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壊中時計

作者: にびいろ

 人生はまさに時計の如く。

 徐々に朱に染まっていく空の下で、そのような思いつきが不意に私の脳裏を掠めました。

 おはようからおやすみまで、人はちくたくちくたくと日常を生きています。時計の針が十二を指してまた十二を指し、そしてまたまた十二を指すというこの永劫回帰の中において、人はフラグを立ててイベントを消化し、ハッピーエンドへと猪突猛進していく過程で情け容赦なく迫り来る老いを実感し、縁側で茶を啜りながら死んでいくのです。

 時計が人生であるなら、死とはさしずめ時計の破壊でしょうか。壊れた時計は活動を停止し、その他の時計が刻む時の流れより取り残され、静かに忘れ去られていくのです。

 そんな事をつらつらと考えていたのですが、唐突にそんな事はどうでも良くなりました。

 屋上に一人佇む私の眼下に広がる我が学舎のグラウンド、その一角を凝視する過程に於いて、私の頭脳は労働の愚かさを再確認したのです。

 グラウンドの一角に存在するユニフォーム姿の少年――少年と言っても私と同じ高校生なのですが――の躍動する肉体。その肉体をしっとり濡らす汗。そして、同級生達よりも少しだけ大人びたその顔。遠目に見る彼の全てが、私の心に生い茂る雑草の如き理性を焼き尽くし、ちくたくと無駄な活動を続ける脳みそを沸騰させるのです。

 それは、紛う事なき恋でした。

 紀元前より連綿と記され続けてきた関連書籍を平積みしていけば、その重みに地球が絶えられなくて軋んでしまうと言われるあの恋です。

 古来より、恋する乙女の無敵ぶりは数多の偉人賢人変人奇人を戦慄させてきたと言います。

 ですが、晴れて恋する乙女の一員となった私が、恋の天使より授かりし奇蹟の力を駆使して、この胸の高鳴りを意中の人に伝えるべく敢然と行動を開始したと思ったら大間違いです。

 恋の天使なんて居ません。あるのはただひたすらに無情な現実だけです。私という存在の無力さと愚かさはどこまでも果てしなく、尽きることの無きにおいては広大なる無限の宇宙に匹敵していました。

 彼の顔を見ると声が出ません、彼の側に居ると息ができません、彼とすれ違うだけで心臓が大変な事になります。

 彼が私と違うクラスに所属していたのは不幸中の幸いでした。もしも一緒のクラスだったりなどすれば、その時点で呆気なく私という時計は完全にその機能を停止してしまったでしょう。

 ですが、幸運にも私と彼は違うクラスに生きていました。そして今――


 ――不運にも私と彼は違う時間を生きているのです。私が間抜けにも自分の時計を壊してしまったせいで。


 実に、実に実に実に馬鹿な話です。私は死にました。凄まじく呆気なく、途方もなくお間抜けに。この屋上からダイブするという極めてはた迷惑な方法で死んでしまいました。

 恋する乙女は基本がドジッ娘です。トーストを咥えて疾走し、曲がり角で意中の人をなぎ倒し、マーフィーの法則に従ってパターたっぷりのトーストを意中の人の制服に叩きつけたりします。

 しかし、屋上からうっかりダイブしたりはしません。ドジにだって限度がありますし、だいたいそんな恋に結びつかないドジを恋する乙女がするはずが有りません。恋する乙女はドジでありながらも計算高いのです。

 なのに、私はやってしまいました。

 それは実に他愛の無い死でした。

 遡ること一ヶ月前のあの日、私は今と同じようにして屋上の手すりにもたれ掛かり、グラウンドを眺めていました。ですが、ただ一つ今と違う所が有りました。

 それは右手に持った一冊のメモ帳でした。

 そのメモ帳には、私の交友網をフル稼働させて手に入れた情報がプロフィールとして纏められています。誰の物かなどは言わずもがなでしょう。

 それを睨み、時に太陽にかざし、時に風に当てながら戦略を練るのが私の日課でした。

 好きな食べ物にからあげと追記されれば、からあげ満載のお弁当を作って彼と一緒に食べる方法を模索し、彼が海外のとてもハードなロックを好むと追記されれば、最寄りのレンタルショップを練り歩きました。

 しかし、そんな努力は報いられることなく、ただただ徒労として夢の島に投棄されていったのです。

 そんな閉塞的状況を打開する策を求めて、その日も私は屋上の手すりに寄りかかり、右手をぶうらぶうらさせながらメモ用紙を風になびかせていました。

 その時、一陣の風が吹いたのです。

 風は私の手からメモ帳をもぎ取り虚空へ向かって放りだしてしまいました。

 落下していくメモ帳に向かって反射的に手を伸ばした結果、手すりを支点として私の足が宙に浮きました。

 その時、追加でイタズラな風が私を背後から襲い、破廉恥にも私のスカートを捲り上げたのでした。ですが、スカートがめくれる程度なら誰も居ない事は確認済みなのでどうという事はありません。

 しかし、その風のイタズラは少しばかり度が過ぎていました。

 スカートを捲りあげた風の勢いは殊の外凄まじく、バランスを崩した私の体はぽいっと手すりの向こうに投げ出されてしまいました。

 視界の中をゆっくりとした速度で流れていく校舎。極限まで高まった集中力が見せた奇蹟の映像を堪能しながら感覚的にはゆっくりと、しかし現実的には高速度で、私の体は地面に吸い込まれていったのです。

 インパクトの瞬間は良く覚えていません。落ちていく最中にふと意識が途切れ、気が付くと私は再び屋上に立っていました。

 訳も判らずに茫然としていた私の耳を、唐突に悲鳴が突き抜けていきました。

 野次馬根性を刺激された私は、妙にふわふわとした足取りで悲鳴の発生源である屋上の直下を覗き込みました。

 そして、正面玄関前の石畳に、真っ赤な大輪の花が咲いているのを見たのです。

 その花の真ん中には――これ以上はそれこそ言わぬが花でしょう。

 とにかく、私はそのようにして死んだのでした。

 死んだはずの私がなぜこのように自らを語れているのかは判りません。ですが、幽霊という言葉をもって私の状態を説明する事はできましょう。

 実を言うと、極めて個人的な理由により私は幽霊という言葉を嫌悪してきました。

 周囲の人間にはその非科学性を嫌悪の理由として主張してきましたが、本当は幽霊を肯定してしまった場合、夜中にふと目を覚ました際のごにょごにょが非常に恐ろしい体験となってしまうからでした。

 そのような過去の経緯に目をつぶり、私は自分が幽霊となってしまった事を認め、幽霊として生きていく決意を固めたのでした。

 私がそのように所信を固めている間にも、世間は動いています。

 私の死に対する責任問題、原因究明、マスコミの強襲、様々な憶測と諸々の噂が学校とそれに関わる人々を蹂躙し、その果てに屋上には全校生徒及びクラスメイト達からの花束が供えられました。

 私の死を心から悲しんでいる級友達、責任を感じ憔悴している担任の須永先生、皆が私のドジに振り回されているのだと思うと申し訳ないやら情けないやらで、彼等の流す涙とは全く別の涙が私の頬を伝いました。

