表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/20

第1話 転生先で即死した俺が手に入れた、運命を変える力

 俺の名前は田中明人。どこにでもいる普通の高校生だった。


 過去形なのは、今まさにトラックに轢かれて死にかけているからだ。


「あー、これ完全にあのパターンじゃん」


 意識が薄れていく中、俺は妙に冷静だった。なろう小説を読み漁っていたおかげで、この状況がどういうものかよく分かる。


 そして予想通り――


「お疲れさまでした、田中明人さん」


 気がつくと、俺は真っ白な空間に立っていた。


 目の前にいるのは、神々しいオーラを放つ美しい女性。どう見ても女神さまだ。


「えーっと、俺、死んじゃいました?」


「はい。事故死ですね。お疲れさまでした」


 あっさりと死亡確定である。


「それで、異世界転生とかそういう流れですか?」


「よくご存知ですね」


 女神は微笑んだ。しかし、その表情にはどこか深刻な影が見える。


「実は、お願いがあるのです」


 女神は真剣な顔になった。


「転生先の世界には、深刻な問題があります。多くの人々が理不尽な選択を強いられ、犠牲になっています」


「はあ」


「あなたには、その世界で真実を見つけ、正しい道を選んでほしいのです」


 正しい道、か。


「で、チート能力は何をもらえるんですか?」


「申し訳ありませんが、特別な能力はお渡しできません」


「え?」


 俺は思わず聞き返した。


「異世界転生なのに、チート能力なしですか?」


「はい。ただし――」


 女神は意味深な笑みを浮かべた。


「必要な時が来れば、あなた自身が答えを見つけるでしょう」


 よく分からない言葉を残して、女神は手を掲げた。


「それでは、田中明人さん。異世界では『アキト』として生きてください」


 光に包まれて、俺の意識は再び闇に落ちた。


* * *


 目を覚ますと、俺は森の中にいた。


「うわっ、マジで異世界だ」


 見上げると、空には二つの月が浮かんでいる。間違いない、ここは地球じゃない。


 体を確認してみると、見た目は高校生の頃とほぼ同じ。服装は中世ヨーロッパ風の茶色い服に変わっていた。


「とりあえず、街を探さないと」


 森の奥からは不気味な鳴き声が聞こえてくる。この世界には魔物がいるのだろう。早く安全な場所に避難しないと。


 俺は慎重に森を歩き始めた。


 しかし――


「ガルルルルル……」


 背後から低いうなり声が響く。


 振り返ると、巨大な狼のような魔物がいた。体長は軽く二メートルを超えている。赤い目がギラギラと光り、鋭い牙が月光に照らされて輝いていた。


「うわあああああ!」


 俺は必死に走った。しかし、相手は魔物だ。人間の足で敵うはずがない。


 あっという間に追いつかれ、背中に激痛が走る。


「がはっ!」


 振り返ると、魔物の爪が俺の背中を深く裂いていた。血がどくどくと流れ出す。


「そんな……まだ何もしてないのに……」


 意識が薄れていく。


 死ぬ。また死ぬのか。


 せっかく異世界に転生できたのに、チート能力ももらえず、何の活躍もできずに死ぬなんて。


「クソが……」


 俺の意識は完全に途切れた。


* * *


 次の瞬間、俺は立ち上がっていた。


「え?」


 辺りを見回すと、さっきまでいた森の奥ではなく、森の入り口に戻っている。


 背中の傷もない。血も流れていない。


「何これ? 夢だったの?」


 でも、あの痛みは確実にリアルだった。夢じゃない。


 空を見上げると、二つの月は確かにそこにある。でも、月の位置がさっきより少し東にずれている。


「まさか……」


 俺の脳裏に、ある可能性が浮かんだ。


 死に戻り。


「本当に死に戻ったのか?」


 確かめるため、俺は森の奥へ向かった。同じ道を辿っていくと、やがて同じ場所に出る。


 そして――


「ガルルルルル……」


 全く同じタイミングで、同じ魔物が現れた。


 間違いない。これは死に戻りだ。


 俺は今度は違う方向に走った。しかし、結果は同じ。魔物の方が圧倒的に速く、あっさりと追いつかれて殺される。


 そして、また森の入り口に戻る。


 何度試しても同じだった。この魔物は俺よりもはるかに強い。正面から戦って勝てる相手じゃない。


 五回目の死に戻りの後、俺はようやく理解した。


「そうか……これが俺のチート能力なんだ」


 女神が言っていた「必要な時が来れば、あなた自身が答えを見つける」という言葉の意味が分かった。


 俺には最初から死に戻り能力が与えられていたのだ。


 この能力があれば、どんな困難な状況でも、何度でもやり直せる。最適解を見つけるまで、何度でも挑戦できる。


「よし、今度は違う作戦で行こう」


 六回目、俺は魔物が現れる前に木の上に登った。


 魔物は俺を見つけられず、しばらくうろついた後に去っていく。


「成功だ!」


 俺は慎重に木から降り、魔物とは反対方向に向かった。


 しばらく歩くと、森の向こうに街の明かりが見えた。


「やった……ついに街に着いた」


 死に戻り能力。


 これこそが、俺に与えられた本当の力だったのだ。


 この力があれば、きっとこの世界の問題も解決できる。女神が言っていた「正しい道」も見つけられるはずだ。


 俺は希望に胸を膨らませながら、街へと向かって歩いていった。


 こうして、アキトとしての俺の異世界生活が始まったのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