2話
ファンタジー要素入れるために1話を少々修正しました。
基本的には週1のペースで投稿させていただきますので、よろしくお願いします。
昨日とは真逆の状態で学校に入った森村は、中庭を抜けて図書室へ向かう。校門が開いた直後に行かないと遭遇できない、と亜希に言われたからだ。
この学校の図書室は校舎とは別に配備されていて、体育館より少し小さいくらいのサイズであった。とはいっても、校舎とは別にあるほどどデカイのは間違いなく、どれほどの本がこの場所にあるのかと想像したくなるくらいに圧巻なのはいうまでもない。
外から入れるように扉があるらしく、森村は自分の身長をゆうに超すくらいの両開きの分厚い扉を開く。すると、新しい紙独特のにおいが迎え入れるようにして森村に噴きかかる。
広大な部屋の中は下の階と上の階に分かれており、この両方を壁に沿った螺旋階段がつなぎ、その壁側にも本が並べてあった。
下の階はパソコンが数台置いてあり、どうやら本を調べる際などに使われるようになっていた。
上の階は壁に本の1シーンであろう絵が何枚か飾られており、図書室と言うより、美術館にさえ見えてくる。
当然、森村がいた中学もこのような設備がそろっているわけでもなく、彼もあちらこちらを見渡して歩いていた。
すると正面からドンッと何かにぶつかるとともに、きゃっと小さな悲鳴のようなものが聞こえた。
慌てて前を向くと、そこには見慣れない1人の女子生徒がいた。
「あ、す、すいません。ボーっとしてしまってて・・・・・・」
「ああ、こちらこそよそ見しちゃって、すいません」
おずおずと頭を下げる女子生徒にあわてて森村も謝り、そのまま通り過ぎる――――――
――――――って、ちょっとストーーップ!!
まるで妨害電波が入り込んで処理落ちしかけたように、森村の思考と行動が一瞬フリーズして処理が再開される。
お、お、落ち着こう、1回だけ落ち着こう。今は確かに朝だからと言っても校門が開いて5分も経過してないぞ、してないよね。確か学校の敷地に入ったとき先生は自分の方しか確認してなかった――――――いや思い込みじゃない、あのセリフあの視線は間違いない。じゃあ、図書室に入った順番ってのは自分がいちばん最初のはず・・・・・・だよね。入った後ちゃんと扉閉めたから次の人が入る場合にはドアが開く音がするはず・・・・・・いや、いくら自分が中を見渡すのに夢中になっていたとはいえ、こんな静かな部屋の中だったら物音ひとつはするはず・・・・・・・・・
じゃあ今ここにいる人は・・・・・・・・・?
「「ぎゃーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」」
小鳥のさえずりだけが響く広い室内の中、2人の男女が振り向きざまに悲鳴を響かせた(※図書室では静かにしましょう)。
☆
「えっとー・・・・・・花森、礼さん・・・・・・でいいんですか?」
たくさんの人が座れるようにするためなのか、やたら横に長いテーブルで向かい合って座る森村は、これでもかというくらい赤い顔をした女子生徒がわずかに頷くのを見た。
その女子生徒――――――花森礼という名前らしい――――――は、背中まで伸ばした長い髪と、何の意味があるのか、伸ばした髪の中間辺りにヘアピンがつけてあった。
身長は亜希ほど小さくはないが、ある程度高い身長を持つ都築の肩ぐらいであった。学年は森村達と同じ1年だがクラスは森村達とは違い、4組であった。どうりで見慣れない顔のはずだ、と森村は1人で納得したように頷いた。
ちなみに亜希は1組、森村・都築・赤松の3人は2組である
あまり人とは話し慣れていないせい(または、人前で大声を出したせい)か、森村の質問に顔を真っ赤にしながら小さく頷く。
森村は花森の回答と今回の現象を照らし合わせて、こう推理した。
