5話
結構飛ばした気がしますが、
今度、番外編みたいなのを作ろうかと思っています
「彼ら」は夢を見た。
それはとある場所。行ったこともなければ、写真やテレビで見たことも聞いたこともない場所。
その景色はまるで神殿のようだった。が、周りが真っ暗でどんな構造をしているのかはっきりとは分からなかった。
見えているのは自分の足元と、
絶望の一言でしか表わせない惨状、
ただそれだけであった。
目の前には人がいた。
倒れた数名の人とそれより少し奥で立っている人。
その倒れた人たちは、自分のよく知る人物であると、見ただけで分かった。
ピクリとも動かない倒れた人々は、血にまみれ、着ている服にまでも染み込んでいて、とても生きているようには見えなかった。
その奥で立っている男は、赤くところどころがボロボロになった服を着て、黒いズボンも裾が切れかかっている部分が目立っていた。
その男は口を横に伸ばして不敵に笑うが、前髪に隠れて表情の詳細がほとんど読めない。
しかし、僅かに動かした彼の口は何を言っているのか確かによく分かった。
『さあ、どうする・・・・・・?』
4/21 Am7:30
目覚まし時計から無機質な電子音が鳴るとともに、ベッドにもぐりこんでいた少年が目を覚ます。
「・・・・・・ん、ふぁ~~~・・・・・・」
大きな伸びとあくびを出して、床に足をついたときにさっきの夢を思い出した。
ぼろ雑巾のような姿で倒れ、血を流している人々の奥にいた謎の男。
その男がだれであるかも知らないし、ましてや会ったこともない。だが・・・・・・
倒れていたのは確かにみんなだ。
じゃあ、その奥にいたのは・・・・・・?
そんなことを考えていると、下の階の方から声がした。
「和仁ー、時間よー。早く下にいらっしゃーい!」
その声は聞きなれた母の声だった。
「あぁ、今行く~・・・・・・」
真剣に考えていた顔から一転、面倒くさそうな表情と声で力なく答えると、少年――――――都築和仁が立ち上がって、クローゼットに向かう。
制服に着替えてそそくさと階段を降りてリビングに向かうと、母がキッチンで弁当を作っていた。
「あら、珍しく早いわね。いつもなら5,6回言ってようやく起きるのに」
少し驚いた声で顔だけを都築に向けながら彼の母が言う。
「・・・・・・悪かったな、早くて。それとも5,6回呼ばれるまで寝てた方がましだった?」
それに対して面倒くさそうに答えた都築の反応に困った笑みを向けながら、
「・・・・・・いいえ。なんせこの前は遅刻寸前に起きたから、随分と変わったなぁと思って」
ぐ・・・・・・と言葉に詰まった都築を見て、彼の母は顔をまた料理の方に目を向ける。
「それよりも早くご飯食べちゃいなさい。森村君、また遅刻寸前まで待たせちゃうわよ」
「おっと、それはまずい・・・・・・!」
自分の母からの一言で慌てて朝食を済ませると、家の呼び出し用のベルが鳴る。大方、森村が来たのだろう。
弁当をかばんに詰め込んで、家のドアを開けて振り向きざまに「行ってきます」と、言い残して飛び出す。
「よぉ、待たせたな」
いつもどおりのテンションで目の前で立っている少年――――――森村に片手をあげて挨拶すると、
「待たされたよ、もぉ。いつもこんなに遅いの?」
その挨拶に対して、なぜか隣に立っていた少女――――――邑雨が両手を組んだ仁王立ちで応える。
「いや、シドにしては早いと思うけど?」
「そうか?ちょっと今日は寝覚めが良くってな」
「ふ~ん、寝覚めよくっても遅くない?」
都築が遅いことを突っつきまわす亜希に見向きもせずに、都築は森村の方を見て、
「そういえば、玲次も早えーじゃねぇか?」
「うん、今日はちょっとね。シドは何か悪い夢でも見たの?」
「・・・・・・あれ?ちょっと?あたしは除外?」
「え、なんでわかったんだ?」
「んー、何となく?」
自分の事情を読まれたことに少々驚き気味だった都築だが、本当に勘だけで言ったらしい森村の返答によって、大して気に留めず「んじゃ行こうぜ」と言って学校に向かった。
