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チョロインがいない世界で転生チートを手に入れた俺による圧倒的無双劇 ~ 超ダンジョンスタンピードを解決したとて新たなる恋は始まらないらしい ~

作者: 幾楽あくた
掲載日:2026/02/15


 スーパー・ミラクル・グラハム指数・マッハ・パンチ。正式名称、コツを掴んだアッパーカット。効果、最難関ダンジョン『新宿駅の大穴』の深層部のユニークボス、ハーデスドラゴンを一発でぶっ殺せる。


 へいへいへいへい。クソトカゲ! そんなくせぇ大口開けて女の子を襲ってんじゃないぜ? 俺の目の前でバッドエンドは許さんよ?


 瀕死となり、すでに意識を失ってしまった仲間を庇おうとして、気丈にも折れた剣を構えた美少女。

 うわ、何この子、天使か何か? 


 そんな感想を抱きながら、俺は骨で編みこまれた表皮を持つ全長15メートルのオオトカゲの顎をパンチでカチ上げる。

 この時点で骨トカゲの脳みそがパーンしてるのは確定的明らかだが、彼女の顔を見た瞬間、ちょっと格好をつけたくなってしまった。


 シルクのように白い髪に蒼い瞳、傷だらけではあるが真っ白な肌、神様が気まぐれに『千年に一人の美少女作っといて』とか言って作ったに違いない整った顔。

 しかも、仲間を見捨てない性格の良さである。完璧じゃないか!


 美少女が、ドラゴンの顔面が大きくのけぞったのを目の当たりにして目を見開く。命が助かった事の理解が追い付いていないのだろう。だが、いま目の間に、この俺がやってきて君とドラゴンの間に入った事は解かるだろう?


 理解が追い付くころには、君はもう完璧な安全を確信する事だろう。だって、ドラゴンは今から一刀両断に切り分けられる運命にあるのだから。


「――断」


 即席でそれっぽく技名を唱えて、あたかもスキルを使ったかのようにして、ドラゴンの正中線を引きちぎる。ただの身体能力による腕の振り下ろし――すなわち衝撃波とか真空波とかそういう物でスパンとだ。


 ずずん。と音を立てて切り分けられたドラゴンの巨体が左右に開かれて倒れる。


 あまりの巨体だったためにその倒れ方はゆっくりに見え、しかし衝撃は凄まじい物であり、局地的な大地震が起きたかのように大地が揺れる。俺の背後で彼女がぺたんと腰を抜かして尻をついた。

 その様子を気配で察して、しかし慌てずにゆっくりと振り返る。


「――大丈夫だったか?」


 ぽかん、と目と口を開けたまま、驚きのままに彼女は俺の顔を見上げる。

 俺の背後では迷宮魔力返還現象によってドラゴンが黒い塵芥となって風に舞い始める。


 上目遣いの彼女と目があった。

 恥ずかしいのか、ふいっと目を逸らされてしまう。

 

 はい可愛い!


 こんなにかわいい顔が見られただけでも、彼女を助けに入った価値があった。俺は満足です。ええ、満足ですとも。


 おっと、こんなだらしなく締まりのない顔を彼女に向けたらだめだな。どうやら彼女も配信をしているようだし、おそらく彼女の同接10万を下らない。振り返ったところで彼女のドローンに移る俺の顔がダサかったら華々しい全国デビューが水の泡だ。

 彼女に一目ぼれとかされちゃわなくとも、全国の誰かは俺に気を止めてくれるかもしれない。ワンチャン友達見つかるかもよ? なんてな。

 そんな事ばかり、脳内では高速で考えてる。

 さて、じゃあ彼女と、彼女のお仲間も救出して、このダンジョンから脱出しますかねっと。

 

「災難だったな。立てるかい? 外まで案内するぜ? ああ、その子たちも俺が運ぶから心配いらないぞ」


 魔法を使って二人の女の子たちをふわりと浮かせる。風と重力の魔法の複合である。おっと、何気に無詠唱でこれをやってのけるなんて高等技術なんじゃないかね? ふはは、すげえだろ?

 なんてな。人助けなんてのは誰かにドヤる為にするもんじゃないんだ落ち着け俺。

 テンション高めになるのを必死に抑え、そして彼女へと向き直る。

 手を差し伸べ、さわやかな笑顔を浮かべた俺は……。


「……ア、ハイ。アリガトウゴザイマス」


 なんかちょっと引かれていた。


 □


 転生したのは十七年前。この世界が剣と魔法とスキルとダンジョンが存在する事に早々に気が付いた俺は、赤ん坊の頃から必死になって才能を伸ばした。そして、俺は幸いな事に努力すれば努力する程に才能が開花する程度にはギフテッドだった。


 魔法の才能はそこそこだったが、それでもゼロ歳から鍛えればそれなりに群を抜く。一日感謝の正拳突きを一万回毎日繰り返せば大体強くなれる原理とおんなじだ。魔法が存在しない世界から、魔法が存在する世界にやってきた魔法にあこがれた俺たちみたいな『科学だけが育った世界線の人間』からすると、自分の能力が際限なく育てられる環境というのは麻薬めいてハマってしまう物だった。


 ゼロから言語を覚えて、ゼロから立ち上がって歩く事を思える事が出来る赤ん坊が、剣と魔法とスキルの事だけを考えて全力で努力をしたらどうなるか――はいそうです。誰でもみんな化け物じみて強くなります。脳細胞がなんかすごくそれに特化して神経を繋いだ自覚があるもんな。

 

 そんな訳でゼロ歳の頃からこっそりインターネットを見たり、国営放送で学んだりと、様々なメディアで吸収した知識と、転生者としての前世でこれは使えそうだと思った能力向上ルーティンを実践した俺は見事にこの世界の常識を逸脱した戦闘能力を獲得したのだった。

 そんな最強無敵の俺に向かって――。


「パイセンは実に馬鹿っすね」


 後輩が噛みしめる様に笑う。

 放課後の、屋上へ続く階段の、最後の踊り場。

 野郎二人がだらだらと話している。一人は俺、もう一人は後輩。後輩はスマホを横に倒してなんか動画を見ている。

 きっと大バズりした例の生還動画の切り抜きを鬼リピートしているのだろう。


「馬鹿って言った奴がばかなんですぅー」

「しかも馬鹿ッぽいセリフ言わせたら日本一なのも愛おしいっす」


 しかもしみじみ言われて俺はぐうの音も出ない。


「同接10万を叩き出している娘の配信で目立って? もしかして『あのクソつよ男は誰だ?』って言われてバズるかもと思っていたとか? ナイナイ」


 後輩は心底可笑しそうに笑った。


 巨万の富と名声を求めて人々は命を懸けてダンジョンに潜る。今も昔もこれは変わらない事らしい。かつては金銀財宝、今はこれに付け加えてエネルギー資源と――エンターテイメントが手に入る。

 剣と魔法とスキルが幅を利かせると、化学技術も驚くほど発展するが、同時に人間の狂暴性、嗜虐性、攻撃性のようなものを活性化させるらしい。

 すなわち命を懸けた探索者(ダイバー)のリアルタイムライブ中継が人気を博する世の中だ。


 ダンジョン内の、人間同士で起こる犯罪を抑制するために始まったのが起源のダンジョン探索のライブ配信、今やこれは一大エンターテイメントである。

 探索者には固定のファンが付くことが多く、人気の探索者のライブ配信の視聴者は時に数万に届く。ここまで人気が出れば年収は深層や深淵を潜る一部の採集専門家に並ぶし、何より男女ともに人気者になれる。


 無言であっても、コミュ障であっても一定数のファンがちやほやしてくれる。

 本当は楽しそうだと思いつつ、ついつい素直になれずに「俺は行かないぞ!」とか言って断ってしまうようなイベントも、強引な陽キャが図々しく誘って連れ出してくれるようになる。

 俺のようなちょっぴりシャイなナイスガイにも世の中が優しくなる。

 憧れの友達同士でカラオケに行くなんて言う高いハードルすら超えられるかもしれないのだ。


 という訳で、強くなりまくった俺が、ダンジョン探索を開始したのが一年前。世界で一番強くなったという自負はどうやら間違いではないらしく前人未到のダンジョン最下層、『《奈落の底》のさらにその下』すら余裕で探索できるようになったのだった。


 しかし……どんなに難しいダンジョンを制覇しても。

 難攻不落の要塞を単騎で落としても。

 伝説級の怪物を屠っても。

 視聴者は増えなかった。一人も来なかった。


『フェイク動画ならもっとうまくやれよ』とか『釣り乙』とか、そんな心温まるヤジすら来ない。だーれも見ない。無! どんなにすごくても見てもらえないなら意味がない! そしてごくたまに視聴者がやってくる奇跡が起きても、俺が『お?』っと第一声を上げ前にみんなブラウザバックする。


 タイトルを練ったり、俺でも制御できないようなイカレポンチなマジックアイテムを山ほど回収してきて、それで様々な実験してみたり、無謀と言われる挑戦をしてみたり、色々やったけど効果なし! 友達に頼んで観てもらおうとか、そういうの無理だ。だって友達いない。後輩はいるけど命を助けたのを理由に俺のライブ観ろとか情けないパワハラとかしたくないし!

