る。
「会長……」
「ふはははは、ハッピーバースデー会長!ハッピーバースデー!恋する乙女は美しい、ふはははは!!」
会長お誕生日おめでとうございます。これが俺からのもう一つの誕生日プレゼントです。
秋元先輩も頑張れ!他の女に負けるな!!
怒りながらも少し照れくさそうな会長の顔と、少し恥ずかしそうな顔をしている秋元先輩の顔がぼやけて見え、俺は意識を失った。
秋元先輩を登場させた時から書きたかったネタがようやく書けました。
秋元先輩は登場人物の中でもかなり好きなキャラです。