「おーい、話進めるのは良しとして、あたしは論外なの~!?」
――――――シバラクシテ――――――
「・・・・・・ねぇ、あたし今日変な夢見たんだけどさ・・・・・・」
通学路にある桜並木のトンネルで、雑談を交わしていた中で突然亜希がそんなことを言い出した。
「・・・・・・夢?」
「うん・・・・・・」
変な夢というのは都築自身にも思い当たる節があったので、立ち止まる。
ここまで1度も自分を話に入れてくれなかった中で、ようやく自分から話題を作ることに成功したので心の中で「よっしゃ!」とガッツポーズを入れた亜希だが、事実上の「真面目な話」なので真剣味の入った表情で語りだす。
「・・・・・・なんか、見たことのない空間――――――っていうか神殿かな?――――――が、あってさ」
「え・・・・・・?」
亜希の話に思わず声を漏らした都築だが、亜希は気にせずに続ける。
「で、周りは真っ暗でほとんど見えなかったんだけど、見えていたのはみんな・・・・・・詳細に言うと、シドに玲次にモリハナに赤松君が血を流して倒れてて、みんなまるで・・・・・・死んでいるみたいだった」
話が進むごとに眉をひそめる都築に対して、森村は顔色一つ変えずに話を聞いていた。
「・・・・・・それで、その奥にいた人は――――――」
「――――――赤いぼろの服を着ていた人、か?」
「・・・・・・え?」
声を遮って話したのは、我慢しきれずに言おうとしていた都築ではなく、なんと無言で聞いていた森村だった。
驚いた表情をする亜希や都築を無視し、彼はさらに続ける。
「んで、『そいつは口を横に伸ばしながら笑って「さあ、どうする?」って自分に向かって言った』。・・・・・・違うか?」
自分が言おうとしていたことを一字一句間違うことなく話し切った森村に、亜希はわずかに森村から逃げたくなる錯覚を覚える。
「な、なんで・・・・・・?」
亜希は恐る恐る自分達の方を向かずにいる森村に訊いてみると、表情を変えることなく明かす。
「おれも同じ夢を見てた」と、亜希達の方をようやく振り向くと「それも、お前と同じく今日に、な」
「え!?」
思わず驚きの声を上げた亜希に態度を変えることなく森村は都築の方を見る。
「もしかしてお前もなのか、シド?俺たちと同じく」
「なっ・・・・・・!」
的確に自分の心の内を読まれたことで動揺した都築だが、ゆっくりと頷く。
「・・・・・・で、でも・・・・・・なんで、玲次が・・・・・・?」
未だに信じられないような表情を表す亜希だが、そこにはなぜか神妙さが残っていた。
一旦顔を伏せた森村だが、ゆっくりと顔をあげて横に振る。
「・・・・・・分らない。でも、たぶんだけど、あの2人も見てるかも知れない」
あの2人とは――――――言うまでもなく赤松と花森であった。
森村はここまで無表情のままだったが、都築と亜希から見ると真剣そのものにも思えた。
「じゃあ、2人にも・・・・・・!」
その場で止まっているのが怖くなったのか、いてもたってもいられないような口調で亜希が2人の方を向いて言う。
「ああ、そうだな」
都築も賛同し森村も無言で頷くと、一路、学校へ走って行った。
この先にある運命は何であるかも知らず・・・・・・・・・
――――――1-2の教室――――――
「赤松!!」「赤松君!!」
教室に駆け込むなり怒声で自分の名を呼ばれた赤松は、ビクッと驚きながらも声の方を振り向く。
「な、なんだよ3人とも。いきなり大声で呼んで!」
「いや、おれは呼んでないけど・・・・・・?」
「・・・それよりも!」と、亜希が軌道修正しながら赤松の方を向き直りながら続ける。
「赤松君、今日夢見なかった?」
「夢・・・・・・?」
亜希と都築が大きくうなずくと、赤松は顎に手を置いて思い出してみた。
「・・・・・・ああ。ほんのちょっとだけだけど、見てたな」
「それって、俺達とかが倒れた夢じゃなかったか?」
「え!?なんで、それを・・・・・・?」
亜希と都築は赤松の反応を見て、お互いに顔を見合せて頷く。
