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第18話 リハクとアイフォール

「私は、ただ毎日毎日、医師として変わらない日々を過ごせれば・・それだけで良かったのにの・・」


 アイフォールはそう呟つぶやくと、フラフラと立ち上がり顔を上げる。その瞳は会ったときより暗く見え、なにか他のことを考えているのか、シャーランたちの方を見ることはなかった。


「あの・・大丈夫ですか・・?」


 シャーランがおずおずと尋ねると、アイフォールはシャーランの顔をじっと見つめる。


「貴方あなたは、ご自身のことをどこまで知っておられるのかな・・」


「えっ、私のこと・・?どこまで・・?とは・・?」


 シャーランの反応に、アイフォールは悲しそうな顔をしたのち目を伏せる。


 アイフォールの意図の読めない質問に、ジャン、タク、スカイ、ケイシ、ルイは困惑し、マハラはまたも胸がざわつく。


「いや、すまない。まずはリハクのことであったな。そこから話そう。まずリハクがなぜ殺されたのかというところだが・・」


「口周りの傷からみて、セントラル国王の怒りに触れ拷問されたうえに殺された、ではありませんか?」


 真剣な顔をしたルイが、アイフォールの言葉に割って入る。


「うむ。貴殿の推測のとおりだ。国王の拷問の仕方を知っている者は限られている。・・ファースト公爵ならば知っていてもおかしくはないだろうの」


「途中で口を挟み失礼しました」


 ルイが胸に手をやり軽くお辞儀をする。


「いやいや構わんよ。・・さて、話を進めるとするが、ここからは話が長くなる。もし途中で聞きたいことがあったら、遠慮なく聞くと良い」


 アイフォールはシャーランの目を見る。


「それからシャーラン嬢、貴女あなた様自身のことで初めて聞く話もあるだろう」


 アイフォールは目を閉じ、数秒そのままでいたあと、ゆっくりと目を開けると静かに話し始める。


「リハクがなぜ国王の怒りをかい拷問されたかだが、一言で説明は難しくてな・・言うなればリハクがシャーラン嬢を1人で隠れて治療しようとしたことなのだが、背景はもっと複雑でな・・」


 アイフォールは背筋を伸ばすと、深く息を吸い話し始める。


「まずは、なぜシャーラン嬢をリハクが1人で治療するに至ったかの話からせねばならん。知っているかは分からないが、この学園と王国は昔から繋がりが深い。そして、学園は王国からシャーラン嬢に傷一つつけるなと命令されていたのだ。シャーラン嬢もお主ぬし達も気づいていないだろうが、シャーランを見張る学園の者がいつも近くにいたはずだ・・」


 驚き口に手を当てるシャーランは、青ざめた表情でマハラ達の顔を見る。

 アイフォールはその様子を見つつも、静かに話を進める。


「だが、シャーラン嬢は君らと遊びに行き傷を負ってしまった。学園側はそれはそれは狼狽ろうばいしたようでな、セントラル国王からの命令を守れなかったことで学園側は首がはねられる、文字通りのはねる・・まぁ殺されるということだが、それを恐れ学園側はシャーランが傷を負ってしまったことを王国に知られたくなく隠れて治療しようとした。ただ、怪我をしたシャーランを医療チーム全員で治療したとして、もしなにかあって失敗した場合、医療チームが勝手に治療したと医療チームに責任をなすりつけられるが、医療チーム全員の首が飛んでしまっては今後の学園の運営に問題がある。医療の者はそう簡単に集められないからな・・。

 そこでどうするか、学園が考えた結果、リハクが選ばれ、リハク1人に責任を押しつけることだった」


「なんで学園は、リハクのおっさんにしたんだよ」


 鋭い目で睨にらむスカイに、1回頷うなずくと、淡々と話すアイフォール。


「・・全てを話せないのが、もどかしいのだが・・リハクは、王国の、そして貴族の、とにかく皆のシャーラン嬢に対する扱いに納得していなかったのだよ。その意を唱えるリハクの存在を国王が知っていたかまでは分からないが、学園はセントラル王族の怒りをかうことに怯えていたのでな、そんなリハクを学園側は煙けむたがっていた。だが、リハクは医療の知識も技術も申し分なかったために、医療チームから追い出せずにいた。しかし、流石にこの窮地ではそんなことはいっていられないと、学園は王国のやり方に賛同していないリハクを都合よく使ったということだ」


「シャーランへの扱いに反対・・?それに技術があるなら、なぜあのとき、リハク1人で治せなかったんだ?」


 ジャンがマハラやタクと顔を見合わせ、疑問を呈ていする。

  

