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誰も助けてくれないのだから  作者: めんだCoda


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第31話 彼女の子を孕めば

「男女の関係…!?父上、何を言っているか、分かっていますか—?」


 ルイは顔を歪め父親を見つめるも、父親は息子の言葉に表情一つ変えなかった。


「言葉の通りだ、ルイ。私はお前がシャーラン・シュトムと親しくなり、そしてシュトムがお前の子を孕はらめば、と考えていたのだ」


 ルイは父親の言葉に絶句し、その場で固まってしまう。


「この学園にお前を通わせることを再開させたのは、お前の推測通りだ。シュトム族の神の子がいなければ、そもそもこんな身分の低いもの達が集まる場所に、血統の優れたお前をいさせるわけがないだろう」


 ルイの父親は、引き攣った顔で笑顔をつくる。


「お前も私の考えが分かっただろう、記憶を取り戻させるキッカケにもなるかもしれん、さっさと彼女の部屋へ行き、ベッドに縛り付けてでも彼女を…」


「やめてください!!!」


 大声を出し父親の言葉を遮ったルイは、歯を食いしばり拳を握って、鋭い目で父を睨んでいた。


「私が馬鹿でした。シャーランの助けになる情報を父上に聞こうなどと考えるなど。——本当に私は…父上の言う通り、大変愚鈍な息子ですね…。もう話すことはありません。帰っていただけますか」


 毅然とした態度をとるルイだったが、その拳はギリギリと強く握りしめられ震えており、そしてその目には、薄っすらと涙が馴染んでいた。


 そんなルイの様子を見ても表情を変えることないルイの父親は、落胆したような顔で首を横に振りため息をつき出した。


「はぁ。シュトムの助けなどと、甘ったるいことを言うとは…お前は処世術というものを全く分かっておらん。目の前にいいコマがあるならば、それをなんとしてでも手に入れるのだよ、ルイ。お前には、狡猾さが足らぬ。欲しいものがあれば、躊躇することなく手に入れられるだけの、恵まれた容姿と身分をもっているというのに、それを使わず…こんな見た目だけの庶民どもと馴れ合いおって」


 ルイの父親はゆっくりと部屋のドアへと向かい、ドア前で振り返る。


「ルイ、セントラル国内に多く存在する公爵家の中でも、我がファースト家は1番の権力を所持いる。いいか、その権力と身分をうまく使うことに頭を使え」


 それだけ言うと、ルイの父親は部屋から出て行き、部屋の中はシンと静まりかえった。


「……あ…なんか、ごめんな…。驚いただろ?あんな父親で」


 顔を引き攣らせて笑うルイは、わざと皆の視線から顔をそらす。


 ルイの乾いた笑いだけが部屋に響き、マハラ、タク、スカイ、ケイシ、ジャンの誰1人として、なんと言葉を返したらいいのか、言葉に詰まってしまった。


「まさか、シャーランと関係をもつことを望んでたとはな……笑える話だよな。…シャーランの情報を知ってるかも、とか期待させておいて、新しい情報は得られなかっただけでなくさ、気分悪くなる話を聞かされて時間の無駄だったな」


 ルイは背中を丸めて腕を組み、自嘲気味に笑い出す。


「いや…、よくあんな親父さんのいる元に帰ろうと思えたな、ルイ。おれなら…無理だわ」


 ケイシは優しく笑みを浮かべ、ルイの気まずいであろう気持ちを思い、なんとか場の空気を変えようとする。


「ケイシ、俺の家に来てみたいって言ってたけど、行かなくて良かった、って思っただろ」


「いや、正直家には興味ある…から、行ってはみたい」


「ははっ、すごいな、あの父上を見てもそう言えるのか」


 ルイはほんの少し肩の力が抜けてきたのか、笑顔も自然になってきた。


「さーて、ルイの父親は確かにインパクト強かったが、何も情報がなかったわけではないぜ」


 ジャンが指をパチンとならして、皆の注目を集める。


「ジャン、いいよ。父上の話に何か見出そうとしなくていい。もうこの話はやめよう」


「いやいや、確かにな、話の内容はアレだったが、ルイの親父さんは野心家というか、強欲というか…ただ、シャーランと関係をもてというのは、シュトム族の秘密を打ち明けたセントラル国王を裏切る行為でもあるだろ?それに加えて、記憶喪失でシュトム族としての能力を失っている今、シャーランが仮に、だ、妊娠したとして、伝記にあった、全能で人の上に立つ選ばれし子供を産めるのかすら分からない、にも関わらず、それを息子にさせようとする」


