表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/20

第10話 故郷からの知らせ――想い人の裏切りで気づいた本当の家族

 王都とリベルタスの両方を救った翌日、俺たちは宿でゆっくりとした朝食を摂っていた。


 昨日の激戦の疲労もあって、みんなまだ眠そうだ。


「それにしても、すごい戦いでしたね」


 エルナが温かいスープを飲みながら呟いた。


「王都とリベルタス、両方とも無事で本当に良かった」


「ああ、まさか地下坑道であんなに素早く移動できるとは思わなかった」


 カインも安堵の表情を浮かべている。


「民衆の知恵って、本当にすごいものですね」


 アリシアは昨日の経験で完全に変わっていた。もう以前のような高慢さは微塵もない。


「私が今まで知らなかった世界がたくさんあることが分かりました」


「みんなが力を合わせたからだよ」


 俺はパンをかじりながら答えた。


「一人じゃできないことも、仲間がいれば何とかなる」


 そんな平和な朝の時間を過ごしていると、宿の扉が音を立てて開いた。


「リョウ・フォン・アーデルハイト様はいらっしゃいますか!」


 息を切らした使者が駆け込んできた。アーデルハイト家の紋章を付けている。


「俺だ」


 リョウが立ち上がった。


「何があった?」


「大変です!ご長男のアルフレッド様が急に倒れられました!」


 使者の言葉に、リョウの顔が青ざめる。


「兄さんが?何の病気だ?」


「詳しいことは分かりませんが、高熱が続き、意識不明の状態です。領地の医師も『数日が山場』と……」


 リョウの拳が震えている。


「それだけではありません」


 使者は更に深刻な顔をした。


「隣国のガルバ公爵家が、この機に乗じてアーデルハイト領への侵攻を準備しているとの情報があります」


「何だって?」


 リョウが怒りの表情を見せた。


「あの野郎ども、兄さんが病気で弱ってる時を狙って……!」


「アルフレッド様が亡くなられれば、跡継ぎはリョウ様です。しかし、リョウ様が不在では領地を守ることができません」


 使者の言葉に、俺たちは息を呑んだ。


 リョウが故郷に帰らなければ、兄が死に、領地が奪われる。


 しかし、リョウがいなくなれば、俺たちのパーティーの戦力は大幅に低下する。


「リョウ……」


 エルナが心配そうに見つめる。


「すまない、みんな」


 リョウは苦悩の表情を浮かべた。


「俺は……どうしたらいいんだ?兄さんを見捨てるわけにはいかない。でも、お前たちを見捨てるのも……」


「行ってこい」


 俺は迷わず言った。


「え?」


「家族なんだろ?兄さんは」


 俺はリョウの肩に手を置いた。


「俺たちは仲間だ。仲間の家族の危機を放っておくわけにはいかない」


「でも、アキト……」


「心配するな」


 俺は微笑んだ。


「俺たちが待ってるから。家族を救って、胸を張って戻ってこい」


 エルナとカイン、アリシアも頷いている。


「私たちも同じ気持ちです」


 エルナが優しく言った。


「リョウさんが安心して帰れるよう、ここでしっかり役割を果たします」


「僕も賛成です」


 カインも同意した。


「家族は大切ですからね」


 アリシアも立ち上がった。


「私から父に連絡します。アーデルハイト家への援助を検討してもらいましょう」


「みんな……」


 リョウの目に涙が浮かんだ。


「ありがとう……本当にありがとう」


「当たり前だろう」


 俺は拳を差し出した。


「俺たちは仲間なんだから」


 リョウは俺の拳に自分の拳を合わせた。


「必ず戻ってくる。そして、今度は俺がお前たちを支える番だ」


* * *


 その日のうちに、リョウは故郷に向けて出発した。


 俺たちは街の入り口まで見送りに行った。


「気をつけて」


 エルナが心配そうに言う。


「任せろ」


 リョウは自信に満ちた表情を見せたが、その目の奥には不安も見えた。


 リョウの馬車が見えなくなるまで、俺たちは手を振り続けた。


「大丈夫でしょうか」


 アリシアが呟く。


「大丈夫さ」


 俺は答えた。


「リョウは強いやつだ。きっと全部うまくやってくる」


* * *


 リョウが故郷に向かってから三日後、俺たちは街で次の依頼を探していた。