この現象を体験した人々が聞いた物音やページをめくる音などは、すべて花森が行っていた行動で、別に驚かすためではなく、シャイな性格ゆえに人目を避けようとしてしまって姿が見えなかっただけだったらしい。
ここ最近起きた出来事というのは、正確に言うと校舎案内が終わった時かららしく、その時からここに朝早く来るようになったようだ。
しかしなぜ今回、森村がこんなにもあっさりと花森を見つけたのかというと、さっきも言ったとおりで彼女は自分から人目を避けようとしていたのだが(というかこの時間帯に人目を気にするというのも奇妙な話だが)、今日は本当に考え事をしていたようで森村と真正面から出くわすことになったという。
一通り頭の中で整理を終えて小さくため息をついた森村は、ひとつ気になったことがあったらしく、恐る恐る質問してみる。
「じゃあ、花森さんも校門前でずっと待っていたんですか?」
すると花森は少し和らいだ赤い顔を小刻みに横に振って口を開く。
「先生から・・・・・・そこ以外でも入れる入口を、おしえてもらった、ので・・・・・・そこから通って、ます・・・・・・」
少しでも物音を出せば響き渡りそうな広い図書室の中で、消え入りそうな声で話す。
っていうか、ほかにも入口あったんだ・・・・・・・・・
いままでの待機時間は一体何だったんだろう?と、がっくりと肩を落としながら息を吐く森村の姿を見て、花森はビックリしたように体をビクッと震わせる。
その様子に気づいた森村は「あーごめん、怖がらせるつもりはなかったんですけど」と慌てて謝る。その発言に対しても、さっきより小さく体を震わせて顔をブンブンと振る。
森村は困ったような顔をして頭に手を乗せる。
森村と話す際、花森はずっとこの状態なのだ。彼の一挙手一投足すべてに対して敏感に反応して怖がっているしぐさをする。
このままでは話が続かない、と思った森村が顎に手をあてて解決策を練ろうとすると、初めて花森から口を開く。
「あ、あの・・・・・・もしかして、それを・・・・・・し、調べるために、やってたんです、か・・・・・・?」
「え?あ、ああ、うん。友人から調査命令だされちゃってて」
森村と同い年と思われる友人から「調査命令」を下された森村がだいぶ奇妙だと思ったのか、花森は「は、はぁ・・・・・・」と小さく返事をして椅子から立ち上がり「ちょ、ちょっと失礼します」と言いながら受付の方へと向かう。
花森が本棚の陰で見えなくなったあと、ふぅ~、と大きなため息をついてまたどう話を進めるか考える。
しかし、なぜ森村はそこまでして花森と話をしたがったのか。現象の真相については既に明かされたはずなのに、なぜそれほど彼女と話を続けたかったのか?
それは単なる暇つぶしや遊び半分ではなく、真面目な話で彼女の表情にうっすらと影が差しているように見えたからだ。
彼女も忘れ去っていた、なぜか彼にしか見えない影が・・・・・・・・・
知ってた、何かをしなくちゃって。自分から動かなくちゃ始まらないって。
通称「図書室の怪奇現象」と言われたものの正体であった女子生徒・花森礼は、自分の仕事場ともいえる受付でカップに注がれたコーヒーをボーっと眺めながらふと、そんなことを考える。
物心ついた時から人を怖がるようになった彼女は、小学2年生の時に本と出合った。
本は自分を素直に受け入れてくれた。いかなることがあっても、自分が望めば出て来てくれた。そんな本達は、場所が広ければ広いほど多くなる。そう、この場所も例外ではない。
だからこそ気づいたのだ。「自分の話を聞いてくれても、あっちからの回答は一定」ということを。
確かに本が多ければ多いほど話す数は増えていく。けど、後になったら限界は来る、まるでゲームのNPCのように一定の話題が起こらない限り、話すことは全く同じであり、本を読み切ればそこで話題のタネは尽きる。意味がないのだ。
