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第2話 兄からの執着 ①

 シャーランは朝に第一外国語の授業を受け、今はお昼前までの第二外国語の授業を熱心に聞いている。

 この学園では第一外国語から第五外国語まで習得することができ、第一は簡単で第五に進むにつれて難易度が上がっていく。第五外国語の授業を受けるためには第一から順に試験に合格していくステップアップ方式だ。第一外国話が合格できたら次は第二外国語。第二が合格できたら次は第三・・と進む。

 だが、第五外国語を習得でき試験に合格できる者は就学期間の3年のうち2、3人いれば良い方といわれている。


 その代わり、第五外国語まで習得できたのちには、自国以外の国々で高貴な人のみに割り当てられる職種につくことも可能となり、また待遇も優遇され就労で受領できる金銭に関しては、一般就労の1年間の平均の数十倍を1日で得られると言われている。


 シャーランは学園への入園に大反対だった家族をなんとか説得し、隣国のこのセントラル学園へ遠路はるばる1人でやってきた。なんとしてでも第五外国語まで学びたい。いや、絶対に合格しなければ・・!


 授業終了の音が鳴り昼食の時間となる。


 授業の時間が短すぎるわ、とシャーランは物足らなさを感じつつ昼食会場へ向かう。そこは広すぎるホールに長いテーブルが何脚も置かれ、そのテーブルの上には豪華な食事が大量に置かれている。席が空いていればそこに座り勝手に食べていいことになっている。


 シャーランはガヤガヤと賑わっている昼食会場へ1人で入り、真ん中辺りのポツンと空いている席にサッと座り目の前の食事をナイフとフォークを使い食べ始める。


「あっ・・!こんにちは!あの、昨日会ったの覚えてますか?」


 シャーランの隣の席に座っている男性の隣から、ひょこっと顔を出しニコッと挨拶をする男性。クルクルとほんの少しパーマがかかったような黒髪に、くっきり二重に丸い大きな黒い瞳。まるで子犬のような従順さを感じる姿だわ、とシャーランは思いつつ答える。


「昨日美術室でお会いしましたよね。確かマハラさんですよね、覚えています。」


 故郷の家族のもとで習得した、社交辞令バリバリのにこやかな笑顔と軽い会釈で返す。


「よくここで食べるんですか?」

 マハラが話し続けてくる。


(さっき受けた授業の復習がしたいから、早く食べ終わりたいのに・・)


 もともとシャーランはこの学園にきて誰かに話しかけられたことはない。もちろん、授業内での必要なレッスン過程や、何か物を落としたときなど、必要な場面では話したことはあるが、こういう雑談はこの学園に来て初めてのことだった。


 シャーランとマハラは、間に1人男性を挟んで話していたが、その男性はマハラとシャーランを交互に見ながら、

「すみません。なんか間にいて話しづらいですよね。」

 と笑いながら申し訳なさそうに言う。


 赤髪で鼻筋が通った端正な顔立ちをした彼は、マハラの友人の1人で名前はジャンというらしい。


 すると、同じテーブルのマハラの斜め向こうから声をかけられた。


「おーーい!やほーー!こんにちはーー!」

 スカイとケイシが座ってこちらを見て、大きく上に手を振っている。

 マハラとジャンは手を振りかえしながら、またシャーランの方へ振り返り話し始める。


「さっきなんの授業を受けていたんですか?」

 ジャンがフォークで肉を口に運びながら話しかける。

「第二外国語です。」

 シャーランはお皿の上でパンにバターをぬりながらこたえる。


「おぉ〜もう第二外国話。すごいですね。入園して4ヶ月くらい経つけど、もう第二行ってる人そんなにまだいないよね。」


 ジャンはすごいね、と驚きながらマハラの方を見てマハラもうんうん、と頭をコクコクさせてうなづく。


「私、途中入園でして・・先月入園したのでそういうことまだ分からなくて。そうなのですね、早い方なのですね。」

 シャーランは手元のお皿からスッと視線をあげ、ジャンとマハラの顔を見る。


 ジャンとマハラはシャーランの話にまたまた驚き、口をあんぐり開け動きを止める。

 と共に、2人は自分たちを見るシャーランから視線を外せなかった。吸い込まれそうなほど大きな瞳はどこか儚げで視線が合うだけで胸がドキドキする。小さくツンとした鼻に下唇がポテっとした小さめの口。パーツ1つ1つから上品さが感じられるその顔は、見る人見る人を魅了するのに充分すぎるものだった。


 シャーランはジャンとマハラが動かずジッと自分を見ていることに心配になり、2人の顔を少し覗き込むように、大丈夫ですか?と声をかけようとしたところ、


「なに話してんの〜?」

 ケイシがいつの間にか3人のうしろに立っており、ニコニコと3人を見下ろす。


「仲間に入れてよ。」


 シャーランの座っている椅子の背もたれの上部分に手を置き、ニコッと笑顔をシャーランに向ける。その王子様らしい綺麗な笑顔に、近辺の席に座っていた女性達が小さくキャーーと嬉しそうな悲鳴をあげ、チラチラこちらを見ながら両手で両頬をおさえ、頬を赤らめている。


 シャーランがそんな女性たちの様子に驚き周りを見渡していると、

「まーた、そうやってファンを喜ばしてー。」

 スカイがシャーラン達の方に向かって歩いてきながら、ニヤッとした顔でいう。


 王子が2人揃って近くにきた〜〜!きゃー!と、女性たちのコソコソとでも興奮を抑えきれないような声が、あちこちから聞こえてくる。そしてその周りで食べている他の男性諸君は、またかよ、うるさいなぁ、と頭を左右に軽く振りながら冷めた目でその女性たちを見ている。


 ケイシとスカイは辺りを見回し、シャーラン、ジャン、マハラの3人が座っている席の向かいの空いている席へまわり座る。


「なんでお前らまで来るんだよー。」

 マハラは口元は笑いつつも、いじけた顔で前に座ろうとしているケイシとスカイをジッと見る。

 せっかくシャーランと会えたのにジャンとばかり話していて羨ましくなり、少しジャンに妬ましく思っていたところにこの2人の登場で、マハラはシャーランにとって自分の影が薄くなってしまうのではと焦った。


「ったくー。ま、いっか。シャーランさん、次の授業は何なんですか?」

 マハラはジャンの隣からこれでもかとばかりにグイッと身を乗り出し、シャーランに自分の存在を見せつけるように話しかける。


「えっと、私は次は・・」


(確か次の授業は先生の都合で自習になったはず・・)


 シャーランは念のため確認しようと、自分のロングスカートのポケットに入れたデジタルメモを探す。

 デジタルメモとは、自分が記録したいことを大量に記録できる、縦横1cmほどの黒く薄い四角い機械だ。話したことは全て記録でき、記録内容は見たいときにこの黒い四角い機械に話しかければ、必要な情報だけピックアップしてくれ、見返すことができる。容量に上限はなく軽量で重宝するこの機械は、このセントラル国が独自に開発したもので他国にはない。


 そのとき、食事会場中がザワッとどよめいた。


 みな食事会場中の入り口付近を見ている。


 マハラ、ジャン、ケイシ、スカイも何事かと、みなと同じ方向に顔を向ける。


 シャーランは、ポケットから取り出したデジタルメモの操作に集中している。


「シャーラン。久しぶりだね。会いたかったよ。」


 シャーランの後ろから両腕が、ヌッとシャーランの胸下すぐの辺りにまとわりつき、ギュッと抱きしめる。


 背筋がぞくりとしてふりむかえたシャーランの目にうつったのは、紛れもない、この世でシャーランが一番縁を切りたい兄だった。

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