 つぅかこの後輩、俺がライブ中継を見にこいよと言っても見に来ないだろう。今だって俺と同じダンジョンに潜っている女の子の放送に、パイセンが映り込むか確認警察だ! と言って他のライブを見に行くのをライフワークにする位に意味不明な男だ。


 今回、転移トラップに掛かった三人の美少女の危機に駆け付ける事が出来たのも、この後輩からの電話があったからこそだ。『パイセン、骸骨まみれの馬鹿でっかいドラゴンがでる階層いけますか? 罠にかかった女の子が三人、間に合うようなら助けに行ってあげてください!』そう言われておっとり刀で階層を駆け上がったのだ。


『もう二人が死にかけっす。唯ちゃんも時間の問題っす』『マジか。てか唯ちゃんって誰?』『同接10万こえました』『どうでもい――いや、え、チャンス?』『俗物っすねぇ』『間に合わせるからそれくらい許せっつの!』


 緊迫していた後輩の声は、俺が階を引き返すと言った時点で随分穏やかになったのをよく覚えている。

 そして今、後輩の声は俺をからかう物となって俺を刺す。

 

「いいっすか? いいですか? 人気探索者になるほど異性が映り込むのに気を遣うんすよ。異性には自動モザイクが入る位の機材はあの規模の配信をする女の子なら嗜みっす。パイセンが一緒にダンジョンを歩いたらユニコーンがその雄々しい角で頭突きかましてきますから、いい子ほど相手の為にも設定してるっす。解るっすか?」

「あ、はい」

「ちなみにおかげで身元は特定されてないのはよかったっすね」

「よかねぇだろ。俺チヤホヤされたんだが?」

「じゃーよかったすよ。あ、見ない方がいいっすよ? あー、もう、見ない方がいいのに……」


『こいつが転移罠仕掛けたんじゃね?』『タイミングがやばすぎ。わざわざ二人が死にかけてからとかわざとらしいだろ』『絶対キメ顔してるぜこいつ』『唯に取り入りたかったのがバレバレの助け方』『まーたストーカータイプの厄介ファンかよ』『唯ちゃん上級探索者のファン多いよね。あいつら変態多いからな』『皆ビビって注意しないから大体調子に乗ってんだよな』


 シロナガスクジラみたいな大きさのドラゴンが真っ二つに分かれる動画がリピートされる切り抜きショート動画。そのコメント欄にはなぜか俺の悪口が書かれていた。


「……なんだこの貧乏そうなハゲ共は」

「ハゲは関係ないやろ」

「お前本当に関係ないだろがい」


 まったく、人の悪口が好き連中だ。

 俺への悪態がそのまま荒らし行為になっているのはいかがなものかと、それが一番思うところである。


「今陰謀説唱える連中がパイセン下げてるんすよ。あと厄介ファンも。あとでこいつら永久バンさせるんでとりあえず今は我慢してほしいっす」


 んで、なんでかこいつの方が怒ってるし。


「唯ちゃんは探索者の中でもトップクラスに顔がいいんで、モテない雑魚どもが僻むんすよ。深く付き合うなら人気は逆に諦めないとっすね。なんで、次に活かしましょ。幸い顔も声も世間ばれしてないっすから」


 どうやら後輩は世の中の正解を言っているようだった。っかしいな、前世ですらこいつの倍くらい生きてるのに、この後輩、もしかしてワンチャン転生者じゃね? とかたまに思うんだよなぁ……。

 こいつモテすぎるから変身リングとか装備して見た目を変えてわざわざモテないように小細工しているんだよなぁ。しかも金に飽かせて俺でも見破れないレベルの深層マジックアイテムだ。そういうあたりも俺が前世で読んできたラノベの拗らせ主人公みがあるんだよなぁ……。


 そんなぼやきを内心思ったが、結局俺の口からこぼれる本音は、悟りも諦念も含蓄もない、本当に大した事のないそこらのゴミみたいなものだ。


「あの子すっごい可愛かったんだけどなぁ……」

「パイセン、あきらめましょう次っす。来世っす」

「――もっかい死ねと?」

「コミュ障は死んでも治んないんで今世で治してからリトライしましょ。パイセンが真人間になるまでは付き合うっすから」

「……真人間?」


 え? その文法だと俺真人間と思われてなくね?

 こんなに女の子にやさしくて、彼女が出来たら大切にするし、ダンジョンの産出物のおかげで子々孫々遊んで暮らせる甲斐性がある俺なのに?


「顔に出てるっすね。甲斐性があっても常識がないんすよ、前世で何学んできたんすか?」

「世間の常識と、プチブラック企業で生き抜く忍耐力」

「捨てましょう。その悲しい過去」


 盛大にため息をつかれた。


「ってところで――ところでパイセン」

「……んだよ?」


 時折見せる妙に色気を感じる笑みをする後輩に、どきりとした事はばれないようにしてぶっきらぼうに返事をする。すると後輩君はくるっとスマホの画面を俺へと向ける。


「唯ちゃん、パイセンに改めてお礼が言いたいそうっす」


 たぶん、本当に例の彼女からのメッセージが、後輩のスマホ当てに届いていた。



「友達っす。あ、変な意味じゃないっすよ? あ、ホントっす、こわっ、顔近っ! 近っ!」


 睨みを利かせる事をガンをつけるという。これのパワーアップ版がメンチを切るだ。俺の頭の上には今頃「!?」というマークが浮かんでいるだろう。後輩に顔を寄せて俺はすっごくメンチを切っていた。


「違うんすよ? 違うんです。マジで違うんです。ほら、僕の見た目ってパイセン以外には違ってるでしょ? ね、信じて」


 後ずさる後輩。その分近寄る俺。アキレスと亀ってこんな感じだっけか?

 とりあえず壁際に追いやった後輩の逃げ道を両手でふさいでから、半分涙目の後輩の言い訳を促す。


「友達は友達なんすけど、さっきも言ったっすけど、あんな人気者に男の子紹介とか無理っしょ?」

「……まぁ」

「というかっすね。まぁ彼女には誰かを紹介するという事はできない事情があるのでパイセンもあきらめてくださいっす」

「ん? ……いやまぁ別に良いんだが」


 何か奥歯に物が挟まったかのような物言いだが、俺が追及する前に、ビビるくらいの中性イケメン顔の後輩君はニヘラと、苦笑いを浮かべる。


「あの時パイセンは、たまたまパイセンが潜っているダンジョンに唯ちゃんは入っていったからっす。本当はパイセンと彼女が会わないようにと思って唯ちゃんの放送みてたんすよ」


 そうしたらいきなり彼女の周りに魔法陣が現れた。ダンジョンの、まだまだ浅い階層を冒険していた彼女たちは、あっという間に異なる階層に飛ばされてしまった。日本では、まだ数名しか辿り着けていないとされる、ダンジョンの中腹にだ。


「……なんで会わないようにしてたかが猛烈に気になるんだが?」

「彼女とパイセンを引き合わせても不幸な結果しか待ってない――暴力反対っす」


 くそ、頭を抱えてしゃがみ込むな。俺が悪者みたいじゃないか。お前みたいなひょろひょろなんてデコピン一つで死んじまうから暴力なんてふらんて。

 だがお前一言多いぞ。


「実際のところパイセン強すぎで尊敬とか憧れに結びつかなったじゃないっすか」


 頭を抱えながらビビり散らされる。俺と後輩の間柄でこんなのだから、唯ちゃんの態度はむべなるかな。そんな風に思ってしまったらもう何も言えないだろうが……。

 何も言えなくなってしまった俺の顔を上目遣いで見上げた後輩は、どうやら追撃がないと悟ったようで語り始める。


「あんなでっかいドラゴンを一撃でぶっ殺して、見せつける様に引きちぎるとか、ドン引きされて当然っす。想像してみてほしいんすけどね、気さくな核爆弾がハグしてきたらパイセンだってさすがに怖いっしょ? パイセンが倒せないような怪物をニコニコ笑顔で虐殺する異性が目の前に現れて、何となく自分に好意を持ってそうだったら怖いっしょ?」

「……はい」

「そういう事っす」


 やだこの後輩辛辣!


「え、つぅーか、俺って気さくな核爆弾? ……聞きようによっては誉め言葉?」


 とらえようによっては誉め言葉の可能性も微粒子レベルで存在するのでは? 気を取り直して自己肯定感を高めようとすると、スンッとした顔になった後輩君。


「んなわけねぇだろ」


 ぼそりと言う。うおっ!? こっわ。人類最強と自認する俺がビビるレベルだ。

 ショックのあまり絶句する俺に後輩は追い打ちを語る。


「今のパイセンは、キスをしたら前歯が消し飛びそうで、舌を絡めたら後頭部から舌が飛び出てきそうで、エッチをしたら恥骨から上が消し飛びそうって思われてるんすよ」

「六割六分死んでる!? いやいや、俺こう見えても器用なんだぞ。きっと俺ならキスだけで女の子はとろっとろになるし、エッチなんかしたらもう病みつきだ。再び俺を求める様になって――」

「悲惨な末路を辿ることになる」

「!?」


 俺が異世界転生をしてきたと知っている、唯一の人間である後輩は、豆乳の紙パックをチューチュー吸いながら呆れて言う。


「パイセン、童貞臭い妄想な上に下品っすねぇ、そのあたりは世の中の雑魚どもと同じっす。いいっすか? いいですか? 俺なら彼女を大切にするのにとか、俺なら最高の彼氏になれるのにとか、きっと俺ならキスが上手いとか、きっと女の子は俺のテクニックでメロメロだとか、そういうの、この世の予備軍と負け組の全員がイメトレしているんすよ? そして、イメトレ通りにやってみーんなその程度(・・・・)なんすよ」

「え、辛辣すぎじゃね? お前辛辣じゃね?」


 その煽るような態度、十年ぶりに再会した時にリンチされかけていたのもそれが理由の一つだったというのに懲りていないのな。

 まぁもっとも、一番の原因はいろんな人の彼女がこいつに一目ぼれした結果の逆恨みなんだけど。ちなみに俺もBSS的に逆恨みしている自覚があるんだが、俺とこいつをボコった馬鹿どもとは全く別の生き物なので悪しからず。


「いや、パイセンをバカしているんじゃないんすよ? 女っつぅのは、なんつうか……好きな相手なら全部下手でも許せるし、喜ぶもんで、逆に嫌いな相手なら滅茶苦茶プロフェッショナルでもゲロキモになるんすよ。よく言うっしょ? ただしイケメンに限るって。あれ、イケメンってその女にとってのってのが大前提なんすよね」


 こいつ、言っている事が正しければ全部許されると思ったら大間違いだぞ。そういうとこだぞ! 


