一回目の春
*
春って言っても今は4月、雪がまだまだ残っている。けどもう暖かくなり始めている地域もあることだし春としておこう。
『春だねー』
『何言ってんの、まだ雪あるでしょ』
『それは僕も思っていたけどね』
何を言っているのか意味が分からないといった風に彼女が首を傾げた。
冬は(通勤以外で)外に出てないし、と思ってとりあえず窓を開けてみた。彼女の暗い部屋にすぐに冷気が入り込んだ。
『ちょ、何するの……』
『良いから良いから』
一握りの雪を取ってから窓を閉めた。不思議そうな顔をして彼女が見てくるが仕方がない。楽しみに待っていて。雪を手で造形していく。
そして完成したモノを彼女に見せた。
『じゃーん。白ウサギ』
『……雪でしょ』
幼いくせに彼女は冷淡な瞳で真実を告げる。いや、そうだけどね。雪をどんな形にしたとしても雪だけどね。子供なんだからもう少し可愛い反応を期待していた。
(彼女に子供らしさを求めるのは難しいかもしれない)
『そうだねー』
『……何がしたかったの?』
君の子供らしさを取り戻す手伝いをしたい、とか僕らしくなく真面目なことを言うと何かむず痒いから、『君の手が雪に濡れて輝くのをいやらしい目で見たかったのさっ』と答えることにした。
『ふぅん、いやらしい目で見るの?』
おっと、予想外。彼女がそこに食いついてくるとは思っていなかった。どうしよう。何て答えようか。残念ながら僕はギャルゲーの主人公でないから、コマンドは現れない。
正直に僕の想いを話したとしても彼女が傷つくかもしれないから自重したいが、彼女に罵られたいという気持ちまで出てきて……もう、辛い。
僕はどうすれば最高の解答を導きだすことが出来る?
『……君、いくつ?』
『は?』
当たり前の返答だ。取り合えず話を反らしたかったのだが上手く反らせなかった結果のコレ。僕が彼女だったら頭がおかしくなったのかと思うだろう。
『いくつ?』
『年は……今年で十二だと思う、多分』
『多分?』
『……私は生まれた日が分からないから大体なの。でもあの人が言ってたから多分今年で十二』
『ほう』
彼女の口から出てきたあの人。またか。彼女の過去に深く関わっているようだ。
ところで普段から彼女の事を幼いとは思っていたがまさかの小学生だとは思ってもいなかった。こんな裏切りあるのかよ。嬉しいような、悲しいような。
まあ、これで分かったのは僕は小学生に欲情するような男だという事位だ。ロリコンなんて称号は要らないんだけどね。
『で、いやらしい目で見てるの?』
年齢が分かった今、変な返答は出来ない。もしも警察に突き出された時、年齢を知って行為に及んだのなら重大な罪に問われることになるから。簡単にうんと頷くことが出来ないって訳だ。
うぅん。頭を捻りに捻ってからようやく答えを出した。
『見ているのかって聞かれて否定は出来ない。だけど、君と一緒に暮らしているだけで盛るような野獣じゃないから安心して。君がもう少し大人になったら保証は出来ないけど……』
なんとも酷い返答だった。
本当の事と曖昧さを残したらこうなってしまった。まあ、でも今すぐに襲いかかりたいとは言ってないから大丈夫だよね?
『ふぅん』
彼女が髪の隙間から僕を見ているのが分かる。何を考えて見ているのかは分からないけど。
『奴隷は変態ね』
その声はいつもよりもトーンが高かった。(彼女は少ししか表情の変化がないから声のトーンでテンションの度合いを判断する。友人が彼女に似ているから声のトーンで感情を判断するのは得意だ)
なんて最高のお言葉。身に余る光栄。大事に受けとりました。やはり彼女は僕の心を読めるのだろうか?
