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第12話 会長 突入する

「うおおおお~!朱音~!!」


藤堂会長は大声をあげて、飛び出していく。


すぐに男たちは会長の声に反応し、こっちを振りむいた。


「おい、なんか変な奴がきやがったぞ。お前らつけられてたんじゃねえのか!!」


工場で待機していた男が他の男たちを怒鳴りつける。


「いま、そんなこと言ってる場合じゃねえだろ。この女にナイフで突きつけろ!って、いない!?」


朱音を人質に取ろうと発言した男が、今まで朱音がいた場所を見るとすでにその場にはいない。


少し離れた場所で秋元さんが縄で縛られていた朱音を確保し、飄々とした態度で立っている。


「ナイスだ!爺!!」


「ははは、何のこれしき。家宰でありますれば……」


それ、家宰のスキルじゃないでしょ。秋元さん……


「お前ら、誰を拉致したかわかってるんだろうな!!骨の一本や二本じゃ済まさねえぞ!!」


「うっせー!!相手は爺とこいつ一人だ。こいつらボコッて逃げるぞ、ここから」


あっ、どうやら俺はカウントされてないんですね。


藤堂会長みたいに飛び込んで行ったりしていませんし。


そろり、そろりと音を立てずに近づいていく俺には注意が向けられていない。


突っ込んでいく藤堂会長に対し、男たちはナイフを構えて睨み付ける。


「おらっ!」


一人の男がナイフを藤堂会長の胸を狙って突き刺そうとするが、さっと躱した藤堂先輩は木刀で強烈な一撃を男の顔面に叩き込む。


うわっ、完全に鼻がつぶれている。あんな一撃顔面に食らって、死んだりしないよな?