 特に須永先生の毛髪に関しては謝罪のしようもありません。常々より年齢に見合わない頭頂部の薄さを自虐的な笑いに転化してきた先生の自己犠牲の精神を、私のドジは台無しにしてしまったのです。

 クラスを代表して花を添えている学級委員長の背中を見つめる先生の毛髪は、生前に見た時よりも薄くなっているように思え、このままでは、頭頂部が完全に露出してしまうのは時間の問題と思われました。

 花束を供え黙祷を捧げてくれている皆の行為に、私は黙って頭を下げることしかできませんでした。そして、去り行く皆の背中にさようならと呟きました。

 それが私にできる精一杯の返礼でした。

 壊れた時計と成り果てた私は、もう皆と同じ時間を共有できません。後は彼等の前途を思い神仏の類に祈るのみです。

 願わくば、皆の心に平穏を。

 更に願わくば須永先生の毛髪に祝福を。なにとぞ、なにとぞ祝福を。

 こうして級友達との別れを済ませた私は、晴れて勝手気ままな幽霊生活を満喫しようとしたのですが、この別れが思わぬ結果を引き起こしました。

 私は、屋上から出られなくなっていたのです。

 思いによりその場に縛られ動けなくなった霊を地縛霊と呼ぶ事は知っていました。ですからこの場合、私は屋上の地縛霊になってしまったと解釈するのが正しいのでしょう。

 でも、私はなんの思いに縛られて屋上に捕らわれているのでしょうか。級友達への友情でしょうか、須永先生の毛髪でしょうか。或いはその両方?

 どちらであるにしろ、これは由々しき事態でした。

 別れをすませるまでの私はそれなりに自由でした。浮遊し、壁を抜け、TPOの全てを無視して活動できました。

 謝罪会見で頭を下げる校長先生の横で一緒に頭を下げてみたり、級友にしつこく付きまとう週刊誌の記者の後頭部に当たるはずもない跳び蹴りをかましてみたり、私の遺体を乗せた霊柩車を見送る人々に混じってドナドナを歌ってみたり、社会見学と称して夜の町の裏側を垣間見て酷く後悔したりと無軌道な自由を満喫しており、幽霊という生活スタイルもなかなか悪くないのではないでしょうか、などと暢気に考えていました。

 しかし、屋上から出られないとなると話は変わってきます。

 こんな何もない空間で、私はこれからなにを楽しみにして生きていけば良いのでしょうか。

 太陽が沈み夜の闇が空に溢れ出してくるにつれて次第に絶望と孤独が私の心を支配していきました。

 夜も更け、屋上から見える町の明かりもまばらになった頃、私は声を上げて泣きました。寂しくて、虚しくて、もどかしくて、感情を抑える事ができなくなっていました。

 牢獄の壁と化した屋上の手すりにしがみつき、何度も父と母を呼びました。親友の名を、親しかった級友の名を、大好きな彼の名を叫びました。

 叫ぶほどに悲しみは募り、悲しさを紛らわせるために私は声を上げて皆の名を呼び、更に悲しみを深めていきました。

 朝が来ても、私の目から涙はこぼれ続けました。登校してくる級友達を屋上から見下ろし、懸命に呼びかけました。

「私はここに居るよ。ねえ、ここに居るんだよ」

 誰も私の呼びかけを意に介しません。当然です、私はすでに皆の生きる時間には存在していないのですから。

 日が昇り、級友達が登校し、少しの怠惰と共に楽しげな学校生活を送り帰って行く、そして日が沈み絶望に満ちた夜の中で私は夜通し涙を流す。

 このような日々を幾日も重ねる内に、私はようやく死にきれていない自分を認識したのでした。勝手気ままに彷徨う幽霊など死の本当の状態としては有り得ないのです。

 成仏したい。程なくして私はそう願うようになりました。

 寂しさと虚しさの中で、私はようやく自分が向かうべき場所を見出したのでした。

 向かうべき場所が明らかになれば、進む道も自ずと明らかになるものです。もはや私の胸に絶望は有りません。完全なる死を目指して一心不乱に突き進むのみです

 そもそも、なにゆえ私が成仏できなかったのか、その答えは私が恋する乙女だったからでしょう。このような巨大な未練を残したまま成仏できるはずがありません。

 ならば、進むべき道ははただ一つ。告白です。

 幽霊となった私にはもう彼と同じ時間を歩む資格はありません。ですが、例えそうであったとしてもせめて胸の内に暖めてきたこの思い――長期間の保存により若干発酵気味ではありますが――を伝えたい。貴方という人をどうしようもなく好きで好きで好きだった大馬鹿者が居た事を知って欲しい。

 そうすれば、きっと私も成仏できるはず。

 かくして私は道を見出し、この胸の高鳴りを意中の人に伝えるべく敢然と行動を開始したと思ったら大間違いです。

 死という究極の経験を経てもなお、私という存在は相も変わらず無力で愚かなままでした。

 告白を実行に移す勇気など欠片として無く、その光景を想像するだけで思考回路が強制的に再起動される有り様。

 それに加えて、屋上から出られないという状況にはなんの変化もなく、それをなんとかする方法は糸口すらも掴めてはいませんでした。

 こうして、解決の糸口を見出しはしたものの、私はなにをするでもなく、またなにができるでもなく、屋上という狭い世界の中で告白という希望を胸の中で常温発酵させつつ、放課後にグラウンドで汗を流す彼の姿を唯一の慰みとしていたずらに日々を送っていたのです。

「協力しろ」

 そんな声が聞えてきたのは、何時ものように夕暮れの中グラウンドを走る彼の姿を追い掛けていた時でした。

 ドスの利いたハスキーボイス、端的な物言い。関わり合いになるのを避けたくなる要素満載のその声を、私はさらりと聞き流しました。

 なにしろ私は幽霊、話しかけてくれる友人知人他人変人には常時事欠いています。

 幽霊である私に話しかけてくる人など存在するはずないのですから、あれはきっと他人の会話でしょう。ここは慎ましく聞き流しつつ野次馬根性を遺憾なく発揮して聞き耳を立て、事態の推移をひっそり観察するのが恋する乙女の嗜みというものです。

「おい、協力しろと言っているんだ」

 声の主の話し相手はなにやら協力を渋っている様子。それも無理なからぬ事、誰だって面倒事はごめんです。声の主だって御免蒙られると判っているから、ああやって声にドスを利かせて、要求という名の恫喝を行っているのでしょうし。

「おい」

 不意に頭をなにかが掴みました。グラウンド上の彼に釘付けになっていた視線は、私の頭を鷲掴みにしているなにかによって徐々に上を向いていき、そして見知らぬ女性の顔を捉えました。

 ショートカットの黒髪、触れたら切れてしまいそうな鋭角の目尻、真っ正面から見た刃のような唇。紛う事なき美人だけどお近づきにはなりたくない、そういう雰囲気を漲らせた顔でした。