「話し戻すっすけど、この世に格好つけるためのチョップでドラゴンをぶった切れる人間はいないし、命を救ってもらった程度で惚れる女の子は少数っす。あ、もちろん一部の馬鹿以外は感謝はするんすけどね。しかもパイセン、命救うたびに惚れられてたらパイセンは世界中から愛されなきゃじゃないっすか。いやっしょ? パイセンが嫌いなタイプの奴からご飯に誘われたりするのって」

「……うっす」


 正論言われ過ぎて俺が負けてしまった。くそっ、正しい事言えば正しいと思いやがって! 

 この世界で唯一、俺が異世界人であると知っているこの後輩は、当然のように俺の功績を知っている。しかも『しかたねぇなぁ! やれやれだぜ!』って具合に、ラノベ主人公を意識して格好つけて強大な敵をぶっ飛ばしてきた事を知っているのだ。……知られてしまっているのだ!


 この黒歴史を知られているだけで、俺はこの後輩に強く出られないのだ。俺が命の恩人の筈なのに……!


「ってなわけで、パイセンが自分の立ち位置を理解したんで改めて話す訳っすけど、唯ちゃんがパイセンにお礼をしたいって言ってます。で、そのセッティングを僕がお願いされたんすよ」

「え、改めてお礼とか……。実は……?」

「ねーっすよ」

「まだ何も言ってねぇだろうが」

「とりあえずねーっす」


 ジト目ここに極まれり。そんな目で俺の事を見るんじゃない。


「ま、とにかくっす。一週間後、唯ちゃんが退院した後あたりで都合のいい日ってありますか?」

「……いやぁ、お礼とか、別にいいんだけどなぁ」

「実にコミュ障っぽいビビり方でいいすね。いいっすよ、僕も同席するっすから、まずは異性とお話しできるようになりましょ? ね、パイセン?」


 うるせぇ。俺はビビってねぇよ。

 前世はきれいなお姉さんがいるお店とかで酒だって飲んだんだぞ。誰でもいいからと指名したらすっげー美人来て家賃以上の請求きてビビったけどな。

 それにモテたんだぞ。前世の俺。お付き合いに発展しなかっただけで、そりゃもうな!

 なんだよ、何も言ってねーのになんでそんな目するんだ? 泣くぞ? 累計アラフィフが泣くぞ?

 心の中で極めて遺憾の意を表明した。


「あ、そうそう。非公式で会う事になるっすけど唯ちゃんも付き添いがいる筈っすから、変な事、マジで期待しないくださいっす」


 ……変な事? ああ、そっかそういう可能性ってこういうところで広げるのね。


「今初めて期待に気付いたぜ」

「……藪蛇ってこういう事言うんすね」


 しみじみ言う後輩に俺は憮然とするのだった。



 いや、いらないのよ。本当に。改めてのお礼とか。これ強がりとか格好つけとかじゃないのね。

 人に寄ると思うけど、君たちさ、横断歩道を渡ってる小学生見つけて、道半ばで信号変わっちゃった時、助けられるなら助けるだろ? 手を引いてあげる事とかするだろ? それくらいの感覚なのよ。ありがとうって一言言われれば十分じゃね? って思わんかね? 菓子折りもって家に訪ねてこられると、ならもう助けるのやめよっかなとか、そんな事すら思うじゃん。たかが七十階層の遭難者助けるなんてさ。


「常識の欠落はなんかの病気っすか? 七十階層は、人類の一握りがいける天国に一番近い場所っすよ」

「いずれ通る道じゃん」

「パイセン天国に行けるって思ってるんですか?」

「……お前今俺の事地獄行きとか遠回しに言わなかったか?」

「いやいやそんな。天国じゃなさそうって思っただけっす。事実、天国に行かなかったからここにいるんすよね?」

「くそ、うまい事言いやがて」

「さ、緊張も解れた所でいくっすよ」


 はー、緊張する。またあの美女と対面できると思うと緊張する。俺の心は浮かれポンチである。


「ってかオシャレカフェなんだよな……。あーまた緊張してきた」 

「もともとは帝都迎賓館のラウンジの予定だったんすよ? あ、すごい、想像しただけでそこまでいやそうな顔するのパイセンくらいじゃないっすか?」

「だって礼を言われる為にまず相手と他人に気を遣うんだろ? ドレスコードがあったら服買わなきゃじゃん。こっちは成長期の好青年だぜ? 一回こっ切りならアドがねぇじゃん」

「高額納税者なのにけち臭いっす」

「うっせ」


 という訳でやってきました、小皿に乗ったサラダ一つが2000円もするお洒落全振りのカフェ。テラス席には美しい白い髪の美少女と、彼女のマネージャーなのか、いかにもビジネスが得意ですって感じの美人さんが一緒にいた。


「このたびはうちのグローリーナイツのメンバー三名の命を救っていただき、誠にありがとうございました」


 いえいえそんな。美人のお姉さんに頭を下げられると俺ってば恐縮してしまうんだってばよ。

 あの時助けてもらえなければ確実に死んでいた? ……まぁ。

 なのに助けてくれた俺に対してビビってしまって失礼な態度をとった。これに対してインターネットでは批判もかなり噴出している。え、そうなの? パッと見、俺に食ってかかる馬鹿ばっかだったけどな。

 後輩の知り合いだと知ってすぐに連絡を取ったと。改めて謝罪と謝礼を……。


 いらないよ?


 あ、そういえば新宿ダンジョン、あれから寄ってないよね? よかったよかった、もうしばらくは寄らない方がいいぞ? あ、そう? 自粛するならいい事だな。


 あのダンジョン今、不安定だから。

 なんかね、変革起こしそうなんだよね。俺が潜っていたのもちょっと下の様子を視察しようかと思ってたからだし。あそこのダンジョンマスターが部下に反逆されたみたいで……あ、ううん。なんでもないの。


「……」

「ふふっ。面白い冗談いうんですね」

「……やった。受けたぜ」


 じー。

 後輩君。君、ジト目が雄弁だよ?


「それは、他の全てのダンジョンが不安定って事かしら?」


 あ、他のダンジョンなら平気じゃないか? さっきも言ったけど今あのダンジョンは様子がおかしいのよ。本当だったらある筈のない階層に転移トラップとか、居ない筈の特殊なモンスターとかがポンポン湧き出てるから。落ち着くまで時間かかるんじゃないかな。

 調査している最中で引き返しちゃったからどれくらいヤバいかは判ってないんだ。今度再調査するし、ヤバそうなら拳骨で黙らせるからそれまでは、できれば立ち入り禁止が良いんだけどなぁ……。無名一般Fランクが進言しても駄目だよなぁ。


 ちらっと後輩を見る。

 こいつの親に進言するかなぁ。母ちゃんは有名なダンジョン関連企業だし父ちゃんは探索者協会のお偉いさんだし、なんかあの人には気にいってもらえているし。ただなぁ、探索者協会の人とあまり親密になると俺が勝手にしがらみを感じ始めるんだよなぁ……。


 閑話休題。


 危険性を確認するからしばらくはあのダンジョンには近寄らないでほしいのよ。マネージャーさん。死にたがり以外の探索者は入れさせちゃだめよ?

 あ、解っているならいいんですけどね。


「ーーところで……」


 マネージャーさんも閑話休題したそうで、俺に向かって妖艶ともいえる。きらりと眼鏡が光った気がする。

 そして始まるのはある種のセールストーク。

 そして美人どころか女性と話慣れてない俺は、斜に構えながらもついつい言葉に聞き入ってしまう訳だ。だって恋愛弱者だもの。マネージャーさんがもしかしたら俺のこと好きかもしれないとか、思いたいじゃないか。思いたい。


 え、可能なら会社のメンバーたちの訓練、戦闘指南と、緊急事態の時の救出を専属でお願いしたい?


 ……その勢いで女の子と仲良くなってもいいのかな? 例えばそこの唯ちゃんとも?

 口には出さなかったけど期待する。隣で後輩がゴミを見るようなジト目で俺を見ているが、俺は頑張って反応しない。


「パイセンすけべっすから、あんまり女の子に近づけるのはどうかとおもうんすよね……」

「えっそうなんですか?」

「おまっ、お前なんて事を言いやがる!」


 後輩が悪質な冗談を言えば、だいぶ打ち解けた気がする唯ちゃんがコロコロと笑う。ダシにされても女の子に笑ってもらえるなら、まぁ俺としては実は悪くない気分だったりする。しかも笑うのがめっちゃくちゃかわいい唯ちゃんなら文句なんて欠片もないね。

 終始笑顔を崩さない唯ちゃんだったが、俺が努力して一歩踏み込もうとすると、その間に入る美人のマネージャーさんがいる。これはさすがに、警戒されていると見ていいだろう。そして俺はこう見えて察しのいいシャイガイだ。勇気の一歩を踏み出したところで拒否されると簡単にあきらめる。それが本人であろうと、本人の関係者であろうとも。

 しょぼんと気勢を削がれる俺に、後輩の呆れたような目線が突き刺さる。


 そして、美人二人を前にやや舞い上がっていた俺に、マネージャーさんが強く牽制するように言う。


「これはまだ、発表を控えている事なのですが……唯には婚約者ができまして、色々な意味で今のこの子はデリケートな時期なんですよ。あの場であなたに助けていただいた時、ちょっと身を引いたのも、少しそれが関係しているんです」

「ハルカさん!」


 唯ちゃんがマネージャーさんの暴露にぎょっとして声を上げる。ただし、その声は非難ではなくて照れや羞恥の色が濃いのを俺は如実に感じ取った。これ俺に対するブラフじゃなくて本当の話じゃん!


