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魔法と剣の運命  作者: 長谷部香樹
すべての出会いを「始まり」と読む
8/56

8話

今回、最後の方に書きたかったっていうシーンがあったので

少し字数多くしました。

さぁ、主人公一同VS昔ながらのRPGイベントの戦いの結末は!?

 

 目の前に描かれている世界は現実なのだろうか・・・・・・?

 森村の目の前に広がる景色はそう疑問を抱かせる。


 真っ黒な雲が渦を巻いて浮いている。まるで古臭いRPGゲームで登場する魔王の城の上空を漂うような。

 ただそれだけだ。それだけなのに自分のうちに宿る拒絶反応のようなものは何なのだろうか?


「なんなんだよ・・・・・・これ・・・・・・」


 森村は答えを知らない、この異常な景色の答えを。だからこそ口で発したのだ。が、この質問に答える者はこの場にはいなかった。


「レイジ!」「玲次ッ!」「森村!」


 しかしそのかわり、というようなタイミングで森村の背後から聞きなれた声がした。

 振り向くと亜希、都築、赤松がこちらに向かって走ってきた。


「みんな、どうしたのこんなとこまで?」

「はぁ、はぁ・・・・・・教室で外見てたらあの雲が、見えて・・・・・・玲次が、部活に行ってるって知ったから心配で来てみたけど・・・・・・」


 猛ダッシュしたせいなのか、3人はそれぞれ息を荒くしていた。

 そんな彼らを森村は呼吸を整えるように勧める。


「――――――にしても、なんだよこの雲・・・・・・」


 呼吸を整えた都築が真っ先に口を開く。他のみんなは答えはしなかったが、静かに同意する。

 現実じゃない。そんな言葉が自分たちの頭の中で響いている。

 と、そんなことを考えている中でふと亜希は正面を見て気づいた。


「あれ?玲次、何で先輩たちだけあっちにいるの?」

「え?」


 亜希の発言に森村も彼女と同じ方向を見ると2、3年生たちがコートの外で身構えていた。

 なんであんなところに?という亜希と同じ疑問が浮かび上がったが、答えを知る方法が見つかった。


 そこからやってきた顧問の先生が自分たちの方に向かって歩いてきている。しかし俯き加減で歩いているせいか、森村達の姿が見えていないようだった。


「なぁ、先生よぉ」


 都築は普段の彼からはあまり想像もつかないような口調で先生に話しかける。こういう言葉遣いの時、彼は冗談なしの真面目な状態だということを幼馴染である亜希は知っていた。だが、ここ最近では全くと言っていいほどそういう話になったことがないので、少しおびえたような表情になる。


「・・・・・・ん?おぉ、どうしたお前ら。早く帰らないと雨降るぞ?」


 ようやく彼らの存在に気づいた先生は、何事もないのような口調で都築達を急かすように言う。


「先生にはあれがただの雲にしか見えねぇのか?」

「ああ。ただの雨雲だろう(・・・・・・・・)?」


 きょとんとした表情で顧問は答える。それにお前は教師に対しての態度が悪くないか?という注意まで何でもないように聞こえる。ここまで落ち着ききった言動を見ると、本当に彼も何も知らないように思えた。まるでもうすでに言い(・・・・・・・)慣れているかのように(・・・・・・・・・・)


「は?」

「ストップ、もういい、シド」


 顧問の回答に声を荒げる都築に赤松が片手で制す。

 その様子をちらりと目線だけで確認した森村は、改めて顧問の方へと向き直る。


「先生。今おれたちが訊きたいことは、想像できてますよね・・・・・・?」

「・・・・・・だから何度も言っているだろう?いったい何のことか・・・・・・」


 ――――――さっぱりだ、と言い終える前に森村の目を見て言うのをやめた。

 質問した時と依然と変わらないような森村の視線だったが、彼にとってはものすごく鋭いものに変わっていたような気がした。


 自分が生徒に目線だけで負けている。


 その事実だけで自分が真実を話すにも何か足りない気がしたが、


「・・・・・・・・・しょうがない。分かったよ、話す。」

「えっ、本当ですか!?」


 ため息交じりでの顧問の降参に驚きと、喜びが入り混じったような表情をする。

 しかし、その反応を待っていたかのように「ただし・・・・・・」と続けて付け加える。


「このあとのが見えたら教えてやる。見えなかったらさっさと帰れ」

「このあとの・・・・・・?」


 亜希が首をかしげながら顧問の言葉を繰り返す。その反応に「もうじきわかる」とだけ言って2、3年生のいる方向を向いて、最後に一言、


「もうすぐ雷が落ちるか(・・・・・・)らな(・・)