「協力しろと言っている」

 そのお近づきになりたくない顔の美人さんは、噛んで含めるようにして要求を伝えてきました。私に向かって。

「あ、あの、ひょっとして、人違いをされてはいませんでしょうか……」

 この段階になっても、私はまだ自分が話しかけられているのだという確信を持てないでいました。なにしろ、幽霊ですから。

「いや、お前だ」

 そうですか、私ですか。

「それで、協力するの? しないの?」

 見ず知らずの人に対してこのような無礼な振る舞いをする方に協力する道理はございません。頼むなら頼むなりの礼儀というものが有るはずです。

「するか、しないか、と急に言われても……えーっと、その……」

 思っている事を口に出す勇気がないのが私です。

「協力しろ、それなりの謝礼はする」

 尚のこと御免蒙ります。威圧的な要求の後に謝礼の提示などされても不吉な予感を増大させられるだけです。

「いえ、そんな謝礼だなんて……あっ、いえ、今のは違います、謝礼が要らないとかじゃなくてですね、その……私のような小娘には、貴方のような立派な方の要求に応えるだけのスキルが備わってないと思うんですよ。ですので、そのまことに遺憾ではあるのですが……今回の一件については発展的解消という形を取らせて頂けると、私としましては大変有り難いのですが……」

 なけなしの勇気を振り絞り、私は敢然と見知らぬ美人さんの要求を退けようとしました。

「協力しろ、謝礼はする。これはお前にとっても良い話のはずだ」

 はずだと言われても困ります。だいたい、貴方に私のなにが判るというのですか。こんな所に閉じこめられて、日々の楽しみと言えば遠目に見る大好きな人の姿だけという、私の惨めな境遇のなにを理解しているというのですか。

「成仏の手助けくらいはしてやる。協力しろ」

 してます。貴方は完璧に私を理解しておいでです。

 唐突に降って湧いた予想外の申し出に、私の心は揺れて動いてそのまま堕ちました。

「承知いたしました。で、私はなにをすればいーんでしょうか?」

 変節漢の謗りを受けかねない身代わりの速さですが、さしたる問題はありません。機を見るに敏なればこそ乙女は恋を成就しうるのです。千載一遇の好機を前にしておろおろぶるぶるしているような輩は、そのまま茶碗を持つ手の震えが止められなくなる年頃までずっとおろおろぶるぶるしておれば良いのです。

 なぜでしょうか、胸が痛いです。

「悪霊を消す。お前にはその手伝いをしてもらう」

 突如として胸を襲った痛みに戸惑っている私の様子など無視して、美人さんは物騒な事を仰いました。

「悪霊、と申されますと?」

「人に悪影響を与える霊だ。それを消す」

 美味い話には裏がある。極めて陳腐な言葉ですが、この言葉は真理であるが故に陳腐なのだという事を、私は実感を持って学ぶ事ができました。

「消す、とは具体的にどの様な……?」

「特定の方法を用いて物理的に殴殺する。単純な話だ」

 状況は、私の想像の遥か上を飛翔中です。

「その特定の方法が、お前というわけだ」

 そう言って美人さんは笑いました。綺麗な顔をニタリと歪めて。

 悪霊はグラウンド脇の部室棟二階最奥の一室に潜む。

 美人さんはそう言って、いとも容易く私を屋上から連れ出してしまいました。

 問題の部室棟に向かう道中、私は矢継ぎ早に質問を繰り出しましたが、はっきり判ったことと言えば美人さんが恐采おそうね律という難読を極める名字をお持ちである事、律さんがこういう仕事を収入源としている事くらいで、後の質問は無視されるか要領を得ない答えが返ってくるかでした。

 特に私の現状に対する質問への返答は難解を極めました。

「地縛霊を場に縛り付ける縛めを私に転嫁した。要するに今のお前は私に縛された霊という事だ」

 以上の理論によって私は屋上を脱し得たのだそうですが、なるほどさっぱり判らんとしか返答のしようがありません。

 こちらとしては、無様を極めるこの状態について更なる説明を求めたいところなのですが、部室棟の入り口で偶然出会した野球部員の金属バットが、あれやこれやの経過の後に律さんの手に収まってしまった今とはなっては、声を掛けるにも相応の勇気が必要であり、場合によっては悪霊以前にこちらが殴り倒されかねません。

 そういう訳で、私は静かなること林の如しと黙して律さんの頭に下半身を埋め、馬上の人ならぬ頭上の人となって大人しく揺られているのでした。

 どうしてこうなった?

 頭の中では現状に対する疑問符が乱舞し、聞きたい知りたい確かめたいとの衝動が活火山のマグマよろしく蠢いているのですが、所々の塗装が剥がれ落ちた金属バットのきらめきにはマグマの噴出を押し留めるだけの凄味が有りました。

 このままでは膨れあがった疑問の内圧で頭が爆ぜかねないと判断した私は、やむを得ず疑問の焦点を別のポイントへ移します。

 恐采律という女性は徹頭徹尾謎めいていますが、なによりも私の関心が向いたのはこの美貌の女性が身に纏う衣服です。

 黒のジャケットの下には無地の黒シャツ、黒のパンツに黒のブーツと全身を黒で覆い尽くしたそのファッションは、クールビューティの名に恥じぬ冷たく整った容姿と一筋の清水を連想させるしなやかなスタイルの律さんには、大変良く似合っていると思います。

 ですが、黒を使うにしても節度と限度があるはずです。

 シャツの色を黒以外に変えるだけでも全体の印象は変わりますし、靴やジャケットとは少しだけ違う色のパンツを履いても良いと思います。と言うよりも、もう少し身に纏う色に幅を持たせるべきです。

 私のような平々凡々の顔とスタイルの持ち主からすれば、羨ましすぎて妬む気にもなりゃしねえ輝ける美貌を、沈鬱で硬質な黒一色に染め上げるその無頓着さを私は声を大にして非難したい、可能であれば悪霊なんぞそっちのけでショップに乗り込みたい。着飾ってやりたい。そして私は、華麗に変身した律さんを見て格差社会の現実に打ちのめされるのです!

「ここか」

 私が脳内で律さんのファッションに噛み付いている間にも、律さんは一人黙々と足を進めていました。そして今やその足は止まり、律さんと私の視線は一つの薄っぺらい扉に釘付けになっております。

 部室棟の二階際奥、確かにそこには奇妙な扉が有ります。並立する他の扉には運動部の表札が軒並みに掛かっているのですが、この扉にだけはそれが有りません。代わりに赤の油性マジックで数個の文字が大書された紙がガムテームで貼り付けられています。

 紙にはこうあります。


『立入ヲ禁ズ』


 如何にも、実に如何にもです。私のような怖い話を聞いた夜はトイレに行くのが怖くなる症候群の老若男女が避けて避けて避け通してきた類の話題、その話題の渦中となる舞台。それが今、目の前に有るのです。

 私自身この手の話題は可能な限り避けてきたのですが、そういう類の人間にはなぜかその手の話題を吹き込みたがる人間がバリューセットよろしく付いてくるもの、私とてその例外ではありませんでした。

