第24話 王族の血族
はるか昔、身分の上下がなかった人々の間では争いが絶えず、それを見かねた神は、ある特別な人を1人山奥に放はなった。その特別な人はシュタムと神から名付けられ、知能も高く体術の能力も高く、この世の者とは思えないほどに煌きらびやかな容姿に綺麗なアイスブルーの目。何においても完璧で、人々と一線を画かくした存在であった。
シュタムには、神から役割を与えられていた。
それは、争いごとを無くすために階級をつくることに決めた神が、人々にこう示したことから始まる。
シュタムと交わり子を成し、産まれた子は人の上に立つ権力と支配する力そして絶対的な幸運をもつ。その産まれた子が生きている限り、権力、政治、繁栄、無病、全ての事柄に関して力をもちツキが巡り、その影響力は揺るぎないものとなり、他の何ものにも脅かされることはないだろう。
ただし、シュタムと交わることができるのは妊娠できる女性に限る。
シュタムは7日間だけ活動し、その後100年の眠りにつく。そして100年後、また7日だけ目を覚ます、それが繰り返されると。
神のお告げを聞いた人々は、我先にとシュタムとの交わりを求めシュタムのいる山奥の場所へとおとずれた。シュタムは肉体も素晴らしく、おとずれた女性達をことごとく虜にし、シュタムは望む女性達にこたえ休むことなく7日間行為に及んだ。
そして7日後に、神が告げた通りにシュタムは眠りにつき何をしても目覚めることはなかった。
人々は残念がったが、シュタムのために木で縦長の箱をつくりそこにシュタムを寝かせ蓋をし、日の当たらない地下室をつくるとそこに置くこととした。
シュタムが眠りについてから数週間後、シュタムと交わった者の中から妊娠した者が数人出てきた。しかし、途中で流産や死産となった者が多く、結果出産までいきついた女性はただ1人だった。彼女の名はビーンセ・セントラルといい、やがて時期がくると元気な男の子を産んだ。
すくすくと育った男の子は月日と共に青年となり、文武共に優れた才を発揮し自国や他国にいたるまで人々を束ね統率し、人々の間の争いをなくしていった。神のお告げのとおりだと、人々はシュタムの血筋を引いた彼に敬意を示した。
彼はこの国をおさめる初代セントラル国王だと名乗り、母のビーンセ・セントラルと共に血縁関係のある者を集めその集団を王族とした。自国の人々へは幾つかの階級を与え、それが貴族として枝分かれしていった。
他国もセントラル国を真似て王族と貴族等の身分をつくったが、王族であってもあくまでもセントラル国王の下の存在だという認識であった。
初代セントラル国王は適齢になると何人もの女性を娶めとり、王族としての家族を更に増やしていった。
そして、初代セントラル国王が生きている間は、シュタムの血からくる絶対的な力により国をおさめ、他国とも協力し平和と安定、発展、そして支援し合っていた。セントラル国王は人々に崇められその地位を確固たるものとし、人々は平和に暮らし、争いごとも疫病も流行ることなく平穏な日々を過ごしていた。
しかし、初代セントラル国王の寿命がきて亡くなると一気に状況は一変し、人々は最初の頃のように些細なことで争いごとを起こすようになっていった。
それに困ったセントラル王族は、初代セントラル国王の遺言通り100年後に目覚めるシュタムを待ち、シュタムが目覚めたのを確認するとすぐに王族の女性を幾人も差し出し、7日間みっちりシュタムと子作りをした。
その間は王族以外の者がシュタムに接触しないよう、山奥にできるだけの護衛を連れて行き監視させた。
今回は妊娠した数人の女性がシュタムの子を出産するまでいき、その中から1人の男児を選び二代目セントラル国王として王座につかせると、あっという間にまた人々の間に平穏な日々がおとずれた。
そうやってセントラル王族がシュタムの子を身籠るのが何代も繰り返され、いくつもの国と人々を支配してきた
しかし、反対にシュタムの心は穏やかではなかった。
最初こそ、女性達はシュタムに対し畏怖の念を抱きつつ敬意を持って接してきたが、100年ごとに繰り返されるこの儀式のようなものにだんだんとそれが薄れ、定例の義務ごとと化し今や行為をいかに早く終わらせ多くの人をあて回転率をあげるか、という作業的なものになっていたからだ。