「それ、あたしたちも同じく見てたんだ」
「ウソッ!」と、思わず叫びそうになった赤松は、周りに聞こえないようなボリュームに下げて「・・・・・・ほ、ほんとか?」と、緊迫した表情で訊く。
「ウソで他人の夢の内容|当てることできるわけないでしょう?」
「そ、それは、そうだけが・・・・・・」
それでも何か言いたそうな表情をする赤松の気持もわからなくもない。
そもそも夢というのは睡眠中に起こる視覚の幻覚で、人の記憶によってによって変化するものであって、当然、他人と全く同じ夢を意図的にでもなく見ることは不可能に近い。
それを全く同じ日に、同じ風景の、同じ状況の夢を見ることは『異例』を通り越して『論外』なのだ。
それをなぜ、この5人(花森はまだ推測の範囲)が見ることになったのか・・・・・・
「・・・・・・なぁ、ひとついいか?」
唸りながら考えているみんなの中で声を発したのは、森村だった。
「ん、何か心当たりでもあるのか?」
「いや、この状況でこういうことを言うのもあれなんだけど・・・・・・」
あまり表情を表に出さないようにと気を配ったような表情の森村は、なぜか言いずらそうにして視線を落とす。
「なんだよ、言っていいぞ」と、森村を励ますような都築の言葉に、森村は「・・・・・・うん、ありがと」と言って顔をあげる。
「悪い言い方をするんだけど・・・・・・この話、しばらく止めにしとかない?」
「え・・・・・・?」
いきなりの森村の提案に亜希は疑問の声を洩らす。
言いたいことを思いきって言えたからなのか、森村はすらすらと続ける。
「うん。そもそもおれたちは専門家じゃないし、そんなことを考えても答えなんか出ないと思う。確かに普通じゃない上に『いやな予感』もするけど・・・・・・」
「『いやな予感』?」
赤松が繰り返すように言うと、森村は頷いて続ける。
「だから、今は知らぬが仏って感じでそっとしておいた方がいい気がするんだ。確かに言い出した自分がこんなセリフ言える立場じゃないんだけどさ・・・・・・」
そこまで言うと、森村は顔を伏せる。このあとに自分がみんなから何を言われるのかを覚悟しながら。
「・・・・・・」
都築は、自分の意見を言い終わった森村をじっと見据える。その視線を感じたのか、森村も都築の方をまっすぐと見る。
「ずいぶんなこと言えるようになったな、玲次・・・・・・」
自分の心臓を圧迫するような低い声で放つ都築の言葉に軽くひるみつつも、森村は視線を少し落としつつ、
「うん・・・・・・ごめん・・・・・・」
と、言いながらそのまま頭を下げ――――――
「なぁに申し訳ないようなシケたツラしてんだよ!玲次!」
――――――ようとした森村の腹に都築の攻撃が炸裂する。
「がはぁっ!?」
都築ハ、特製『じゃれ合ってるつもりだけど受けた側はシャレになんないぜ☆エルボー』ヲ使用。
急所に当たった!!森村ニ3000ノダメージ。
森村ハ力尽キタ・・・・・・
「なーんだよ玲次、知らねえうちにちゃっかり成長してんじゃねぇかよオイ!」
自分の攻撃が森村の鳩尾にきれいに刺さって気絶していることも気づかずに、森村の肩に手を回してぐらぐらと都築が揺らす。
「確かに、きっちり自分で言えるじゃんよ玲次!」
亜希も森村に向かって冷やかすように声をかける。
「・・・・・・なぁ、森村、気絶してんじゃないのか?」
そんな赤松の声に、今の現状の亜希や都築、ましてや気絶した森村が気づくはずもない。
「まぁ、いっか」
腰に手を当てて、仕方がないような笑みを浮かべた赤松だが、
『いやいやいやいや、決して良くないだろ!?』
と、ツッコむ盗聴者(偶然にも聞こえてしまった組)であった。
――――――ソノゴ――――――
「はっ・・・・・・!」
どのくらいの時間が経ったのだろうか。森村は飛び起きながら目を覚ます。
「あら、ようやく目が覚めたのね」
声のする方を見ると、白衣をまとった若い先生が森村の隣で何かをしていた。