 私にこういう類の話を吹き込む事に事に血道をあげていた級友は言いました。

「この部屋に入り込んだ者は酷い目に遭う」

 という、凄まじく素っ気ない内容であるにも関わらず我が校七不思議の一つに数えられる開かずの間。それが、部室棟二階最奥のこの部屋なのです。

 律さんの手がドアノブを回しますが、ガチャガチャと鳴るばかりでドアは一向に開きません。開かずの間ですので当然と言えば当然ですが。

「クソッ」

 律さんの口から罵声が漏れます。鍵を借り受けてこなかったのでしょうか。クールに見えて意外とドジな所も――

 不意に知覚されたのは音と光でした。ガヅッという固い物と固い物がぶつかる音、そして謎の閃光、それらの正体を確認しようと目をやった先には、ドアノブを完全に破壊された開かずの間のドアが有りました。

「いやいやいやいや、律さん、これ、いーんですか!?」

 回して駄目ならぶち壊せだなんて、どこの世界のルールでしょうか。

「悪霊を消せとの依頼は受けたが、ドアを壊すなとは言われていない」

「いや、そういう問題じゃないと思うんですけど……」

 幸いにして今はクラブ活動真っ只中の時間帯、この部室棟を使用しているクラブの全てが運動部ですので当面はこの騒ぎが誰かの目に触れる心配はありませんが、どうにも行き当たりばったりの感が漂います。

 この人は大丈夫なのかという私の懸念をよそに、律さんはドアノブを失ったドアを押し開け、闇に包まれた開かずの間の内部へと歩を進めていきました。

 律さんの頭上で揺れている私も必然的に開かずの間に踏みいる事となったのですが、それはなんとも恐ろしい体験でした。

 私はこれまでの人生において闇と暗さを区別して考えるという発想には至っておりませんでした。灯りを消した自室の暗さも、夜の街路を覆う暗さも、人工の光が及ばない大自然の夜の暗さも、全てが均質の闇であると考えていました。

 しかし、それが極めて浅はかな理解であると、まさか死んでから思い知らされるとはそれこそ思いもしませんでした。

 開かずの間の内部を覆う闇は、物質であるかのような粘性を帯び、微かに蠢いているように感じられました。闇は侵入者である私達を覆い、肌を這いずり、鼻孔を塞ぎ、耳の穴から脳へと至り、恐怖と狂乱を喚起せんと脳の内部で蠢きのたうちまわっています。

 背後ではドアノブを失ったドアが恨めしそうにきいぃっきいぃっと泣いてます。

 私は震え、自分の浅はかさを呪いました。屋上に閉じこめられた時の絶望が、屋上から滑り落ちていく時に感じるはずだった恐怖が、巨大な波のようにして一斉に襲いかかってきます。

「恐れる必要は無い」

 恐怖に震える私の耳に律さんの声が届きます。その声は最初に出会った時と全く同じドスの利いたハスキーボイスでした。

 律さんの声から少しして、部屋に明かりが灯りました。それは魔法でもなんでもなく、律さんの手が照明のスイッチに触れただけの事だったのですが、私の心を覆っていた恐怖はまるで魔法にでも掛かったかのようにあっさりと霧散してしまいました。

「悪霊が淀ませた空気にあてられただけだ。慣れればどうと言うことは無い」

 律さんの言葉は「専門家ってテレビに出てそれっぽい事好き勝手喋るだけの仕事でしょ? 私、将来は専門家になりた~い」という級友の緩すぎる発言にうっすらと同意していた私の認識を根底から改めてくれました。さすがは専門家、頼りになります。相変わらずなにを言っているのかさっぱり判らんですが。

 開かずの間の中は閑散としています。

 在るのは埃を被ったスチール製のテーブル、その回りに転がる数脚の椅子、他には物らしい物も無く、悪霊らしき存在も見当たりません。ただ、左手の壁にある窓には外側から木の板が打ち付けられており、この部屋に怪異が潜む事を暗示していました。

「ここに、居るんですよね?」

 自分でも声が上擦っているのが判ります。恐怖か、それとも単なる緊張か、ひょっとすると武者震いでしょうか。

「通例なら、暗い場所だな」

 テンションを上げている私とは対照的に、律さんは平然とした様子で床に影を落としている椅子をバットで殴り飛ばしました。

 椅子がバットに打ち据えられる瞬間に閃光がひらめき、私はさきほどドアの前でちらりと見た謎の閃光の正体を知りました。

 当然ながら閃光発生の原理は不明です。しかし、もう質問を発したりはしません。説明されたって理解できない単語の羅列に翻弄されるのがオチですから。

 全ての椅子は律さんの華麗なスイングにより粉々に破砕されました。後には最大の大物であるスチール製のテーブルが残るのみ。

 律さんはためらう様子もなくバットを両手で構えると、流れるようなフォームでバットを一閃、重く頑丈そうなテーブルはひときわ派手な閃光の中で微塵に砕け散り、その名残が壁に鋭く突き刺さりました。

「……居ないな」

 律さんが呟きました。

「居ませんねえ……」

 その頭上で私も呟きます。開かずの間にはもう影を落とす物体は残っていません。となると、悪霊は何処に行ったのでしょうか。単なるデマ、或いは律さんの妄想、はたまた或いは――

 不意に律さんの頭が前に揺れました。それに釣られて私の体もカクンとつんのめり、床と律さんの下半身が視界に入りました。

 埃まみれの床を踏む律さんの二本の足、その右足に奇妙な膨らみが見えました。それは、律さんの纏う黒装束よりも黒く、霧のようにぼんやりとしています。

 ですが、確かにそれは人の手の形をしていました。

「律さんっ!」

 私の叫びに律さんは反応しません。ぶつぶつとなにかを呟き、ガタガタと震えています。

「律さんっ! 律さんっ!! しっかりしてください!!」

 懸命の呼びかけも一向に成果を上げず、焦った私は空いている両手で律さんの顔を叩こうとしましたがそれも功を奏しません。私の手は虚しく律さんの顔をすり抜けてしまいました。

「あぁ……どうしよう、どうしよう……律さんっ! 律さんっ!!」

 あのぼんやりとした黒い右手が悪霊の物である事に疑いの余地はありません。律さんがなんらかの攻撃を受けているのは明白です。なのに私は律さんの頭上で、ただただ泡を食って居るばかり、情けない話です。

「……いかよ」

「律さん……?」

 律さんの震えが不意に止まりました。

「ぬあああああああああああっ!!」

 咆吼と同時に律さんは左脚を前方に振りだし、その勢いで体を反転させ、右足を掴んでいる手の奥へとバットを振り抜きました。

 水を含んだ重い物が潰れる様な音、そしてあの白い閃光、それに続く苦悶の呻き。それらの全てを振り切って、律さんは前方に飛び退き身を翻しました。

 そして、ようやく私と律さんは悪霊の所在を視界に収めたのです

 律さんの足を掴んでいたと黒い手が引きちぎれて床に転がっています。そして、手を引きちぎられた腕が電灯のスイッチの真下に有るコンセントの穴へするすると消えていくのが見えました。

