6話
皆様、明けまして・・・・・
って、すでに20日も経っているのでそこは省いて、
今年も宜しく願います。
えー、えー、こちらも新年早々いろいろありましたよ、
親が事故るわ、テレビが地震で倒れるわ、誕生会タコ焼きパーティーだわとw
シュールどころか逆に疲れました(汗)
まぁそんなこんなですが今年1本目の小説、お楽しみください♪
運動神経、それなりに良い。
あだ名、特になし。たいてい名字を呼び捨て。
見た目、無愛想な童顔と言われやすい。
性格、見た目の割には結構人思い。
これが「彼」の知り合いの大半が言う、「彼」の特徴である。
そして当の本人である森村玲次は・・・・・・
「うぅ・・・・・・暑い・・・・・・」
現在、盛大に熱中症発生中であった。
「・・・・・・さ、さすがにこの状態でここまでやるのはハードだよね、絶対・・・・・・」
つい昨日、保健室にいた教員の挑発に分かってて飛び込んだことを今さら森村は後悔する。「多少当たっても砕けないかな~」なんて思っていたが、ものの見事に玉砕した。
恐らく、都築が当たれば、砕ける前にどんな手を使ってでも砕くだろう。間違いない、彼はそうする人間だ、と水で湿ったタオルを被りながら森村は推測する。
しかしいくら4月も下旬とはいえ、最高気温が25℃をマークするのは異常なうえ、部活動の推薦入学ですらない彼があまり運動をしていなかったということもあってこうなるのは仕方がないことだと彼は思う。
とはいっても、森村が挑発に乗ったのは「あの発言」によるものだった。
『そういえば、テニス部が「良いルーキーが入学してきたから関東は難いな」とかなんとか言ってたわね』
普通に聞いてみれば、テニス部で少しだけ良い成績をとった森村に期待したような言い方だが、森村が思うにその「良いルーキー」とは自分のことではなかったかもしれない。
「おい、森村」
自分を呼ぶ声の方を振り向くと、テニスウェアを着た少年が森村の隣でスポーツドリンクを彼に差し出していた。
「ああ、ありがとね」
ぶっきらぼうに差し出されたスポーツドリンクを森村は笑顔で受け取る。
そう、「彼」のことであった。
彼――――――名字は土屋らしいが、名前までは知らない――――――は中学の総体の時、県大会出場を決める試合で森村と戦って勝った人物で、結局土屋は県大会で2回戦目で敗退した。
「・・・・・・にしても、お前そんなにのど乾いてたのかよ」
「え?」
土屋の一言で自分のスポーツドリンクを見ると、すでに半分もなくなっていた。
そのことに自分でも驚いたような表情をして土屋の方を向くと、「タハハハ・・・・・・」と苦笑いを浮かべ、それにつられるように彼も笑う。
中学時代に敵同士だった人間と、今こうして笑い合っていられるのも新鮮だと思いつつ、ゆっくりと立ち上がってみる。
「あ、オイ!いきなり立ち上がって大丈夫なのか?」
「ん?えーと、うん。どうやら大丈夫みたい」
試しに森村は肩を回しながら動けることをアピールする。
「そうか・・・・・・なら、あんま無理すんなよ?」
「うん。わかってる」
未だに心配そうな表情をする土屋を落ちつけてコートに走っていく。
「―――おっ、森村が来たぞ」
人工芝のコートで練習してた部員の一人が、森村が走ってくるのを見つける。
「あいつ、ようやく治ったか」
「まぁ、しょうがねぇだろ。まともな運動できるときがあんまりなかったんだろうし」
「いや、それは、そうだが・・・・・・」
そんな話を部長と福部長がしている中で、森村は靴についた土を落としてコートに入っていく。
なぜか、上下に長袖のウインドブレーカを身につけて。
「いくら寒がりだからっつっても、あれで熱中症起こすなって言うほうが無理あると思うぞ?」
「う、うーん・・・・・・」
このごもっともな意見に、さすがの部長も言葉に詰まる。
なぜ森村がこんな服装なのかというと、理由は単純。本人曰く「始めた時に肌寒かったから」だそうだ。
今朝の天気予報では最高気温が20℃を越すと予想されていたが、曇り空が続いてたため気温がめっきり下がっていってたのだ。そこで仕方がないのでウインドブレーカーを羽織って練習していたのだが、その後急に天候が回復して雲ひとつない快晴で気温が上昇。そしてスタミナが不十分な森村がしょっぱなにダウンというわけであった。
