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第21話 対戦

「ふざけたこと言うんじゃねーよ」


 スカイが、声を低くしシジマを睨む。木刀を握る手の血管が浮き出る。


「スカイ、よせ。相手にするなよ」


 怒るスカイが行動に出ないよう、声をかけるマハラ。なんとか状況を変えようと辺りを見回すが、ガオガイの姿はなく自分たちでどうにかするしかなさそうだった。


「なぁお嬢ちゃん、ただ一戦するだけでいいからさあ。さっきのあれ、俺にもやって見せてよ〜」


 気持ち悪い笑みを浮かべ、マハラの後ろにいるシャーランを見る。


「今やらなくても、オレしつこいからずっと付きまとうよ〜」


 ゲヘヘと笑うシジマ。ずっと付きまとうという言葉にシャーランはケイランとの行為が脳裏に蘇り、自身の背中の毛が逆立つのを感じた。もう他の誰にも付きまとわれるのは、これ以上受け入れられなかった。


「・・いいわ。やる」


 シャーランはマハラの背後から出て、木刀を構えシジマに向け、目を閉じて深く息を吸う。

 体の中で何かが渦巻くような、血液が全身を勢いよく流れるのを感じた途端、脳裏にある映像が蘇る。ノイズではっきりとはしないが、シャーランを抱く人、そして真剣をシャーランに向ける男性・・。


「なに考えてんだシャーラン、必要ない!ここから逃げろ」


 シャーランの前に出たマハラは、今すぐやめさせようとシャーランの体をつかみ後ろに押そうとする。しかし、マハラが見たシャーランの顔は、いつもの澄んだ綺麗なアイスブルーの瞳とは違い、氷のように冷たく鋭い視線を向ける冷ややかな表情だった。思わず怯ひるみ体に触れていた手を離すマハラ。


 シャーランの視線はシジマに向けられたままで、目の前に立つマハラが見えていないかのように視線が合わない。シャーランが自分が知らない何かになってしまったような、彼女の中で今までとは違う何かが起こってるような気がしてならない。


「おぉ〜う。そうだよね〜。やる気になってくれてよかったあ〜」


 嬉しそうに下品な笑いを顔いっぱいに浮かべるシジマは、木刀を片手で持ちシャーランにジリジリ近寄る。


「シャーランちゃん!だめだ!--おい、シジマっ!オレが相手してやる!」


 シャーランの近くにいないスカイはシャーランの変化に気付かず、なんとかシャーランを守ろうと身構える。持っている木刀を後ろに引き、シジマに向かって思い切り突き出す。


「お〜い。。急に攻撃してくるのは、最低な奴のやり方だよなあ〜?」


 その大柄な体をゆらりと揺らし木刀を避けると、伸びてきたスカイの腕をムチムチした指で掴み、ギリギリとスカイの腕に指を食い込ませる。


「あぁぁあ゛あ゛ーーー!!」


 激しい痛みにスカイは悶もだえ、持っていた木刀を離しシジマの指を剥がそうとする。


「よせ!!シジマ!」


 マハラがスカイを助けようとシジマに向かって勢いよく走り出したそのとき、地面にうつる自分の影の上にふと薄い影が重なる。上を見上げると、太陽に重なるように高く飛び上がったシャーランが、木刀の先をシジマに向けたままもの凄いスピードでおり、木刀の先をシジマのみぞおちに突き刺した。


「グゥゥ」


 シャーランのあまりに素早い動きに反応できなかったシジマは、思い切りシャーランの攻撃を受け、口から唾を出し後ろに吹き飛ぶ。その反動でスカイはシジマの指から解放され、その場に倒れ込む。


 攻撃後、音無く降り立つシャーランは、冷たいアイスブルーの瞳をシジマに向けたまま動かずにいた。スカイは痛む腕を抑えたままシャーランを見上げるも、今起こったことを理解できずに呆然とする。マハラはシャーランの後ろ姿を虚しい気持ちでただ見つめ佇たたずむ。