 通例なら悪霊は暗い場所に居る。律さんのその言葉通り、悪霊は潜んでいました。コンセントの穴のその向こう、電気配線が走る暗くて狭い壁の裏に。

「律さん、大丈夫ですか? 怪我とかしてませんか?」

 悪霊の戒めから脱した後も律さんの呼吸は荒く、俯いたままぜいぜいと喘いでいます。

「律さん、悪霊は壁の裏です。配線を這わせるスペースの中です!」

 天井に据え付けられた長方形の蛍光灯が不意に明滅し、大きな音を立てて砕け散りました。

 部屋の中を照らすのは、ドアノブを壊されたドアに開いた穴から漏れてくる微かな光だけとなり、視界が極端に悪くなった状況の中に、私達は立ち尽くしています。

「律さん、ぼ~っとしていては駄目です!」

 そう言ってはいますが、私にはなんの腹案も有りません。ただ、ひたすらに専門家・恐采律の復帰を願い、叱咤激励するのが私にできるたった一つの冴えたやりかたでした。

「うるせぇ……」

「……はい?」

「うるせぇってんだよ!!」

 そう叫ぶや否や、律さんはバットを握り治して床を蹴り、さきほど悪霊の腕が逃げ込んだコンセントカバーをゴルフ風味のスイングで撃ち抜きました。閃光が走り、コンセントケースは粉みじん、ついでにコンセントケースの上部の壁を勢いの余ったバットがえぐり取ります。

「あの悪霊野郎、人の傷をエグりやがって……私に彼氏が居ねぇのが、テメェに関係あんのかあああああぁッ!!」

 君子豹変す、冷静冷徹冷酷を体現したクールな様相を一変させて、律さんは壁にバットの先端を叩きつけてコンセントケースの裏の穴を拡張していきます。

「クソッ! クソッ! クソがあああああああぁ!」

 拡張した穴にバットを突き入れた律さんは、左手でバットのグリップエンドを押え、どっちが悪霊だか判らないほどに憎悪の篭った叫びを挙げました。

「リア充はなぁ……まとめて地獄に落ちりゃ良いんだあああぁ!!!」

 果たしてそれは呪文の類か、或いは怨嗟の咆吼か。そのどちらであるか定かではありませんが、この言葉がもたらした効果は決定的でした。

 穴の中で白光がきらめくと同時に、ちょうど私の目前に有った電灯のスイッチからも白光を伴った爆発が起こり、闇を明るく照らしました。

 熟れた果実が地面に落ちて潰れるようなベシャリという音が背後から聞こえ、律さんと私はそちらの方を振り返ります。

 そこで見たのは、床に這いつくばっている人の型をした闇。紛れもなく律さんの足を掴んでいた悪霊でした。蛍光灯が有った場所に穴が空いている事から推測するに、そこから落ちてきたのだと思われます

 悪霊の体からは白色の煙が上がっていて、それが視認を助けました。甚大なダメージを負ったと見える悪霊は苦悶の呻きのような音を漏らしながら、手足を動かして懸命にもがいています。バットを引き摺りながらゆったりとした足取りで近づいて来る律さんから逃げるように。

「悪いか?」

 俯せになって這いずっている悪霊を見下ろし、律さんが呟きます。

「悪いのかと聞いている」

 律さんは、バットを両手で上段に構え、そして――

「一人も友達が居ないのが悪いのかと聞いているんだ」

 悪霊の頭部に振り下ろしました。閃光が走りましたが、その光量は以前よりもずっと弱く、悪霊へのダメージも致命的とは言えません。

「寂しさ高じて、抱き枕に名前を付けているのが悪いのか?」

 もう一度頭に向かってバットを振り下ろします。ゴッ! という重い音が響き渡りましたが、閃光は殆ど出ていません。

「合コンに強引に参加して、誰とも話せずに隅っこで縮こまってるのがなにか悪いのか?」

 さらにもう一度。

「確かに大学に入った時は、友達大盛り恋人付きのキャンパスライフを夢見ていた。それになにか問題が有るのか?」

 一際強く、バットが振り下ろされました。

 悪霊はもう殆ど動いていません。ただ、律さんの振り下ろす金属バットが頭部に打ち付けられる瞬間だけは、まるで電気を流されたかのようにビグンと手足を硬直させるのです。

「答えろよ、なにが悪いんだ? えぇっ?」

 律さんは執拗に、しかし慎重に力を加減してバットを叩きつけました。

 怨嗟の言葉と共に何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 振り下ろされるバットの音に怯えながら、私は級友の言葉を思い出していました。

「この部屋に入り込んだ者は酷い目に遭う」

 確かにその通りでした。あの悪霊には触れた人の触れられたくない過去を強引に掘り起こす力が有る様子。もし、そんな物に触れられていたらと思うと背筋を冷たい物が走ります。

 しかし今、酷い目に遭っているのは悪霊の方なのです。私のリアクションを楽しむためだけに怪談に精通したと豪語する級友でも、さすがにこの展開は読めなかったでしょう。

 やはり、まことに恐ろしいのは生きている人間なのです。振り落とされたバットがグジャッと嫌な音を立てるのを聞きながら、私はそう痛感しました。

 律さんの息が上がりバットを振う速度に陰り見えて来た頃、ついに悪霊はピクリとも動かなくなりました。

 律さんは「チッ」と、忌々しそうに舌を打つと、だめ押しとばかりに頭部にバットを叩き込みましたが、悪霊はなんの反応も返してきません。

「……ここまでか、まだ消えられても困るしな」

 そう言うと律さんは、恐怖に震える私の腕を掴み、強引に頭から引き摺り降ろしました。

「さて、次はお前だ……」

 そう言って律さんは、まだ微かに狂気の宿る目をこちらに向けてきました。

 ヒッ、と息が詰まり、既に停止しているはずの心臓がバクバクと音を立てている様な気がしました。

「た、たたた、助けて下さい……私、なにも聞いてません……絶対誰にも言いません! だから……」

 逃げないと。そう思いはするのですが、体に全く力が入りません。手も足もまるで棒になったかのように動かず、尻餅をついたまま後ろに這いずるのが精一杯でした。

「勘違いするな、約束は守る」

 私の恐れ戦く様子を見て、律さんは溜息を吐き忌々しそうに頭を掻きむしりました。

「まあ、色々とな……有るんだよ、こっちも」

 そう言って、律さんはバツが悪そうにそっぽを向き、言葉を続けました。

「疲れたか?」

「はい……」と、私は答えます。疲労感のような物は感じませんが、全身が脱力し、歩く事はおろか立ち上がることすらままなりません。

「すまんな、力を使わせすぎた。それでだ、謝礼についてだが……」

 謝礼! なんとも甘美な響きです。あの屋上という牢獄のくびきから脱するために、身の危険を覚悟して律さんに協力を申し出た事が遠い昔のように思われました。実時間に置いては小一時間くらいしか一緒に居なかったのに、一心不乱に悪霊を叩きつぶす律さんはあんなに恐ろしかったのに、今の私の心の内には恐采律という人に対する暖かい気持ちが満ちています。友情とも愛情とも違う、苦難を共にした者に対する信愛の気持ち。律さんの胸にもきっと同じ気持ちが宿っている事でしょう。短くて悔いの塊のような人生ではありましたが、恐采律さんという素晴らしい人と出会えた事は、私のくだらない人生の最後を素晴らしく彩ってくれました。ありがとうございます、律さん。本当に。

