第14話 偽りの希望、真実の絶望
南門から潜入した俺たちは、静かに地下牢へ向かっていた。
「うまくいってるな」
リョウが小声で言った。
「敵の姿が全然見えない」
「北門に戦力を集中させたみたいですね」
アリシアも安堵の表情を浮かべた。
カインは緊張した面持ちで周囲を警戒している。
「ミラ……もうすぐだ」
彼の手は震えていた。
地下への階段を降りていくと、薄暗い通路が続いている。松明の光が壁に不気味な影を作っていた。
「この先に牢獄があるはずだ」
俺は地図を確認した。
やがて、鉄格子が並ぶ牢獄エリアに到着した。
「ミラ!ミラはいるか!」
カインが叫びながら走り出した。
「お兄ちゃん……?」
奥の牢から、か細い声が聞こえてきた。
「ミラ!」
カインは鉄格子に駆け寄った。そこには、確かに銀髪の少女がいた。
ミラだ。間違いない。
「お兄ちゃん、本当に来てくれたの……」
ミラは涙を流していた。
「すぐに出してやる!」
カインが鍵を壊そうとする。リョウも剣を抜いて手伝った。
ガシャン!
鉄格子が開いた。カインはミラを抱きしめた。
「ミラ、もう大丈夫だ。もう離さない」
「お兄ちゃん……」
感動の再会だった。エルナも涙ぐんでいる。
「よかった……本当によかった」
しかし、その時だった。
「素晴らしい演技だったよ、ミラ」
冷たい声が響いた。
振り返ると、ゼルガが立っていた。その周りには武装した兵士たちが並んでいる。
「罠か!」
リョウが剣を構えた。
「その通りだ」
ゼルガが頷いた。
「偽情報作戦は読んでいた。だから、こちらも罠を仕掛けたのだ」
「ミラ、下がって!」
カインがミラを庇った。
しかし、次の瞬間、信じられないことが起きた。
ミラの姿がゆらめき、消えていった。
「幻影……!?」
カインが愕然とした。
「そう、魔法の幻影だ」
ゼルガが冷酷に言った。
「本物のミラは、別の場所にいる」
「どこだ!ミラはどこにいる!」
カインが叫んだ。
ゼルガは何も答えず、指を鳴らした。
すると、壁の一部が開き、魔法の鏡が現れた。
鏡には、別の場所が映し出されている。
そこには、本物のミラがいた。鎖に繋がれ、処刑台の上に立たされている。
「ミラァ!」
カインが鏡に駆け寄った。
「お兄ちゃん……」
鏡の中のミラが、悲しそうに微笑んだ。
「私、お兄ちゃんが幸せになってくれるのが一番だったのに……」
「何を言ってるんだ!今助けに行く!」
カインが鏡を叩いた。しかし、それは映像でしかない。
「怖い魔法、使わないでって約束したのに……」
ミラの声が震えている。
「お兄ちゃんが悪い人みたいになっちゃって……」
「違う!俺はお前を守りたかっただけなんだ!」
カインの叫びも届かない。
処刑人が斧を振り上げた。
「やめろ!やめてくれ!」
カインが絶叫した。
俺たちも必死に止めようとしたが、兵士たちに阻まれる。
「すまない、カイン」
ゼルガが呟いた。その声には、本物の後悔が込められていた。
「私も……弟を救いたかった。君の気持ちは痛いほど分かる」
斧が振り下ろされた。
鏡の映像が途切れた。
「ミラァァァ!」
カインが崩れ落ちた。
「俺が……俺がもっと早く決断していれば!」
彼は床を叩きながら慟哭した。
「すまない……すまないんだ……ミラ……」
エルナが駆け寄って、カインを抱きしめた。
「カインさん……」
リョウも拳を握りしめている。
「くそっ……こんなのってあるかよ」
アリシアも涙を流していた。
「残酷すぎます……」
俺は歯を食いしばった。
(すまない、カイン……俺の限界だった)
俺の死に戻りの力でも、救えない命があるんだ。
ゼルガが静かに言った。
「これが現実だ。全てを救うことなどできない」
彼の目にも、深い悲しみが宿っていた。
「私の弟も……もう長くはない。だから私は、せめて多くの人を救おうとしている」
「どういう意味だ」
俺が問いかけた。
「いずれ分かる」
ゼルガはそれだけ言って、背を向けた。
「撤退する。君たちは生かしておこう。カインの苦しみは、十分な罰だ」
兵士たちがゼルガに続いて去っていく。
残された俺たちは、泣き崩れるカインを囲んでいた。
「カイン……」
俺は彼の肩に手を置いた。
「俺たちがいる。一人じゃない」
「でも、ミラは……ミラはもう……」
カインの声は掠れていた。
「ミラは、お兄ちゃんの幸せを願ってたよ」
エルナが優しく言った。
「だから、カインさんが苦しむことを、きっと望んでない」
「でも俺は……裏切って……結局ミラも救えなくて……」
「それでも俺たちは仲間だ」
リョウが力強く言った。
「過ちを犯したって、それを償う機会はある」
「そうです」
アリシアも頷いた。
「みんなで前に進みましょう」
カインは仲間たちの顔を見回した。
裏切った自分を、それでも支えてくれる仲間たち。
「みんな……本当にすまなかった……」
カインは泣きながら頭を下げた。
「そして……ありがとう……」
俺たちは静かにその場を立った。
ミラを救えなかった。でも、カインという仲間は失わなかった。
これも、一つの選択の結果なのかもしれない。
外に出ると、夕日が街を赤く染めていた。
まるで、血のような色だった――




