第39話 眠る場所
「俺の家には訪ねてこない約束だっただろ。後は、つけられてないのか?」
「一応注意はしていたよ」
リリーはそう言うと、部屋の中に入り、ソファに横たわるシャーランを横目で見る。
「彼女がそうか」
「おい!」
スカイが部屋の奥から、リリーとタイキを見ながら大きな声をあげる。
「この家は、見えなくなっているんだろ?なら、なぜこの女は入れたんだ?!」
スカイは動揺しているのを隠すつもりで大声をあげたが、リリーは眉ひとつ動かずに、無表情でスカイを見つめた。
タイキは、少し考え込むような顔をしたが、決意したように話し出す。
「彼女も俺と同じニーカ族なんだ」
「いや、待て、この女、セントラル王族の専属医師団だぜ?王族側について、裏切ってるじゃねーか!」
スカイが信じられないといった表情でタイキを見ると、タイキは両手を胸元辺りまであげて前後に振り、スカイに落ち着けといわんばかりにジェスチャーしつつ言葉を続ける。
「シャーラン様が捕まったのを知って、彼女はあえて医師団に所属したんだ。彼女を近くで守るためにね」
「…急に言われても信じられねーよ…」
スカイが弱々しく答えるのを見て、リリーは淡々と話し出す。
「前のように、アイフォール医師がいないと、信用できないかな」
リリーの言葉に、タイキを除いた全員が固まる。
「アイフォール医師を部屋に迎えにいったときに、話していたのが君らだと知っているよ」
「……なら…聞くが、アイフォール医師は今どうしているんだ」
ルイが警戒しながら、慎重に尋ねる。
「さっき言っただろう。学園内は混沌としていると。アイフォール医師も王の息子がおった手の傷やら、マージ家の男の後始末やら、忙しそうだよ。アイフォールが無事かどうか確認したかったのであれば、それは無事だ」
リリーは、抑揚のない淡々ととした口調で話したあと、タイキにその鋭い目を向ける。
「学園内は、今大騒ぎだ。王族の人間が大勢立ち入っていて、入るのは困難を極める。寝た状態の彼女を抱えて行くには、目立ちすぎる。どうする」
「それでもやるしかない。学園内に、どこか抜け道のような通路はないのか。あるいは、リリーお前が王族関係者を引きつけて——」
「ちょっと待ってくれ」
マハラが困惑した表情で2人を見ると、2人は話すのをやめ、床に座っているマハラを見下ろす。
「え…なんだ…これから…学園に戻るのか…?」
「そうだ」
タイキが表情を変えずに、頷く。
「な、なんでだ…!?今戻ったら、間違いなく捕まるぞ!」
「状況がどうであろうと、戻るしかないんだ。なぜなら、シャーラン様の…代々シュトム様が眠っておられた、昔の人々が作った木の縦長の箱、それがある場所が、セントラル学園内だからだ」
「え!?」
「伝記にもあったと思うが、シュトム様が眠りについたとき、その木の箱に寝かせ蓋をし、日の当たらない地下室をつくり、そこに置いた、その場所が、シャーラン様も眠る場所になる。ただ君らが読んだ伝記には記されていなかったが、その場所に、上からセントラル国王が学園を建てたんだ」
「はぁ…信じられないな。どこまでも、自己中心的な欲にまみれたクソ野郎だな」
いつもは汚い言葉を発しないルイだったが、こればかりには苦々しい表情を浮かべ、吐き捨てるように言った。
「そんな…他の場所で代用して寝るとか…あるいは、木の箱だけでも移動させるとか、学園に戻らないようにする、何か別の方法はないのか!?」
必死に代案を考えるマハラだったが、タイキとリリーの顔を見る限り、それは無理なのだと悟った。
「誓約上、他の寝床にはできない。それから、木の箱は重くて頑丈で大きいものだ。俺達全員が協力しても、持って運べるようなものじゃない」
タイキが理由を話すうちに、マハラは自分の提案は全て無理だと悟り、タイキの言葉が耳に入らなくなっていった。そして、無力さを痛感し、俯きうなだれることしかできなかった。
「…分かった。それなら、せめて、シャーランを連れて行くのは、オレ達にやらせてくれ」
マハラは寂しそうな顔で、タイキとリリーに頼んだ。
マハラの言葉に、スカイ、ケイシ、ルイ、タクがマハラの周りに集まり、黙ってタイキを見つめる。
マハラの隣にしゃがむジャンは小さく息を吸うと、タイキとリリーを見上げて尋ねる。
「シャーランの眠る場所は、具体的に学園のどこなのか知っているのか?」
「地下だ。ただ、俺はセントラル学園に入ったことはないし、リリーも内部に詳しくはない。つまるところ、実際の場所は、行ってみないと分からないんだ」
タイキはため息をつき、不安そうな顔付きになる。
タイキの話を黙って聞いていたリリーは、タイキの様子を横目で見たあと、あとを続ける。
「私も今回のことで初めて学園内に入ったが、隙を見て調べた様子だと、階段を降りて地下に行くしかない。ただし、学園内部の地図も案内板も何もないなか、目的の場所へ確実に着ける保証はない。セントラル王族や関係者が学園内に溢れている今、彼らに見つからないためにも素早く地下へ入りたいが、学園の門をくぐり、1階の入り口から中に入れば、必ず見つかってしまう」
リリーは左手で右腕の二の腕辺りを掴み、トントンと人差し指でたたき、この問題にイラついている様子だった。
すると、腕組みをしたタクが口を開く。
「案があるっす。入り口付近には近づかないといけないっすけど、1階のエントランスに入らず、そのまま地下に行く方法はあるっす。——そうっすよね?」
タクが大きな目で、マハラ、ジャン、スカイ、ケイシを見つめる。
「あ——?あ!ある…な。確かに!リハク医師に連れられて、通った道だろ?」
ケイシが顎に指を当て、記憶を絞り出すように話す。
「そうっす。ただ、あの地下通路も、学園関係者や王族は知っている可能性も高いっす。なんで、危ない道には変わりはないっすが、今ケイランの件でバタバタしている中、王族関係者が地下にいる可能性は低いと思うっす…」
「あぁ、あそこは暗くてジメジメしてたしな。王族はよほどの理由がなければ、嫌がって近寄らなさそうだな」
ジャンはタクと目を合わせると、互いにニヤリと笑い合う。
「だけど、あそこは迷路みたいだっただろ?オレはもう道覚えてねーけど、大丈夫なんか?」
スカイが頭をかきながら、肩をすくませてジャンとタクを見る。
「問題ないっす。シャーランの眠る地下部屋がどこかも分からないんすから、前と同じ道を辿る必要もないっす」
「あぁ、なるほどな。って、地下でオレら彷徨う可能性もあるよな!?」
皆がワチャワチャして話し合う様子を黙って見ていたタイキは、手を軽く1回叩き、注目を集める。
「オーケー。それなら、道案内も君らに頼もう。リリー、お前は学園入口で、王族らを引きつけ地下通路から遠ざける役目だ」
「分かった」
リリーは相変わらずの無表情で淡々と答えたが、タイキの後ろのソファを見て、大きくゆっくりと目を見開いた。
そのリリーの表情に、全員が皆ソファの方を振り向く。
そこには、起き上がったシャーランがソファに両手をつき、こちらを見ていた。