「最初に言ったと思うが、私にお前を成仏させる力は無い」

「……はい?」

 有り得ない言葉を聞いたような気がします。聞き間違いの可能性もありますので、きちんと確認を取らないといけませんね。

「……成仏させてくれるんですよね?」

「成仏の手助けをするとは言ったが、成仏させるとは言っていない」

「えっ? えっ? えええええええぇ!?」

「落ち着け、ちゃんと説明する」

 落ち着けと言われて落ち着ける状況ではありません。全身に力が入らないため飛びかかりこそしませんでしたが、万全な状態なら確実に飛びかかっています。

「まず、地縛霊という状態についてだ。概ね地縛霊というのは未練が有る故にこの世に留まり、なんらかの理由でその場に呪縛されている」

 未練というのは言わずもがなの”アレ”でしょう。しかし、屋上に縛り付けられた理由となると皆目見当も付きません。まさか、本当に須永先生の毛髪の退行に責任を感じたのが原因でしょうか。

「地縛霊が厄介なのは、その場に縛り付けられている原因と成仏できない原因が一致するとは限らないからだ。例えば、自分が殺された現場に夜な夜な現れる女の霊が居たとする。この場合、殺人現場から動けなくなっているのはそこで自分が殺されたからだ。そのイメージに囚われてそこを動けなくなっているという訳だ。しかし、彼女を現世に縛り付けている未練は全く別の要因である場合が多い、子持ちの場合は子供の将来が未練になっている事もあるし、また自分を殺した人間に対する怨恨である事もある」

 私の置かれていた状態について説明する律さんの声には、出会った時の無作法さも、悪霊を殴打していた時の凶猛さも有りません。決まり悪げにそっぽを向いてはいますが、落ち着いたトーンで淡々と話すその姿は、私が初めて見るものでした。

 恐らく、これが普通の律さんなんでしょう。身の危険が常に付きまとう仕事を離れ、心の中に大量に溜め込んでいるであろう諸々のトラウマを離れ、私に納得して貰うために心を砕いている律さんの誠意は、私の動揺を少しずつ沈めてくれました。

「実を言うと、地縛霊を呪縛されている場から引き剥がすのはそう難しくない。特に意図せずしてその場に留まらざるを得なくなっているような場合は簡単だ。現にお前も屋上を出てこの場に居る」

 私は黙って頷き、律さんの次の言葉を待ちました。

「しかし、成仏となると話は違ってくる。なぜなら、成仏できない原因は内向的な物である場合が多いからだ。なにかが出来なかったという後悔、もしくはなにかをしてしまったという後悔。後悔に縛り付けられている霊を強制的に成仏させるのは私には難しい。私にできるのは、この世に残した未練を断ち切る手伝いをする事くらいだ。それで、だ……」

 と、律さんはこちらを向きます。

「お前の未練はなんだ?」

 さて、ここで問題が発生しました。

 さきほどの悪霊惨殺事件における律さんの言動から察するに、どうやら彼女は交友関係において心に深い傷を負っている様子。私が『告白』という未練を告白する事によって心の傷を抉りはしないか、その結果としてあの金属バットが私の頭部目掛けて高速で移動してこないか、一抹の不安が残ります。

「……笑わないで、聞いてくれますか?」

 少し怖くはありましたが、結局素直に話すのが最良の様に思われました。

 好きな人が居ること、好きな人の気を惹こうと日々無駄な努力をしてきたこと、世にも間抜けな死に方をしてしまったこと、話しているだけで恥ずかしさで憤死してしまいそうになる私の告白を、律さんは何も言わず静かに聞いていました。

「告白すれば、成仏できると思っているのか?」

 笑いもせず、怒りもせず、淡々とした口調で律さんが聞いてきます。

「はい」

「仮に告白し未練を雪いだとしてもお前はこの世から消える。成仏とはそういう事だ。極楽浄土だか天国だか地獄だか知らんが、あの世という物が仮にあったとしても、そこに至ればお前とお前が好きな奴を繋ぐ線は完全に断たれてしまう。今のように屋上から好きな奴の姿を見ている事もできなくなる」

「しっ、知ってたんですか!?」

 密やかな楽しみが露見していたという事実は、恥ずかしい身の上を告白したせいで赤くなっていた私の顔を更に紅潮させた事でしょう。

 そんな私の顔が可笑しかったのか、律さんの口元がふと緩んだように見えました。

「カマを掛けただけだ。最初に会った時から、こいつはなにを一心不乱に見ているのかと不思議に思っていてな。得心が行ったよ。お前はあそこでずっと、好きな奴を延々と見つめていたんだな」

 はい、と頷くことも出来ずに、私は俯きました。可能であればこのまま消え去ってしまいたいという気さえしています。

「辛かっただろうな」

「えっ?」

 ぽん、と律さんの手が私の頭に乗りました。

 律さんは微笑んでいました。私の頭を撫でながら優しく微笑む律さんの顔は本当に美しく、じっと眺めているだけで危うく涙が溢れてしまいそうでした。

「じゃあ、良いんだな、それで」

 なんと返答すべきかは、もう決めています。

「はい、よろしくお願いします」

 律さんは頷くと、存在を忘れかけられていた瀕死の悪霊に近づき、私を頭に乗せた時の要領で悪霊の黒い体を頭部に乗せました。

 そして、私の前に立つと、悪霊を滅多打ちにしたあの金属バットを両手で構えたのです。

「あれ? 律さん? その、なんで……そんな物騒な物を……?」

「良いか、これからお前を誰にでも見える様にする。と言っても復活等とは違う、あくまでも一時的な可視化だ。そう長くは維持できない、儀式が済んだら速やかに告白に行け、判ったな」

「は、はい。あの、それでですね。どうして律さんは私に向かってバットを構えておられるのでしょうか?」

 実に見事なバッティングフォームでした。グリップを最大限長く持つ、スラッガーにのみ許される構え、そこから繰り出される一撃の威力は推して知るべし。まともに喰らえば私の頭骨など呆気なく砕け散ることでしょう。

「気にするな、これが私にできるたった一つの儀式だ」

 ドアノブを破壊し、コンセントボックスを粉みじんにし、コンクリートの壁を抉り、悪霊を瀕死になるまで殴打したバットを向けられて気にならないはずがありません。

「り、律さん! なにか別の方法は……!」

「ない」

 単純明快、異論を挟む余地など皆無の返答と共に、バットが頭に――

 肌を流れる風の心地よさ、地を蹴る感触の懐かしさ、自らの足で歩く楽しさ、かつて当たり前だった感覚の全てが新鮮な喜びに満ちていました。

 日は殆ど落ち、まもなく夜の帳が空を覆うでしょう。グラウンドを駆けずり回っていた運動部員達は、疲れた体を引き摺って家路に付こうとしています。

 彼等が家路に付く様を尻目に、私は今度こそ敢然と行動を開始しました。

 彼が所在は既に判っています。律さんは「お膳立てはしてやる。後はお前次第だ」と言って職員室に連絡を取り、彼をしばしの間、正面玄関前に留め置くように要求してくれました。