 リョウがいない間も、俺たちにできることはある。


 その時だった。


「アキト様!」


 街の入り口から、一人の騎士が駆け込んできた。アーデルハイト家の紋章を付けている。


「リョウ様からの連絡です!」


 騎士は俺に手紙を差し出した。


 俺が手紙を開くと、リョウの文字でこう書かれていた。


『アキトへ。


兄さんの病気は何とか峠を越えた。アリシアが手配してくれた王都の名医のおかげだ。


ガルバ公爵も、王室からの警告で侵攻を諦めたようだ。


本当にみんなには感謝している。


ただ、少し複雑な事情ができた。


詳しくは会って話すが、俺の帰還は少し遅れるかもしれない。


でも、必ず戻る。それだけは約束する。


仲間より リョウ』


「複雑な事情?」


 カインが首をかしげる。


「何があったんでしょう」


 エルナも心配そうだ。


 俺にはなんとなく予感があった。


 リョウの故郷には、ローラがいる。彼が想いを寄せているメイドの女性だ。


 もしかして、ローラに関係することかもしれない。


 しかし、リョウが「必ず戻る」と約束してくれた以上、俺たちは信じて待つしかない。


* * *


 それから一週間が経った。


 俺たちは街で小さな依頼を受けながら、リョウの帰りを待っていた。


 魔物退治、盗賊討伐、迷子の捜索……どれも以前に比べれば簡単な依頼ばかりだ。


 リョウの剣がないと、戦力的にはかなり厳しい。でも、4人でもなんとか乗り切っている。


 そんなある日の夕方、ついにリョウが帰ってきた。


「ただいま」


 宿の扉を開けて現れたリョウを見て、俺たちは安堵した。


 しかし、リョウの表情は出発前とは明らかに違っていた。


 どこか大人びて、そして少し悲しみを湛えている。


「お疲れさま」


 エルナが笑顔で迎えた。


「兄さんの具合はどうだった?」


「ああ、完全に回復した」


 リョウは微笑んだが、その笑顔にはどこか無理をしているような感じがあった。


「それは良かった」


 カインも安心している。


「それで、複雑な事情っていうのは?」


 俺がそう尋ねると、リョウは少し躊躇した後、深いため息をついた。


「ローラのことなんだ」


 やはり、と俺は思った。


「ローラが?」


 エルナが心配そうに聞く。


「ああ……」


 リョウは窓の外を見つめながら話し始めた。


「俺が故郷に帰った時、ローラは嬉しそうに迎えてくれた。『お帰りなさい、リョウ様』って」


 リョウの声に、懐かしむような温かさがあった。


「俺も嬉しかった。やっぱりローラは特別だって、改めて思ったんだ」


「それで?」


「兄さんの看病を一緒にしてくれて、本当に献身的だった。俺は……今度こそ気持ちを伝えようと思ったんだ」


 リョウの拳が握られる。


「でも……」


 リョウは苦笑いを浮かべた。


「ローラには既に想い人がいた」


 俺たちは息を呑んだ。


「隣の村の商人の息子でな。俺が家を出てから知り合ったらしい」


 リョウの声は穏やかだったが、その奥には深い痛みが隠されているのが分かった。


「そいつは……とても誠実で優しい人間だった。ローラを大切にしていることも、すぐに分かった」


「リョウ……」


 エルナが同情的に見つめる。


「ローラも幸せそうだった。本当に」


 リョウは微笑んだが、その表情には寂しさも混じっていた。


「俺が告白しようとした時、ローラが先に話してくれた。『リョウ様、実は大切なお話が』って」


 リョウは椅子に深く座り直した。


「で、婚約の話を聞かされたわけだ。『リョウ様にはお世話になりましたが、私には新しい人生があります』って」


 沈黙が続いた。


「辛かったろう」


 俺が声をかけると、リョウは首を横に振った。


「最初はそう思った。でも……」


 リョウは俺たちを見回した。


「その夜、一人で考えたんだ。俺は何のために強くなろうとしてきたのかって」


「ローラを幸せにするため、家名を再興するため……色々理由はあった。でも、根っこの部分は違ったんだ」


 リョウの目に、新しい光が宿った。


「俺が本当に大切にしたかったのは、ローラとの思い出じゃなくて、『大切な人を守れる自分になること』だったんだ」


 リョウは立ち上がった。


「そして今、俺には本当に大切な人たちがいる」