*
やっと春らしくなってきた今日この頃。きっと彼女はそんなことに気がついてないと思うから今日は通勤帰りにあるものを買ってきた。
『じゃーん』
彼女にあるものが入った箱を突きつけた。
『何それ』
『お土産だよ』
『ふぅん。開けても良い?』
『うん、良いよ』
『ん!何これ……?』
箱を開けて彼女は驚愕の表情をしていた。
やっぱり彼女は知らなかったみたいだ。ピンク色のコロコロした餅米とそれを包む緑色の葉っぱ。桜餅のことを。
『桜餅だよ』
『桜餅……桜……春だから買ってきたの?』
『うん、大正解』
『これって食べるもの?』
彼女はすんすんと鼻を近づけて匂いを嗅いでいる。そして汚いものでもつまむかの様に桜餅を取って顔をしかめた。
『うん、食べるものだよ』
『へぇ、変な臭いするのに食べれるんだ…』
知らない食べ物をくるくる回しながら観察する姿は子供らしいを通りこえて、獣の子供の様だった。
彼女はずっと観察をしていてなかなか食べない。あ、親が試しに食べて美味しそうな顔をすれば子供も食べると聞いたことがある。彼女もきっとそうなるだろう。
『食べないね。じゃあお先に頂きます』
彼女の持ってない方の桜餅を取って口に放り込んだ。もにゅもにゅ口の中で桜餅が暴れる。上手に咀嚼してから嚥下した。
変わらないいつもの味。やっぱり僕は桜餅が好きなんだな、と再確認した。
『ん、美味しいよ。君も食べてみれば?』
彼女は顔をしかめながらも(髪の隙間から見えた)桜餅を恐る恐る口に近づけている。そして、彼女はゆっくりと桜餅を口に含んだ。僕の親鳥作戦(今命名)大成功。
『んっ!』
彼女が上体を大きく前に倒して僕の胸へと飛び込んできた。何なの?僕へのご褒美?
『どうしたの?』
彼女の長い前髪後ろにすいて彼女の小さくて可愛らしい顔を出した。(間違えた行動をしたかも。この状態で彼女の苦痛に歪む表情を見たら理性が…って、何で苦痛?)
『美味しくない……奴隷のバカ……』
『美味しいよ。そんなにちょっとしか口に入れてないのに味分かるの?』
『分かるぅ……嫌だこの味……取って』
『僕が取るの?』
『……奴隷が食べろって言ったんだから、責任取ってよ……早く』
彼女が大きく口を開けて目を閉じた。長い睫毛がプルプルと震えている。いつも高飛車な態度しか受けていなかったから彼女のこんな姿を見たことがなくて、改めて興奮した。
彼女の口の中には小さい桜餅がいた。彼女の赤くて艶やかな舌によって押し出されようとしている。さて、この桜餅をどう取ろうか。手だと桜餅が付いていて嫌がりそうだから……口で取ってあげよう。
『顔、あげて……』
『ん』
彼女の口を更に開けて、彼女の口に舌を入れた。ざらつく舌で彼女の口腔を荒らし、桜餅を探す。そして桜餅を舌で絡ませ僕の口へと移動させた。
ねちょねちょと危ない音が聞こえてくる。自分達が作った音なのだが、理性とか色んな意味でヤバい。
(彼女は小学生。彼女は小学生。彼女は小学生。彼女は小学生)
理性を取り戻す呪文をひたすら頭の中で唱えて自分を抑える。彼女に手を(口を?)出した時点で抑えることはダメだったのかもしれないが。
うっすらと目を開けると彼女の顔は桃色に色づいていた。頬に当てた手が熱く、彼女の熱が移る。彼女の唾液が混ざった桜餅はもう僕の口の中にあるが、彼女のこんな姿を見たら自分を止めることが出来なくなる。
(彼女は小学生。彼女は小学生。彼女は小学生。彼女は小学生)
魔法の言葉を唱えてから口を離した。
『ぷはっ……』
彼女が荒々しく呼吸をして、肩を上下させている。濡れそぼった唇が彼女が小学生だということを忘れさせた。視界がボヤけ頭が朦朧としてくる。
『……奴隷のバカ。奴隷の口の中、桜餅の味がするから混ざったじゃない……』
『ごめんね』
『桜餅なんて大嫌い……』
潤んだ瞳で僕を睨み付ける。おっと、新しい扉が開いてしまうから頑丈に鍵をかけておかないと。
ところで舌を絡み合わせたってことは、キスなのだろうけど彼女はそれについて怒らなかったどころかキスについて触れられなかった。