 もはや、これは私だけの問題ではありません。自らの交友関係に深いトラウマを抱えている律さんにここまでして頂いたのです。必ずや思いを伝え、見事に成仏してみせます。

 そう思ってはいるのですが、正面玄関が近づくにつれ、私の足は次第に重くなっていきました。

 告白の結果が問題なんじゃない、自分の思いを伝える事が重要なんだ。そう判っているのに、告白の結果に思いを巡らせて暗い気持ちになってしまうのを止める事ができません。

 私は、本当に駄目な女です。

 思えば、私はずっと逃げ続けていたのかもしれません。彼の情報を掻き集め分析するふりをする事によって、私は告白という結末を先送りにし、結末の先にある結果から目を背けていたのではないでしょうか。

 あの日、もし屋上から落ちる事無く生き続けていたとしても、私が彼に告白する事はなかったでしょう。ただひたすらに思い煩い、彼との僅かな邂逅を慰めとして日々を過ごし、私では無い誰かと付き合い始めた彼を見て涙を流し、そして彼の事を忘れて別の誰かに恋をし、また同じ事を繰り返す。私は、きっとそういう身勝手で夢見がちな女になっていたでしょう。

 思えば、この告白にしたって相当に身勝手な考えです。こちらの思いを一方的に伝え、相手の立場を省みない。

 もし、彼が私の告白を受け取ってくれたとしても、その時、私はもうこの世には存在しないのです。

 相手の心にわだかまりを残すだけ、そんな恋愛が許されるのでしょうか。

 自らのこんな感情一方的に叫ぶだけ、そんなものが恋なのでしょうか。

 違います。これは告白じゃありません。こんな身勝手な物が告白であるはずがありません。

 私は本当に駄目な女です。ようやくにして気付きました。私は告白をしたいんじゃなかったんです。

 ただ、一言お別れを言いたかったのです。そう、それだけだったんです。

 鉛のように重くなっていた足が不意に軽くなりました。最早、私の行動を遮る物はありません。

 かつて恋する乙女であった矜恃を胸に、私は敢然と彼が待つ正面玄関へと向かいました。


 今までありがとうございました。さようなら。

「それで、お前はなんでまだここに居るんだ?」

 日はとうに暮れています。私は律さんと学校の屋上で、空に浮かんでいる月を眺めていました。

「いや~、その……なんと言いましょうか……」

 なぜ、私は月を見ているのでしょうか。月がとても綺麗だからでしょうか。

「その様子だと、告白はできなかったようだな……」

 私の隣で月を見上げている律さんの溜息が聞こえてきました。落胆はごもっともです。私の置かれている現状は、私を成仏させるために手を焼いてくれた律さんに対する裏切り以外のなにものでもありません。

「いえ、その……違ったんです。私は告白したいんじゃなかったんです。ただ、お別れが言いたかっただけなんです。今までありがとうございました、って……」

「それで、お別れは言えたのか?」

「言えました」

「じゃあ、なんでここに居るんだ?」

 私は一生懸命に月を見上げています。見上げてなければならないのです。そうしないと、目から涙がこぼれてしまいそうだから、月を見上げているしかないのです。

「あの、すいません。誰ですか?」

「なに?」

「あの。すいません。誰ですか? って言われました」

 沈黙が屋上を支配しました。律さんは一体どんな顔で私を見ているのでしょうか、そして私は一体どんな顔をして月を見上げているのでしょうか。

「おい、なんだそれ!?」

 驚きの余り律さんの声が跳ね上がりました。

「その、彼は、私の事、全然、覚えてなかったみたいで……」

「いや、待て。色々とおかしいだろ。お前はその男の事が好きだったんだろう?」

 こくりと頷いた拍子に、とうとう涙が溢れてしまいました。一旦流れ出した涙はもう止まりません。

「判った。まあ、まずは落ち着け」

 律さんは屋上の手すりにもたれ掛かって啜り泣く私の背中をそっと撫でてくれました。

「それで、なんでそんな無様な事になったんだ?」

 ようやく涙も出尽くした頃に、律さんが事情を聞いてきました。

「その……どうやら、私が恋する乙女でありすぎたのが原因だったみたいで……」

「恋する乙女って……いや、それは良い。どういう意味だ?」

「いや、よく考えてみたらですね。私、彼と殆ど話した事が無かったんです。それにクラスも違うから……面識も殆ど無くて……」

 突き刺さるような視線を感じます。

「面識も殆ど無く、影からこっそりと見つめ続けている……ストーカーだな」

「……合コンに押しかけて壁の花になってる人に言われたくないです」

 二人の間を流れる空気が音を立てて凍り付き、醜い舌戦の始まりを告げるゴングの代わりを果たしました。

「今時、花も恥じらう乙女気取りか? なんだ恋する乙女ってのは。そんな恥ずかしいセリフ臆面も無く吐けるくらいの恥知らずなら、告白の一つや二つなんでもないだろうが」

「それを言うなら律さんだって、キャンパスライフでしたっけ? しかも、友達大盛り恋人付き? いつの時代のドラマですか? 頭の中が少し古いんじゃないですか?」

「一人で滑って屋上から落っこちるドリフ紛いのボケを二十一世紀にやらかす馬鹿に言われたくない」

 実に醜く、そして虚しい戦いでした。戦いは不毛です、繰り出した攻撃が高確率で自分の身にも跳ね返ってくるような場合は特に。

「だいたい抱き枕に名前を付けるとか、どんだけ寂しい人生歩んでるんですか! 人の事をとやかく言う前に自分の人生を見つめ直す事をお勧めします!」

 そう叫んでいる間にも、生前、自室のベッドの枕元に置いていたベア九郎の事が思い出され、私の心は急速に渇いていきました。

 ベア九郎は異様に大きな両手を持つ、抱きかかえるには最適な大きさの茶色いクマのヌイグルミです。造りは徹頭徹尾安っぽく、顔のパーツの非対称性は新鋭芸術の類、或いはスプラッター映画の小道具を思わせ、私の部屋を尋ねて来た友人達からは軒並み不評を賜り、親戚の女児に至っては見せた途端に泣き出す始末。

 ぬいぐるみとしての商品価値は底辺中の底辺、引き取って頂く際にはこちらから金銭を差し上げねばならない等々、数々の罵詈雑言を一身に浴び続けたベア九郎ですが、私はその抱き心地が大変気に入っており、夜な夜なこのヌイグルミを胸に掻き抱き眠りについておりました。

 恋する乙女となってからもそれは変わらず、思いが高じて眠れない夜などはベア九郎を愛しの彼に見立てて妄想の海にダイブ。このような私と、抱き枕に名前を付けて悶々とした夜を過ごす律さんの間にどの程度の違いがあるでしょうか。