「あっ……そう」


 ああ、だから後輩よ、君はあんまり乗り気じゃなさそうなこと言ってたのね……。つくづく納得だ。まぁ別に、恋なんてしてねぇし。街で見かけたかわいいあの子に、恋人がいたとか。そのレベルのショックだ。つまり、まぁその程度だ。

 でも後輩よ、たぶん誰にも言わないという個人情報的観点や友情の為とかあったんだろうけど、それならそうと言っておいてくれないか? 楽しそうに話をしてくれる美少女なんて、童貞拗らせた俺には結構な毒薬よ? オタクにやさしいギャルの存在証明位には浮足立つんだぞ?


「だ、男性と、お話できるようになったのは、その、彼の御蔭でして……だから、その……」


 耳まで真っ赤にして俯いて、恋する乙女がテレテレと。

 ……ふーむ?


「……パイセン?」

「なんか新たな扉が開きそう」

「それは開けちゃいけない扉っす! 急いで閉めてくださいっす!」


 危うく未来の恋人が不幸になる世界線を築きそうになった俺だった。

 後輩よ。偉いから俺のあばら骨にすっごいパンチをしてきた事は不問にしてやる。俺じゃなかったら骨折れている気がするし、俺も普通に痛かったんだが、まぁ許す。

 そんなこんなで話は会食は終わる。


 結局、お礼を言われて、スカウトされるという何ともわかりやすい目的の会食だった。美人二人と一時間以上お話しできた俺としては、比較的満足だ。本当だぞ? さすがの俺も、唯ちゃんとお付き合いできるとかそんな事は思っていない。ファンになったとしても歴も浅いからな。

 

 本気で推している人たちより、いち早く一大ニュースを聞かされ、しかも発表されるまでの間は秘密を共有し合う仲となる訳だ。十分と思っておこうじゃないか。……帰り際にサインと握手お願いできないかな?


 なんて、お開き寸前の心の締めくくりをしてるところで、それは起きた。


 ビュィッ! ビュィッ! ビュィッ! 

 ビュィッ! ビュィッ! ビュィッ! 


 この場にいた全員のスマホから鳴り響く緊急アラート。サイレントモードもマナーモードも貫通して国民に緊急事態を告げる。

 俺たちが呑気に会食している間に、世間には新宿ダンジョンの氾濫警報が発表された。



「パイセンパイセン。パイセンまた何か言っちゃいました?」

「ん? 俺また何かやっちゃいました?」

「……ダンジョンマスターって、なんすか?」

「俺また何か言っちゃいました?」


 じとっと、後輩があきれた視線を俺に向けてくる。

 ごまかせないか。誤魔化せないよね。誤魔化されてくれないよなー。


 ところ変わってここは学校の屋上だ。いるのは俺と後輩のただ二人。

 二人で静まり返った夕暮れの大都会を眺めている。


「ダンジョンマスター、名前も知らね? ダンジョンの一番深い部分あたりにあるダンジョンコアとペアになっているダンジョンを作る人」

「知らないっすねぇ。ダンジョンの一番深い部分に行ったことがある人類がいないから、僕も知らないっすねぇ」

「マジかよ。漫画とかラノベとかには書いてあるだろ?」

「ラノベと漫画の知識を現実のものと一緒にしないでほしいっす。あとラノベと漫画にもダンジョンコアなる物も、ダンジョンマスターなる存在も、僕が知る限り描かれてないっす」


 まーじーでー? え、ダンジョン冒険譚関係の小説とか山ほどあるのに? メディアミックスうざいくらいしてんのに? 異世界ダンジョン無双系は覇権握ってるのに? ダンジョンコアにダンジョンマスターなんていくらでも発想できそうなのに……いや、現実だからか? 富士山コアとか間宮海峡マスターとか想像しないかもな。自宅コア、自宅マスター。プロの自宅警備……。うん、誰かが発想してもあまり流行らんか。


「ダンジョンコアは壊すとダンジョンがぶっ壊れる。しばらくするとコアを失ったダンジョンはなくなっちまう。そんでダンジョンマスターはダンジョンのプロデューサーかな。ダンジョンに罠を仕掛けるとか、何階層にするかとか、どんなモンスターが現れるようにするか、そんなもんを決めて、実行するんだ」

「滅茶苦茶強いモンスターが出て、絶対にクリアできない迷路があるダンジョンとかないっすよ? 自由に決められるなら最強の要塞にしたりするのは当然誰かは試すだろうし、ダンジョンコア壊されたくないから作戦も良く練るっすよね?」


 その通り。俺だって侵入者を迎撃するだけなら悪辣な罠を仕掛ける。


「誰も侵入してこないダンジョンは忘れ去られて、消滅するんだってよ。エネルギーも集まんねーからどんどん衰退するしな。逆に人がたくさんやってくるダンジョンは長生きするし、生きているっていう充足感もあるらしい。だからダンジョンは人を呼び込もうとする。欲望を刺激したり、射幸心をあおったりしてな」


「今回のスタンピードも呼び込もうとする行動って事っす? すっすっ?」

「スタンピードって一番ダンジョンが注目される現象だからな。呼び込むじゃなくて注目を集める、宣伝って側面の方がちかいんだが……今回の話だとたぶん、消耗したエネルギーの回収を目的としているんだな」

「消耗した、エネルギー? ダンジョンの外にエネルギーがあるんすか?」

「基本的にはダンジョン中に人がはいりゃダンジョンはエネルギーを作れる。が、ダンジョンの外からもエネルギー資源は回収できるんだ」


「ほえー? ほえ?」

「沢山あるだろ、エネルギー資源。特に大都会東京ならな。滅多に成功しないが……上手くすれば他のダンジョンの資源まで持ち帰れるぜ」

「ほえほえ……あー、なるほど? 国宝は実は東京が所有数ナンバーワンと同じっすね。魔石に魔物素材。都会に集中してるっすからね」


 後輩は聡く理解した。


「そーゆーこった。ダンジョンから離れたモンスターはしばらくしたら大体死んじまうが、死んじまう前にできるだけ魔石や素材を魔力化する事が出来りゃダンジョン的にはアドだ。んで、やるからには成功させなきゃ拙い」

「拙いっすか?」

「拙いっすねー」

「ダンジョン消滅しちゃうっすか?」

「消滅まではしないだろうが、向こう数年はダンジョンマスターは命を削りながらダンジョンのモンスターやら報酬やらを用意するはめにあうだろうな。しかも今まで以上に人を呼び込まなきゃだから良い魔石も用意しなきゃだ。強いモンスターを沢山は作れないから一方的に搾取されるばかりだ。……あれ、東京だとワンチャン消滅するか? いや、さすがに窯の底までは攻略されないかな。まぁイメージとしてはメシ店屋をつぶさないために店主がしばらく貯金を切り崩すような生活を強要されるみたいなもんだ」

「ダンジョンが悪いのに世知辛い気分すね……」


 そうつぶやいた後輩が視線を下げて眺めているスマホでは、ずっと緊急ニュースを流している。


『現在都内にいる方は直ちに退去してください。これは避難命令です。また、車、バイク、自転車等の車両での移動は制限されています。徒歩、もしくは緊急避難電車、モノレール、交通バスで移動してください。あくまでも、命を守る行動を心掛け、避難誘導員の指示に従ってください。繰り返します。昨夜、新宿ダンジョンに氾濫兆候が確認されました。現在自衛軍、B級以上の探索者、並びに有志の戦闘能力者が対応に当たっています。万全の警備体制ではありますが、万が一の場合都内全域、並びに千葉、神奈川、埼玉、山梨の一部に壊滅的被害が想定されています。この場合、戦略的広域殲滅兵器の使用が想定されています。現在都内にいる方は直ちに退去してください』


 もう大騒ぎ。他国の日本大っ嫌いグループはこれを機にミサイルをこっちに向けるし、日本と対等に接してくれてそうな国はこれを機に日本に恩を売ろうと特S級クラス探索者を勝手に派遣する準備を始めた。

 そして日本中の探索者が東京に召集がかけられた。

 住民は皆退去命令に従いいなくなり、俺たち以外の一般人はもう東京にはいないはずだ。まぁ、B級探索者も一般人のくくりに入ると言えば入るのだが。


 俺は実のところランクFの木っ端探索者だ。多くの創作物の主人公の真似をして、昇級試験受けてないからな。でもたぶん、いつまでもあんまりにも人気者になれなかったらあっさり昇級する事だろう。さすがにS級探索者に上り詰めればちやほやされる筈だから。誰にも見向き去れないのってマジでつらいからな。寂しがりの俺の心は最早ポリシーなんて持ってないのである。


 とにかく、東京の、最大級ダンジョンからモンスターがあふれ出すというのは、それだけ大事なのである。


 そんな大事の中、なぜ俺が学校に居座っているかって?

 最強無敵で何物にも負けない俺は兎も角、後輩までいるのかって?

 そりゃ……。


 ズドギュンッ!