シュタムは人々の平和のために存在するはずが、ただの道具扱いされている自身に寂しさを覚えた。そして1人でそれに耐えるのが辛くなり、神にこう願った。
「私にも、この寂しさをうめる家族を授けてくれませんでしょうか」
シュタムの気持ちを分からないでもなかった神は、その願いを受け入れシュタムと同じ能力を持たせた男1人を彼に家族として与えた。
そしてその男の名を、シャーノン・シュタムと名付けた。彼はシュタムよりは10歳ほど若く、逞たくましい体とシュタム同様煌びやかな容姿に綺麗なアイスブルーの目で、世の女性達は彼を初めて見たときにあまりにも完璧な容姿にため息をつき、シャーノンとの行為を切望した。
シュタムとシャーノンは目覚めている7日の間、セントラル国の女性の相手がない時間帯を少しでも見つけては、お互いに色々と話し合った。限られた時間で食事を一緒に取ったり、水浴びをしたり、森を散策したりと、普通の人と同じような生活を2人ですることは女性の相手をするよりも楽しく充実したもので、唯一心を許せる家族のような存在が互いにとってとても大切であった。
ただ、ここで王族にとって計算外のことが起きた。とうとう王族だけではなく自国の貴族の公爵家や他国の王族、貴族の女性達も相手として彼らに接触するようになったのだ。
シュタムとの行為が常習化していたこともあり、護衛は手薄となりそれを狙われたのだ。
それだけでなく、シュタムが2人に増えたのも、神が多くの人にチャンスを与えたいからだという身勝手な思想もでてきており、その考えは瞬またたく間に人々の間に広まり始めた。
だんだんと欲望が出てきた人々は、シュタムの子を成すことで得られる人の上に立つ権力を欲するようになった。皆、シュタムと関係を待ちたがったのだ。
セントラル王族は焦った。今まで自分達だけがシュタムの子をつくり自国だけでなく他国の人々をその得た権力等で支配してきた。
しかし、もしシュタムの子を王族以外の者が身籠ったならば、今の均衡は崩れ良い思いをしえいた自分達の地位が脅かされてしまうと。何よりも、今更自分たちが他の王族の下につくのは嫌だった。
その結果、シュタムとシャーノンを各国の王や貴族間で奪い合う争いごとに発展し、最悪なことにシュタムが傷つけられ、殺されてしまうことが起こってしまった。
あまりにも自分勝手な人間の行いに激昂げっこうした神は、人々が残されたシャーノン・シュタムに二度と会いに行けないよう、シャーノンを違う森の山奥深くに隠し、今後しばらくは恐ろしい日々が人々を襲うだろうと告げて去った。
神の言うとおり、セントラル国だけでなくその近隣国も含め全ての場所で天候は常に荒れ狂い海や川の水は何度も氾濫し、疫病は度々蔓延し、その結果食べ物は育たず飲み水は濁り、どんどん人々は死んでいき半年もたたずにして全人口は半分になってしまっていた。
残された人々は、自分たちの欲望のままにシュタムを殺害してしまったことを深く悔やみ、毎日のように神に懺悔した。
その間も、荒れ狂う日々にバタバタと人々は死んでいった。
最初こそ人々の懺悔を無視していた神だったが、数十年毎日のように繰り返し涙して後悔を口にする人々のその姿に少しずつ気持ちが変わり始めていた。
神は人々の前に姿を現すと、もう一度だけ人間を信じることに決めたと話した。
セントラル王族も神に跪ひざまずき、泣き叫びながらシュタムのことを謝り続けた。セントラル王族もほとんどの者が死に、既にシュタムの血を引く人間もいなくなっており、ただの人間の集団となっていた。
セントラル王族は自分たちの過ちを悔い、シュタムを独り占めすることはもうしないと誓った。
神はあと一度だけ信じるとだけ言い、シャーノン・シュタムがいる場所を人々に教えた。
そして、以下のことを告げた。
明日にはまた目覚め7日後には眠りにつくこと、そして、シャーノンが寂しくないようにと同じシュタム族をもう1人つけていることを。
人々が翌朝、神がいった場所へシャーノンを尋ねると、そこにはシャーノンとシャーノンに瓜二つの煌びやかな美貌をもったアイスブルーの瞳の女性がシャーノンに身を寄せ怯えるように座っていた。
シャーノンは怯える彼女の代わりに、人々に名前を伝える。彼女の名前は、シャーラン・シュタムで妹であると。