表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女が死んでいた  作者: 太郎
鷹翼と過ごした日々
11/13

中学生

 

 どんな精神異常者でも変人でも成長するのだ。だから、僕も鷹翼も中学生になった。

 彼以外の友人が出来るかな?とか、甘い夢を見ていたのは入学式の前日のほんの数秒で、僕には彼という友人作成防止機がついていることを思い出して諦めた。

 その考えはやはり当たっていて、入学式の日。

 彼は顔だけで言えば成功者の部類に入るから女の子達にきゃあきゃあと騒がれていたのだが、話しかけてみると現実を知って近づかなくなった。

 それと同時に彼がちゃんと話を出来る僕も、同類だと思われて僕らに近づく人はいなくなった。

 (僕は中学に入っても彼と同じクラスだった。やっぱり僕と彼は離れられないんだろう。中2になっても、中3になっても、ね)

 まあ、分かってるんだけどね。どんな現実が待ってるかって大体予想はついていたからね。けど、ここまで予想を裏切らないと何か、傷つく。


 彼は前にも言った通りイケメンの部類だから喋らなければ……いや、顔だけならモテる。だから、そのおこぼれを貰えたらなとか期待していたのだが、そんなマニアックな女性はいないみたいだ。

 ふうむ。これだから奥手な女性は苦手なんだよ。もっとガンガン来てくれたら、こちらもそれなりの態度を出す事が出来るから。

 なんて、非モテの僕が言ったところで誰も相手にしてくれないのは分かってるが僕も思春期なので彼女が欲しい。そうだ。誰でも良いから付き合いたいのだ。さすがに男は無理だが。


 ある日の給食時間、彼に聞いてみた。


『鷹翼はさ、彼女いるの?』


 当然答えは分かっていたが彼女がいないと言ってくれる可能性を信じて聞いてみた。だって、仲間を作りたいじゃないか。


『か、のじょ?女、の、こと?』

 こてん、と首を傾げる彼。

『まあ、彼女だから女だよね』

『んー。いる、って言え、ば、いる』


 彼は口に含もうとしていたスパゲティの端をぺろぺろと遊びながら言った。彼の髪の毛が長いせいで髪の毛も舐めているというのに気がついているのだろうか。


『いな、いって、言えば、いな、い』


 彼は再びこてんと首を傾げた。騒がしい教室なのに、彼の周りだけは静かな様な気がする。むしろ、凍っている様な感じか。


『曖昧だな』


 僕が小さく言うと彼はひくひくと口角を上げてから言った。


『説明、めんど、う、だ。今日、俺の、家、来い』


 ちゅるん、とスパゲティの吸い込まれる音と共に彼は僕にフォークを向けた。

 彼の家。行きたいところだが、本当に彼の家には良い思い出がないのだが。腕に残ったあの傷痕を見ると過去を思い出す。

 だが、彼の誘いを断るとどうなることか分からないからな。黙って従うしかないのだ。


『うん。行くよ』


 僕もスパゲティを巻いて口に放り込んだ。ミートソースが舌先に絡まって口内を赤く染め上げる。

 ところで思ったのだが学校のスパゲティの味付けは何故毎度ナポリタンかミートソースのどちらかなのだ。僕はそれらがあまり好きじゃないから嬉しくない。僕はカルボナーラが食べたいのだ、とワガママを言ってみるがどうせ叶うことはない。


『ん』


 彼は呟くように了解の意を示した。



 彼は学校帰りは執事が迎えに来るのだ。だから、僕もその執事の運転する車に乗って僕は彼の家へと向かっている。

 前に彼の家に来たときは正門の前で降ろされた僕らだったが、今度は家の前で降ろされた。なんだよ。前回無駄に歩かされたのは意味がなかったのかよ。彼はやっぱり僕を苛めるのが好きなんだな。


