表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
踊るダンジョン左遷  作者: 辺理可付加
二階本領発揮! 元捜査一課の意地
9/57

今日も今日とて、になりつつある

「昨日の飲み会、楽しかったですねぇ」

「抹茶塩もんじゃ、斬新だったねぇ〜」

「たまにはもんじゃ以外の店で飲みたいんだが」

「は? 異教徒か?」

「殺すか」


 土曜日の朝から、なんとも物騒な話で始まるダンジョン課。

 物騒な内容のなかでは牧歌的という、変なバランスのダンジョン課。

 でも小田嶋が『殺すぞ』って言うと緊張感走るダンジョン課。

 こんな話で盛り上がれる日本は今日も平和



『地域課及び刑事生活安全課に通達。(みなと)2丁目のアパートの一室で、住人男性が遺体で発見されました』



 ではない。

 悲惨な話を垂れ流す館内放送。

 そりゃラジオ番組じゃないし、事件がオレたちの仕事ではあるが。


「しかし、係は同じ構成なのに、ダンジョン課には声掛からないんだな」

「ダンジョン関係ない事件ですしね。二階さんやりたいんですか?」

「いや、その辺はしっかりしているんだな、と思って」

「職務内容がゴミな分、その他はしっかりしてるんですよ」


「ゴミ言わないの」


「あてっ」


 粟根を叱りつつ、頭をバインダーで軽くチョップしたのは


「暴力! パワハラ! セクハラ!」

「セクハラはしてないし、同性同士では認定されにくいのが現実よ」

「うーん警察の闇」


 日置(ひおき)要女(かなめ)ダンジョン課強行犯係長である。


 年齢は20歳。誰がなんと言おうと20歳。ダンジョン課の常識である。

 オレも初日に叩き込まれた。

 だが見た目から察するに、オレと大差な


「どうしたの二階くん?」

「いえ、今日も20歳ですね」

「ナイス20歳♪」


 あの小田嶋でさえ従っているダンジョン課の法だが。

 (はた)から見れば逆にイジメじゃなかろうか。


 そんな20歳がコーヒーメーカーにマイマグカップを置いたそのとき、

 ルルルルル、と彼女のデスクの電話が鳴る。


 こういうときは大抵、


「あーもう。はい、こちらダンジョン課。あら、(なつめ)さん。はい、はい、あら! あー」


「おい、ゴミの時間だぞ」

「みたいですね」


「はい、分かりました。はい。すぐに課員を向かわせます。はーい、失礼します」


 彼女は受話器を置くと、パンパン手を叩く。


「はい、強行犯係注目! 先ほどダンジョンCランク層にて遺体が発見されました!」


 ダンジョン課とダンジョン管理組合ともなれば、もうズブズブの関係である。

 そのため係長クラスになると、向こうの管理職と知り合いになる。


 よってダンジョンで事件が発生したとき、

 居合わせた市民が直接通報した場合は、先ほどのように館内放送で知らされる。

 しかし110番ではなく管理組合に連絡したり、そもそも職員が発見すると、


 今のように直電が掛かってきたりするのだ。


 まぁ個人的にはダンジョン管理が別の組織なことに驚いたが。

 いつだったか粟根が、


『つまりいざというとき、「レインボーブリッジ封鎖できませぇん!!」みたいなことも起きるということです』


 とか言っていた。


「遺体がダンジョン内での事故か事件か分からないとのことなので。二階くんと小田嶋さんは現場に行って、実況見分してきてください」

「はい」

「はぁい」


 まぁそんなことはどうでもいい。

 さっきの刑事生活安全課とダンジョン課みたいなものだ。

 管轄が細分化しているなら、その分オレの仕事は減るということ。

 ただ目の前の、自分のことに集中すればいい。


 そしてとにかく実績を積んで、一刻も早くダンジョン課から()()()()するのだ。


 決意を胸にジャケットを羽織る(夏場の刑事(デカ)はこれが辛い)オレへ、粟根がそっと耳打ちする。


「やっぱり仕事(ゴミ)でしたね」

「だな」


「そこ! 仕事をゴミ言わない!」


 ちなみに小田嶋は拳銃ホルスターを着けないのでジャケットを羽織らない。ズルい。






「で、おまえまた付いてくるんだな」


 ダンジョンへ向かう途中の車内。

 運転席に小田嶋、助手席にオレ、


 後部座席には粟根がいる。


「そりゃもう私は」

「はいはいハニトラハニトラ」

「あれー? 二人ってそういう関係だったの?」


 あらぬ誤解が生まれている。

 別に小田嶋とは何を気にする関係でもないが。

 運転中でサングラスの向こうの目が、今日も暗い薄目だと思うと不必要に怖い。


 車が信号で止まると、彼女は後ろを振り返る。


「いけないなぁ素子ちゃん。勝手に男の人とそんな関係になって。これはお仕置きが必要かな?」

「夏菜奈おねえさまっ……!」

「なんだ、おまえらこそそういう関係だったのか」

「カラダだけですよ」

「ココロまでは」

「おまえらの言葉は全部ジョークにもマジにも聞こえるんだよ」


 だがまぁこの方が怖くなくていいか。

 そう考えると粟根がいることも騒音被害ばかりではない。


「運転くらいしてくれたら、もっと助かるんだがな」

「え? 何が?」

「無理ですよ二階さん。私教習所で『将来警察官になるんです!』って言ったら、教官に『ならん方がいいね』って言われましたから」

「それはマズいな。昨日のもんじゃを吐いてしまう」

「でももんじゃって元から結構……」

「やめろ粟根。おまえもんじゃ好きなんじゃないのか」


 割と大勢の人に謝らなければならない会話をしているうちに、


「ま、仕事まえに車酔いはしたくないよねってことで、着きましたよ〜」


 車がダンジョンの駐車場に止まる。

 ダンジョンの駐車場ってなんだよ。


 まぁ現代社会にダンジョンがあって多くの人が訪れるからには、あって当然なのだろう。

 それだけ一般的なものだからこそ、オレたちの仕事にもなるのだ。


 助手席から降りると柵の向こう、遠くにいつもの大穴が見える。


「さて、行くか」


 願わくば今日の職場は、少しでもマシでありますように。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