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第5話 いつもの場所に変わり者1人

 目覚まし時計のアラームが鳴った。俺は、何度か押す努力をしてみるもなかなか時計のアラームを止めるスイッチに右手がたどり着かなかった。二度寝をしたいところだったが、今日はあいにくの月曜日。そうもいかなった。仕方なく、布団にくるまったみの虫のような姿をした自分から脱皮することにチャレンジし、成功した。俺は、カーテンを開け朝の日差しを浴びた。夏のような湿気がないため突き刺す日差しはどことなくストレートで、気持ちのいいものだった。

 新緑の候。たぶん、これは5月あたりに出す手紙に使う表現だった気がする。もしかしたら違う気もする。

 月日は流れ、5月になった。相変わらずまだまだ夏にはほど遠く肌寒い日も多い。マフラーはさすがにいらなくなったけど、それでも寒いものは寒い。あいかわらず、長袖長ズボンで未だに寝ている。そう、俺は寒さにめっぽう弱かった。


 リビングでは、親父がコーヒーを飲みながら経済新聞を読んでいた。俺は、経済とか全くわからなく興味もない。ただ、毎日親父は読んでいるため、俺も働き始めたら毎日読まないといけなくなるのだろうか。想像がつかない。

「はい、朝ご飯」

 母さんが、朝食を持ってきてくれた。今日の朝食は目玉焼きに、白いごはん、みそ汁という普通なメニューだった。ただ、俺は母さんが作る目玉焼きは好きなので、これはこれでナイスな朝食であると思う。

「ところで…お前は、どこの大学に行こうと思うんだ。二年生だろう。そろそろなんか決めてないのか? 」

 目玉焼きを一切れごはんの上にのせ、口の中に運びみそ汁と一緒に咀嚼して、満足感に浸っている所に親父が話しかけてきた。

「いぅや、ばつにぃ……」

 口にモノが入っているせいか、あまりいい返事ができなかった気がした。

「そうか……早いとこ志望校くらいは決めるんだぞ」

「うふぁーい」


 俺は、おいしい朝食を食べ終え学校に向けて着替えや歯磨きをすました。

「いってきまーす」

 いつものように自転車の鍵を外し……。

「あれ、自転車の鍵がない……」

 俺は、そこら中のポケットを探したがどこにも鍵は見当たらなかった。

「ほら、かぎ忘れてるわよー」

 変な動きで体中をうねうねとしながら鍵を探していると、家の中から母さんが自転車の鍵を届けてくれた。どうやら、リビングのテーブルの上にあったらしい。確かに、俺は制服のポケットの中にないとしたら、自転車の鍵はそこにある場合が多かった。

「ありがとう」

 俺は、母さんに礼を言って鍵を外し、勢い良く自転車を漕ぎ学校に向かった。


「やあ、タケルおはよう」

 学校につくと、サトシがいた。サトシは、学校の真裏にすんでいるため徒歩一分で学校につける。この話を聞いたときはとてもうらやましかった。が、不便なことも多くあるとは言っていた。よく、家族と一緒にいる所を友達に見られるとか、家を出る瞬間を友達に見られるとか。とにかく、プライバシーの問題であった。思春期らしい悩みである。


「いや、それでさ……昨日の夜にやってた映画の内容がさ……」

 サトシは、昨日テレビでやっていた映画の内容を無限ループになりそうなくらいの勢いで俺にしゃべりつづけた。下駄箱で靴を上履きに履き替える時に、目の前を先輩が通り過ぎるのが見えた。森本ユキ。あの謎の怪物を俺の目の前で倒した人だ。声をかけようかと思ったが、サトシの話がまだまだ終わりそうになかったため、それはやめることにした。

「それでね、ラストシーンの主人公の台詞が……」

 教室につく頃には、その映画の内容がほとんどネタバレのような状態のような気がした。気分的には見たような錯覚さえある。この短時間でよくもまぁ喋れるものだと少し関心したのであった。


 チャイムが鳴った。

 チャイムが鳴った。


 放課後は、なにをしようかと6時間目の授業中に考えていたが、久々に森本先輩に会いたくなった。あの体育倉庫の件以来、数週間会っていなかったこともあるかもしれないが、やはり朝のこともある。久々に見かけたら会いたくなったのだ。