 って感じで俺は遠距離魔法をぶっ放す。ダンジョンの大入り口以外の、世間からまだ認知されていない抜け穴から姿を見せたモンスター共を撃ちぬいたのだ。


 今まで新宿ダンジョンはスタンピードを起こしてこなかったんだろうな。小さな穴の存在が世間に知られていないもんだから、今回のような異常事態の時に這い出して来るモンスターの対処は俺以外の誰にもできない。目撃者も現れないから、世間に知れ渡る頃には手遅れになる。

 一生懸命、命がけでスタンピードを防いでいる探索者さん達の努力を無駄にさせないために、俺の小さな親切的ボランティア活動って奴だ。学生の頃はボランティアに励んでいましたと、面接官のハゲデブに言えるんだから、俺のこの行為は単なるお人よしだと揶揄する馬鹿は現れないだろう。


「おー、パイセン、やっぱぱねぇっすね」

「不参加だからってなんもしないのもなんかあれだからな」


 見えてないだろうに、この後輩は俺が光線を放つと確信をもって俺をほめそやす。悪い気はしないので言わせるままに言わせている。ちなみに後輩が俺の隣にいる理由は、こいつのご両親から頭を下げられてしまったからだ。

 あのお二人は今回のダンジョンスタンピード防衛線の関係者で、俺の事を知っている。俺の実力を知っているからには、世界一安全なのは俺の隣だというのは確定的明らかである。命を張る二人から、せめてこいつを隣においてくれと言われれば仕方がない。


 小さな穴が沈静化したので、また俺は屋上で腕組みして見渡せる世界の変化に意識リソースを割く。

 

「スタンピードが失敗したら大変なのはわかったっすけど、でも旨味がでかいからする訳っすよね? 強化イベントみたいなものって考えたら、やればやる程成功率があがると思うんすけど……解説のパイセンさん?」


 そんな俺を見上げる後輩。

 成分調整された豆乳パックをチューチュー吸いながら、後輩は俺にインタビューする。


「はい、解説のパイセンさんです。えー、一回やったら周囲の魔力リソースは減るから二回目以降は大体大赤字です。以上」

「あー。じゃあ貯金を下ろす感覚っすね。でも、なんで唐突に……? 何かエネルギーが必要になるような事があるんすか? って、さすがにパイセンもダンジョンの事情は知らないっすよね」

「んー?」


 もっかいバキュン。

 一条の光が巨大な出入口とは真逆の方向へと流れていく。

 顔だけ見えたゴブリンジェネラルの頭がシュワっと。

 その近くにいた女の子がピンチになる前に救った。ピンチの後に救った方がありがたみがあるだろうけど、それってあんまり俺好みの思想じゃないかな。つうか、なんでそんな所にまだいるのよ? 


 ……って、ん? あれは……唯ちゃん?


 千里眼にて見えたダンジョンの小穴付近にいたのは、たぶん街中の逃げ遅れの避難誘導に奔走していた唯ちゃんだった。

 俺の超々遠距離射撃大魔法の存在に気が付いたみたいで、俺の魔法の軌跡を追うようにして顔を上げ、俺の方角に顔を向けていた。目が合った気がしたが、大変残念ながら、彼女の身体能力では精々魔法がどこから来たかをたどる程度。俺の顔はさすがに認識できないだろう。


 しっかしビジュアルがいいなぁ、唯ちゃん。彼氏持ちだという事を知るのがあと少し遅かったら結構ヤバかったかもなぁ。


 彼女がピンチとかになって助けたりしたら、ここから一発逆転で惚れられちゃったり……なんてナイナイ。これはさすがに自分で考えても馬鹿馬鹿しい。


 ……ま、あの子が無事に仕事を完遂できるように、気にかけてやるか。


「唯ちゃんと話した時には天才的に誤魔化したけどよ? 今あのダンジョン、ダンジョンマスターが反逆されたんだよ。ダンジョンの難易度が上手かった前任者が負けちまって、新しいダンジョンマスターが就任した。するとなー?」

「……すると?」

「負けた側はただ負けた訳じゃないんだわ。だから反乱した側もその過程で疲弊して力も失っているし、指揮系統もぐっちゃぐちゃ。で、これを挽回するために新たなダンジョンマスターがとる、手っ取り早い手段はなにかって話だ」


 もうここまで言えばだれでもわかる事だ。

 後輩も当然理解したようで、ぽんっと掌を打って納得顔。


「国内最大ダンジョンを追い出されたダンジョンマスター、新天地で新しいダンジョンを作る。美少女に囲まれて今度は小さくアットホームなダンジョンを目指します。え、元の職場がスタンピード失敗して大変だって? 戻って来いと言われてももう遅い。みたいな?」

「え、なにそのラノベ」

「パイセンがいる限りスタンピード失敗しそうだなぁって」

「……まぁ、な?」


 後輩は全幅の信頼を寄せてニコニコと笑う。

 言われて悪い気のしない俺は照れ隠しの苦笑いだ。


 さて、そのスタンピードだが、今どんな状態かな? と、後輩の頭越しに後輩のスマホを見下ろす。


 スマホの向こうでは続々と、ダンジョンの氾濫警報、氾濫情報が発表されつづけている。

 そして一番の情報源は、最前線でダンジョンに潜る配信者たちだった。


『ただいま緊急で動画を回しております。すごい事態となってしまいました』

『新宿ダンジョンに長い事潜ってきたが、こんなピリピリしたのは初めてだぞ……』

『見て! こんなに多くの探索者が集まるのなんて初めてじゃない?』

『唯のチャンネル? きてねぇよ。最前線をなんだと思ってんだ。あと五年は鍛えないとおいつけない……お前ら馬鹿か? え、死んでほしいんだが? おい今すぐ新宿来い。新宿きて役に立たない紙防壁役になれ。お前らの千倍くらい努力しているやつ馬鹿にしてんじゃねーよ。あ、そっかお前ら努力した事ないもんな。億兆倍かけても0は0だもんな』

『篁さん相変わらず視聴者と喧嘩してて草生えます。あ、今日は篁さんのサポート役です。よろしくお願いします』


 後輩が放送を切り替えて色々見るが、色んなチャンネルの声が紛れ込んでにぎやかだ。俺が一方的に知っている探索者の姿もちらほら見える。ただ、本当に有名で有能な探索者は少ない。たぶんまだここに駆け付けていないか、召集を無視しているか。

 画面を眺める限り有名なダンジョン探索者はいない。名声が実力に直結する訳ではないが、とはいえ国内実力者は把握しているし、そうでないなら配信者として有名で知っているつもりだ。新宿ダンジョンの氾濫の規模によっては数人を残してあとは足手まといの可能性が浮上してくる。例えば俺が想定する最低最悪のスタンピードだったら……いやまぁそんな事はないよな。うんうん。


 ……大丈夫かこれ。と思いながら後輩の後頭部越しに、せめて俺が知っている圧倒的強者がいないだろうかと画面の隅々まで目を見る。


 それはそうと、いいぞ極道っぽいおっさん。チャンネル登録はしないがもっと言ってやれ。ダンジョン潜るの大変なんだぞってな。

 なんて眺めているうちに一人、俺でも知っている奴の姿が映った。


「お、ただの大規模スタンピードなら確実に何とかできる奴がいるな」

「へっ? マジっすか? 画面越しでも実力ってわかるんすね」

「いんや、知ってる顔なだけだ」

「あ、山本先輩だ……」

「……他の奴はちゃんと先輩って呼ぶんな?」

「うわ、ちっさ」

「んだとこの野郎。口に気をつけろテメー……」

「こりゃ失敬っす」


 じろっと睨めば、後輩はさらっと謝る。俺の不満具合に合わせて謝罪の程度も変えられるこの後輩。如才なさを見ればなるほど、様々な美少女に一方的に惚れられるだけの事はある。なんだこいつ。完璧か?


「そんな事よりっすよ? あの山本……先輩が唯ちゃんの彼氏っす。有名な配信者っすけど、パイセンの目から見てもやっぱ強いんすか?」

「……えっ? か……れし? かれ?」

 

 あいつがぁ? ええ……。

 なー、なーなー。後輩ぃ。こいつ、昔俺の事を魔王と勘違いしてスキル全ぶっぱでダンジョンのフロアを丸ごと焦土にした兄ちゃんだぜ? 魔力を含んだ近代兵器をあたり一面に召喚して非実体も実体も関係なく薙ぎ払うのが得意な、手加減できない系主人公だぜ? 俺を殺そうとしたご近所探索者筆頭だぜ?


 隔意はないよ? あれは仕方ない。俺ってば人類の中でも抜きに出て強いから。エルダーリッチの首を引っこ抜いている俺の姿とか見かけたら怖くなっちゃうよね。人類のピンチだね。そう思っちゃうよね? だから隔意はないんだ。ないけどこれ、俺、なんかすっげー居た堪れないんだけど?


「パイセン? 強いんすか?」

「……よ」

「え?」

「だぁーから、つよいってばよ。こいつあれだろ? 一人軍隊だろ? こいつがいて普通のダンジョンスタンピードが成功する事なんかねぇよ」

「なっ、なんで怒鳴るんすかっ!? 耳が駄目になったら責任とってくださいよ!?」

「ちっ、うっせぇなぁ……」

「謝ってっす!」

 

 そんな問答。そして数度のやり取りの末にあっさり問答に敗北。結局謝った。「ご、ごめん……なさい」「よしっ……す」茶番が終わってすっきりとしたいい笑顔をしたところで――画面の向こうが俄に騒がしくなった。


「あっ、これスタンピードが始まったんすか?」


 モンスターの群れが、大穴から姿を現した。

 先頭はゴブリンの群れ。

 ダンジョンの外に出たモンスターは、普段と違って随分興奮しているようで、さながら殺意の波動に目覚めたゴブリンと言った感じだ。

 とはいえ、俺はビビったりしないでのんびり相槌を打つ。画面越しだし、画面越しじゃなくても俺強いし。


「始まっちまったな。もうオークも居るな。いきなり七階層レベルって事はこのスタンピードはマジで大規模だぞ」

「オークってあんまり強くないイメージっすけど、よく見るとすっごいでかくて筋肉質っすね。こわぁ……」

「オークマジで怖いよな。リアルな豚の被り物って殺人鬼みたいでめっちゃ怖い」

「パイセンでも怖いんすか?」

「見た目怖いじゃん……。アメリカンホラーの殺人鬼みたいで。夜中にトイレ行くとき出くわしたら絶対漏らすわ。ん? あー、狼に白狼がまじってんな」

「やばいんすか?」

「白い狼って実はめっちゃ賢いんだ。ああ見えてゴブリンとオークを統率しているのあれだぜ」

「きりっとしてるっすもんね」


 賢そうな犬だなぁ。と、そう思っているに違いない。その賢そうな犬、人間の頭位なら骨ごと食いちぎれるんだぞ?


