0の印刷機。(霧の心象風景)
森の木々が霧を生産する。
森で霧が生まれる。
樹が霧を吐き出す。
何もかも、覆い隠してく……
悲しい記憶、過酷な記憶。
霧深き森に霧捨てられた時計。
霧はだんだん白く濃くなっていき……
その時計に刻まれた時は、零に戻る。
視界の端で揺らめいている、輪郭の薄い黒の色。
いつだって足元にいる、そこにいるものは、いつも居る黒いもの。
あまりにも似ていた佇む影は、誰も気がつかない。
影だから。
居場所がないから、見えるだけ。
意識の中に残る残像を、空虚な心で何度も息絶えた。
居場所がないから、脳裏に繰り返す。
初めて呼ばれた名前を呼んで欲しい。
何者かわからない。
人に語ることの出来る記憶を持つ人がうらやましい。
霧の森から産まれた水が世界を廻り、再び戻ってくる年月と等しい年月。
その時計に刻まれた時と同じくらいの年月。
霧の森で少しづつ吸収した。
光があり闇があった。
生があり死があった。
音があり静寂があった。
霧から集めた雫。
天空から注ぐ幻影の光。
影などとは、光にも闇にも属す。
影は風景に溶け、
風が森に吹き抜けるたび、
静寂に誘われて、生命の種子を運んでくる。
草原に緑柱石色の波が生まれ、消え、生まれては広がっていく。
地上に放たれたほんの少しの記憶から作り出す、命の器。