第3話 兄からの執着 ②
先ほど昼食会場がざわめいたのは、この兄の美貌ゆえだった。
シャーランの兄の容姿は、シャーランに負けず劣らずの美貌だった。容姿の美しさだけではなく、魅惑的な雰囲気も持ち合わせており顔立ち、スタイルが良いだけではなく、その自信に溢れたいでたちは、シャーランの自国では会う人会う人みなの女性たちを虜にしていた。
「ケイランお・・お兄さま、なぜここに・・」
小さな声でやっと絞り出したシャーランの声は、恐怖で震えていた。
兄の近くには、護衛らしきガタイのいい人物が3人いる。全員腰には剣を刺している。
テーブルに置かれたシャーランの両手は小刻みに震え、目は恐怖に見開かれていた。
マハラとジャンは、そのシャーランの様子を見て心配になり、ジャンは大丈夫?と声をかけ、落ち着かせてあげようとシャーランの手を握ろうと手を伸ばす。
それを察知したケイランは、シャーランに絡ませていた両腕をグイと上にあげ、無理やりシャーランを立ち上がらせる。
ジャンは驚き手を宙に止めたまま、2人を見上げる。
引きずられるようにして立たされたシャーランは、恐怖におののき、バランスをくずし兄の体に背中がピタリと、くっついた状態になる。
「それで元気だったのかい?シャーラン。」
兄が顔を寄せシャーランの頰にキスをする。
シャーランの体に絡められた兄の腕は徐々にキツく締め上げ、豊満なシャーランの胸の方へと上に押し上げてくる。
昼食会場中の視線が一気に自分に集まっているのを感じていたが、シャーランは恐怖で体が硬直し微動だにできない。肩は恐怖で力が入り指は硬直し、足には力が入らない。今や兄に背中で寄りかかっている状況だ。
その間も兄は、笑みを浮かべシャーランの体を優しく撫で回している。
(こんな姿をみんなに見られたくない・・)
恐怖と恥ずかしさで、込み上げてくる涙。
シャーランは顔を歪め、目をギュッと結んだときだった。
「やめてあげたら・・どうですか?彼女疲れているみたいで、体調良くないみたいです。」
マハラが立ち上がり、ケイランを見据える。
シンーーと静まり返った昼食会場に、マハラの声が響く。
いつもはニコニコしているマハラだったが、今は口を引き結び、両手をしっかりと握りしめ、拳を作っていた。
ケイランは、小物を見つめるような憤りを帯びた目でマハラを見る。怒りと共に、どこか冷たさや残酷さを漂わせる目つきでもある。
マハラは少したじろぎながらも、ケイランから視線をそらさずグッと耐える。
ジッと睨み合う2人。
ジャン、ケイシ、スカイはそんなマハラの様子を心配そうに見つめる。
ケイランはふと笑いシャーランの頭を撫で、その手をシャーランの髪の毛にそってゆっくりおろし、シャーランの頬をなでるとクイと顎を上に向ける。
「急に来て悪かったね。驚かせてしまったようだ。今日は様子を見にきただけだから、もう帰るよ。」
ケイランはマハラを再び睨み、シャーランの頬にもう一度キスをし、後ろからグッと抱きしめ絡めていた両腕の力を緩めた。
その瞬間、シャーランはバランスを崩し倒れ込む。
「あぶない!!」
マハラとジャンが、慌ててシャーランを受け止める。
ケイランはその様子をみてフンと鼻で笑い、護衛を連れて去っていく。護衛の装備が、ガチャガチャと、静まり返った昼食会場に響き渡る。
ケイランが去ると昼食会場は、チラチラとシャーランを見る者、コソコソと何か話す者、ケイランの容姿に魅了されたのかケイランを追いかける者など様々で、徐々に音を取り戻していく。
「大丈夫?」
今にも意識を失うのではないかと、ジャンは本当に心配になった。それも無理はない。
シャーランは体全体を小刻みに震わせ、目は見開かれたままだ。
「とりあえず、この昼食会場から出よう。シャーランさん、オレとジャンが支えるから少し歩けますか?」
マハラは、会場中がシャーランに注目しているこの状況が、今のシャーランの状態を悪化させるような気がした。
マハラはジャンと無言で目配せし、床に座り込んでいるシャーランを立たせようとする。
「オレらも手伝うよ。」
スカイとケイシが小走りして駆け寄ってくる。
「なんだよ、さっきの、兄貴なわけ?あれ兄貴のする行動なんかじゃな・・」
「おい!!」
スカイが気持ち悪いと吐き捨てるように言うのをマハラは制し、今は何も言うなとスカイの目をジッと見て首を横に振る。
マハラ、ジャン、スカイ、ケイシはシャーランを抱えるように昼食会場から連れ出し、人目につかない場所へと移動した。