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第5話 りんご飴

 今日は、午前中で授業が終わる。

 このセントラル学園の開園記念日のため、そのお祝いとして、お祭りが行われるからだ。


 シャーランは授業後に昼食を食べ終え、自習室へ向かう。お祭りには興味があったが、みな誰かしらと来ている中で1人で行くのは場違いな気がするし、徐々に落ち着いてきたとはいえ、兄のせいで学園内で広まった噂により注目をあびることが嫌だった。


 シャーランの故郷でもお祭りはあったが、家族が行くことを認めず、部屋の窓から眺めたことがあるだけだった。


 シャーランが自習室へ入ろうとドアノブに手をかけたとき、遠くから男性が駆け寄ってきた。


「おーーーい!シャーランさん〜!どこ行くんですか?」

 ニコニコした子犬のような可愛い笑顔で、手を振りながら来るのはマハラだ。


「自習室で勉強しようと思って・・。」


「今日、お祭りがあるんですよ!一緒に行きましょうよ!」


(子犬みたいに可愛い感じなのに、毎回なにかと言うことはストレートなのよね)


 シャーランは、マハラの物怖じしない性格に、少しずつ気持ちが、ほだされていく。


 マハラに誘われて、学園外に出る。

 学園の広い敷地内に、たくさんの店が出ている。旗やイルミネーションがいたるところにかけてあり、いつもと違った様子にシャーランは目を輝かせる。


「こういうのは初めてですか?」

 マハラは優しい眼差しで、シャーランを見つめる。


「はい。初めてなので、嬉しいです。」


 シャーランの予想外な回答に驚き、顔を赤くし、それを見られまいと腕で隠して横を向くマハラ。


「それなら、今日は一緒に楽しんじゃいましょ!」

 照れ隠しでマハラは軽く咳払いをし、シャーランの両手をとる。まだほんのり赤い頬のマハラを、シャーランは可愛いとクスッと笑う。


 シャーランはマハラに手をひかれ、多くの人が賑わう方へと向かう。


(マハラと繋ぐ手がくすぐったい・・)


 初めて家族以外の男性と手を繋いだシャーラは、態度にこそ出してはいないが内心落ち着かなかった。


 多くの店が並ぶ中、美味しそうない赤い丸々としたりんごが、串にささって置いてある店に気づいたシャーランは歩みを止める。


「あれ、気になる?食べてみよっか。」

 マハラが、笑顔で店の方へシャーランを連れていく。マハラが2個買い、1個シャーランへ手渡す。


「はい。これ、りんご飴っていうんですよ。砂糖でコーティングしてあって、おいしいんですよ。」

 マハラはニコニコと楽しそうに話す。

 すると、りんご飴を渡した店の老婆が、ゆっくりとしゃがれた声で話し出す。


「きれいだろう?見た目も形も。だが、昔はね、このりんご飴の周りに毒なんかを練り込んじゃった人がいてねぇ、殺人事件なんてものが起きちゃってねぇ、そのせいでうちも商売あがったりで、あのときは大変だったんだよねぇ〜。」


 マハラとシャーランは、自分たちの持っているりんご飴をジッと見て、口元から恐る恐る遠ざける。


「はっはっはっ。昔の話で、今はそんなことはないから安心をし。うちのには、そんなものは入っていないよ、食べて大丈夫だ。」


 老婆は、マハラとシャーランがたじろぐのを見て大笑いする。


 マハラとシャーランは目を合わせ、クスッと笑いながら老婆にお礼を言い店を出る。店を出たすぐの人混みのない場所で立ち止まり、シャーランはりんご飴をかじる。

 外はカリカリで砂糖の甘さ、中はりんごのジューシーな果汁と果肉の甘さで、2つがいっぺんに口の中に入ると、食感と味のバランスが見事に調和し、口の中がとろけた。


「おいしい・・!」

 目をキラキラさせて喜ぶシャーランを見て、マハラも、でしょ、と嬉しそうに笑顔で同じく、りんご飴にかぶりつく。


「こんなに美味しいもの、食べたの初めてかもしれない。ありがとうございます、本当ににおいしい!」

 シャーランは、満面の笑みでマハラにお礼を言う。

 お祭りの雰囲気も相まってか、今まで食べたどんな食事よりも、このりんご飴が美味しく感じた。


 突然のシャーランの笑顔に不意打ちをくらい、マハラはりんご飴を口元に当てたまま、口は半開きのまま、ぼーっとシャーランに見惚れる。

 首元から耳元、そして顔と少しずつ赤く染まっていくマハラ。


 お互いに恥ずかしそうに微笑みながら、りんご飴を頬張っていると、りんご飴の店から若い栗毛色の髪の男性が出てきた。


「あっ、すみません、先ほどりんご飴購入した方ですよね、うちの祖母がこれを付けるのを忘れたみたいで、すみません。食べたあとに使ってください。」

 お手拭きを2枚、男性がマハラとシャーランにそれぞれ渡す。

 マハラとシャーランと男性はお互いにペコリとお辞儀をして、男性はまた店内へと入る。


「あ、確かにこれ大事だわ。」

 りんご飴の砂糖で、手がベトベトになっているマハラは、笑ってお手拭きを開ける。


 そのとき、ガッ!!と、後ろから、マハラの首に誰かが腕をかけた。


「な〜に、抜けがけ〜〜??」

 スカイだ。片眉をあげて、じとーっとマハラを見る。首に絡めている腕をギリギリ強めて、マハラは、いてて、と、笑みをこぼしながら腕をほどこうとする。

 ジャンとケイシも苦笑いしながら、近寄ってくる。


「こんにちは。」

 シャーランは挨拶をすると、ケイシの横に見たことない男性がいるのに気付いた。背が高いケイシと並んでいると小さく見えたが、近くに寄ってくると、シャーランよりは背が高かった。


「あ、初めましてー!タクでーす!えっと・・あと何言ったらいい・・?」


 満面の笑顔で話す元気な彼は、ケイシを見てはにかみ笑う。短髪と大きな目をした、親しみやすいお兄さんといった雰囲気だ。


「あ、こいつね、おれたちと寮が同室なの。今日一緒に行こうって話になって。」

 ケイシがタクの肩に腕を絡ませて、タクとじゃれ合う。

 シャーランは彼らの寮部屋を思い出し、2段ベッドが3つあったのを思い出した。


「そー!そしたらさー、マハラがなんか抜け駆けしてんのー。」

 スカイが口元には笑みを浮かべながら目を細め、マハラに顔を近付けていく。マハラは笑いながら、スカイの顔を押しのける。


 仲が良さそうでいいな、とシャーランが見ていると、ジャンが目の前にきた。


「それってりんご飴?おいしいよね。僕も好きなんだ-。良かったら、一口、もらってもいい?」

 シャーランが持っているりんご飴のクシ部分を持ち、少しずつ身をかがめ、シャーランの持っているりんご飴に口を近づけていく。


「だめに決まってるだろ!」

 マハラがジャンの頭を軽く小突き、シャーランから引き離す。

 スカイ、ケイシ、タクが、オイオイ何してるんだ、とジャンとマハラに群がり、楽しそうに盛り上がっている。


(仲良いのね)

 そんな彼らの様子を眺めたあと、シャーランは手に持っているりんご飴を、自分の顔の前にかざしクルクルまわす。

 りんご飴の外側、飴部分だけををカリッとかじり、指で持ち日の光にかざしていた。


 まるで、何か考えているかのように。

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