つまりそれはどういうことなのか。言い忘れているだけかもしれないけど、僕への都合が良い方へ受け取っておこう。
『ありがとう』
彼女に向かって微笑むと彼女が首を傾げた。
『そんなに桜餅好きだったの?』
『うん、好きだよ』
桜餅も、君も。と言うのはさすがに自重。僕が軽い男に見えてしまうから。
彼女には内緒だけど、今度桜の入った料理を作りたいと思う。桜餅が苦手なら桜も苦手な可能性があるから、食べられなかった場合は今日みたいに口移しで僕が食べることが出来るとか考えている下心のせいで。
『ふぅん』
彼女が僕から目を反らしてごろんと転がった。こんな風に彼女がいつでもどこでも転がることが出来るようにシングルサイズの布団を3つ敷いてある。
(その布団は全て彼女の財布から出したのだから、素晴らしい懐だ)
彼女の部屋は僕が毎日掃除している甲斐もあってか綺麗に整頓されてきた。その分、彼女も思う存分寝転がれる。
僕の部屋はほとんど機能してなく、彼女の部屋で僕も寝るからこう布団が敷かれていると楽だ。も、もしかして彼女は僕と一緒に寝たくてこんなに布団を買ったのか?とか淡い期待を抱いたのは一度や二度ではない。
まあ、そうでなくても彼女の寝顔を間近で見られるから最高に嬉しい。無防備に寝ている彼女はやはり小学生だということを思い出させ胸を苦しくさせた。
当然の事なんだけど彼女が早く大人になってほしい。でもそれだと彼女が美人過ぎるあまりに他の男に引っかかってしまうかもしれない。それは嫌だ。彼女はずっと僕と彼女の部屋という檻に閉じ込めておくんだ。誰にも渡さない。
彼女は僕のモノだから。
まだ甘い口の端を舐めながら彼女の髪にそっと触れた。
『もうすぐ髪切らないと……邪魔にならない?』
彼女の前髪は顔全体を覆うほどに伸びていた。
『邪魔だけど……良いの』
『そう、何で伸ばすの?』
頭を撫でながら髪をすいていく。すると彼女の隠れていた顔が露になって心臓が痛くなった。
『前髪というバリケードがないと世界が明るいじゃない。この世界は私が生きていくには明るすぎるから隠れていたいの』
彼女の瞳は至って真面目だった。窓も閉めて暗い部屋なのにどこが明るいのだろうと思ったが、そういう物理的な明るさではないと判断し口をつぐんだ。
『僕が君の前に立って日陰になるよ。したら明るくないでしょう?』
彼女が怪訝な表情をしてからふと広角を上げた。
『この髪を切ったら奴隷は、一生私の日陰を作ってくれるの?』
無邪気な瞳で見つめるが、ちょっと待って。それってプロポーズ?こんな誘い文句初めて聞いた。
『ああ、一生君を守るよ』
我ながらクサイ台詞だと思う。だが彼女を喜ばせることが出来たみたいだから安堵した。
『じゃあ、切って』
彼女が僕の胸元にハサミを突きつけた。いつの間に握っていたんだという疑問と、彼女がハサミを持つ姿は様になるなという感動から結構興奮した。
しゃきしゃきとハサミが彼女の前髪を切っていく。ゆっくり彼女の一部が落ちていって下に溜まる。(この髪は小さい御守りに入れて肌身離さず持ち歩こう)
オンザ眉毛にしようかと思ったが流石にいきなりはキツいと判断して彼女の瞳が隠れる程度まで切った。
そしてちゃんと切り終えてから鏡を渡して彼女に問う。
『これくらいで大丈夫?』
『んー、うん』
『良かった』
この位の長さだと彼女は口が出るから食べやすくなるだろう。そうすると髪の毛に食塊が付くことも無くなるから僕が彼女の頭を洗うとき楽になる。
最近、彼女と住み出した(僕の部屋と彼女の部屋の壁がなくなって繋がっている状態)からか食事代は全て彼女が持つようになった。
その代わりに彼女が出来ない、買い出しや調理や掃除は全て任されるようになった。その間の彼女の役割は寝転がって可愛いポーズ(彼女にとっては普通のポーズ)をとって僕のエネルギーとなる。
最初の方は彼女の好みに合わないモノを作ってしまい、よく彼女は吐き出していた。(その後、彼女の唾液入りの料理は僕が美味しく頂きました。とても美味でした)