「え・・・・・・なぜ――――――」


 分かるんですか?と訊く前に、



 刹那、2,3年生のいた場所の目の前に雷が落ちた。



「うぉっ!!」「ぐっ・・・・・・!!」「きゃあ!?」「うわっ!!」


 はじけ散るような閃光と耳をつんざく爆音、そしてそれによって起きた突風に4人は襲われる。


 たいていテレビなどで見る雷はギザギザの線で描かれたようなものだが、実際に間近で見るとそんなものは一片も見当たらない。まるで天空から落とされた巨大レーザーのようなものであった。


 亜希達は爆風に目を細めながら手を前に出して必死に防ごうとする。しかし顧問の教員だけは少しだけ目を細めるだけでちっとも吹き飛んでしまうような感じはない。それこそ、慣れきっているように。



 やがて雷光と爆風がやみ、土煙が晴れ始めた。


「・・・・・・や、止んだ、か・・・・・・?」


 4人はそれぞれゆっくり顔をあげて周りを見渡し、



「「「「・・・・・・・・・ッ!!」」」」



 落雷が起こる前まではなかった『ありえない存在ヤツ』を見て一瞬硬直した。



 そのうちの一人、都築和仁は残りのみんなに質問する。


「・・・・・・なあ、みんな。こいつ、オーガだよな・・・・・・?」


 正気な人間であれば「そんなぁ、何かの冗談だろ?」で済ませられるのだろう。

 いや、この状況でそれを言ったものは逆に「狂気」と呼ばれるだろう・・・・・・



 赤い皮膚、金属のような硬さをイメージさせる筋肉、不気味なまでに白く感じさせる角。

 そしてきわめつけは、


「で、でけぇ・・・・・・」

「うん・・・・・・だね」


 常人の5倍はあろう巨大な身体。


「・・・・・・ぉ、おまえら・・・・・・アレが見えるのか!?」


 急に声を上げたのは顧問であった。


「え?見えますけど・・・・・・何か?」


 慌てふためいたような彼の発言に対して、この状況からは不自然なくらい冷静に亜希が答える。


「先生。あれ、オーガですよね?」


 そしてもう一人、不気味なくらい冷静に質問し返したのは赤松だ。


「・・・・・・あ、ああ、そうだ。分かるのか・・・・・・?」


 最初とはうって変わって冷静さを失っている顧問はおどおどしながら答え、恐る恐る質問する。が、その質問に対しても冷静なまま4人は頷く。

 とはいっても、彼らに限らず、たいていの若者で知らない者はいないだろう。



_________________________________

【オーガ】


 巨大な体と赤い皮膚が特徴の魔物。別名:鬼                                     

 強靭な肉体とその図体に見合う金属製の棍棒による力技が得意だが頭が悪く、魔法が使えない。


_________________________________



 この名前を聞けば、ゲーマーのみならず、普通に知り渡っている名前だろう。

 「ソレ」はRPGの中では初期のボスモンスターとしてよく扱われ、イメージとしては「チュートリアルの初期ボス」として思われていたが、目の前の「ソレ」は全くそのイメージを持たせない。