「なぁ、森村・・・・・・」
流石にこの服装では2回目のダウンを食らう可能性が高いと判断した部長は、森村に脱いでおくように伝えた。すると
「はい。確かに次はダウンじゃすみそうにないですから」
本人も分かっていたようで、笑顔で返答してそのままどこかへ行ってしまった。
☆
やがて、森村は紺色を基調としたテニスウェアを着て戻ってきた。中学で引退してから着る機会が全くと言っていいほどなかったので、妙な違和感を持ちつつ戻ってきた。
「・・・・・・で、先輩。次は何をやるんですか?」
ラケットを片手に部長に質問すると、「ん、あれだ」と言って練習しているコートに指をさす。
サーブレシーブ
その名の通り一方が相手コートにサーブして、サーブされた側はする側に返球する、いわばプチ試合である。
森村はサーブ側に行くように指示され、かごに入ったボールを2個ほどとって1個をハーフパンツのポケットに入れる。
普通、テニスと言うと、マンガやテレビなどでよく見かける黄色い野球ボールのような形をしたボールを使う「硬式」が有名だが、それは私立中学、高校に多い。森村のいる風岬高校などの公立高校は白いゴムボールを使う「軟式」が主流である。
自分の番が回ってきた森村はレシーブ側の方を見ると、2年の先輩がニヤニヤと笑って待ち構えていた。大方、半年以上打たずに訛り切っている森村が相手なので余裕そうな笑み浮かべている、という見解が正しいのだろう。
森村は1回1回ゆっくりとボールを手でバウンドさせて感覚を確かめる。
(うーん・・・・・・いきなりサーブ打って肩壊したりはしない、よね?)
ボールをつくのをやめてゆっくりと息を吐いて相手コートのサービスエリアを見やる。あの中に入れないと失敗判定が試合では出され、2回フォルトすると相手の得点になるのだ。
しかし、試合でもないので得点も何もないので心配する必要性はないのだが、森村には「いつかの4連続のサーブミス」を思い出し、軽くトラウマ発生中なのだ。
そんな苦い記憶を振り払って、ゆっくりと頭上にめがけてトスを上げる。
余談ではあるのだが、テニスやサッカー、問わずあらゆるもののスポーツ選手に共通して中学、または高校で県大会以上に行ったことのある人間は何かしらの『武器』を持つ。
それはバスケであれば、ドリブルが得意な人や3点シュートが上手な人。バレーボールでは長身を生かした鉄壁のブロックを持つ人などさまざまである。
そして森村の場合は――――――
「そういえば、森村って後衛だったよな?お前と打ち合った」
副部長がレシーブ側の先輩と向き合っている状態の森村を見ながら土屋に話しかける。
「はい。まぁ・・・・・・」
「熱中症で倒れる時にはそこまで速い球打たなかったけど、森村に何でそんな苦戦したんだ?お前の実力からして大した相手にも見えねぇけど・・・・・・」
「え、ええっと、それは・・・・・・」
とたんに答えずらくなったように話す土屋を不思議に思って森村から目を離した瞬間――――――
パ―――タン
ボールとラケットが当たった軽快な音がしたと思うと、その直後にバウンド音がする。
ほぼ一寸の間も置かず
「え?」
現実ではありえないような現象を耳にした副部長は即座に森村の方を向く。
森村は既にサーブを打ち終わった体勢で打った方向を見ていて、レシーブ側にいた2年は唖然とした表情で構えていた。まるでラケットを引く動作をしようにも間に合わなかったような体制だった。
周りの人を見ると、レシーブの2年と同じ表情で森村に驚愕の視線を送る。
「・・・・・・お、おい。今森村は何をしたんだ!?」
慌てたような口調で土屋を揺さぶりながら問い質す副部長の方を向かず、ただほかの人と同じような表情で森村を指差す。
(あ、そうか。もう1回あるからそこで確認すればいいのか・・・・・・)
土屋の無言の説明でようやく我に帰り、今度はしっかりと森村の動きを観察する。
まずは手とラケットでボールを数回つく。そして軽く息をはいて相手を見据え、トスを上げ・・・・・・
パ――タン
また、身動きさせずにノータッチエースを取った。
次はしっかりと目にした副部長も他の人と同じような表情をして立ち尽くす。その反応は当然と言えば当然であった。