 まぁ、それは兎も角だ。ゴブリンは釘バットを握ったチンピラくらいの脅威度。下半身の節操のなさも同じくらいのレベルだ。んでオークは身長3メートルの格闘家が鉈をもっている位の脅威度だ。前世だったらどっちも怖くて泣くね。俺なら泣くし、目を合わせたら取って食われそうだから逃げ道探す。


 本当に今世は強くてよかったよ。

 

 そんな事をぼんやり考えているうちに駆け抜けるゴブリンと探索者たちが接敵。あっという間に戦いの火蓋は切って落とされていた。

 先頭をひた走るゴブリン。転んで後続に踏み潰されて、圧死して。各地で間抜けな現象が起き、しかしすさまじい物量はこの無駄な犠牲を些末な物として問題ない。


 オークや狼が探索者たちとぶつかり合う。

 一匹殺されれば二匹が探索者を襲う。

 二匹殺されれば三匹が探索者を襲う。

 とにかく数に頼って探索者たちを襲う。


 集団リンチがそこかしこで起こっていく。

 

 だが、集まった探索者だってただのモブじゃない。全員がBランク以上。オークなんて当たり前のように殺してきたベテランたちだ。

 一発二発、いい攻撃を食らったところで大きな問題にはならない。寄ってたかって攻撃してくるから厄介だが、彼らが数人、背中を預けて寄り集まれば、数に物を言わせただけの攻撃ぐらい、そもそも届かないのだ。

 モンスター殺しの専門家の、それなりの中級以上のベテラン陣を集めたのだからそりゃそうだ。


 今のところは拮抗状態。探索者たちは千名くらいに対して敵は十数万。質より量なのか、量より質なのか、そういった戦いである。

 まだ、ダンジョン内のライブとそう変わらないエンターテイメント感がうかがえる。

 見ごたえはあるが、これがずっと続くとマンネリだ。あと、時間が経つと数で劣る探索者たちが消耗していくのは目に見えている。このままでは残虐な味変が待っているのだが……そんな事は探索者たちは百も承知だろう。


 だからほら、前線を維持している連中以外に、アタッカーがいるんだよ。


「アタッカー?」


 さっき言っただろ?

 唯ちゃんの彼氏様だよ。山本先輩だ山本先輩。あいつ山本って言うんだな。俺ずっと一人軍隊(ワンマンアーミー)って呼んでたから知らんかったわ。

 対個人の戦闘能力とかの話なら日本大王とか姫騎士おばさんとか、やさぐれエルフとかだけど、ここにはどうやらいなさそうだし、雑魚モンスターの大量虐殺って意味だったら一人軍隊は適任だ。


 ドッパッパッパッパッ!

 ダダダダダッ!

 

 鈍器や刃物の交わり、金属音や肉が切れる音が蔓延るキリングフィールドに、絶え間ない銃声が鳴り響く。

多くのモンスター共がバタバタと倒れる。ぐちゃぐちゃの肉片になり倒れ、ぐちゃぐちゃの肉片が色とりどりの体液と共に宙に舞う。

 銃火器はモンスターたちに効果が薄い。まったくない訳ではないが、魔力を伴わない物質での打撃は、どういう訳かモンスターの肉体を傷つけづらい。この世界では当たり前のように理屈まで解明されているが、他世界からきた俺からすると謎理論だ。なので割愛するぞ。でもまぁ、それも『ドーナツに豆腐が入っているから罪悪感がなく食べられる』と同じくらいには理屈が解らないんだよ。


 何はともあれ、銃火器はモンスターには効果が薄い筈なんだが……一人軍隊が、その特殊能力で生み出す兵隊と、その兵隊が駆使する魔法の銃火器はダンジョンモンスターに効果を発揮する。ゴブリンやオークは言うに及ばず、今しがた新たに姿を見せ五メートルクラスの魔獣や鉄の肉体を有するゴーレムも、ばらばらとなぎ倒していくのだ。

 

 さすが日本でもトップクラスと認定されている探索者だ。派手さと格好良さと、攻撃力のつり合いが完璧だ。しかも一般人にも理解できる形に暴力を落とし込んでいるところが素晴らしい。


 このままいけば、一人軍隊の体力が尽きるまではリョコウバト殺しのように一方的に完封できるだろう。一人軍隊が休憩する間、どれだけ被害を減らしてスタンピードを抑え込むか。これはそういう戦いになる事だろう。


 死者は出るだろうか? 上手くいけば死なないでやり過ごせるかもしれない。そうしたらきっとこの大騒ぎはどう評されるのだろうか? 探索者を称えるのか、それともこんな大規模な避難命令は必要だったのかと批判するのか。人間の汚さを信じる俺は後者の可能性を考えてしまう。


 この杞憂にちょっと気を取られたタイミングで、再び大きな動きが向こうでは起きていた。


『なっ……』

『なんだありゃあっ!』


 ダンジョンの入り口から、岩のようにごつごつした、巨大な右手が生えている様子が映し出されていた。


 新宿ダンジョンの入り口は、巨大な駅の出入口の形状をしている。

 その駅のプラットフォームの高さいっぱいをぎりぎりに、掌のようなものが、這い出すように現れていた。


『……巨人の手だ……』

『で、でかすぎねぇか!?』

『やばいっ! 皆逃げっ――』


 画面が真っ黒になる。

 爬虫類の捕食のように、一瞬で掌が伸びて何人もの探索者たちを叩き潰したが映像の最後だった。


「……え?」


 後輩が唖然としながらも、他の配信に切り替える。

 いくつかの動画配信は放映が終了していたり、映像が乱れたりしていて詳細がつかめなかったが、ようやくたどり着いた、それほど実力も人気もなさそうな配信者が、他の探索者達を遠巻きに撮影していた映像に辿り着く。


「あーあ……」


 ダンジョンの入り口から、肩まで這い出してきている腕。

 ……俺の掌の厚みはせいぜい5センチあるかどうか位か。んで、あの掌ときたら駅の出入口をゴリゴリ削るじゃん。目算、5メートルは超えているあるよな。最低100倍かぁ。怪獣映画でももう少し小さくないか? こっわ。そんなものがあんな風に一気に飛び出して、薙ぎ払うように振るわれたんだ。そこらの探索者ぐらいだとひとたまりもないだろう。


 事実、すさまじい破壊が起きていて、人がゴミのように蹴散らされ、羽毛のように舞う。アスファルトはめくれて、近隣の建物は一瞬で瓦礫である。

 かなりの死傷者が出たであろうことは想像に難くない。これはまずいかな? でも、攻撃範囲はあそこまでかな? などと考察していたら、更に事態は悪い方へと進む。

 一瞬であれだけの被害をもたらした長い腕が、ずるずるとダンジョンの中に還っていったかと思えば……。


「あ、あの……? これって……」

「やばいよな」

「な、な……んすか、あれ」

「……ダンジョンの入り口を広げてやがるな」


 一本の腕が生えただけで隙間がなくなるダンジョンの入り口。あの腕の持ち主はダンジョンから出てくる事は出来ない筈だった。しかしその巨大な腕が、あろうことかダンジョン入り口に指をひっかけ、上下に広げ始めた。

 ダンジョンとは不変不壊性を有するものである。表面を多少壊すことが出来ても確固たる骨組みは変形しないし、よしんば変形しても時間が巻き戻るように元通りになるという特性がある。


 しかしその計八本の指は壊れる事のないダンジョンジョンの入り口を引き裂くようにして広げているのだ。

 これはさすがに俺にだってできない(国のお偉いさんに怒られるからしようと試みた事もない)ような、すさまじい力技である。


 ダンジョンの出入口は、どう見てもコンクリート造なのにも関わらず、布が裂ける様にしてその間口を広げていく。

 ダンジョンの境界線が広がった事で、掌の主以外の、大小さまざまなモンスター共の姿が目視できた。

 ミチミチと、本来砕けるような材質に見えるダンジョンの入り口は、肉を引き裂くようにして広がっていき、あっという間に数十メートルの大穴へと変貌した。


 そして広がった分だけモンスターの出てくる総数は増えていく。見渡す限り、異形の生き物が隊伍を成してあふれ出てきていた。転んだゴブリンやオークを踏みしめて、そして転んで踏み越えて。ただの移動でも味方を圧殺しつつ、その巨大な群像はあふれ出した。


「おお、気持ち悪いな……」

 

 その悍ましい様子は俺をしてドン引きである。

 我先にと、ゴブリンやオーク、スライムなどが走り出し、その速度が遅すぎて大き目なゴーレムや巨象などに踏みつぶされて内臓を口から吐き出したりしている。


 棍棒を持ったトロールが生き残っていた冒険者たちに襲い掛かるのが見える。

 その冒険者はこれにどうにか対応するも、生き残ったゴブリンがとびかかって噛み付いて、倒れ伏す。

 これはその場面に限った事ではなくて、あちこちで似たような状況光景が繰り広げられているのは想像に難くなかった。 

 

 危うく全国に向けてグロ映像が放映されるというところで、モンスター共の咆哮を掻き消す程の銃声が鳴り響く。

 音とともに前列にいたすべての化け物どもが弾ける。頭部や胸部や上半身。魔法の弾丸が触れた場所から爆散して、汚い破裂を画面いっぱいに見せつけた。

 赤青緑、黒。黄色と白もちらほら。……体液の色な。


「わっ、すっご」

「お茶の間やばいだろ、これ」


 やっぱ結局全国に向けてグロ映像が公開されてしまった。なんなら内臓が宙を舞う分こっちのが絵面は汚い。

 魔法の弾丸の一斉掃射は特殊能力よって生み出された存在しない兵士たちから打ち出されたものだ。一人軍隊と二つ名が付く、長身イケメンの唯ちゃんの婚約者のみに許された才能だ。