「今日……放課後に暇でしたら……お会いできませんか……っと……」

 俺は、先輩にメールを送った。さて、返信がくるまで何をしようか。図書館にでも言って本でも読もうか。いや、あいにく俺には本を読む習慣はない。この学校では図書室なんて授業の宿題で調べ物がないかぎり誰も使わないスペースであった。

 しかし、そんなことは杞憂に終わった。5分もしないうちに返信が帰ってきたのだ。

「なになに……、これから他のメンバーと会う予定があるので、ご一緒できるならばお会いできます……か」

 メンバーとは、やはりあのメンバーだろうか。となるとやはり年上……になるのか。そして、他のメンバーは何にいるんだ。もしかしたら、20、30人ほどの大所帯の可能性もある。正直5、6人であってほしい……。一度にそんなに名前を覚えるのは得意じゃないからだ。

 ええい。あれやこれやと考えても仕方ないことに気がついた。とりあえず、他のメンバーとも会うことにし、返信した。


 あのあと、待ち合わせの場所と時間が指定されたメールが届き、俺はその場所と時間にやってきた。今度は、ちょっと学校から離れたところにある喫茶店「アマゾン」というところである。

「お待たせしました」

 森本ユキが現れた。相変わらずメガネは少しずれていた。今日は、緑色のカーディガンのようだ。

「実は、もう他のメンバーはいるので、早速入りましょうか」


「いらっしゃいませー」

 店内は、名前のとおりアマゾンのような場所だった。観葉植物ではあると思うのだが、俺の身長よりも遥かに高い太い木のようなものから小さな葉っぱまで、至る所に飾られていた。イグアナやリクガメなど、それっぽい動物もケースに入って飾られていた。そして、BGMはクラシックとかジャズではなく、なぜだが滝の音やら虫や鳥の鳴き声が入ったものをかけていた。しかし、これが一層のアマゾン感を演出していた。

 そんな森のような所に、緑色のカーディガンを着たメガネの華奢な女の子は颯爽と入ってメンバーの元に歩いていった。それに、俺はついて行くと、2人の人物が紅茶とプリンを食べて座っていた。

「おはようございます、二人とも」

「おはよー」

 と片方の女の子が返事をした。

「おはいー」

 と片方の男の子が返事をした。

 なるほど……、制服を見るからには自分の高校であることがわかった。自分の高校の学年は上履きの色で区別しているため、見た目にはわからないが、やはり先輩のような気がする。片方は女で、片方は男だった。女の方は、長い髪を後ろで結んでいてポニーテールになっており、身長的には森本先輩と変わらない感じだった。可愛いといえば可愛いが、それは人それぞれというような顔であった。一方男の方は、身長自体はそれほど高くなく、160センチ後半くらい。ただ、顔立ちははっきりとしており、とても痩せている印象であった。

「こちらの女性の方が、ハルちゃんで、こっちの男の子がタイチくんです。あ、どちらも二年生ですから」

 え。今なんと。

「あー新藤タケルでしょ。知ってる知ってる。同じクラスになったことはないけど、よく自転車に乗ってるヤツでしょ。なんか、いつも冴えない顔してるから覚えてるよ」

 どうやら、この女の子、いやこの女、どうやらなかなか人が気にしていることをズバっという特殊能力でもあるみたいだ。冴えない顔…。人が気にしていることを……。

「逆に、僕は知らなーい。僕帰宅部だし。友達も学校では少ないし、あんまり人の顔を見ないし」

 ほう。コイツはネクラなようだ。たしかに肌も真っ白でいかにも引きこもりのような雰囲気はある。ただ、それとは対照的なあの顔立ち。いや、普通に過ごしていればモテそうな顔をしている気がするのだが。

「ご存知の人もいるみたいだけど……よろしくお願いします」

 そういって俺は、席に座った。丸太のような柄をしてるくせにどうしてか柔らかかった。


 って、こいつら同級生かよ。どっちも顔見たことねー。あ、そういえば、いつもサトシばっか喋っていたせいで他の人とはあんまりしゃべらなかったし俺は帰宅部だ。どっちにしろ人脈というものを形成する手段が乏しかった。10クラスくらいひと学年にあるのだから、知らないヤツがいても当然と言えば当然である。




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