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第3話 体育倉庫、燃ゆ

 俺は、昨日の話が今でも信じられなかった。悪魔だ、魔物だ、よくわからない。ちょっとタイプだった女の子がわけのわからない活動をしている。きっとオカルト研とかそういう類いの人なんだろうと思っていた。しかし、次の日に学校へ行ってみると、どうやら話は本当らしかった。ハードル障害走をやった一年の男子が転んでねんざしたとか、授業でサッカーをしていたらボールが急にグラウンドの凸凹に詰まってとまりそれで足を滑らせてねんざしたとか。とにかくけがの症状としてはねんざが多かった。

 その悪魔だか魔物だかは、ねんざをちまちまと行う下等な生物なんだろうか。なんだか、少々かわいらしい気がしてきた。でも、そいつを退治すると彼女は言っていた。いったいどうやって……。


 その晩、彼女からメールが届いていた。

 題名 こんばんは

 こんばんは。森本です。昨日はすいませんでした。いきなり訳の分からない話をしてしまって。お礼をするつもりが、結局また頼み事をしてしまいました。本当すいません。まだ信じてはもらえないかもしれないですが、とにかくあなたの協力が必要なのです。彼らを倒さないかぎり、事件は収束しないのです。

 今週末にまずは、体育倉庫にいる魔物を退治します。日時は土曜日の夜8時です。7時40分頃に校門前に来てください。あ、格好はもちろん制服で来てくださいね。学校の敷地に入るので私服はさすがにまずいですからね。ではそういうことで……♪


 むむむ。今回のメールは音符マークの絵文字が使われている。どうやら少しは俺に心を開いてくれたのかもしれない。そして、「あなたの協力が必要なのです」という今まで言われたことの無いフレーズ。少し、胸が熱くなってしまった。

 いやいや駄目だ。百歩譲って彼女の言うことが正しかったとしたら、きっと危ない目に遭うはずだ。悪魔だ、魔物だ、危険すぎる。とりあえず、考えておく程度にしよう。うんそうしよう。それがいい。


「あ」

 土曜日まではあっと言う間だった。気がついたら、土曜日の朝を迎えていた。土曜日は午前授業で、午後は何も無い。授業中、いろいろ考えていた。いや、日本の歴史についての授業だったが、別に日本の未来についてではない。この半日である。どうする。行くべきだろうか。いや、行った所で俺がなにをできるというのだ。彼女は、確かにか弱そうではあるが、専門家だ。たぶん、敵の倒し方は心得ているはずだ。しかし……。やっぱり、不安だ。どうみても倒せそうにない。

 俺は、彼女が待つ校門前に行くことにした。


「あ、やっぱり来てくれたんですね」

 彼女は、モジモジと脚をさせていたが、俺が来た途端やめてしまった。ちょっと可愛かったのに。そして、今日のカーディガンは水色だった。

「とりあえず……ね」

「どりあえずでも、なんでも良いのです。ありがとうございます。それでは、行きましょう」

 俺たちは、体育倉庫に向かって歩き始めた。体育倉庫は、学校の敷地の中でも校門から一番離れた場所にあった。歩いて向かっている最中、彼女に質問をいくつかしてみた。

「今日の……その……相手というのは?」

「相手……ですか。えっと、ネズミですね」

 彼女はコピー用紙のようなものを取り出して説明し始めた。

「ネズミの姿をした生物みたいです。詳しくは言ってみればわかると思いますが、コイツが体育用品になんらかの呪いをかけて事故を多発させているようです」

「はぁ……」

「まぁ、大丈夫ですよきっと」

 彼女は両腕を空中から腰のあたりにおろして、うんと気合いを入れたポーズをした。

「そういえば、魔物とか怪物とかなんとかって敵のことを呼んでるけど、総称的なものはないの?呼び名に苦労しないの?」

「そうですね……まぁ、敵であることには変わりないので、あんまりそういうのを気にしたこと無いですね」

 さようですか…。俺は、へぇ〜という愛想のない返事をしてこの会話を諦めた。正直、俺としてはまとめて欲しいのだが。

「あ。着きましたよ」


 俺たちは、体育倉庫の前についた。体育倉庫は立派な作りではなく、プレハブでつくられたもので、今にも壊れそうなくらい錆び付いていた。ただ、少々大きい。人二人が入ったとしても十分にバドミントンくらいは出来そうなスペースはありそうだった。

「いきますよ」

 彼女はそう言って、体育倉庫のドアを引いた。ドアは、ぎぎと耳障りな音を立てながらゆっくりと開いた。開いたドアから俺が先に体育倉庫の中に入った。

「え……」

 俺は、一瞬目を疑った。ネズミ……と聞いていた。聞いてはいたがよく考えたら、大きさについては聞いていなかった。大きさは、体育倉庫に頭が着きそうなくたいだった。たぶん、余裕で5mはありそうだった。

「いましたね……」

 彼女の目が真剣になっていた。どうやら、職業的ななにかが彼女の中で目覚めたのかもしれない。あのか弱そうな彼女からは想像もできない目だ。これは、俺の出番なんて本当にないなと思えた。

「来ましたよ……!!」

 目の前のネズミの形をした大きい魔物は、どうやらこちらに気づいたようだった。確かに、5mはありそうなのだが、それは、横幅も同じで、なかなか動きがとろそうだった。たしかに、気づいたのだが、動きは遅い。人が歩くスピードよりも遅いのではないか。とにかく遅い。これは、楽勝か。本当、俺は、なんでこんなところに来たんだか。そう思った。

「危ないです……!」

「へぇ……?」

 気の抜けた声が出た瞬間、目の前の怪物は大きく口を開いていた。のどのあたりから何かが吐き出される感覚があった。またなぜだが、体育倉庫内の温度が上昇している気がした。

 ドン!と大きな音ともに、火の玉が飛んできた。予想だにしない事態である。いや、漫画とか映画で、得体の知れないとかが火を吐く光景は幾度となく見てきたけど、現実世界でまさか本当に吐くヤツがいるとは。そういえば、5mの体調のネズミがいる時点で気づくべきだったとも言える。

 一瞬死を覚悟して目をつむったのだが、その火の玉をなんだかよくわからないほうきの柄のような物体で、森本ユキははじき返した。はじき返した火の玉が、体育倉庫の隅にあったサッカーボールに燃え移っていた。


 いよいよ、よくわからない所に来てしまった気がした。

 


 

 

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