それが嫌でなんとか試行錯誤をして彼女が好む料理を発見した。料理と言って良いのか分からないが、彼女の好物は白米だそうだ。だから白米に合うような食材を使うと彼女は大変喜ぶ。
そして彼女は日中活動しない分食事は夜に一人前食べるだけで事足りるそうだ。なんともお財布に優しい彼女なんだ。(彼女のお財布だが)
『髪の毛、身体に付いちゃったからシャワーで流そうか』
『うー……』
お風呂が嫌いな彼女はぷるぷると首を振る。そんなに可愛い顔で僕を誘惑してもダメだよ。(彼女は意図していないだろうが、そういう作ってない純粋な可愛さが可愛い……って僕は何を思っているんだろうか)
『入らないとダメ。髪の毛がちくちく刺さって痛くなるよ。僕も一緒に入るから、ね?』
僕も入る……その言葉に反応して彼女は顔を上げた。彼女は面倒な事が嫌いだからシャワーを浴びる事すら嫌がる。
だから毎日色んなモノで釣って(騙してと言っても良いかも)彼女を風呂に連れていく。連れていくだけじゃ彼女は逃げ出すからがっちりガードして彼女と一緒に風呂に入り僕が洗うのだ。
そうしないと彼女は洗わないからね。下心とか全くナイヨ、うん。
『じゃあ、入る……』
『よし。用意しようか。はい、バンザーイ』
彼女の両腕を上げさせて簡単に彼女の服を脱がした。(もう、ブラジャー買ってあげた方が良いよな。大人の身体に近づきつつあるから直視すると僕がいろいろ困る)
浴室の扉を開けて彼女を押し込んだ。そして僕も服を脱ぐ。浴室の彼女を確認するが僕が来るまでどこも洗うつもりはないようだ。腰掛けに腰を下ろしている。
扉を開けて彼女に声を掛ける。
『頭から洗おうか』
『うー……』
シャンプーを取りだして泡立ててから小さな頭にそれを付けた。優しく洗うことを心がけているのだがどうしても彼女を揺らしてしまう。
『痒いところは?』
『頭』
『うーん。全部って事なのかな』
首を捻りながら彼女の頭を洗い続ける。
ところでだが、僕らはちゃんと大事な部位は隠せるように下着は着用している。一応彼女は女の子だし羞恥心を配慮してだ。
(本当は一番最初に彼女を風呂に入れた時に全裸で僕の僕がお見せできないことになったからとかは言えない)
しかし彼女にはまだブラジャーを買い与えてないから上半身は裸だ。(これも上に下着を着けて入ったところ、軽く透けて見える辺りがなんともエロチックで裸の時よりも興奮してしまったから上半身は裸で通すことにした)
頭を洗い終わってから、ボディソープを付けたタオルを彼女に渡して前は自分で洗ってもらう。僕がそこまで洗うのは絵面的に危ないからね。
その後流すのは彼女に任せて僕は先に出る。彼女も自立しないといけないからなと考えた結果だけどね。
彼女が上がってくる前に僕は服を着替えてタオルを準備した。彼女は体を洗うときに全裸になるからその彼女を見ないためという理由だ。タオルを置いといて彼女が拭くのを待つって方法もあるが彼女だと拭かないでそのまま布団に飛び込みそうだ。
彼女が扉を開けた瞬間、持っていたタオルを広げて彼女に巻き付けた。そのままわしゃわしゃと頭を拭いていく。
大体拭き終わったら彼女に任せておく。
『下着と服は用意しといたからね。ここにあるから』
そう指を差してから居間へと戻っていった。
彼女はこんなに自立していないのに今までどうやって一人暮らししてきたのか不思議に思った。僕みたいな奴隷がいたとか?……まさか。自分の発想がバカらしくて思わず笑っていた。
彼女に昔のことを聞いたら答えてくれるのかな。今度、聞いてみよう。(変化が怖いチキン精神な僕には難しいかもしれないけど)
僕は彼女のことを思いながらさっきまで彼女が寝ていた布団にダイブした。柔らかい彼女の臭いを堪能する。
僕だって我慢しているからこんな幸せ受けたって良いよね?と、自分の頭の中に聞いてみたら下心が全力で肯定してきた。
何だろう。最近僕の下心がよく顔を出す。僕も我慢出来ない男になってしまうのかな?