 この能力、俺が把握している限り、核ミサイルを搭載した軍艦までは再現できる。非人道兵器の絨毯爆撃を受けた俺だから断言しよう。

 現代兵器が通じない存在であるダンジョンモンスターにも通じる、魔力で作られた仮想銃火器の大量運用、しかも能力使用者の体力が枯渇するまで無制限弾薬という、ほとんどチートと言って過言ではない能力だろう。

 この能力が十全に発揮されたなら、たとえ敵対するのがキメラの王であっても殺しきれるだろう。


 だが……。


 ダンジョンの入り口が開ききった。


 その、引き裂かれた高さ300メートルを超える(比較対象の都庁よりも高い)巨大な縦穴から、火山が擬人化したかのような、巨人が顔を表した。


「ゴぉご嗚ォォォ汚オォォォォォっ!! がガヶ臥ガ我ァあ亜アアアアァッ!」


 咆哮は周囲のビルの窓ガラスを――ビルそのものを震わせて、鉄筋コンクリートの巨大構造物をも粉々にする。


 多くのビルが瓦解していく様子を一瞬だけ映して、放映していたカメラもこの時点でブツンと切れた。

 俺と後輩はそれを見た後、顔を東へと向ける。

 そして、今まさにこの蹂躙が起こっている現場を何となく見れば。


 災害となった咆哮が、街並みを崩壊させながら俺たちがいる屋上の間近まで迫っているところであった。音の速さで大都市が、水をかけた角砂糖のように溶けていく様は圧巻だ。校庭を囲うネットとコンクリート柱が崩れたあたりで後輩もその光景を目の当たりにし、目を見開きながら絶句する。


 不可避の衝撃波が俺たちの居座る屋上を壊すかというその瞬間、後輩は慌てる事すらできずに絶句して、それでも少し身動ぎして俺に近寄る。

 俺はその後輩の前に立つように一歩前へ踏み出し、その場でそっと右足を上げる。

 

 どんっ。


 と、屋上のコンクリートに瑕疵を与えない程度の踏み込みをすれば、その場で衝撃波に対抗するように魔法の波紋が広がって、校舎全域に行き渡った。


 何事もないように校舎は佇み、二股に分けられた衝撃波はこの校舎から後ろのあらゆる建築を分解していく。


「……ぱ、パイセン?」

「あーあ、俺がもっと近くに居りゃ周りの被害もなかったんかなぁ……」


 思わずため息混じりにぼやく。


 けど俺が出しゃばると他の全員の仕事を奪う事になるよなぁ。ここで助けると結局将来の仕事を奪い取るから収入なくさせる事になって最終的には相手に疎まれるんだよな……。そもそも俺一人が頑張れば何とでもなるって絶対不健全だ。あまり前線を荒らして替えの利かない存在にでもなっちまったら俺の負担がヤバくて俺がヤバくなる。俺に寿命が来たら後続育ってなくて最悪人類が滅ぶ。

 俺は俺が働かなかった言い訳をつらつら考える。


 とはいえだ。


「……全滅かな?」


 つぶやいた直後に、咆哮の爆心地方面に閃光が迸る。

 きっと一人軍隊の山田君が、男のロマンの詰まった、地下の敵基地をも殲滅できる地中貫通爆弾をぶっ放したのだろう。


 ……まぁ、効果は薄いだろうけどな。


 俺の知る限り、山を一つ消し飛ばすような兵器はまだ存在しない。

 超巨大の隕石を撃ち落とせるミサイルがあるかどうかという話を想像すればわかるだろうが、広範囲の人間を殺す以上の火力は必要がないから開発されないのだ。人間を殺すために山を平らにするなんて、誰がどう考えてもナンセンスだからな。


 まして相手はダンジョン産の巨人。腕は四本、足は十。僧帽筋はマジで山がのっかっている。その肉体は鉄の塊よりも頑強である。バンカーバスターが貫通するような柔肌ではないだろう。

 まぁ、あいつの口の中とかで核を上手く使うならあるいは光明があるかもしれないとも思うが、使ったが最後結局あの辺りは世界に名だたる不毛の大地となり果てるだろう。しかも味方は一人も生き残らず、生き残った山田君もきっと、恩知らずな馬鹿共に文句を言われる事だろう。


「パイセン、あれって、普通のモンスターじゃないっすよね?」

「たぶんな。奈落って言われる下層の、ユニークボスにあんなの居るから……まぁ強いぞ」


 あの巨大さは地下350階、アポカリプスの大平原に極偶に現れる巨人に酷似している。

 その名も『文明喰い』エンシェントジャイアントだ。

 名付けたのは平原に棲む妖精たち、階層の覇者である妖精たちをして避難すべしと言い伝えられる巨人である。


「あの……山田先輩は……?」

「あー……」


 気配とかさすがに読み取れない距離だが……生きていたとて、これから死んじまうんじゃないだろうか?

 んー、目覚め悪いな。つーか、助けられるのに無視したら救護義務違反とかになるんじゃないか? 俺の知らない所で誰が死んでもいいんだが、俺が何もしない所為で人が死ぬのはちょっとなぁ……。

 ダンジョン内は治外法権、殺人すら自己責任になるのはそうなのだが、だからってそれが死を許容するもんじゃないじゃん。

 人の死って法律とか、好き嫌いとか、そういうもん抜きして簡単なもんじゃないからなぁ……。


「……パイセン、あそこの皆は……死――負けるんすか?」


 深刻そうに聞いてくる後輩。俺が返事を何としたものかと考える。とりあえず気休めでもなんでもなく大丈夫だと言ってやろうかという、そんな時――バンッ! と屋上の扉が勢いよく開かれた。


「パイセンさん!」


 はい、パイセンさんです。いや、唯ちゃん、俺は君のパイセンじゃないぞ?

 おい、後輩君。お前のせいで名前が白泉(ぱいせん)とか、そんな名前と認識されてねぇか? 気のせい? んじゃ、なんて紹介した? 「僕のパイセンっす」だろ? そういうとこだぞ?


 勢いよく扉を開けたのは、昨日一緒に食事をした唯ちゃんだった。


「すみませんっ。つい。あの! あのっ! 貴方なら、あの怪物を倒せるんじゃないかとっ――。おもい、まして……」


 俺がびっくりして何も言えなかったからか、唯ちゃんはテンションの落差を目の当たりにし、冷静になってしまったようだ。言葉がどんどんと尻すぼみになっていく。

 俺の実力を知り、そして校舎を起点として放射線状に無事な街並みを見れば、まぁそういう風に思うよな。助けてくれとお願いをしに来て、そしてこの規模の防御力を有する俺にお願いをする事に、不安を覚えるのは仕方がない。


 俺レベルの探索者に依頼するという事は、その報酬はとんでもない金額になる。いや、金銭などという物では動かないと考えるのが普通だろう。乗り気じゃない超S級探索者を動かす報酬など、基本的には存在せず、存在したとして、それが命であっても驚いてはいけない。


 言ってしまえば世界一の大富豪の独裁者にお願いをするようなものなのだ。

 彼女はいま、俺と話すわずかな間に冷静さを取り戻してしまったのだ。


「慌てんなって。落ち着けよ。なっ?」

「あ……の、あ……はい」


 きっと、彼女は俺がこの屋上から雑魚の一掃をしている事に気が付いた。

 魔法の光の軌道からここを割り出しだ。

 そして、校舎から広がる安全地帯を運よく走り抜け、たどり着いたのだ。

 大切な恋人の命が危険にさらせれている事にも途中で気付き、協力を要請しようと、さらなる全力で駆け上がったのだろう。

 そして都合いい事を言おうとしていると気付いてしまったのだ。せめてあと十秒、彼女が落ち着くのが遅ければよかったのにな。

 なんて全部想像がつく。


 俺がもっとテンション合わせてあげられたらよかったのだが、限りなくコミュ障に近い俺は空気を読めても対応はできないのである。何を言いたいかを解ってやれてもそれを伝える手段が解らん。


「パイセン、パイセンはあの巨人倒せるんすよね?」


 ナイス後輩。偉いぞ。俺より偉いぞ。

 そのパスは助かる。後でコロッケパン奢ってやる。


「倒せるぞ。超余裕。あれくらいならな」


 謙虚な俺でもここは断言する。話を広げて唯ちゃんに『俺、できますよ?』アピールをしなければならないからな。

 後輩は俺の半ば棒読み気味なセリフにあきれた半眼を向けてくるが、お前がパスをよこしたんだ。俺はへたくそなりにあの敵なんて余裕だってのを見せつける義務を果たしただけだぞ。

 いいだろ別に。ちょっと格好つけても。

 なんて思う俺だが、後々これ、『俺以外全員雑魚』『俺があっさり倒せる奴に負けるあいつ等何なの?』とかの意訳が可能と聞かされて、本当に絶句してしまうのだが。


「その超余裕って、あの巨人倒すついでに今の生き残り全員助ける位も含めて、可能っすか?」

「……まぁ。可能っすねぇ」


 答えた瞬間だ。

 唯ちゃんが再び目的と勢いを取り戻して、ばっと顔を上げた。


「あの人を……皆を助けてください! なんでも――なんでもしますから!」


 え?

 今何でもするって……?