 5メートルというとあまり想像がつかないが、他のもので表すと小さい2階建ての一軒家である。

 そんな巨大なものがなぜこの街に、いや、この世界のこの学校に存在するのか?そんな疑問が彼らの中で渦巻いていた。


「・・・・・・もしかして、先生の言ってた『このあとの』ってこのことですか?」


 そう質問しながら森村は横目で顧問を見る。

 質問を受けた顧問は、びくっとしながら森村の言葉に反応すると、大きなため息とともにうなだれたようにする。それが少年たちへの無言の返答らしい。


「なぁ、教えてくれ!いったいこれはどういうことなんだよ!?」


 煮え切らない顧問の態度に我慢できず、詰め寄るように質問する都築に「分かった分かった」と言いながらなだめて続ける。


「どうも何も、見たまんまのことだよ」

「見たまんま?」


 繰り返して言った赤松に頷いて、結論を話す。


「これはな、見た通り、この世に存在しないはずの生物が出現する『魔物発生現象モンスタープロージョン』と呼ばれるものだ」

「もんすたー、ぷろーじょん?」

「ああ。本来、常人には見えない現象なんだが・・・・・・」


 そこまで言うと、彼は4人をちらりと見る。「君たちは常人ふつうではないようだな」と言いたげに。

 それはあまり気にしないのか、赤松はまた質問する。


「どうしてそんなものが?」

「さぁ。私もこの現象の詳細に精通した人間じゃないからさっぱりだけど」顧問はため息混じりな声で「ある妙な物質が関与してるらしい」

「ある物質?」


 首をかしげた都築が質問すると、顧問は胸のポケットから煙草を取り出しひとつをくわえて火をつける。

 ゆっくりと立ち上る煙を一通り見ると、彼はようやく答えた。


「『クロノス』・・・・・・」


 ぽつりと独り言のように言った一言に理解できないように都築達は首をかしげる。


「近年になって新しく発見された『元素』らしい。能力をお前たちにわかりやすく説明すると、『魔力の源』といえば分かるか?」


 その発言に彼らは唖然とした。

 『魔力』と言うと「魔法を使うための燃料」という意味と考えるのが一般的だろう。それが1つの『元素』としてこの世に存在されているというのが彼の話だ。


 ということは・・・・・・・・・


「先生、それじゃあ先輩たちも・・・・・・!?」


 詰め寄るような森村の言葉に眉ひとつ動かさず、ただ「みてごらん」と言って先輩達の方をあごで指す。


 よく見てみると、先輩達の手には1人1本でラケットが握られている。

 そのラケットをそれぞれ後ろの肩や腰、背中にまわしてゆっくりと出す。その様子は剣を引き抜くような動(・・・・・・・・・・)()であった。

 すると、


 「な・・・・・・!」「うそ!」


 その光景を見た赤松と亜希が思わず声を洩らす。都築と森村は声こそ出さなかったが、驚いた表情でその様子を見た。

 しかし本来、ここはどれだけ声を出さずに我慢しても耐えられないくらいありえない瞬間であるはずだ。



 なぜなら、持っていたラケットが剣や弓、銃や杖に変化していたのだから。



「な・・・・・・なんで・・・・・・」


 亜希が口からこぼれたように言葉を出すが、誰もそれに応じることができなかった。

 そして武器を持った先輩達が紅の巨人目がけて突っ込んでいった。

 しかし突っ込んだと言っても片手剣や大型の剣を持った人たちだけで、杖や弓などを持った人間はオーガから一定の距離を保って動いていた。

 そんな彼らの行動ひとつひとつが手慣れたようにスムーズに動けていた。



 先輩Aノ剣ニヨル攻撃。オーガニ26ノダメージ――――――


 先輩Fノ『スキル』。急所ニ当タッタ(クリティカルヒット)!!オーガニ――――――


 先輩Tノ――――――



 次々と攻撃を加える先輩達の行動ひとつひとつにゲームのログを入れながらじーっと赤松は観察する。


(はぁ~、MMOなんかを現実っぽくすると結構大変になりそうかもな~~――――――って、はっ!いかんいかん!)


 何を僕は楽観的に・・・・・・!と、我に返りながら赤松は頭をぶんぶん振って思考を現実に引き戻すと先生に向きなおり、


「でも先生!なんでこんなことを先輩達が・・・・・・!」


 自分が変なことを考えていたのをごまかすように大声で質問する赤松に、不審そうな眼で見た後、真面目な顔で答える。


「ばれないようにするため」

「ばれない・・・・・・?誰に?」


 都築の質問に顧問は一拍の間も開けずに即答する。


「世間に、だよ」


 理解不能な返答に都築は眉をひそめる。


「つまりこれを国中・・・・・・いや、世界中に知られたらどうなると思う?」

「え?そりゃあ・・・・・・・・・」


 想像しながら考えた都築の回答を待たず、続けた。


「大混乱になったり、パニックに陥るのが普通だろう。だからそれを防ぐためにこうして彼らが退治してもらっているんだよ」


 彼の発言は完全に大人の事情しか感じられなかった。その中に森村は何か引っかかったような感覚を覚えたが、口には出さなかった。


「でも、それだったら・・・・・・!」


 自衛隊とかに任せればいい!と赤松は反論しようとしたが、帰ってくる回答は分かりきっていた。こんなことに国内の武力が手を出した時点でばれてしまうことが明白になるからだ。

