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第1話 赤いメガネと水色カーデ

「あのさ、今度よかったら俺と一緒にコーヒーでも飲みに行かない?」

 目の前にいる女性は、少し迷って俺に答えた。

「ごめん、無理だわ。んーなんていうか、君タイプじゃないんだよね」

 俺は、この時悪夢の5連敗を果たしたのだった。

「そ、そうだよね。俺なんかと言っても楽しくないもんね。ははは」

「じゃ、私これからバイトだから。じゃあね」

 そういって、目の前にいる女性は俺の前から足早に去っていた。午後4時。高校の授業も終わった放課後。俺はまた一つ大人になった気がした。


「おいおい、また振られたのかよ。これで何度目だよ」

 友達のサトシが笑いながらこっちに来た。

「五連敗目です。フィフス、アニバーサリーでございます」

 サトシに俺は答えた。

「ははは。それは、残念だ。残念記念ついでにファミレスにでもなんか食いに行くか?ドリンクバーでたらふくなんか飲みたくね?」

「却下。俺、金ないから。バイト代入るまであと一週間もあるし」

「なんだよーつれねぇなあ。まぁ、仕方ない。おごってやりたい所だけど、俺も同様の事情で金欠には変わりないんでね」

 結局、俺たちは別れて帰ることにした。バイト前の金欠ほど辛いものは無い。早く給料日にならないだろうか。

「それじゃ、またなサトシ」

「おう。また明日」


 俺の名前は、タケル。高校二年生。普通の高校にかようごく普通の高校生だ。そんなに普通を強調しなくても良いと思うけれど、本当に普通なのだ。別に、高校の前にでっかい坂道があるわけでもなく、大きな田んぼや川があるわけでもない。平らな住宅地の真ん中にある高校だし、俺だってなにか取り柄のある高校生でもない。学校の成績も中の中。言い訳でも悪い訳でもない。そして、特に目立つ存在でもない。そのせいなのか、恋は五連敗中だ。五連敗する前に彼女が居たのかといえば、答えはノーだ。挑み始めてから五戦五敗ということだ。残念だ。まったく。


 俺は、高校に自転車で通っていた。家から自転車で20分くらいの所に高校はあった。自転車で通える距離であるため近いように感じるが、雨の日なんかは最悪だ。通える交通機関がないため歩きで通わなければならない。従って歩きならば、倍以上はかかっている。意外と遠いのである。

 俺は、いつものように自転車を軽快に走らせていた。毎回ペダルを漕いでいるわけではなく、たまには空回りさせたりもしている。今日は、快晴で風も気持ちよかった。4月は絶好の自転車日和だと自分では思っている。しかし、そんなことを考えていたら十字路から女の子が歩いてきて、自分の進行方向に現れた。

「あ、危ない!」

 思わず声が出てしまった。その瞬間、ブレーキを引いてはみたが、そのまま直進したらぶつかることは自分でも目に見えてわかった。しかしその瞬間、目の前にいた女の子は、俺の自転車に向かって両手を出してきたのだった。そして、なぜだか俺の自転車は止まった。止まったは止まったが、俺だけは地球の重量には逆らえず、地面の方に投げ出されたが、なんとか受け身を取ることができた。

「イテテ……。あの、大丈夫ですか?」

 俺は、朦朧としながらも目の前に居る女の子に声をかけた。

「ええ……だ、大丈夫です……」

 華奢な声を震わせながら俺の言葉に返事を返してくれた。すると、女の子の方から俺の方に近寄ってきた。しかし、俺は腰からまだ地面から立ち上がれずにいた。

「そ、そちらこそ大丈夫ですか……」

 どうやら、制服を着ている。それも、俺と同じ高校のだ。そしてさらに幸か不幸か、俺の現体勢からは女の子のスカートの中身が見えそうで見えなかった。でも、それはそれですこし興奮してしまった。

「ああ、平気だよ。ちょっと手を貸してくれる?」

 そう言うと、彼女は手を貸してくれた。その手を握って俺は、立ち上がろうとしたが、女の子が軽かったのか逆に彼女を倒してしまった。

「ああ!ごめん!そういうつもりじゃ……」

「いえ、大丈夫です……」

 内股で地面に座る女の子。これは、幻だろうか。とても、可愛く見えた。黒い髪の毛にウェリントン型の赤いメガネをしていて、メガネの位置は本来の位置より下で、少し大きめの水色のカーディガンをキッチリとボタンを留めていた。ブラウスのボタンが一つはずれていたため胸元がまた少し見えそうだった。案外、オシャレに気を使う女の子なのかもしれない。そして、意外と……は大きいようだった。正直、俺の好みのタイプだった。


 俺は、なんとか起き上がろうとした。そして、彼女の手を借りなくても立ててしまった。どうやら少し、下心が出ていたようだ。そっと、心の中でその女の子に謝った。

「あの……」

 女の子はまだ、内股で地面に座っていた。

「ん、なにか?」

「今度、お食事でもどうですか……。なんか悪いことをしてしまった気がしますから……」

 へ。今なんと……。そんな顔を俺はしてしまった。

「ですから、お食事を……。もちろんごちそうをしますから……」


 

 こうして、俺はあっけなく女性との食事の約束を手に入れた。五連敗していた男とは思えない。もちろん、彼女の携帯番号とメールアドレスもゲットだ。ありがとうございます神様。きっと俺への哀れみのなんとかなんですねきっと。

 俺は、この後、陽気な気分であったことは間違いない。にやにやが止まらなかった。


 しかし、陽気な気分もにやにやが止まらないのも、彼女と食事をし終えた頃には吹き飛んでいるとはこのとき思いもしなかった……。



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