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第8話 人助けはプロの方にお願いしよう

 シーンとした空気が準備室内を覆っていた。何を話していいのかわからない。たまたま図書委員の代役でやってきたのに、まさか森本ユキが図書委員だなんて予想外だ。我ながら恐るべき強運だと感心せざる終えない……。

「あのぉ……」

 この空気を破るかのように森本ユキがしゃべりかけてきた。

「とりあえず、この返却された本を棚に並べてきて貰えますか……? 」

 そういうと、返却本が入ったカートを俺の前まで押してきた。図書室なんて利用するヤツはすくないだろうとか思っていたのだが、予想以上に返却されている本が多かった。

「わかりました」

 俺は、言われたとおり返却された本を本棚に入れていった。こうやってみると、意外と高校の図書室にもいろいろな本があるんだと思った。図鑑とか偉人の伝記とかはわかるにしても、つい最近出て本を読まない俺でもしっている文芸書なんかもある。漫画もあった。図書室は意外と楽しい所なのかもしれないと思った。

 俺は、言われたことを終えてまた準備室へと戻った。準備室では、やはり何かをしているようだった。今度はなにかのレポートを読んでいるようだった。

「あの……終わりましたけど」

 ビクッと反応した。よほど集中していたらしい。

「あ、はい! えっとじゃ……今日はもうなにも仕事はないのでこれで今日は終わりです。帰ってもかまいませんよ」

 ほッ。もう終わりか。これで帰れる。

「そうですか。それじゃあおつかれさまでした」

 俺は、そういって一礼をし準備室を出て行こうとした。ドアノブに手をかけた瞬間に、後ろにいた赤いメガネの女の人に声をかけられた。

「あの! ……先日は、変なことを頼んでしまって本当に申し訳なかったです」

 俺は、ドアノブから手を離して後ろを振り向いた。

「あ、いや……まぁ、そんな気にしないでください。どうせ、俺なんて役に立たないですから。頼むならもっと体の大きい野球部とかどうですかね。あの辺なら何発パンチを喰らっても倒れないですよきっと」

 そういって、俺はその場の空気を和ませてみた。が、和むはずも無く。彼女はうつむいて黙ってしまった。でも、俺はそれをどうすることもできないとその場でわかっていたので、それじゃ、と、一言いって準備室を出て行った。



 やっぱり俺にはできそうにない。どう考えても現実離れした世界だ。巨大なネズミが火の玉吐いて襲ってくるなんて、俺には考えられない。倒そうとする意味もよくわからない。この高校が、悪の手先に落ちるみたいなことだって信じられない。なにか裏がわるのではないのか。俺はそう思った。とりあえず、今日は帰ろう。意外と早く終わったけど周りは暗くなってきてる。暗いから早く帰るとか小学生ですかおれは。


 自転車……自転車……あれないぞ。自転車が無い。俺は、駐輪場で自分の自転車を探したが見つからなかった。

「あ。そういや、今日は親父に学校まで送ってもらったんだった……」

 肝心なことを思い出し、仕方なく歩いて帰ることにした。歩いて帰るには遠い距離。少々心が折れそうになったのだった。


 帰り道、歩いていると小さな公園の前を通った。その公園ではなんとなく淡い思い出が蘇る。小さい頃よくここでサッカーとかして遊んだのだ。今となっては、高校を行き帰りするだけの帰宅部。なんとも切ない気分になった。

「ん……誰か、いる……」

 俺は、すっかり暗くなってしまった公園の中に人影を見つけた。二人居た。

「あ!」

 俺は、すぐさま異変に気づいた。どうやら襲われている。変質者かもしれない。ただ、ここで助けに行ったとして俺は襲われている人を助けられるのだろうかと迷った。迷ったが、体が先に現場の方へと走っていた。

「な、何をしているんですか! 」

 こういうときは何を言うのが正解なんだろうか。変質者相手に敬語を使ってしまった。

「ああん?」

 いかにも悪そうな声で返事が返してこちらに振り返ってきた。人相もなかなか悪そうだった。30代くらいか……。

「た、助けてください……」

 どうやら、うちの高校の女子生徒らしい。制服を見てそう思った。

「大丈夫です。今助けますから! 」


 俺は、この状況をどうやって打開すればいいのか考えてみた。身の回りに武器になりそうなものは……と探したが、残念ながらなかった。公園とはいえ、ただ単に広いだけで木が生い茂っている場所ではない。単なる砂利のしかれたグランドであった。

「おい!俺になんかようか……」

 男がこっちに来た。

「あ、いや……そ、その子をですね……た、た、助けようかなと」

 またしても敬語になっている俺。

「ああん!?なんだって?んじゃ、やってみろよ!」

 男は走って俺の方にやってきた。俺は、身構えたが既に男は俺を殴るモーションへとはいっていた。殴られそうになった瞬間、俺はとっさに相手のすねをしゃがむようにして蹴った。

「痛って!!」

 どうやらクリーンヒットしたみたいだ。こういう場面では、すねを狙うと良いと友達から教わっておいた甲斐があったみたいだ。

「お、覚えてろよ!! 」

 そういって、男は逃げて行った。覚えてろよって……別に覚えておく必要もない。むしろ、覚えたいのはおまえだろと一瞬思った。

「あ、ありがとうございました。おかげで、なんとか襲われずに済みました……」

「いや、別に……」

 ヤバい。かわいい。いや、本当かわいい。しかもちょっと衣類がはだけてる……。少々、やらしい想像がふくらみかねあい状況ではあった。

「そ、それじゃ」

 俺は、この場にどうしてもいられない気持ちになった。それに、颯爽とあらわれては、敵を撃退し、颯爽と去る。これもかっここいいとは思ったわけで。ふふふ。俺としたことがなかなかかっこいいことをするじゃないか。

「あ、あの! 」

 公園の出口にさしかかったあたりで呼び止められた。声から察するにさっきの女の子のようだった。なんだろう。もしかして、今晩のデートとか……。一瞬の間にやましい妄想が頭を駆け巡った。

「は、はい? 」

 俺は、振り返った。


「さっきは、よくも捕食の邪魔をしてくれたなぁああああ! 」



 俺は、人助けをしたつもりが、どうやらおせっかいだったようだ。振り返ると、さっきまでの女子生徒とは形相が変わっていた。目が明らかに血走っているし、真っ赤だ。爪も長いっていうか、五本とも30センチ以上の長さにのびてるし。ああ。これは、もしかしてこないだ言っていた新しい敵さんのことなのか。

 こればっかりは、すねを狙って蹴ったとしても倒せないと思った。

「キテモラウゾ」

 もはや、人間の声じゃないし……。とか思っていたら気を失ってしまった。

 

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