「パイセン、僕からもお願いっす。パイセンがこの後目立ちたいなら応援もするっすから」


 俺の態度を先読みしたのか、後輩は俺が変な反応をする前に口をはさんでくる。ってか、結構真剣な顔だ。

 そして俺と彼女をこれ以上会話させないという、実は変な事を口走りそうな俺を救うファインプレイだったりする。

 まぁ……今一番変な事を口走っているのは俺じゃない訳だが。


「お金だって払います。足りないなら、望むなら本当になんでも、私にできる事なら全部……」


 後輩が折角緩衝役になってくれたのに、その後輩が再び止めに入る隙もなく唯ちゃんは言葉を重ねる。超S級にするには安すぎる位の報酬提示でありながら、彼女にできる最大限なのだ。

 意味が解って言っているんだろうなぁ……。

 後輩があっちゃーって感じで空を仰ぐのが見える。ったく……。


「ばっか。人助けってそういうもんじゃねーだろ?」


 そもそもだ。東京がこんなことになったのにのんびり眺めているような図太い神経を俺は持っていない。困っている人がいれば手を差し伸べる位の事は、俺はする。

 その後に生意気に強がられるのも、俺の強さに誰かが目をつけるのも、あまつさえ手柄を他人に奪われてる事すらも、人助けをしない理由にはならないだろ?


 大きな自嘲を交えて語りだす。ぴょんって貯水タンクの上に跳び乗ってからな。

 後輩が少し嬉しそうに見上げる。

 唯ちゃんは何が起こるのかと目を見開き俺を見る。

 

「いや、考えない訳じゃないぜ? 俺ってば俗物でさ」


 言いながら屋上の給水塔の上でぐっと目を凝らして地平線の向こうを見る。

 ……瓦礫の水平線。その向こうには東京タワーよりも高く、そして山のような質量を有する巨人が目視確認できた。

 すっ、と指をさす。


 かーっ。俺ってばかっけーなーっ。かっけーなーオーレー!

 指の先がさすのは新宿ダンジョンの方向。この延長線上には新宿ダンジョンの出入口――地下大迷宮の大穴が口を開けている。


「『一人軍隊なんかより格好いい! 好き!』とか? 『こんなに頼りになるなら私のお友達を紹介してもいいかも!』とかな?」

「……バカっすねぇ」

「うっせ」


 ぼっ!

 指先に青い光が灯る。

 空気すら灰にするかのような炎は、陽炎を作りながら、周囲にその尾を迸らせる。

 熱と魔力によって風が吹き、髪も服もたなびいた。

 俺の指先の光は強く輝き、影が強く出て、異常なまでに明暗がはっきりする。


「わっ……」

「……すごい!」


 二人が瞠目して驚く。ちょっと気分が良いが公言する程の事でもない。


「でもま、実際のところ助けたからお礼としてデートしろとか、エッチな事しろとか言うのって寒いだろ? 寒いんだよ。礼をもらうなら言葉でいい。恋をするなら対等からが良い」

「そういうところが守る必要のない貞操を守るコツなんすよ」


 後輩は苦笑い。ただ、その声音、雰囲気にはたぶん、俺に対する敬意があった。

 

「夢見る位はするもんだ……ハーレムだってあこがれちまう、だって夢見る男の子だもんな」

「パイセンのせいで世の中の男の評価の下落がとどまるところを知らないっす」


 他人の女に片っ端から惚れられまくって袋叩きにあって、全裸にされかけて殺されかけてたハーレム男がどの面下げてそれを言うんだよ。

 ま、今はまぶしそうに眼を細めているけどな。


「でも、ま、パイセンはそれでもかっけぇっすけどね」


 その言葉に俺は、にやっと笑う。

 ま、だったら十分だ。

 

 俺の指さす方向の空中に、幾重にも重なり現れる幾何学模様の魔法陣。

 俺専用の魔法的エフェクトだ。

 この見た目の演出に意味はない。効果はたぶん格好いいというそれだけだ。

 ただしこれが現れるという事は、俺が本気で魔法を放つ証拠でもある。


「境界はそこだ。超えるな(越権に対する罰とは、)特にお前はでかすぎる(すなわち殺す事である)


 これは適当な呪文だが、意味はある。気分をのせないと呪文の精度が悪くなるからな。


「言い訳なんか聞かないぞ。だっ(帰るから許してくれと)てもう、お前はやりす(言ってももう遅い。)ぎた」


 指から放たれた一筋の魔法は、宙に浮かぶ光の魔法陣の中央をくぐるたびにその数を乗倍させていき、光の太さも同様に太くなっていく。当然その速度も増していき、指先から放たれた細い魔法が最後には巨大な奔流となっていた。

 魔法の光は周囲の空気を熱膨張で破裂させながら、巨人の真上の上空を打ち抜いた。


 雲をたたえた空が割れて、広大な青空が見える。

 そこの中央に煌々と輝く白色光……太陽に見えるだろ? ところがこの時間帯に太陽はそこにないんだ。


 ――そこで燦燦(さんさん)としているのは、俺の魔法だ。


 後輩と唯ちゃんが見上げた空はますます輝き、白と黒以外の色の区別がつかない程の印影を世界にもたらす。

 ぽかんと開かれた口の中すら照らされて、

 後に『天国の崩落』なんて言われる光の柱が降り注ぎ、ダンジョンから現れたすべてのモンスターは柔らかな灰燼になり果てた。

 

「……え? あれってみんな生きているんすか?」

「ったりめーだろー?」


 チートもらったんだから魔法は究めるだろ? モンスターだけを殺す魔法くらい、そりゃ開発している。


 だから光が消え去った今頃、あの場には敵を失った戦士たちが立ち尽くしている事だろう。

 生き残った皆様におかれましては、申し訳ないが今回はもう見せ場無しだ。大逆転の手段を残していたかもしれないが、それは次回の機会にでも披露してくれ。残った魔石とかは全部上げるから許してちょ?


 モンスターだけを皆殺しにする俺の魔法に、多くの探索者達が唖然とし、どこから放たれた魔法かと首を上げてきょろきょろしているのが、俺の目には見えていた。


「パイセン強すぎで人間やめてるっすねー。いやマジでそんけーっす」


 そんなこんなで、またしても俺は東京――いやたぶん日本を救ったのであった。隠す訳でもなく、しかして誰に自慢する訳でもなく、淡々とな。


 □


 そうして夜が更け、夜が明けた。

 平和が戻ったからには、日常はきっとあっさり戻ってくるのが現代だ。何日もおっかなびっくり様子見をするほど社畜も学生もニートも暇じゃない。

 人生ハードモードのサラリーマンは昨日の深夜から再び働き始めたらしい。

 高校も再開されて、俺は相変わらず授業を真面目に受けにいく。

 二度目の人生、勉強が存外面白いのだ。これだけで俺は、実は結構満足しているし、この日々を守るために陰日向に活躍していると言っても、案外過言ではない。


 登校では後輩がダルがらみをしてきて、その他は男女問わずに俺を遠巻きにする。

 こいつ、再会のあの日以来俺から離れやしねぇんだ。

 ま、別にいいけどさ……。いいけどな?


 なぁところで後輩君。

 いい加減その認識災害級の変身指輪、はずしませんかね? いやわかるよ? また逆恨みでリンチに合うかもしれないとか思っちゃうよね。けどあんな馬鹿をする馬鹿どもは、お前んちの怖い人たちにバッバイされてなかったっけ? ワンチャンもうこの世に居ないんじゃね? だからもう外しても――。


 え? 真の姿は安心できる日が来るまで俺にも秘密? 何言ってんだお前。

 いや、俺とつるんでれば馬鹿な奴らは馬鹿な事できんでしょ? 

 え、それでも外さない? 外さないかぁ。


「パイセンのそばにいるに相応しい見た目の方がいいじゃないっすか」

「え、俺のそばにいるのが相応しいって……たしか俺以外には女に見えるんじゃなかったっけ?」

「そうっすよ? パイセン以外には女の子っすね」


 そうなのだ。俺以外にはこいつ、自分が女の子に見える様に偽装してやがるのだ。しかも、どうやらショートヘアの超絶美少女らしい。それを、俺は見た事がないのだが。

 それって相応しいのか? 真の姿はただただ舐めた面構えの若造なんだが? ふてぶてしさがイケメンフェイスからもひしひしと伝わってくる。え、相応しいってそういう事? どういうことだよ?


「せめて俺にも女の姿に見えるようになれよ……」

「いやぁ、パイセンの目を騙すとリソースが足りなくて周りがちょっと……」


 そりゃ俺の目を騙すとなるとその他全人類への隠ぺいは全部諦める位のリソースを割くことになるけどよ? その結果お前が近くにいると俺と話が合う陰キャは近寄らんし、女の子もやっぱり近寄らんのよね……。やっぱそれ外せよ。な?

 俺に彼女どころか友達すらできないの、お前が後ろでうろうろしているからなんじゃないかな? 違うかな?


「それはパイセンがコミュ障だからっす」

「マジで? この現状って俺が原因なん?」

「僕が女の子に見えたらパイセン永遠にきょどるっすよ? 自信があるっすね」

「いやいや……そんな、事は……ないぞ?」

「99パー間違いないっす」


 1パーセント間違いがあるなら『間違いない』という事はないんじゃねーの? あ、こういうところが駄目っすか。


 ……転生チートなんか手に入れても、人付き合いが上手くなるわけじゃない。

 俺自身の性格は変わらない。


 知り合おうと思って努力をしなきゃ交友関係は増えないし、面倒だと思っても誰かに合わせてメシとか食いに行かなきゃボッチは変わらない。

 強さを見せびらかしても、だから何だという話なんだ。ダンジョンと魔法が存在する世界だって、世界一の金持ちはIT長者だし、あこがれの職業は探索者は10位くらいだ。モテる職業は医者だったり芸能人だったりするし、そもそもダンジョンの素材がなくとも世界は回る。ちょっとはみ出し者にやさしい世界になっただけで、強さが絶対なんてなりそうにもない。最強が偉いなら好きな子に意地悪するガキがモテモテだ。

 

 けどまぁ……。


「ははーん。その顔、世界を救える力があるのも悪くないって思ってるっすね」

「こっわ。なんでわかんだよ」 

「パイセンは解りやすいっすから」


 強くてよかったと思う事は、それでも結構多いからな。

 まぁ、そんなもんだ。



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