「ヴゥ゛・・ウゲエェ・・不意打ちとは汚ねぇなあ?あぁ?」


 嘔吐し口を腕で拭ぬぐうシジマは、口から唾を飛ばし怒鳴る。


「不意打ちではありません。私はあなたの申し出を受けるといいました」


 淡々と述べるシャーランは、立ち上がるシジマを冷たい目で見据える。


「こんの、気持ち悪い女あぁ!!」


 シジマはヨロヨロと立ち上がると木刀を両手で持ち、シャーランに向かって突進し乱暴に振り下ろす。

 シャーランは腰を落とし、シジマが迫ってくるのを待つ。あと数センチの距離になった瞬間、一瞬でシジマの後ろにまわると、シジマの首の後ろに素早く木刀を打ち付ける。シジマは打撃を受けた途端に視界がぐるぐると回り始め、真っ直ぐに立っていられず後ろによろける。すると、シャーランが後ろからシジマの太い首をその細い片腕で締め上げ、もう片方の手で持った木刀をゆらりと動かし、木刀の先をシジマの喉元に合わせる。焦点の合わない目に、口からはだらしなく舌が出ているシジマ。

そのシジマの喉元に目掛けて、木刀を勢いよく突き刺すシャーラン。

喉元まであと数ミリのところで、腕を誰かに掴まれ止められる。


「そこまで!!」


 大きな声で制止し腕を掴むのは、武術の先生であるガオガイではなく、若くてガオガイほどではないが筋肉質でガタイの良い男性だった。頭の後ろで一つに縛っている赤く長い髪が、時折り吹く風で揺れる。体つきは筋肉質であったが、顔は眉目秀麗びもくしゅうれいな男性だ。


「その男はもう失神している。私が医務室に運ぼう。あなたは手を離して」


 その赤髪の男性は、シジマの首に絡みつくシャーランの腕をそっと外す。


 男性に触れられハッとし我にかえるシャーランは、ひっくり返るシジマを見て事態が読み込めず恐怖に顔をゆがめる。

 その様子を、間近でジッと無言で見つめる赤髪の男。赤髪の男は、うーん、と小さくうめくシジマに視線をうつすと、大柄なそのシジマの体を軽々と抱え起こし、自分のたくましい肩にシジマの腕をまわしかけ立ち上がる。しゃがんでいるときは分からなかったが、かなり背が高い。


 シジマを連れ赤髪の男が歩き出すと、集まっていた人々が左右にわかれ、医務室までの道を開ける。

 いつの間にか、授業に参加していたほとんどの者がこの騒動に釘付けになり、模擬練習をしている者はいなくなっていた。


 人々は赤髪の男に連れて行かれるシジマを見終えたあとに、座り込むシャーランをジロジロお見つめる。

 口に手を当てコソコソと話し込む者、気持ち悪がった表情をする者、関わらないようにと距離を取り離れていく者・・。


「どういうことなん、シャーランちゃん・・」


 スカイがシャーランを見るその目は、動揺していた。


「ちがうの、私、本当にわけが分からない・・」


 泣きそうになりながら首を大きくふり、広げた両手の平を本当に自分の手なのだろうかと、鼻を啜すすりながら見る。

 ゆっくりと後ろを振り返り悲しそうな顔で立ち尽くすマハラを見るも、自分のしたことをなんと話したらいいのか分からず、口を開けかけたが、そのまま閉じてしまった。


「シャーラン、大丈夫??」

「なにがあったんすか?」


 ケイシとタクが息を切らし、走って駆け寄ってくる。


「おれら、ガオガイ先生と怪我人運んでてさ、今戻ったばかりで状況分からないんだけど、どうしたんだよ・・?」


 地面にへたり込み声を押し殺して泣くシャーラン、それをそれぞれ離れたところからただ見ている、座ったままのスカイと立っているマハラ。


 シャーランが泣いているのに何もしない2人にイラついたタクは、2人に向かって睨みを効かせシャーランのそばに寄り、優しく声をかける。


「シャーラン、どこか怪我したんすか・・?おれに話せます?」


 顔を下に向け泣いているシャーランの顔を覗き込み、体に触れようとしたとき、シャーランが勢い良くタクに抱きつき、タクの肩に顔をのせる。


「なっ、シャーラ・・」


「お兄様・・私のせいでごめんなさい・・お願い・・私を1人にしないで」


 シャーランの目からは涙があふれ、次々と頬を伝り地面を濡らしていった。

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