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踊るダンジョン左遷  作者: 辺理可付加
ダンジョン前署の最終兵器
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たぶん狩猟ライセンスも必要……無駄かも

「本当か」

「顔は見えませんが、通報にあったのと同じ服装です」


 遠くの茂みに西洋の甲冑を着た男が見える。

 あれなら上総も受付嬢も、見間違えはしないだろう。


 そういえば、連中は自宅からあの格好でダンジョンに来るのだろうか?

 それともどこかに更衣室でもあるのだろうか。


(やっこ)さん、薬草かなんか採取してますね」

「強盗とは思えない()()()さ」


 余計な思考にハマり掛けたところを、粟根の余計なコメントで引き戻される。


「あ、あぁ、うん。まぁそれなら、周囲を見ながらゆっくり移動するだろう」

「尾行するのに都合がいいってことですね!」

「おまえが静かにしてくれたらな」






「こちら二階。中原は中央ブロックから移動を開始。依然薬草を採取しつつ、Cランク層を目指す模様です」

『了解。捜査員ももうすぐ到着する。引き続き対象の監視を続けるように』


 あれからしばらく経ち、オレたちはDランク帯まで尾行を続けていた。

 今も茂みでしゃがんでいる。

 こういうとき、地下でも電波が通じるのは便利なことだ。


「本店はまだ来ないんスか?」

「渋滞に捕まったらしい。もうすぐだとさ」

「警察は捕まえる側なのに」


 言っている間に中原は目線を上げ、歩くペースを少し速める。

 付近の薬草は取り尽くしたと判断したか。


「オレらじゃ限度ありますよ? 調べによると、中原はBランクライセンス持ってます。そこまで行かれたら」

「逆にそんなヤツ取り押さえろと言われても困るだろう。オレは困る」

「それで追えなくなったら『専門部署のくせに満足にダンジョン内で捜査できない』とか言ってくるじゃないですか、本店は」

「すまんな。実際嫌なヤツが多いよ、あそこは。オレもそうだったかもしれん」

「悪いのは専門家足りないのに専門部署作る官僚ですよぉ。二階さんじゃないです」


 フォローしてくれるとは、実は粟根も根はいいヤツなのかもしれない。ちょっとおかしいだけで。

 中原のあとを追いつつ、


「まぁ見失ったって命取られるわけじゃない。怒られるくらいは上司のオレが」

「いや実際、長引いたら危ないっスよ」


 メンタルをフォローしようと思ったがうまく決まらない。


「そうですよ二階さん。あなたはまだダンジョンの本当の恐ろしさを知らない」

「なんだ唐突に」

「このまえの事件は探索者が2名もいたから、道中()()されてましたけどね?」

「そうっスよ。こういう物拾いばっかりのときは、もうそろそろ……」


 二人が

『無駄に子どもをビビらせようと嫌な話をする大人』

 みたいな顔をしていると、


「うおっ」


 急に頭に何かが落ちてきた。

 思わず手で触ると、なんとも生ぬるい液体だ。


「なんだこれは。気持ち悪いな」


 しかも、嗅ぐまでもなく臭い。

 粟根と上総も青い顔で凍り付いている。


「おいおい、まさか『粘菌の一種でこのあとハゲ散らかす』とか言わないだろうな」

「いや、そんなこた……」

「ないですけど……」


 よく見ると、二人ともオレと微妙に目が合わない。

 少しだけ違う方を見ている。

 ちょうどオレの頭上とか……



「ブルルルルル……」

「あ?」



 釣られてオレもそっちを見ると、



「……ジブリじゃん」



 ドデカいイノシシと目が合った。



「どわああああ!!」

「ぎあああああ!!」

「いやああああ!!」



 叫ぶと同時に茂みを飛び出すと、


「ブモオオオオオオ!!」


 一瞬まえまでいた場所が、1メートルはありそうな牙で耕される。

 トリュフでも探してんのか。


「ヤバいヤバいヤバい!」

「死ぬって! 死ぬって!」

「お嫁に行けなくなっちゃう!」

「おい上総ァ! 本当にアレ警察が相手していいヤツか! 拳銃で殺せるヤツか!」

「物理的には効くんじゃないスかね!」


 もう無我夢中でイノシシから距離を取ったが、



「あ」

「あ」



 今度は中原と、バッチリ目が合った。



 仕方ない。仕方ないけど、


 オレたちは尾行任務中だったのだ。


「やっべ!」

「待てっ中原っ!」


 ヤツはあっという間にジャングルの奥へ姿を消す。

 やはりダンジョン探索者に本気で逃げられると、常人にはどうしようもない。


「なんで逃げるの〜!」

「おまえだよ粟根!」

「えっ!? このピチピチ小柄栗毛ちゃんが、そんな有能ポリスに見えちゃいます!?」

「制服脱いでから言え!」

「いやんセクハラ!」

「いいから追うぞ!」


 使いっ走りの所轄と言えど、だからこそ尾行までは完遂しなければならない。

 急いであとを追いたいところだが、


「あの、二階さん」

「なんだ上総!」


「それどころじゃないっス」



「ブモオオアア……!」



「なんてこった」


 まずはこのバケイノシシを、なんとかしなければならないらしい。

 ホルスターから拳銃を取り出したはいいが、


「ガアアァァ!!」

「おわあああ!!」


 正面から突っ込んでこられると、まず撃っている場合ではない。

 おそらく仕留めたとしても勢い余って撥ねられる。

 ゲームの緊急回避みたいに横っ飛びするしかない。


「このっ!」


 上総が数発発砲するも、


「ブヒイイイィ!!」


 クマよりでかい怪物なのだ。急所でも仕留めないかぎりは、さっぱり効きやしない。


「とりあえず逃げろ! 何をするにも安全を確保してからだ!」

「はいっ!」

「ひいっ!」


 任務失敗で怒られたって死ぬよりマシ。

 幸いここはジャングル。木を利用すれば、逃げる隠れるには困らなさそうだが


「きゃあっ!」

「粟根っ!」


 なんというかベタなヤツ!

 湿った泥の地面に足を滑らせたようだ。


 また、甲高い声はよく通る。



 イノシシの目が、彼女に向く。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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