さらに横から藤堂会長の脇腹を狙った男は振り向きざまに藤堂会長の拳を叩き込まれる。


ぎゃあっ、顔を殴ってるのになんで人が一人飛ぶんだよ。首折れるぞ。


残りは三人のはずだ。あれ?人数が増えてる……

って言うか取り押さえられてる。


ほんの一瞬目を離した隙に、残りの男たちは身動きの取れない状態に取り押さえられていた。


うわっ、みんな覆面してるし、黒づくめだ。


あれが藤堂家の方から来た応援か。この工場位だと複数入り口がありそうだから、そこから侵入していたのかも。


藤堂会長は相手の男が気絶したのを確認すると、秋元さんから縛られた手足のロープを外されて、立って会長を見ている妹に飛びついた。


「朱音~!朱音~!無事でよがった、本当によがった」


藤堂会長は少し嗚咽交じりで朱音を抱きしめている。


「ちょっとやだ、兄さん、やめ、暑苦しいってば」


そう言って、抱きしめる会長から朱音は逃れようとしている。


「怪我はないか。顔が少し腫れてるな。そう言えば、あいつら朱音を殴っていたな……ブラウスのボタンも千切れている……よし、殺そう」


そう言って、幽鬼のような顔をした藤堂会長が朱音を放し、木刀を握りしめ、倒れている男たちの方へと近づいていく。


「ちょっと、兄さん。やめてって。さすがに殺したりするのは拙いって」


そう言って、朱音は藤堂会長を後ろから抱きしめて止めようとする。


「うおおおおおお!!!朱音が、朱音が4年ぶりにこの兄を抱きしめてくれたぞ!!!お兄ちゃんは……お兄ちゃんは……うおおおおお~!!!」


幽鬼の顔から一転、蕩けそうな顔をして叫ぶ藤堂会長…

これはかなり気持ち悪い。


「うるさい!ちょっとは落ち着きなさい……お兄ちゃん……朱音の言うこと聞いてくれないの……?」


いまだに興奮状態の藤堂会長に対して、朱音はちょっと甘えるような口調でお願いをする。


「いや、何でも聞きます!!」


「じゃあ、あの連中は後はうちの人たちに任せる。これ以上は兄さんはノータッチね」


「オッケーです!!」


そう言うと、藤堂会長は手から木刀を放し、じーっと朱音の方を見つめている。



大量に汗を流し始めた、顔色も真っ青になっている。そして


ガバッ


綺麗な土下座を決めた。


「朱音~!お兄ちゃんを許してくれ!!200m以内に近づいたが、悪気はなかったんだ!!お兄ちゃんと縁を切るのだけは許してくれ!!」


今頃、そんなの言い出すのかよ。


「やめなさい、兄さん!!あなたは将来うちの後継者候補でしょうが!!うちの人達も見ているでしょ!!」


「馬鹿なお兄ちゃんを許してくれ~!」


いや、わざわざ言わなければ緊急時だし、スルーしてもらえたんじゃないかな。


「会長、謝罪するのは後にして、まずはお怪我の治療を」


俺のすぐ傍から秋元先輩の声が聞こえた。げっ、隣……

いつの間に……


「あっ、春姉。春姉も来てくれたの?あれ、隣にいる男の子って」


「はい、山田陽一君です。朱音ちゃんを救出するのに協力してくれた時ノ森の生徒です」


「えっと、そう言えばこの前一度だけ会ったことあるよね。ありがとう、山田君。それより春姉、怪我ってどういうこと?まさか兄さん、刺されてるの?」


「いえ、違います。朱音ちゃんの居場所が特定された際、3階の生徒会室から飛び降りて、車に乗り込まれましたのでおそらく足を骨折しているのかと…」


「3階から?」


吃驚した顔で聞き直す。


「ええ、3階から。しかも、羨まし……けふん、けふん。いえ、ここにいる山田君をお姫様抱っこで飛び降りましたので、いくら会長が強靭な御身体をされていると言っても、まず折れているでしょう」


「ちょっと何やってるのよ、兄さん。馬鹿じゃないの?」


「お兄ちゃんを許してくれ~!」


信じられないっていうような目をして、藤堂会長を見ていた朱音はため息をついた。


「もういいわよ……」


「もういいというのは?」


顔を真っ赤にした朱音は大きな声で叫んだ!!


「だから、もう200mはいいっていうことよ!おじい様にもちゃんと言っといてあげる」


「お兄ちゃんを許してくれるのか?」


藤堂会長はバッと顔をあげ、朱音を見つめる。


「許すも何も……助けに来てくれてありがと、兄さん」


そう言って、少し恥ずかしそうな顔で会長に感謝を伝える。


「お兄ちゃんは……お兄ちゃんは……うおおおお~!!!」


歓喜の涙を浮かべつつ、藤堂会長は吠える。


「じゃあ、お兄ちゃんは朱音にしゃべりかけていいんだな?」


「ええ」


「また、一緒にお兄ちゃんとご飯を食べてくれるんだな?」


「まあ、時々なら」


「じゃあ、お兄ちゃんは家に戻って、また一緒に暮らしてくれるんだな」


「あっ、それはダメよ」


「えっ!?」


「だって、今、兄さんが家に帰ってきたら、また私の部屋に侵入したり、盗聴器仕掛けたりするでしょ。もう少し兄さんが落ち着くようになるまでは、今までのようにマンションで暮らしていた方がいいと思うの。もう一度兄さんがやらかせば、もう私も愛想つくかもしれないし、家族の縁を切られるかも知れないわよ」


「だ、だが」


「その代り、その代りだけど……月に1度くらいは夕飯作りに行ってあげるわ、春姉と一緒にね」


家に戻ってくるのを拒否された時は一度に地獄へと叩き落されたような顔をしていた藤堂会長だが、手料理をつくってもらえる話で満面の笑みだ。実にちょろい。


この事件のおかげでどうやら兄妹の間で和解が成立したようだ。


藤堂会長よかったですね。これからは自重して仲良くやってください。




「ところで、山田君……」


藤堂朱音が俺に声をかけてきた。


「藤堂朱音さん、無事でよかったです。それで、俺に何かご用でしょうか?」


「ええ、それはありがとう。でもね、なんで山田君は私の手提げ袋を握りしめているのかしら……説明してもらえるわよね?」


か、会長~~


俺は、藤堂会長に助けを求めるために視線を送った。


藤堂会長の顔から冷や汗が噴出している。


「こらっ山田!いくら朱音が可愛いからって、朱音の体操服を盗もうとするとは何事だ。先輩悲しいぞ」


会長、俺を売る気か。そうはさせんぞ。体操服泥棒は俺ではない。俺に責任を押し付ける気なら、こっちだって考えがある。


「何言ってんですか、藤堂会長?やだな~、藤堂会長が俺にこれを預かってほしいって言って渡してきたんじゃないですか。確か、ロッカーに入ったままだと荒らされるかもしれないって思って、藤堂会長が確保していたやつですよね」


「兄さん……また私の私物を漁っていたのね……」


「いや、待て。誤解だ、誤解。汚いぞ山田。お前はそれを握りしめて興奮していたじゃないか」


「ええ、そうですね。山田君は体操袋を握りしめて「俺のバベルの塔よ、まだ立ち上がるな」なんて興奮しながらおっしゃっていましたね。そんなバベル塔と呼べるほどのものなんでしょうか?」


ニコニコしながら、秋元先輩は藤堂会長をフォローする。卑怯だ、秋元先輩は事情を知っているのに、藤堂会長の味方か!!



意味を理解した朱音は顔を赤らめて


「二人とも最低~!」


俺と藤堂会長を罵倒した。

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