「治療する場所は提供できない、道具も往診のときに使うような最低限の簡易なものしか渡せない。学園にそう突き放され、そんな中どうやって治療しろと?」


 アイフォールはそう言って冷笑れいしょうすると、持ってきた茶色の四角い鞄かばんに腰を下ろす。


「思っていた以上にシャーランの容態が良くなく、押し付けられた自分の現状態では何もできなかった。そこで私に助けを求めてきたのだ」


「なぜ、リハクさんはあなたに連絡したのか、アイフォールさんとリハクさんはどういう関係なのか、お聞きしてもいいですか」


 アイフォールはジャンを見上げると、そのあとゆっくり顔を足元に目線を下げ、微笑む。


「リハクは私の義理の弟だよ。私の母が亡くなり父が再婚した相手の連れ子だった。縁あって私たち2人とも医者の道を選んだが、あいつは真っ直ぐすぎるところがあってな・・もっとうまくやっていれば、こうならなかったろうに・・」


 アイフォールが奥の歯を噛み締め、眉間に皺を寄せる。


「大事な弟でしたのね・・」


 シャーランは、悲痛な顔でアイフォールを見つめる。


「・・そうだ。確かシャーラン嬢、貴女あなた様にも大切な兄が・・」


「大切な兄なんかじゃありません!」


 シャーランは突然大きな声を上げるとハッとし、顔に手をやりアイフォールに背を向ける。マハラはシャーランのそばに寄り、背中に手を当てなだめる。


「大切な弟だったのに、なぜ、あぁなるのを防げなかったんすか」


 マハラとシャーランの様子を見ながら、タクは険しい顔でアイフォールに尋ねる。


 アイフォールはまたも暗い表情で俯うつむくも、感情を押し殺したように淡々と話し始める。


「もう君らも分かっているとおり、私はセントラル国の王族に仕える医師の1人だ。それ故に、常に王族近くに住んでいる私は、移動、いつどこで誰の治療をしたか、全ての行動に報告義務があり、厳重な管理化の下暮らしている。あのときリハクから連絡をもらいシャーラン嬢の治療を終えたあとには、全て王国に報告している」


「報告・・!?」


 怒いかり握り拳を胸元で作るスカイを見ながらも、アイフォールは変わらず話し続ける。


「セントラル王族はリハクを拘束し、なぜ勝手に治療したのか、なぜ傷を負わせたのかと拷問した。しかし、リハクは王族の質問に答えるわけではなく、王族の目の前で、王族や貴族のシャーランに対する扱いについて異議を申し出たのだよ。抵抗したところで無駄だと分かっていたのだろうな・・そんなことを言えば怒りをかうことは明白だ・・結局は彼だけ処刑されて終わった。悲しいことに・・可哀想に・・。学園はリハクの死をなんとも思っていないだろうよ・・以上がシャーラン嬢の治療後にリハクから聞いた話と、処刑されたのを見た私の・・」


「おい!!」


 スカイがアイフォールに掴み掛かり、アイフォールはその勢いで座っていた茶色の四角い鞄から崩れ落ちる。


「義理とはいえ弟だろ!?なんでそんな淡々と話せるんだよ!!あんたが義務とかに縛られずに報告しなきゃ、リハクのおっさんは殺されることはなかったんじゃないのかよ!?その胸元の紋章とやらが大事で弟を売ったんじゃないのか!」


「おい、スカイやめろ!」


 ケイシとタクが駆け寄り、アイフォールを掴んでゆするスカイの手をマントから離させる。


「この紋章など、弟の命に比べればどんなに無意味なものか・・!」


 アイフォールは汚いものを見るかのように、胸元の紋章を苦々しい顔で見る。


「私とリハクは血縁関係が無いとはいえ、幼いころから同じ家で、家族として長い間一緒に暮らしてきた。兄弟仲良く医学に携わる仕事をと切磋琢磨せっさたくまし共に今まで生きてきたのだよ。・・私だって助けたかったに決まっとろうが・・!」


 最後は悲痛な叫び声のようになり、アイフォールは肩を大きく落とし、体を震わせる。


「あれを使うと、24時間ごとに、自動的に使用履歴と会話内容が学園へわたり、そこで内容を検査され、その後のち王国へと報告がいく。リハクの使用履歴も当然渡った。こういうことから、私はリハクを庇うこともできなかったのだよ。嘘を言ったとて、どうにもならなかったのだよ」


「あれとは、デジタルメモのことですか?」


 ジャンが自分のデジタルメモを取り出し見せると、アイフォールは力のこもっていない瞳でデジタルメモを見ると頷うなずく。


「教えてください、これでどうやって連絡を取り合うのですか!僕たちはリハクさんが使っていたようなやり方は見たことがありません!」


「それのやり方は・・」


 アイフォールが話そうとしたそのとき、


 コン コン コン


 寮部屋のドアを、外からノックする音がした。


 皆がいる寮部屋の中は氷を打ったように静かになり、一斉にドアの方を見る。


「おい・・寮部屋に誰か尋ねてくることなんて、今までなかったぞ・・」


 ささやくように言うケイシの顔がこわばる。


 マハラは怯えるシャーランの体を強く自分に引き寄せ、ドアのそばから離れる。


 コン コン コン


 またもノックの音がする。


「アイフォール様、こちらにおられますか?」


 若い女性の声が、怖いほどにはっきりと聞こえた。

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