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第4話 失敗から学ぶ最強の準備術――今度こそ全員救済作戦

 死に戻った直後、俺は冷静に状況を整理した。


 ブライヤ村に到着した朝日が昇り始めた時刻。まだ魔物の大群は姿を現していない。


 前回の失敗で分かったことがある。


 仲間か村か、という単純な2択で考えていたのが間違いだった。両方救う方法が必ずあるはずだ。


 そのためには、徹底的な事前準備が必要だ。


「みんな、すぐに村に向かわず、少し偵察しないか?」


 俺は仲間たちに提案した。


「偵察?」


 リョウが首をかしげる。


「ああ。敵の規模も分からずに突っ込むのは危険だろう。まずは情報収集だ」


 前回の俺なら、リョウと同じように真っ直ぐ村に向かっていただろう。しかし、失敗を経験した今の俺は違う。


「それは賢明ですね」


 カインが同意した。


「魔物の異常行動を調査するには、まず全体像を把握する必要がある」


「私も賛成です」


 エルナも頷く。


「村の人たちを治療するにも、まずは安全を確保しないと」


 俺たちは村の周辺の丘に登り、全体を見渡した。


 村は小さな盆地にある。300人ほどの人口で、中央広場には古い石の碑のようなものが立っている。


 あれが封印石版だ。前回、あれが破壊されたことで魔物の活動が活発化し、被害が拡大した。


「あの石版、気になりませんか?」


 俺はカインにそれとなく尋ねた。


「ああ、確かに」


 カインは目を凝らして石版を見つめる。


「魔力を感じる。相当古い魔法式のようですね」


 食いついた。


「どんな魔法式なんだ?」


「恐らく……封印系でしょうね。魔物の活動を抑制する結界の核になっているような」


 カインの推測は正しい。実際、前回石版が破壊されると魔物が活発化した。


「つまり、あれが破壊されると?」


「この地域の魔物が一斉に活性化するでしょうね。非常に危険です」


 完璧だ。カインに石版の重要性を理解させることができた。


 その時、森の方角から例の太鼓のような音が響いてきた。


 魔物の大群が行進を始めたのだ。


「来たな」


 俺は双眼鏡で森の向こうを確認する。オークの大群とオーガたち。前回と全く同じだ。


「アキト、何か持ってるじゃないか」


 リョウが双眼鏡に気づく。


「ああ、街で買ったんだ。偵察には必需品だろう」


 実は、死に戻り直後に街で購入していた。他にも高級回復薬、煙幕玉、ロープなど、前回の経験から必要だと思われる道具を一式揃えている。


「さすがアキト、用意周到だな」


 リョウが感心している。


「ところで、この回復薬なんだが」


 俺は高級回復薬の小瓶を取り出した。


「かなり高かったんだが、重傷にも効く特別製だ。万が一の時のために買っておいた」


「ありがたい」


 エルナが受け取る。


「私の治癒魔法でも限界がありますから、これがあれば安心です」


 前回、リョウが重傷を負った時、エルナの魔法だけでは完全回復できなかった。今度は薬も併用すれば、より早く確実に治療できるはずだ。


「それにしても、すごい数だな」


 カインが双眼鏡を覗いて呟いた。


「オーク200体以上、オーガが5体……こんな大群が協調して行動するなんて、普通じゃない」


「何が原因だと思う?」


「分からない。でも、あの石版と関係があるような気がする」


 カインは鋭い。


「石版が魔物を抑制しているとすれば、逆に言えば魔物にとっては邪魔な存在だ。だから破壊しようとしているのかも」


「つまり、石版を守ることが最優先ってことか」


「そういうことになりますね」


 よし、これで戦略の方針が決まった。


 前回は石版の重要性を理解しないまま戦いに臨んでしまった。今度は違う。


「それじゃあ作戦を立てよう」


 俺は仲間たちを集めた。


「まず、村人の避難経路を確保する。あそこの谷沿いの道なら、魔物に見つからずに避難できそうだ」


 前回の経験から、最適な避難ルートも把握済みだ。


「次に、石版の防衛だ。あれを破壊されると被害が拡大する」


「でも、あの大群を相手に、どうやって戦うんだ?」


 リョウが不安そうに言う。


「正面から戦う必要はない。頭を使うんだ」


 俺は地形を指差した。


「あそこの崖、それから川、この村は天然の要塞なんだ。地形を利用すれば少数でも戦える」


 前回は何も考えずに突撃して失敗した。今度は地の利を活かす。


「それに、村人だって300人もいる。戦えない人は避難してもらい、戦える人には協力してもらう」


「なるほど、それなら確かに」


 カインも納得している。


「でも、一番大切なのは」


 俺は仲間たちを見回した。


「誰も犠牲にならないことだ。今度こそ全員で生き残る」


「よし、作戦開始だ」


 俺は立ち上がった。


「リョウ、君には村の戦える男手をまとめてもらう。ただし、無茶はするな。地形を活かした戦術で行く」


「分かった」


 前回の無謀な突撃を防ぐため、具体的な役割を与えておく。


「エルナは村人の避難誘導と負傷者の治療を頼む」


「はい」


「カインは俺と一緒に石版の防衛だ。君の魔法知識が必要だ」


「承知しました」


 完璧な布陣だ。前回の失敗を踏まえ、それぞれの長所を活かした役割分担にした。


「みんな、今度こそ成功させよう」


 俺は仲間たちと手を合わせた。


「仲間も村人も、全員で生き残るんだ」


 前回は選択を迫られ、結果的に全てを失った。


 しかし今度は違う。


 死に戻りで得た情報と経験、そして完璧な準備。


 これで失敗する方がおかしい。


「今度こそ、全員で生き残ってやる」


 俺たちは村に向かって駆け下りた。

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