序:夜光虫のきらめく海岸線を歩む。(海の心象風景)
「夜光虫」
海洋性の微生物。
大量発生すると夜に微かに青く輝いて見えるが、昼に見れば赤潮の色。
微かな淡青の標。
虹蜺鳥の尾羽をなびかせて。
闇の中に溶き、月光の衣をまとい、夕の暮す記憶の中に舞い、青空の根元で踊る。
悠久に、過す導。
うつろいは、生々世々。
長しなえに終わっている。
月影の唇はうたう。
時を葬る鎮魂歌。
――過去を取り戻せるならば、失われた時間は何色に輝くだろう?
虹のような淡さは、砌を微かに刻む徴。
月光のように淡くつめたい彼は、煌く風のように現れて、七彩の霧に消える。
万有を縛る時でさえ、とらえることはかなわない微々たる印。
時を追う者は、流れの果てに存在し、そして、記した憶えに消えていく。
白銀の輝く時は、追いかけて。
紅玉の瞳は鋭く明かし、時を除き見る。
――未来を映し出すのならば、まだ見ぬそれは何色に輝くだろう?
万物に平等に与えられる時でさえ、持つことを許されない。
現身に存在せず、森羅万象に存在しないもの。
微弱に生まれる命の中に。
消えていく光の耀きを忘れない。
――現在を忘れないならば、それは虹霓色に輝いているだろうか?
幾星霜の徴標は、微かにうたう。
時間は、永遠。
常しなえに全うする。