「ジャン、父上の下世話な話はもういいだろ…」


「ルイ、違うんだ。僕達は大事なことを見てなかったんだ」


「大事なこと?」


「今は王族派、反王族派関係なく、シャーランがシュトム族と知っている人の多くが、同じ目的のためにある程度、結託していると言ってもいいかもしれない」


「結託…?つまり…シャーランの覚醒を望んでいる?」


「そうだ、もしシャーランがシュトム族としての能力に目覚めたならば、王族派、反王族派、関係なく、我先にと彼女と関係をもとうとするだろうな」


「…伝記では人々がシュトム族を欲望のままに扱っていたな…その内容を、また繰り返すってことか…」


「そうなるな…。あくまでも僕の推測だけれど、今はシャーランに脅威をなすのは、セントラル国王だけじゃないかもしれない」


 ジャンは暗い表情で頷く。


「いや、おれもジャンと同じ考えっすね」


 タクが、真っ直ぐにジャンを見据える。


「おれ、実は、なんでガオガイ先生らがシャーランに記憶を取り戻させようとしたのか、気になってたんすよ。王族がシャーランを個人のものとして所有し扱うのに反対だとしても、シュトム族としての記憶を取り戻してしまったら、それこそ今の均衡は壊れてしまうっすよね。それだけでなく、下手すれば、王族がまた彼女を使って権力を得ようとするかもしれないっす。そんな危険を顧かえりみても、反王族らもシャーランの記憶を取り戻そうとしているのは、反王族らもチャンスを伺ってるってことっす。反王族派の人間が彼女と関係をもち、現王族を崩壊させ、自分らの政治をと考えている可能性は大いにあるっす」


「…どちらにしても、シャーランのことを考えてる奴はいなさそうだな」


 低い声で話すスカイは、眉間に皺を寄せ苦い表情をみせる。

 また重い空気になり、沈黙が続く。


 すると、マハラが起きたてのボサボサとした髪の毛を掻きながら、ゆらりと一歩前に出る。


「——ある意味、その点ではケイランは正解なのかもしれない」


 ハッキリとそう語るマハラに、皆は驚き目を見開く。


「おい、マハラ、お前…ケイランが…あいつがシャーランに何をしてきたのか、分かっているよな?彼女がケイランを嫌がっていたのも、それも分かって言ってるんだろうな??」


 スカイが眉間に皺を寄せ、マハラに喧嘩腰に話しかける。


「あぁ、分かってる。その点はクソなんだけど。ただ、ケイランはガオガイ先生らが、シャーランの記憶を呼び戻させるのを阻止しようとしただろ。今までずっとシャーランの一番近くにいたケイランにとって、シャーランが記憶を取り戻せたなら、誰よりもいち早く、その、いわゆる…ルイの親父さんが言ってるような…、男女のチャンス…はあるだろ…?でも、そうしなかったケイランはさ、なんていうか、もしかしたらオレらが思っているほど、最低な奴じゃないかもしれないっていうさ…」


「マハラの考えも分かるっすけど、ガオガイ先生らの前でシャーランが記憶を取り戻した場合、反王国派の手にシャーランが渡ってしまう可能性を考えて、あの場では止めに入った、ってのが濃厚じゃないっすか?」


「あー!絶対そうだな、ケイランの野郎が、シャーランの身を案じるわけない。マハラ、お前考え過ぎだ」


「えぇ…そうかな…」


 タクの意見に同調したスカイに押されて、マハラは自分の考えに自信をなくし、肩を落とす。


 すると、ジャンが、パンパンと手をはたき、皆の注目を集める。


「ま、とりあえずケイランがどう考えたかは分からないわけだしおいといてさ、皆んなは今どう考えているか教えて欲しい。シャーランは記憶を取り戻すべきか、否か」


 ジャンは、皆の顔をぐるりと見回す。


「シャーランが、記憶を取り戻すべきだと思っている人、挙手」


 すると、ケイシ、スカイ、タク、ルイがゆっくりと手をあげる。


「はい、思ってる」


「オレも」


「失った記憶も、彼女の一部っすからね」


「元に戻してあげたい気はする」


 4人の意見に、うんうん、と頷き聞くジャンは、手をあげずに黙っているマハラに視線をやる。


「マハラは?どうなんだ?」


「オレは…正直分からない…けど、記憶は戻さなくてもいいんじゃないか、て気持ちが今は大きい」


 マハラは皆の顔を見回すと、話を続ける。


「シャーランはこの学園に来てから、オレ達のように普通の生徒として、授業に勉強に真面目に取り組んでるし、シュトム族として生きるより、こっちの方が楽しいんじゃないかなって。でも、これはオレの意見でシャーランの気持ちじゃない。あの日からシャーランとは全く話してないからさ、もう一度ちゃんと、シャーランと皆で話し合いたいなとは思う」


 その綺麗な黒い瞳で、真っ直ぐに皆を見つめるマハラの姿に、他の5人は顔を見合わせ頷き合う。


「さすが、オレらの中で一番先にシャーランのことを好きになっただけあるな」


「お前のシャーランへの気持ちには負けるわ」


 スカイとケイシにからかわれ、照れるマハラは、こづいてくる2人の腕をイタズラっぽく手で払う。


「よし、そうと決まれば、まずはシャーランへの接触だ。まずは、いつもベッタリくっついているケイランを、どうやって引き離すか、だなぁ…」


 後頭部に手を当て悩むジャンに、マハラが小さく手を上げる。


「オレ、1つ案があるんだけど…」

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