あたりを見回すと、カーテンに囲まれた部屋で薬品の混ざった独特のにおいが辺りを包む。大方、ここは保健室なのだろうと森村は思った。
「具合は大丈夫?痛いところとかは?」
「・・・・・・?」
心配した表情で質問する先生に首をかしげながら疑問符を浮かべる森村の様子を見て、
「もしかして、何も覚えていないの・・・・・・?」
森村は何かが欠けた様な錯覚に陥りながら、何があったのかと思いだしながら頭に手を乗せようとしたところ――――――
「うっ!ぐ・・・・・・」
突如、腹に激痛が走ると同時にそれまでの出来事を思い出した。
自分が思い切って話を切り上げたところ、今までとは変わった森村の成長に喜んでじゃれ合うつもりで放ったエルボーがきれいに突き刺さり・・・・・・
(あれか・・・・・・・・・・・・)
思い出した森村は、いろいろな意味を含めてがっくりとうなだれる。
「うーん、都築君も悪気はなかったんだけど・・・・・・もうちょっと加減って言うのを知らないとね」
ようやく森村が思い出したのを先生も察したらしく、独り言をつぶやくように話す。
「いえ、大丈夫です。こんな展開になるとは思いもよらなくって・・・・・・」
都築をかばうように弁解する森村に「そう?私の方からもごめんね」と言って申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「で、あの・・・・・・今、何時間目ですか?」
聞きづらそうな表情で質問をする森村に、先生は腕時計を見た。
「今、10時16分。そろそろ2時間目が終わりそうね」
その報告を聞いて森村は胸をなでおろす。だいぶ時間が経ったのかと思って気になっていたからである。
(にしてもHR終了後から2時間近くも寝かせられるって・・・・・・自分が寝坊助なのか、あるいは・・・・・・・・・)
もしあれが手加減なら本気を出した都築はどうなるのだろうと想像した森村は、ぞっと背筋を凍らせる。
「そういえば、明日は22日だったっけ?」
「え?あ、ああ、はい。
いきなり話から逸れた質問を投げかける先生に森村は慌てて答える。どうやら結構気まぐれな先生なのかもしれないと思った森村に気づくはずもなく先生は話を続ける。
「じゃあ部活の体験入部も明日が最終日か・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
森村は無言の返答をしながら思い出す。
――――――体験入部
たいていの中学・高校はここで新入生を部活へ勧誘する。
とある集会の中で自分たちの部活を紹介して興味を引いてもらい、入部してもらう。しかし、それは中学の中でのことで、高校になると大体の人間は中学と同じ部活に入る。
森村は中学の時テニス部に所属して、県大会をかけた試合まで持ち込んだほどの実力があった。
「森村君はもう入る部活は決めたの?」
そんなことを考えているうちに、先生からの一言で我に返る。
「え?ああ、まあ・・・・・・・・・」
「へぇ、何部に?」
詰め寄るような質問にたじろぎながらも森村は続けるかどうかを考える。
続けてもいいのだが、今の自分の実力でどこまでいけるのかという不安と続けたいという誘惑のような感情に板挟みになる中、思い出したように先生が、
「そういえば、テニス部が『良いルーキーが入学してきたから関東は難いな』とかなんとか言ってたわね」
森村をちらちらと、そしてにやにや笑いながら他人事のようにつぶやく。森村がテニス部をやっていたための挑発のようなものだろう。
そんな挑発には普段は目もくれない森村だが、ここまで言われるとやってみたくなるのが男というものなのだろう。
――――――おお、おもしろそ・・・・・・
得意げな眼で先生の方を向く。
「テニス部に入ります」
いままで予約投稿しましたが、
こんなにハイスピードで書けたのは我ながら驚きでした(汗)
恐らくこの話で今年の投稿は終了です。
来年はばっちりネタも作って書かせていただくので
宜しくお願いします。
では、よい年末年始を!(*^ー^)ノシ