第13話 二度の失敗から生まれた奇策
宿の部屋に戻った俺は、頭を抱えていた。
(また失敗した……)
即処刑も、尋問も、どちらも悲劇に終わった。西の塔は偽の拠点で、本当のミラは地下牢にいた。そして全員が――
「アキト、大丈夫?」
エルナが心配そうに俺を見ている。
「ああ、ちょっと考え事をしてた」
俺は二回の失敗から学んだことを整理した。
(カインを処刑しても、尋問しても駄目なら……)
そうだ。逆手に取ればいい。
「みんな、作戦がある」
俺は仲間たちを集めた。
「カインの裏切りを、逆に利用するんだ」
「どういうことだ?」
リョウが眉をひそめた。
「カインから敵に偽情報を流させる。敵が偽情報に基づいて動いた隙に、本当のミラを救出する」
「なるほど……」
カインが目を見開いた。
「でも、ゼルガは簡単に騙されないぞ」
「だからこそ、まずゼルガについて調べる必要がある」
俺はアリシアを見た。
「王女の権限で、宮廷記録を調べられるか?」
「もちろんです」
アリシアが頷いた。
「父に頼んで、機密文書も閲覧できるようにします」
翌日、俺たちは王都の文書館に向かった。
アリシアの権限で、普段は立ち入れない機密保管室に入ることができた。
「これが影の宰相に関する記録です」
司書が古い書類の束を運んできた。
「ゼルガ・フォン・シュヴァルツ……」
カインが資料を読み始めた。
「元は有能な官僚だったのか。でも5年前から行動が変化している」
「王位継承問題にも深く関与してるみたいね」
エルナが別の書類を指差した。
「待て、これを見ろ」
リョウが奇妙な文書を見つけた。
「ゼルガの私室から押収された資料らしいが……」
それは意外なものだった。
詳細な灌漑計画図。水路建設の設計書。穀倉地帯の病虫害対策研究。そして、飢饉対策の詳細なシミュレーション。
「なぜ影の宰相が、こんな農業技術の資料を……?」
カインが首をかしげた。
「まるで、大規模な災害に備えているみたいだ」
俺も資料を確認した。日付を見て驚く。
「これ、全部『3年後』を想定してる」
「3年後?」
アリシアが覗き込んだ。
「本当だ。しかも、ここに『灰の冬』『大飢饉』って書いてある」
不穏なキーワードが並んでいる。
「これ、国王への提出痕跡があるけど……」
エルナが別の書類を見つけた。
「全部却下されてる。『予算過大』『根拠不十分』って」
ゼルガは何かを知っていて、それに備えようとしていたのか。
「もう一つ発見があった」
カインが個人的な書類を見つけた。
「ゼルガには異母弟がいる。重い病気で療養中らしい」
「病気……」
俺は考え込んだ。
「ミラと同じような状況か」
「そういうことか」
アリシアが理解した。
「ゼルガも、家族を救おうとしているのかもしれません」
その時、俺の頭に作戦が浮かんだ。
「よし、これで十分だ。作戦を立てよう」
俺たちは宿に戻り、詳細な計画を練った。
「カイン、お前にはゼルガに偽情報を流してもらう」
「分かった。でも、どんな情報を?」
「俺たちが北門から奇襲をかけるという嘘だ。実際は南門から潜入する」
「なるほど」
リョウが理解した。
「敵の戦力を北に集中させて、その隙を突くのか」
「そして同時に、ミラの本当の居場所を探る」
俺は地図を広げた。
「西の塔は囮だ。本当は別の場所にいるはず」
「私の治癒魔法で、ミラさんの病気も何とかできるかもしれません」
エルナが決意を込めて言った。
「みんな……」
カインの目に涙が浮かんだ。
「本当にすまなかった。裏切って……でも、みんなが協力してくれるなんて」
「仲間だろ」
俺は肩を叩いた。
「一緒に全員救おう」
その夜、カインは予定通りゼルガに通信を送った。
「明日の午後、アキト一行は北門から奇襲をかける予定です」
『了解した。準備を整えよう』
ゼルガの声が返ってきた。
『ミラの薬も用意しておく』
通信が切れた後、カインが呟いた。
「ゼルガも、きっと苦しんでいるんだろうな」
「ああ」
俺も同意した。
「彼も、守りたいものがあるんだ」
翌日、作戦決行の時が来た。
北門には見せかけの陽動部隊を配置し、本隊は密かに南門へ向かった。
「見つかるなよ」
リョウが緊張した面持ちで言った。
「大丈夫、カインの情報を信じて、敵は北に集中してるはずだ」
俺たちは慎重に進んだ。
その途中で、奇妙な光景を目にした。
ゼルガの連絡役らしき男が、大量の薬品を運んでいる。
「あれは……」
カインが目を凝らした。
「生命延長薬だ。稀少な魔法薬で、一般には流通していない禁制品」
「禁制品?」
「長期療養が必要な特殊な病気専用の薬だ」
カインの表情が変わった。
「この薬……ミラの病気に使われているものと同じだ」
薬の量を見て、カインが気づく。
「でも、この量は一人分じゃない……」
「つまり?」
「ゼルガは複数の患者のために薬を調達している」
エルナが推測した。
「弟さんだけじゃなく、他にも助けようとしている人がいるのかも」
ゼルガという男の謎が、さらに深まった。
影の宰相と呼ばれる彼の真の目的は何なのか。
そして、なぜ未来の災害を予測しているのか。
謎は深まるばかりだったが、今は作戦を続けるしかない。
「行こう」
俺たちは再び歩き始めた。
ミラ救出作戦は、これからが本番だった――