『どうぞ』


 執事が車を開けて僕と彼を降ろした。その優雅な動きに圧倒される物があるが、執事は彼の言うことに忠実なだけだ。


『き、て』


 彼は乱暴に家に入ると適当に靴を脱ぎ散らかすとスリッパを履いて中に入っていく。

 金持ちといったら靴のままで中に入るイメージだったのだが、彼の家ではスリッパを履くのがルールだ。彼曰く、家政婦を雇うのは面倒だということだ。


『こ、こ。俺の、部屋』


 彼はある部屋を指を差しながら僕の顔を見た。つまり、入れということなのだろう。分かったよ、と返事をすることなく僕は部屋に入った。


『失礼しまー……す』


 第一印象は、あれ。ここって彼の部屋だったよな?という疑問だった。殺風景という感じで家具はおろか窓すらない。

 薄汚れた綿毛布一枚が転がっていていくらかの服とワイシャツがかかっているだけでそれ以外のものはない。扉を開けているからまだ明るさがあるが、閉まったら暗黒。

 彼は何でこんな部屋に住んでいるんだ。と、ふと疑問が生じる。彼は沢山の部屋を持っているのだから、こんな部屋を彼の部屋にしなくても良いはずだ。

 彼の家に来たことは何度もあったが彼の部屋ではなくって応接間で遊んでいたから、初めて見た彼の部屋に驚きを隠せないでいると、彼は僕を見た。


『じゃ、俺、は、行くか、ら』


 彼はひらひらと手を振ってから部屋を閉めた。がちゃん、という音と共に僕に暗黒が降りかかる。真っ暗闇とはこういうのを言うのか。と、感動したフリをして本当は恐怖を隠していた。

 だって、怖いじゃないか。知らない場所で暗闇に閉じ込められて無音の状態にされる。しかも、その家の主すらもいないで。もしかしたら彼だったらこの部屋に何かを仕掛けているかもしれない恐怖が僕を襲う。


 何で彼は僕を置いていったのか不思議に思いながらも、然程動じることなく彼の部屋で突っ立っていた。そして、思い出す。僕は彼の彼女だと呼ばれる人を見るためだけに来たことを。しかし、紹介されたのは人ですらなく暗い一室。その彼女を紹介するために僕をここに待たせてるのだとしても、もう少し明るい部屋とか暇を潰せる部屋とか彼なら用意出来たはずだ。まさか彼女が極度の光恐怖症なのか?と疑問を掲げた自分を鼻で笑う。


 彼のすることは毎度分からないが、今回も分からない。一体どんな気持ちで僕を呼んだのだか、僕は一生理解できないんだろう。

 ここでずっとボーッとしているのもなんだから、僕は出ることにした。闇の中手探りで壁をつたって扉を探す。暗闇で動くというのがこんなにも辛いことだとは知らなかったが、別にこんなことをここで学ぶ必要ないだろう。

 ま、まさか彼は僕に強くなって欲しくてここにいれたのか…って、そんな訳ないと信じるが。


 ガチャリ。


 手に触れたドアノブを引くと久し振りの光に目が眩んだ。うっ……と低く声を上げてから目を細めてから辺りを見渡す。

 沢山部屋がありすぎるせいで、彼がどこにいるのか分からないから取り合えず手当たり次第に歩く。

 部屋を見かければドアノブに触れて少し開ける。そして、中を覗いてから彼がいないことを確認してまた閉める。また歩き出してから次の扉を開ける。

 その作業を繰り返してからどれ位たったんだろうか。何個もの扉を開けてから一つの扉に辿り着いた。

 その扉は少し開いていて中から人の話し声が聞こえる。彼の家は極端に物音がしないからこの部屋だけ浮いていて、間違いないと思った。

 だが耳を近づけて有り得ない物音が聞こえて僕は凍りついた。


『はぁ、……っん……あっ……』

『……ふっ』


 どう考えてもおかしい喘ぎ声+水温。これ等の音から想像出来る行為は一つしかなくって耳に全身の血液が集まる。

 まさか。彼が……?と思って顔を出して覗くと、どんぴしゃり。彼が黒髪の女性と交わっていた。

 そんな行為を見るのは初めてで身体が熱くなって変な気分になる。それが彼がしている行為だから尚更。

 僕は知らず知らずの内に彼らに気を引かれて前のめりになって見つめていた。

 女は彼よりも年上で長い黒髪で消えてしまいそうな程白い肌だった。(全裸だからよく見えてしまう)どこにも傷痕はなくって綺麗過ぎる。人間なのかと不思議に思う位に完璧に美しい人。どことなく彼に似ているが、僕はその人に惹かれていた。

 彼はいつもと変わらない能面の様な顔なのにたまに切れ切れの息を漏らした。その行為が徐々に終盤に近づくにつれて彼は眉間にシワを寄せて、止まった。

 行為の終わりのサインだ。

 満足したのか、彼はその女を投げ捨てると彼女は小さく悲鳴を上げた。それも無視して彼は僕の元に向かってきているのを見て焦って、思わず壁に張り付いた。


『よ、お?』


 平然と彼は手を挙げるが気になるのがある。


『お前……前のアレ出てるぞ』

『ん?あ、ああ……』


 理解した彼は下着の中にそれを入れてから社会の窓を閉めた。僕には羞恥心があるから友人にアレ見られてもそんな平然と出来ない。さすが、彼だ。


『あー、あの、女。か、のじょ、か?』


 彼はさっきまでいたしてた横たわる女を指差してあいつは俺の彼女か?と聞いてきた。いや、何で僕に聞く?行為をしたからって恋人になるかどうかもお前の決めることだろと言いたくなったが言わずに。