なぜならラケットにボールが触れてからバウンドする間の時間がカンマ1秒あるかないかの速さにしか見えないからだ。恐らく時速で換算すると、180キロ越えといったレベルであった。簡単に言うと、「プロ選手並みに超速い」といったところだ。
そう、これが森村の『武器』だ。
森村はいままでの試合で勝った大きな要因はサービス・エースによるものだったらしく、土屋が森村相手に手を焼いた原因はこれであった。
当然、これを中学生が普通に返せるわけがなかった。
「す・・・・・・すげぇ・・・・・・」「なんだよ、あれ」「ただの熱中症のガキじゃなかったのか・・・・・・」「おっかねぇ1年もいるもんだな」
現実離れした光景を目の当たりにした部員全員が驚嘆の声を上げる。
しかもこれがまぐれではなく、狙おうと思えば狙えるからまたすごい。そしてもっと恐ろしいことへとつなげることができる。
例えばそれを何度か見せて相手の頭に焼き付けてまた自分のサーブが回れば必然的に相手は後ろに下がる。するとそこで使える手と言えば・・・・・・
「あっ、この・・・・・・・・・!」
速いサーブを打つと見せかけて短いカットサーブで相手を走らせることも可能になる。
「――――――だからって先輩の俺にやるのはどうかと思うぞ!」
その戦略の餌食になったのは3年の先輩であった。
「あ・・・・・・すいませーん」
頭の後ろを掻いて謝る森村に「・・・・・・ったく」と、ぶつぶつ言いながら交代する。
そんなこんなで2時間近くが経過した。
みんなが打ち合っている中で、森村は何となく顧問の先生の方をちらりと見た。
あごひげを少し生やした30代前半くらいの強面だが、結構優しい先生であった。その先生はあさっての方向を険しい表情で見ていた。
何かあったのかと小首をかしげながら顧問を見ていたが、部長から集合がかかった。その声をかけた部長も顧問と同じ方向を見ながら険しい面持ちでいた。
顧問は全員が集まったことを確認すると、重たそうに口を開く。
「本当ならもう少しやりたいところだったが、このあとの天気が崩れるとの予報を聞いたので今日はここまでとする。1年生は学校に長い時間残ることのないように」
顧問の発言に1年はざわつきながら空を見上げる。が、雨が降るほどの雲は見当たらなかった。
――――――テニス部室――――――
そこでは1年だけが自分たちの荷物をまとめていた。
「・・・・・・それにしても、森村またサーブ速くなったんじゃないのか?」
土屋は軽く嫌味交じりで森村に話しかける。
「え?そうかな・・・・・・前より遅くなったと思ったんだけど」
「そんなことねぇよ!あれなら上級生相手でも怖くねぇって!」
いきなり話しかけられて戸惑って答える森村に、いかにも自分が負けたことを悔しがっていることをアピールするように声を上げて言う。
そんな自棄状態の土屋を苦笑いで見た後、真剣な表情でうつむく。
何を考えているのかは言うまでもなく、険しい表情で空を仰ぐ先輩と顧問であった。2人とも同じ方向を見ていたが、一体何があったのか森村には気になって仕方がなかった。
それに、空をみんなが見ていたので気づいていなかったが、ほかの2,3年全員の表情が強張っていた。つまり、自分たちにはわからない何かが起きる――――――
――――――と、帰りの支度を整えて校門を出ようとした時に森村は、ふと歩みを止めた。
「あ、ラケット部室だった・・・・・・」
しかし考え事の最中だったので面倒だとも思ったが、また部室に来るのはいつになるかはわからなかったので、仕方なく戻ることにした。
部室の入口のすぐそばに置いてあったので、上半身だけ部室内に入ってラケットを手に取った。
そして後ろを振り向いて空を見上げた瞬間、一瞬だけ呼吸が出来なくなった。
「なっ・・・・・・なんだよ、これ・・・・・・」
部室の前は開けた空間になっていて、目の前には大空の下に見えるグラウンドとテニスコートがある。
そこで森村は上空に異常な光景を目の当たりにした。
「く、雲が――――――黒い・・・・・・!?」
ちなみにここでの軟式テニスは基本ダブルスです。
自分も同じ部活だったのでやらせてみましたが、
まさかこんなになるとは・・・・・・玲次君、恐るべし(汗)
もうそろそろバトルが開始されると思うのでお楽しみに!