 リョウは俺たちを見回した。


「アキト、お前は俺に『正しい判断とは何か』を教えてくれた。エルナ、お前は俺に『優しさの本当の意味』を教えてくれた」


「カイン、お前は俺に『知恵の大切さ』を教えてくれた。アリシア、お前は俺に『本当の誇りとは何か』を教えてくれた」


 リョウの声には、深い感謝が込められていた。


「お前たちこそが、俺の本当の家族なんだ」


 エルナの目に涙が浮かんだ。


「リョウさん……」


「だから決めた」


 リョウは剣を腰に帯び直した。


「家名の再興は兄さんに任せる。俺は……お前たちと一緒にいる道を選ぶ」


「でも、故郷は大丈夫なのか?」


 カインが心配そうに聞く。


「ああ。実はな……」


 リョウは少し照れくさそうに笑った。


「兄さんが病気で寝込んでる間に、代わりに領地の政務をやってみたんだ。そしたら、案外向いてることが分かった」


「兄さんの病気が治ったら、俺が学んだことを全部教えるつもりだ。兄さんは頭がいいから、すぐに覚えてくれるだろう」


「それに……」


 リョウは窓の向こうを見つめた。


「ローラも、その商人の息子と幸せになってほしい。俺が故郷に縛られていたら、彼女も気を遣うだろうからな」


 リョウの表情には、もう迷いはなかった。


「俺は前に進む。お前たちと一緒に」


 その時、俺は気づいた。


 リョウが本当に変わったんだ。


 家名や過去に縛られるのではなく、今の自分と今の仲間を大切にする道を選んだ。


 失恋の痛みを乗り越えて、より強い人間になったのだ。


「よく帰ってきた」


 俺はリョウの肩を叩いた。


「お帰り、リョウ」


「ただいま」


 リョウは心からの笑顔を見せた。


「ところで」


 リョウは急に表情を引き締めた。


「故郷で気になる話を聞いたんだ」


「気になる話?」


「ああ。最近、王国の各地で『影の宰相』という人物が暗躍しているって噂があるらしい」


 俺たちは顔を見合わせた。


「影の宰相?」


「詳しいことは分からないが、重要な政治決定に秘密裏に関与している人物がいるって話だ」


 リョウの表情が真剣になる。


「もしかしたら、俺たちにも関係してくる話かもしれない」


 嫌な予感がした。


 俺たちの活躍が目立ちすぎて、何かの陰謀に巻き込まれようとしているのか?


 その時、カインが急に顔を青くした。


「どうしたカイン?」


 俺が尋ねると、カインは慌てたように首を振った。


「い、いえ……何でもありません。ただ、『影の宰相』という名前に聞き覚えがあるような気がして……」


 カインの様子が少しおかしい。まるで何かを隠しているような……。


「まあ、今は憶測で心配しても仕方ないか」


 俺は話題を切り上げた。


「とりあえず、リョウが帰ってきてくれて良かった。明日からまた4人で……」


「5人よ」


 アリシアが口を挟んだ。


「私も正式にパーティーのメンバーです」


 アリシアは自信に満ちた表情を見せた。


 確かに、昨日の戦いでアリシアの実力は証明済みだ。


「そうだな。5人で力を合わせよう」


 俺は仲間たちを見回した。


 リョウは失恋を乗り越えて、より強くなって帰ってきた。


 エルナ、カイン、アリシアもそれぞれ成長している。


 5人の絆は、以前よりもずっと深いものになっていた。


 しかし、カインの様子だけが気になる。


 『影の宰相』という言葉への反応、何かを隠しているような態度……。


 まさか、カインに何かの秘密があるのだろうか?


 その疑念が現実になることを、この時はまだ知らなかった。


「よし、明日から新しい依頼を探そう」


 俺は仲間たちに提案した。


「5人の『真の家族』で、もっと大きな困難に挑戦してみよう」


「ああ!」


「はい!」


「賛成です!」


「そうですね!」


 4人の返事が宿に響いた。


 リョウの故郷での体験は、彼を一回り大きく成長させた。


 そして俺たちの絆も、より深いものになった。


 しかし同時に、新たな謎も生まれていた。


 『影の宰相』とは何者なのか。そして、カインが隠している秘密とは……。


 俺たちの前に、更なる試練が待ち受けているのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