表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/20

第18話「聖剣の遺跡と史上最悪の選択」

 東の遺跡は、朝靄に包まれて静寂に佇んでいた。


 古代の石造りの建造物が立ち並ぶ光景は、神秘的でありながらも不気味だった。


「ここが……聖剣エクスカリオンが眠る遺跡」


 カインが古文書を確認しながら呟いた。


「間違いない。魔王を封印できる唯一の武器がここにある」


「すげぇな」


 リョウが興奮気味に言った。


「そんな武器があれば、俺たちも魔王と戦える!」


「でも、なぜノアの夢に聖剣が現れたのかしら?」


 エルナが不思議そうに首をかしげた。


「偶然とは思えないけど……」


 アリシアは腰に下げた剣に手を当てながら周囲を警戒していた。


「慎重に行きましょう。古い遺跡には、必ず罠があるもの」


 俺たちは石の通路を慎重に進んだ。薄暗い廊下には、古代の壁画が刻まれている。それは勇者と魔王の戦いを描いたものらしく、聖剣らしき武器も描かれていた。


「この絵の剣が……」


 カインが壁画を指差した。


「聖剣エクスカリオンの原型かもしれない」


 通路の奥には、いくつかの罠の跡があった。しかし、どれも既に作動しないようになっている。


「誰かが先に来たのかな?」


 エルナが心配そうに言った。


「でも、最近の痕跡じゃないわね」


 アリシアが床の石を調べた。


「何年も前のもののようよ」


 最奥の間に辿り着いた時、俺たちは息を呑んだ。


 そこには、神々しく光る台座があった。そして、その台座に突き刺さった一振りの剣。


 刀身は純白に輝き、柄には複雑な魔法紋様が刻まれている。剣そのものが淡い光を放ち、まるで生きているかのように脈動していた。


「これが……聖剣エクスカリオン」


 カインが息を呑んだ。


「信じられない。本当にあったんだ」


「魔王を封印できる武器……」


 リョウが感動に震えていた。


「俺が抜いてみる」


「待って」


 俺が制止しようとしたが、リョウはもう台座に向かっていた。


 彼が聖剣に手を伸ばした、その瞬間だった。


「愚かな人間どもよ」


 低く、威圧的な声が遺跡に響いた。


 空間が歪み、そこから巨大な影が現れる。筋骨隆々とした体躯、深紅の鎧を纏い、冷酷な表情をした魔族。その存在感は圧倒的で、俺たちを萎縮させるに十分だった。


「魔王四天王、『力の信奉者』ヴァイス」


 男は堂々と名乗った。


「その聖剣を手にしようとは、身の程知らずもいいところだ」


「魔王四天王だと!?」


 リョウが慌てて剣を抜いて構えた。


 しかし、ヴァイスは動じることもなく、冷笑を浮かべた。


「力こそが正義。それが、この世界の絶対的な真理だ」


 彼の声には、深い確信と苦い記憶が込められていた。


「我が祖国は、かつて平和主義を貫いた。話し合いですべてを解決しようとした愚かな国だった」


 ヴァイスの瞳に、一瞬だけ痛みが浮かんだ。


「その結果どうなったと思う?隣国に侵略され、民は虐殺され、国は完全に滅んだ」


「そんなことは……」


 エルナが反論しようとしたが、ヴァイスは続けた。


「話し合いなど、力なき者の戯言に過ぎん。理想論では誰も救えない」


 彼は指を鳴らした。


 次の瞬間、俺たちの周囲に巨大な魔法陣が浮かび上がった。


「なんだ、これは!?」


 アリシアが驚いた。


 魔法陣から、次々と人影が現れる。それは、近隣の村から攫われてきた子供たちだった。50人もの子供たちが、魔法の鎖で拘束されている。


「ノア!」


 エルナが叫んだ。


 そこには、昨日彼女が治療したばかりのノアもいた。小さな体が恐怖で震えている。


「お姉ちゃん……助けて……」


 ノアが震え声で呟いた。


 他の子供たちも泣きながら親を呼んでいる。


「ママ!ママ!」


「パパ、怖いよ!」


 幼い声が遺跡に響く。


「卑劣な……子供を人質にするなんて!」


 リョウが怒りを露わにした。


 ヴァイスは表情を変えずに言った。


「卑劣?これが現実だ。理想に生きる者は、常にこの選択を迫られる」


 彼は聖剣を指差した。


「さあ、選べ。聖剣か、この無力な命どもか」


 俺たちは言葉を失った。


「ここにいる50人の子供と、魔王を封印できる唯一の武器」