 赤松がそれに気づいたのを見計らった顧問は話を続ける。


「それにな、後々気づいたことなんだが、戦車や人工的な武器による攻撃よりあいつらが持っている武器の方が魔物に与えるダメージがものすごく多いことが発見されたようだしな」


 そこまで言うと、彼はまた煙草を口に運んで大きく吸った。

 確かに、現在オーガはテニス部の先輩たちの数による攻撃で弱ってきているのが分かる。このままいけば倒せるかもしれない。

 だけど、と胸の内にあるこのもやもやとした何かを解消できず、その様子を森村だけは見向きもせずにただうつむく。


 すると、急に爆音と多数の人の叫び声が上がった。


「な、なんだ!?」


 都築達は慌てて先輩達の方へ向きなおすと、そこには宙を舞う先輩達と、凶暴に暴れだすオーガの姿があった。


「おい、山下!!一体何があった!?」


 突然の急展開に顧問が大声で部長を呼ぶ。どうやら彼にとっても予想外の出来事だったらしい。


「・・・・・・わ、分かりません!戦っていたら凶暴になってに――――――ぐっ、おわっ!?」


 顧問に報告しようとした部長がオーガの棍棒による薙ぎ払いの一撃で軽々と吹き飛ばされた。


「あ、先輩!!」「山下!!」


 ドサ、と地面にたたきつけられたように落ちた部長に亜希と顧問が叫ぶが、足を持ってうずくまったまま動かない。


「まずい!もしかしたら骨折してるかも知れない・・・・・・!」

「なんだって!?」


 様子を見て判断した赤松の言葉にさらに慌てた都築達は、必死に部長へと声をかける。それに気づいた先輩達も助けに行こうとしたが、オーガの棍棒の攻撃による衝撃波に飛ばされてしまう。


 倒れた部長を必死に呼びかける彼らの中で、森村だけはただ俯いて黙っていた。


「・・・・・・あれ、玲次・・・・・・?」


 その様子に気づいた亜希が森村に触る瞬間、



「・・・・・・・・・・・・ッ!!」



 弾かれたように走り出した。


「あ、玲次っ!」


 慌てて声をかける亜希の声に気づいた残りの3人が、森村が走り出したのに気づいた。


「待て森村!どこに行くつもりだ!」


 顧問も叱りつけるように呼んだが、見向きもせずに走り続ける。

 森村は部室の外に立てかけてあった自分のラケットをとりながらそのまま一直線に部長のもとへと駆けていく。


「あいつ、まさか・・・・・・やめろ森村!その力はまだお前には発動できないっ!」


 森村の意図に気づいた顧問があわてて呼び止めようとするが、今の彼に聞こえる言葉はない。



 ――――――たしかに・・・・・・たしかに願った。そんな世界を。

 魔法を使い、剣を振るう世界に行ってみたいとは願った。でも・・・・・・


 少年は走った。最初は見ず知らずの赤の他人だったはずの人の所へ。

 ただ、助けたい。そんな欲望の塊のようなものを頭の中に詰め込んで、ただひたすらに走った。



 もしそれができる代わりに何かを犠牲にしなければならなかったら・・・・・・?



 またあの時のような声のない言葉が頭をよぎる。自分のよく知る人間の後ろ姿とともに。

 けど、答えは決まっている。


 だったら叶えない。犠牲などを生むのであれば、

 願わない。犠牲ばっかりの世界なんか。


 ゆっくりと踏みしめて歩む敵に向かって全速力で突っ込む。

 本人は気づいていなかったが、300メートル近くはあったはずの距離を彼は10秒足らずで縮めた。


 どうしても・・・・・・どうしても自分の意思に反してそれが起きるのであれば、おれは・・・・・・おれは・・・・・・



 少年は右手に持っていたラケットを反射的に左肩ごしの背中に回す(・・・・・・・・・・)


 そして左手に握りしめた球体にとげのついたような棍棒を振り下ろす敵に向かって一言、




 「そんな魔法()と剣の運命さだめを、おれは断ち切ってやるッ!!」

はい、出ました主人公の決め台詞

この空気だと森村君とオーガの一騎打ちみたいになりますが、

その後の詳細は次回で

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