だから変わりたかった、高校生のうちに。入学式から1週間以上経った今、もしかしたら手遅れかもしれない。
けど、やるだけやらなくちゃ。絶対に。
注ぎ終えたカップと皿を持って何事もなかったのかの様に、客であり決断をするための『きっかけ』の人物の許に向かう。
その少年は考え事をしたポーズのまま静止していた。この様子だと自分が来たことにすら気づいていないように思える。
ゆっくりと、静かに深呼吸をして皿に乗せたカップを森村の前に置く。
えっ、と小さく声を上げた森村が花森の顔を見ると、さっきまでの決心に満ちた表情はどこへやらといったように顔を真っ赤にする。
「あ・・・・・・えっと・・・・・・・・・朝からわざわざ来ていただいたんで、これ・・・・・・」
ボソボソと話す花森の言葉に森村は少し面喰ったが、確かに眠気が邪魔して思考が鈍くなっていたのもまた事実だったので「じ、じゃあ、遠慮なく」といって口に流し込む。
苦いとしか言い表せなかったが、確かにコーヒーは目が覚めるなぁ、と1人納得した。と思ったら、口の中めがけて一直線だった苦味がいきなりピタリと止まる。あれ?と思ってカップを覗くと中身は空だった。
「も、もう全部飲んだんですか!?」と初めて(叫び声を除く)大きな声を出した花森の方を向くと、彼女ははっとしたように慌てて顔を伏せる。どうやら自分でも知らずに一気飲みしてしまったようだ。
「えっと・・・・・・ありがとうございますね。おかげで目が覚めました」
皿の上にカップを戻して「ごちそうさまでした」と手を合わせる森村を見て、花森は我を忘れてボーっと立っていた。そして、いきなり顔をあげて何かをひらめいたようなポーズをするのを見て、我に戻った。
「花森さんって、何か『これが一番好き!』っていう本、ありますか?」
いきなり質問を飛ばされ、「へ?」と間の抜けた声を出した花森は、慌てて森村と目を合わせるのを避けるようにして考える。
「・・・・・・わ、私は、元々、本がす・・・・・・好きなので、特に、これといったものは・・・・・・・・・」
花森は答え終わった後、森村と目線を合わせようとしてちらちらと視線をずらす。まるで「そういう、あなたはどうなんですか?」と聞き返そうとするかのように。
「僕はえっと・・・・・・アレ?なんだったっけな・・・・・・えーっと・・・・・・『鈴蘭のそら』・・・だったっけ?」
「鈴蘭の、そら・・・・・・?」
うん、と森村は小さな子供のように頷く。
また始まってしまった静寂をなるべく早いうちに、と花森は自分からまた口を開く。
「で、あの・・・・・・その・・・・・・どう、して、そ、その本が・・・・・・」
気になったのですか、と聞こうとしたが雰囲気に耐えられずに最後には濁してしまった。
「え?えーっと・・・・・・なんていうかなぁ・・・・・・・・・とある友達と関係が深い本、だからかな・・・・・・?」
「とある・・・・・・友達、ですか・・・・・・?」
「うん・・・・・・まぁその話はまた機会があればするよ。その本の主人公が木に腰かけるシーンがあるんだけど――――――」
その後、この二人が話していたのは、この本の話だけであった。
時々、気まずい雰囲気で途切れることもあったが、花森にとってはもう未練がないと思えるほどに充実している気分でいっぱいだった。
どのくらい話し込んでいたのか、登校時間まであと10分のチャイムが鳴り響く。
「あ、まずい!もうこんな時間だ」
時計を見てあわてた森村がかばんを背負って「じゃあ、話はまた今度!」と言って出口に向かったが、袖をつかまれた感覚がして立ち止まる。
振り向くと、花森が顔を赤くして森村のブレザーの袖を片手で力いっぱい握っていた。
「は、花森さん・・・・・・?」