 ヴァイスが腕を組んだ。


「どちらがより多くの命を救うかは明白だろう」


 カインが青ざめた。


「数の問題だ。50人と将来の数万人、どちらが重い?」


 ヴァイスは冷酷に続けた。


「感情に流される愚か者どもよ。これが現実だ。ゼルガという男も、妹への情で身を滅ぼした」


 カインが反応した。


「ゼルガを知っているのか?」


「あの男は理想主義者だった。妹を救うために多くを犠牲にし、最終的にはその妹さえも救えなかった」


 ヴァイスの声には軽蔑が込められていた。


「感情など、弱者の足枷に過ぎん」


 エルナが俺の袖を掴んだ。


「アキト……ノアが……みんなが……」


 彼女の目には涙が浮かんでいた。


「もう誰も失いたくない」


 アリシアも苦悩していた。


「王女として、国全体のことを考えるべきです。でも……」


 彼女も子供たちの恐怖に満ちた顔を見つめていた。


「十秒だ。それまでに決めろ」


 ヴァイスがカウントダウンを始めた。


「十、九、八……」


 俺は必死に考えた。両方救う方法はないのか?


「七、六、五……」


 しかし、ヴァイスの監視下では逃げることも、奇襲をかけることも不可能だった。


「四、三、二……」


 エルナの涙声が聞こえる。


「お願い……ノアを……」


 でも、聖剣がなければ、将来もっと多くの人が死ぬ。魔王が復活すれば、何万人という犠牲者が出るだろう。


「一」


 俺は決断した。


「聖剣を選ぶ」


 俺の声は震えていた。


「将来、もっと多くの人を救うために」


 エルナが絶望的な顔をした。


「アキト……」


 ヴァイスが満足そうに頷いた。


「賢明な判断だ。これが現実というものだ」


 彼が指を鳴らすと、子供たちを囲む魔法陣が赤く光った。


「やめろ!」


 リョウが叫んだが、もう遅かった。


 魔法陣から炎が立ち上がり、子供たちの悲鳴が響く。


「お姉ちゃん……」


 ノアの最後の言葉が聞こえた。


 50人の子供たちが、一瞬で灰になってしまった。


「ノア……」


 エルナが崩れ落ちた。


「私が治した子まで……神様なんていない!神様なんて……」


 彼女の絶望の叫びが遺跡に響いた。


「これで聖剣は君たちのものだ」


 ヴァイスが嘲笑した。


「だが、代償を支払ったことを忘れるな」


 彼の姿が消えた。


 俺は震える手で聖剣を手に取った。確かに強力な力を感じる。でも、その重さは、50人の子供の命の重さだった。


 遺跡から出ると、村人たちが待っていた。子供たちの両親や家族だ。


「息子は?息子はどこですか?」


「娘を連れて帰ってきてください!」


 俺たちは何も言えなかった。


 やがて、真実を理解した村人たちの表情が変わった。


「まさか……子供たちを見殺しにしたのか?」


「英雄?冗談じゃない!子供を見殺しにした悪魔だ!」


「人殺し!出て行け!」


 石が飛んできた。村人たちの怒りと憎しみが俺たちに向けられる。


「息子を返せ!」


「なんで子供を捨てた!」


 俺たちは逃げるように村を後にした。


 その夜、野宿をしながら、俺たちは重い沈黙に包まれていた。


 エルナは一言も喋らず、ただ膝を抱えて座っている。


「俺は……正しかったのか?」


 俺が呟いた。


 リョウも答えられずにいた。


「聖剣はある。でも……」


 カインが聖剣を見つめた。


「この代償は重すぎる」


 アリシアも涙を流していた。


「あの子供たちの顔が忘れられない」


 聖剣を手に入れた。しかし、俺たちが失ったものは、それ以上に大きかった。


 民衆の信頼、仲間の心、そして自分自身への信頼。


 エルナが震え声で言った。


「もう……もう誰も信じられない……」


 彼女の心は完全に折れてしまっていた。


 俺が手にした聖剣は、確かに強力な武器だった。でも、その力を使う資格が俺にあるのだろうか?


 50人の子供たちの命と引き換えに手に入れた力で、本当に世界を救えるのだろうか?


 空には暗雲が立ち込め、まるで俺たちの心境を反映しているかのようだった。


 これが、正義の選択だったのか?


 俺には、もう分からなかった――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