『彼女じゃないのかな?』


 と、微笑むだけで終わった。改めて思うけど僕の精神力ってスゴいのな。誰か褒めてくれ。


『そ、か。かの、じょ、なのか?』


 と、聞いた本人は首を傾げてるが何か不満があるのだろうか。そんな綺麗な人を彼女と呼べるだけ奇跡なのにな。


『ま、良いな、遊、ぶか』


 彼は考えていたことを全て振り払ったかの様に平然な顔で言ったが、ちょっと待て。放課後+彼の部屋にいた時間+彼と女の行為の時間とで既に日が暮れているというのに遊ぶというのか。


『今、何時?』

『んー、二十、時……いや、二一時か、な?』


 彼はそれがどうしたの?とでも言いたげだけど、僕は普通の子。門限ってものがあるんだよ。彼にはないのかもしれないけど……、


『もう遅いからさ……』

 帰りたいな……そう言おうとしただけなのに彼は僕を睨んで低く唸るような声で言った。


『遊ぶ、よ、ね?』と。


 勿論僕が表情を変えるような彼の言葉を断れるはずもなく『はい』と頷くのであった。

 そして、その日は彼が満足するまでオセロをして遊んだ。もとい遊ばれた。彼は僕の負けた時の顔が好きなのか、負ける度に表情を緩ませた。

 全く。そんな屈託ない笑顔を普通に出せば良いのにな。


 僕はあの後も彼の家に行くことはあったがあの女に会うことはなかった。知りたくもないし、知って僕に得があるわけでもないからどうでも良いんだけどね。



 彼とは中二になっても同じクラスだと思っていたが、やはり僕の想像は予想通り。同じクラスで、しかも隣の席だった。

 先生方もどれだけ彼を暴走させたくないのかがよく分かるよ。まあ、慣れたから暴走しても良いんだけど。

 また、ある日。彼は突然イカれたことを僕に問いかけた。


『お、前って、さ。俺、の顔好きだ、ろう?』


 普段は鼻まで覆う位の髪の毛を適当に流しているがその時だけは自身の前髪を持ち上げてその端正な顔立ちを露にしていた。

 さて、ここで問題だ。別に彼の顔は嫌いじゃないし、むしろ好きな部類に入るだろう。しかし、それを馬鹿正直に答えてみれば男同士の友情が壊れるかもしれない。しかし、嫌いと言ってもそれは同じだ。これはどう答えれば良い?何と答えれば正解なんだ?


『まあ……好き、かな?』


 出来るだけ濁そうと考えたが、果たして濁して言った言葉が彼に理解できるのかと深く考えて出した言葉だ。


『へぇ。じゃ、あ、12年計画、で行こ、う、っと』


 彼は不思議な言葉を残してそれじゃあ、と前髪を降ろした。その謎な行動の意味は分からなくってその時の僕はただ呆然としていた。



 特に頭も良くなく、悪くもなくな僕は取り合えず妥当な高校を選ぶことにした。すぐ近くにあって僕の学力で楽々と入れる高校。

 彼の行く高校は知らないが彼は頭が良いから(一度習ったことは全て覚えている彼は天才だ)きっと良いところに行くんだろう。だとしたら、内申点を不安に思うけど。

 まあ、高校に入ったら別れるんだろう。彼とは。でも一度で良いから遊びに誘ってくれないか、と考えていた自分に驚いた。変なことを幾度となくされてきたが、なんだかんだ言って僕は彼を嫌いになれない。凄く振り回されてたけど意外と楽しかった九年間だった。


 だから、卒業式の日。彼に本音で話してみた。


『鷹翼と過ごした九年間は楽しかったよ。離れるけどまた遊ぼうね』


 すると、彼は目を丸くさせてから初めてじゃないかって位に流暢に話してから口角を上げた。


『俺、も楽しかっ、た。でも、離れな、いよ。ずっと、一緒だか、ら』


 軽いヤンデレみたいな発言だったけどこれからも仲良くしようってことなんだと判断して、僕は笑った。笑っておけばなんとかなると思っていたから。

 けど、僕は彼の言葉の裏にナニが隠されているのか気がつくことはなかった。気がつくのはもっと、もっと先。その過程に彼女にあったり彼が死んだりするんだけどね。



 そんな中学生時代。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