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第7話 白馬の王子様は乗用車で現れる

 俺は、眠っている間に夢を見た。なんだか、とても不思議な夢だった。俺が、スーパーヒーローになって困っている人を助ける夢だ。いや、正確には人だけじゃない。犬とか猫とか動物も助ける。困ったことならなんでもおまかせ!とかキャッチフレーズにつかっていそうなヒーローだった。そんなものになりたくはないんだけどね……。

「んん…… 」

 ピピピっと目覚まし時計がなった。毎度おなじみの朝の光景だ。結局何回も時計のアラームを止めようとして、最終的には止められなくて起きる。止めてしまったら結局また二度寝をするだけなので、それはそれでいいのだが。しかし、この日は違った。ちょうど良い位置に時計がおいてあり、ちょうど良い位置に手がドロップして、時計のアラームのスイッチにクリティカルヒットしたのである。時計がよもやこわれるんじゃないかとい言うくらいナイスなチョップが。

「んんん…… 」


 次に目を覚ましたときには、時計の時刻は、朝の8時だった。このままでは、完全に遅刻だった。ヤバい。これは、まずい。意外と不真面目な高校生活を送っているのだが、どうにも遅刻だけはしたくないのだ。なんというか、遅刻をして教室に入ったときの一斉に自分に向くあの視線が俺は苦手だからだ。それを避けて入ったとしても、どうして遅刻したのかの質問攻めが先生やら友達やらからやってくる。これも、もちろん苦手だ。完全にピンチだった。

「タケル、車出してやるから早く支度しなさい。」

 なんと、ここで奇跡の助け舟が。親父ぃ!!

「え、あ、ありがとう!わかったすぐ支度する!!」

 なんと偶然にも今日は親父の休みの日だった。土日に休みが一般的なサラリーマンの休日だが、うちの親父は変則的らしく決まっていないらしい。


 俺は、急いで着替え、歯を磨き、髪の毛をセットして、鞄を持って家をでた。すると、目の前でエンジンを吹かして待っている乗用車が一台停まっていた。

「ほれ、早く乗れ」

 ありがとう親父。なんだか、社長出勤のようだ。遅刻したが、一気に形成は逆転したような気がした。


 親父は、車のキーをまわしてエンジンをかけ、車を発進させた。なかなか悪くないエンジン音だ。さすが日本製だ。

「ところで、親父はさ……人からなにか頼まれたことってあるの? 」

「なんだ、いきなり。まぁ、仕事柄そんな頼み事は毎日されてるけど。なんか、頼み事でもされたのか? 」

「いやぁ……別に。なんでもないけど」

「そうか。なんでもないか。まぁ、頼み事されたんならそれはきちっとその頼みを果たすべきだな。基本的に頼み事っていうのは、信頼できる人間にしかしないもんなんだぞ。素性のわからないやつとか、仕事のできないヤツには怖くて頼み事なんてできやしないからな」

 親父は、この後も独り言のように喋っていたが、俺は適当に相づちをいれるだけで耳には入ってこなかった。頼み事は、信頼できる人間にしかしないか……。この言葉が俺の頭の中でぐるぐると回っていた。


「ほら、着いたぞ」

 学校についたらしい。車内の時計は8時15分と表示してあった。余裕だったみたいだ。

「ありがとう親父、ただ……校門の前に止めるのはやめてくれ。どっかのお坊ちゃんみたいだろ」

 ご丁寧に校門の前にくれたのだった。うちのような平凡な家庭でも、どこかの御曹司気分は簡単に味わえるらしい。

「おう、すまんすまん。でも停める所がないからここで勘弁してくれ」

「はいはい…じゃ、行ってくれるわ。ありがとね」

「おーいってらっしゃい」

 ドアを閉めると、停止ランプを一回だけ点滅させて、車の流れに合流し、その流れの中に消えて行ったのであった。


「お。タケルおはよう。今日は自転車じゃないの?」

 駐輪所からサトシが現れた。

「ああ、今日は寝坊しちゃってさ。親父に車で学校まで送ってもらったんだ」

「へー社長出勤じゃん」

「まあね」

 俺は、あることに気がついた。

「あれ。サトシ、カバン変えたの? 」

 昨日とは違うカバンをサトシは肩に背負っていたのだ。

「ああそうだよ。これ昨日放課後に買いに行ったんだ。5,000円くらいのかな。あんま高くないんだ」

「へー。なかなかいいじゃん」

「だろ〜」


 サトシは、その後も調子良さそうに教室まで一緒に行ったのだった。


 チャイムが鳴った。

 チャイムが鳴った。


「おい。新藤、今日放課後残って職員室に来てくれ。頼みたい仕事がある。今日、おまえ日直だったろ」

 担任が、俺を呼び止めた。

「え、ああ。はい。日直ですよ。これから……ですよね……」

 やっと帰れると思ったのに!と心の中で叫んでいたのは言うまでもない。


「で、なんですか」

 俺は、渋々職員室にやってきた。

「ああ。来たな。実は、図書室の本の整理をしてほしいんだ」

「ああ、はいって、それは図書委員の仕事じゃないんですか? 日直の仕事ではない気がしますが……」

「今日、うちのクラスの図書委員が整理の担当だったんだけど、吉井は休んでたろ? で、他のクラスの先生に頼むのも悪いしさ……」

「それで、俺……と」

「そゆこと」

「わかりましたよ。やればいいんでしょ」

「お。頼んだよ〜。詳しいことは、3年の図書委員に聞けばわかるはずだから。じゃ、終わったら俺に報告しないで、そのまま帰っていいからな」

「はーい。わかりました」


 足取りが重い。図書室で、本の整理をまさかやる日がくるとはな。本なんて死ぬほど好きなヤツが触るものだろ。俺みたいなヤツがさわったら灰のように溶けてなくなってしまうのではないだろうか。そんなことはないか。


「すいませーん。図書委員の吉井さんの代わりできたものなんですが……」

 そう言って俺は、図書室の準備室的な所のドアを開いた

「はい……ちょっと待ってくださいね……」

 目の前には、赤いメガネをかけている髪の長い女性が座ってなにか作業をしていた。時折、その長い髪の毛を耳にかけ、集中していた。

「お待たせしまし……あッ」

「あッ」

 ほとんど同時であっただろう。同時に「あ」という言葉が口から出てしまった。そう、図書委員の先輩とはあの先輩だった。森本ユキ。まさかの展開であった。






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