森村は、相手から何かを感じ取ったような表情をして足を止めて花森の方を向く。
「あ、あの・・・・・・森村、さん・・・・・・・・・」
ぎこちない声で、しかも今までよりもっと赤い顔をして花森は森村の袖を力強くつかみ、顔を伏せていた。
言わなくちゃ。けど、なんて言えば・・・・・・・・・
頭の中で葛藤を続ける花森の姿を見て、袖をつかまれているのを嫌がる様子を全く見せずに「ど、どうかしましたか?」と心配そうに聞く。
すると森村の声を聞いて何かを決心したように小さくうなずいて、ゆっくりと口を開く。
「あ、えっと・・・・・・ま、まだ出会って・・・・・・本当にに短い間でしたけど・・・・・・あの・・・・・・よ、良ければですけど・・・・・・あの、えっと・・・・・・えっと・・・・・・」
もう一息で言えるというところまできて、長く間をとってしまい「あぅ・・・・・・・・・」という小動物のように小さく唸ってまたうつむいてしまう。
また何度か挑戦しようと試みるが、どうしてもその一言が出てこなかった。
すると、「プフッ」と小さく笑う声が聞こえたので何かと思って前を向くと、森村が何かに我慢しきれなかったようにクスクスと笑っていたのだ。
え?と思いながらその様子に首をかしげると、それに気づいた森村が「ああ、こっちの話。気にしないで」とうまくごまかそうとしたが、そう、ですか・・・・・・と、なぜか花森は残念そうな顔で掴んでいた手をゆっくりと放した。
やっぱり、自分にはできなかった。たったの一言、口にするだけで終わるはずなのに・・・・・・・・・
そう思って花森は後ろを向いてそのまま行こうとした。すると――――――
「――――――なりませんか?」
「え・・・・・・・・・?」
森村の声がしたので振り返ると、何を自分に訊いたのか、にこにこと笑って回答を待つかのようにして小首を傾げる。
「え、あの・・・・・・今、なんて・・・・・・?」
「『友達になりませんか?』って、聞いたんです」
聞き返す花森に対して、依然として優しい笑みを浮かべた森村が考える間もなく即答する。
「あー、えっと、すごく馴れ馴れしくてごめんなさいね。もしよければどうかなーって思ってて・・・・・・もしかして嫌だったり・・・・・・?」
さっきの回答とは一変して、気まずそうな表情で訊く森村に対して花森はブンブンと大きく首を振る。
その様子を見た森村は「そうですか、よかった・・・・・・」と言って、胸をなでおろした。
ただ鈍くてわからないまま訊いたのか、それともわかっていた中でいたずら気味に聞いてみたのか。今の花森にとってはまだ分らなかったが、目の前にいる少年が、この瞬間から友達になってくれることを認めてくれたということは、今の自分にもよく分かった。
その安心感によるものなのか、扉に向かった森村に対して「あ、あの!」と言って呼び止め、
「そ、それじゃあ・・・・・・これから『森村君』て、呼んでもよろしいですか?」
その質問が予想外だったのか、森村は少し驚いた表情を見せると、すぐさまいつもどおりの笑顔を見せ
「いいですよ。じゃあ、僕は『花森』と呼ばせてもらっても?」と聞き返す森村の質問に花森もこの日、初めての笑顔を初めての友達に見せる。
森村さん・・・・・・いや、森村君が初めての友達で良かったかもしれない。
そんなことを考えている花森にも気付かずに、自分の時計を見て、「わぉ!もうこんな時間だ」と言ってせわしげに花森に手を振りながら図書室を後にした。
そんなあわただしい森村に苦笑いしながら手を振って見送った花森は、その振った手を下げずに1人静かに口を開く。
「よろしくお願いします。森村君・・・・・・・・・」
【花森礼】ガ、仲間ニナッタ♪
恐らくこれで、この章の主要メンバー全員の登場が完了です。
ここからが彼らの本当の出会い(始まり)になると思うので乞うご期待♪