 私の舌は徐々に鋭さを失い、律さんの言葉からも少しずつトゲが抜けていきました。そして終いには

「馬鹿だろ、お前……」

「……馬鹿って言う方が馬鹿なんです」

 等という小学生にすら指差されて笑われそうな罵倒をやけくそ気味に投げつけあう始末。この、ゲリラ戦法も裸足で逃げ出す泥沼の中で、私は悟りました。

 私と律さんは、同じくらい駄目な人間だと。

 律さんも同じ思いを抱いているであろう事はその表情から窺いしれました。私達は言葉を失い、煌々と光る月の下、巨大な虚無感を抱え、申し合わせたようにして同時に盛大な溜息を吐きました。

「もう良いです、死にます」

「いや、死んでるだろ」

「じゃあ、成仏します」

「しろよ」

「できません、させてください」

「無理だ」

「じゃあ、成仏させてくれる人を紹介して下さい。もう、こんな世界に一分一秒たりとて居たくありません」

「尚のこと無理だ。死人に名前を付けるだけで数十万ふんだくられる世界なんだぞ。成仏したいなんて話になったら一体幾らか毟られるか知れたもんじゃない」

 また、二人同時に溜息を吐きます。

「これから、どうするつもりだ?」

 律さんが呟くように聞いてきました。

「律さんは、どうするんですか?」

「またどこかで、今日みたいな仕事をするだけだ」

「大学に行ってるんじゃないんですか?」

「……まあ、時々な」

 そう呟いて月を見上げる律さんの横顔はとても寂しそうでした。

 思えば奇妙な話です、なぜこの人は私が見えるのでしょうか、なぜ悪霊退治なんて危険な事をしているのでしょうか。

 これらの事柄に興味が無いと言えば嘘になります。

 しかし、律さんの寂しげな横顔を見ていると、自らの好奇心を満たすためにそのような疑問を呈する事が、酷く悪いことの様に思えてなりません。

 私の視線に気付いたのか、律さんは月を見上げるの止めて私の方に視線を戻しました。

「それで、お前はどうするんだ?」

「……成仏する為に頑張るつもりです」

「そうか、アテは有るのか?」

「はい」と、私はにこやかに答えました。そんな私を律さんは大層不思議そうに見ています。

「まあ、有るなら良い。それじゃあな……」

 そう言って、律さんは私に背を向けました。まだ、私の言うアテがなんなのか理解してないようです。

 私は、ほっという間抜けな掛け声を共に飛びました。律さんの頭上へ向けて。

「これで……よしっ! 大成功ですっ!!」

 下半身を律さんの頭頂部に埋没させ、上半身を無様なトーテムポールよろしく律さんの頭上に聳え立たせながら、私は歓喜の声を上げました。さすが私、やればできる子です!

「なっ!? なにをやってんだ、お前は!?」

 背後からの不意打ちに律さんは慌てふためいています。

「アテを頼っております!」

「何時から私がお前のアテになったんだよ!」

「たった今です、なう!」

「意味が判らん! 離れろ、おい!」

 律さんは私の腕を掴み強引に引き剥がそうとしますが、それも想定の範囲内。離れたくない、絶対に離れまいと心の底から念じる私は、律さんの体内に根を張ったかのように微動だにしません。

「ええっと、地縛霊を場に縛り付ける縛めでしたっけ? 未練や思が霊をその場に縛り付けるんですよね? 私は今、強く念じております。律さんから離れたくないと!」

 暗記科目にだけは強い性格がこんな所で役に立つとは思いませんでした。人生、たとえ死んでしまってもなにが幸いするか判ったものではありません。

「なんでだよ!」

 私を引きはがそうと全力を振り絞りながら律さんが吼えました。

「ずっと不思議だったんです。もし、律さんは私が居なかったらどうやって悪霊と戦うつもりだったんだろうって。律さんは、私のなにかを利用して悪霊を叩き殺したんですよね? もし私をここに置いていったら、今後の律さんのお仕事はきっと安定性を欠く事になると思うんですよ。だから、私が憑いていきます!」

 そして儲けをピンはねして成仏用の資金を貯めます。とまでは、今は言わない方が得策でしょう。

「誰も頼んでないだろ! さっさと離れろ!」

「いや、もうほんとお願いします! 迷惑は掛けません! ぶっちゃけ律さんしか頼れる人が居ないんです!」

「命がけの仕事だ。お前が考えてる程甘くはないんだ。さっさと離れろ、でないと……」

 律さんの目が俄に冷たい光を帯びました。

「でないとなんだって言うんですか! 律さんこそ、私を甘く見ています!」

 私は決然と律さんの冷たい瞳をにらみ返しました。

「私にはもう律さん以外に頼れる人が居ないんです! 律さんに見捨てられたら、私はまた誰とも話せない、誰とも触れあえない存在として一人で暮らしていくしかなくなるんです! そんなの嫌です!」

 身勝手な物言いだし一面的な見方をしているとの自覚はあります。しかし、これ以外に私が取れる手段は有りませんでした。

 私という幽霊がいるならば、私以外の幽霊もまた存在するでしょう。現に悪霊という形でありましたが私の同類は確かに存在していました。

 でも、同じ幽霊と出会って、そして私はどうすれば良いのでしょうか。その幽霊もまた私と同じく皆が生きる時間から隔絶された壊れた時計でしかないのです。確かに同類として慰め合うことはできるでしょう。しかし、そうやってお互いの境遇の不幸を歎きながら何時まで続くか判らない不毛で不安定な時間を過ごす事に、一体なんの意味があるのでしょうか。

 屋上の地縛霊となった時、可能性の無い状況が人を狂わせる事を私は知りました。なにも為し得ない、なにも起こらない、希望すら無い状況に心は堪えられないのです。それは幽霊となっても変わりません。だから、私は成仏を目指したいのです。それが自分という存在の完全なる終焉であったとしても、自らの意思でそこに向かいたいのです。

 だから、ここで退くわけにはいかないのです。絶対に。

「危険がなんだって言うんですか! 命がけだからなんだって言うんですか! 私にはもう命もなにも無い、失う物なんて無いんです! だから、お願いします。私を見捨てないで下さい……」

 沈黙が二人の間に垂れ籠めました。私は目を閉じ、体を強張らせて律さんの返答を待ちました。

「……勝手にしろ」

 吐き捨てるような言い方でしたが、律さんは折れてくれました。

「あっ……ありがとうございます!」

 頭上で深々と頭を下げる私に目もくれず、律さんは忌々しそうにと呟きながら屋上を後にしました。

「しょっぱい悪霊を消すだけの簡単な仕事だったはずなのに、トラウマ抉られるわ妙なのに憑き纏われるわ、なんなんだ今日は……」

 階段を降りていく律さんの頭上で揺られながら、私は開け放たれままのドアから見える屋上の風景を見つめています。

 そこには、私が落っこちた箇所に置かれた大量の花束が、煌々と光る月の下で寂しく佇んでいました。

 律さんの歩調に合わせ、少しずつ階段の影に隠れていくその光景を見ている私の胸の奥で、壊れていたはずの私の時計がちくたくと音を立てて動き始めた。

 そんな気がしました。

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