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踊るダンジョン左遷  作者: 辺理可付加
さらばダンジョン課 さらば二階宗徹
57/57

さらば、そして、こんにちは

 この日のことを、オレは決して忘れないだろう。


 寿司食ったり酒飲みまくったりドンチャン騒ぎ。


 粟根が号泣したり、

 係長が酔って暴れ出したり、

 上総がその犠牲になって無事殉職したり、

 課長にクドクドと人生について説かれたり、

 水崎さんに結局シャンパンボトルで襲撃されたり、

 鳥江くんが飲みすぎにより応接室のソファで気絶したり、


 いろいろあった。


 宴は夜遅くまで続いた。

 寿司がなくなればツマミを、酒がなくなればお代わりを買いに行き、






 署を出るころには、日付も変わろうかという時刻だった。


 自動ドアを一歩出ると恐ろしく寒い。

 酒で火照っていなければ、たまらん身が千切れる思いだろう。


「オリオン座がキレイねぇ」


 係長が今さらロマンティックぶったことをおっしゃる。

 思わずオレと上総は顔を見合わせた。


「何か言いなさいよ」

「ははは係長の方がおキレイですよ」

「よし二階くん今夜は帰さないわよ」

「勘弁してください。上総」

「ちょっと!?」


 オレが背後に隠れると、上総がまた回り込んで逃げようとする。


「素子ちゃんが寝てても、結局誰かが騒ぐんですねぇ」


 それを見て、いまだ缶チューハイを飲んでいる水崎さんが笑う。

 そう、こんな状況になると、必ず混ざってこようとする粟根が静かなのは


「にか……さ……」


 オレに背負われて寝ているからだ。


 泣き疲れたか飲みすぎたか。

 帰るぞと鳥江くんを起こしたところで振り返ると、オレのデスクに突っ伏して寝ていた。


 これがまた揺さぶっても起きない。

 なので別れ道まではオレが負ぶさっていくことになったのだ。


 オレのための送別会をしてくれたのだ。

 これくらいは報いよう。


「ふぅん……んぁ……」

「コイツ、この寒いのに夢見心地だな」

「さすがねぇ」


 彼女は今、どんな夢を見ているのだろう。

 少し気になるような、そうでもないような。


 だが、それを聞いている時間はない。

 オレと彼女たちの別れ道は割とすぐなのだ。


「ほら、起きろ、起きろ」

「んゆぅ……」

「ダメだな。上総、送ってやってくれ」

「分かりました」


 もう一回揺らしても、やはり起きない。

 育つ寝る子を、これからの若者にパスして。


 オレもまた次の道へ、心機一転進んでいこう。

 最後に粟根が寝てしまっているのは少し寂しいが、


 まぁいいだろう。

 今生の別れじゃない。


 そんな何度も別れのあいさつはいるまいし、

 どんな夢を見ているのかも、また今度会ったときにでも聞こう。


 この場にいない小田嶋にも、いつか話ができたらそれでいい。


 いよいよ別れ道に差し掛かると、みんなが背筋を伸ばす。


「二階さん。今まで本当に……」


 だからこそオレは、

 遮るように、テキトーに手を振る。



「じゃ、またいつか」



 すると、みんな面食らった表情で固まり、

 そこに、



「近いうちにね……」



「え」


 粟根の寝言がちょうど重なり、


「……ふふ」

「へへっ」

「何よぉ」

「うくくく」

「完璧じゃないですか」


「じゃあ」

「えぇ」

「そっスね」



「また近いうち」



 オレたちは緩く、笑って別れた。











 さて、こうしてダンジョン課を去ったオレだが。


 学校の卒業ではない。

 翌日には次の職場と職務がオレを待っているのだ。



 2月1日、午前8時13分。

 オレは今日も警視庁ダンジョン前署を見上げる。

 愛すべき職場、すっかり慣れ親しんだ職場、新たなる職場。



 自動ドアをくぐって、見慣れたロビーを抜けて、

 エレベーターへ乗り込み、3階を押しかけて2階を押す。オレの名字ではない。



 そのまま地域課のブースへ。

 まずはロッカールームへ入り、


「何年ぶりだろうかな」


 刑事課やダンジョン課のスーツとは違い、

 誰もが『警察官』と聞いてイメージする濃紺の制服に着替える。

 帽子も被って8時45分、地域課のデスク、朝礼へ顔を出す。


 そうしてようやく、


「全員注目。彼が本日付でウチに配属となった」

「二階宗徹、階級は警部補です」


 オレの新しい人生がスタートする。



「ダンジョン課から配属となりました。よろしくお願いします」



 危険で、一刻も早く脱出したかった職場を去って

 仲間たちに恵まれ、居心地のいい温かい場所に別れを告げて。


 だが、今回のリスタートにじっくりした儀式などない。

 4月入社の新卒初出勤ではないのだ。

 今日も皆、日々の地続きの勤務があり、誰かがどこかで戦っている。


 きっと、粟根も上総も小田嶋も、ダンジョン課のみんなも。


 だからオレも、すぐ戦いに取り掛からねばならない。


「それでだね二階くん。早速君には交番勤務に就いてもらう」

「はっ」


 歓迎スピーチもそこそこ、朝礼も終わると。

 ビリケンそっくりな顔の地域課課長が声を掛けてくる。


「それで、君に行ってもらう交番なんだけどね」


 課長は書類を差し出す。

 それを受け取り、住所に目を通したオレは、



「……は?」






「ウソだろ、ウソだろ、ウソだろ?」


 オレはうわ言のように繰り返しながら、午前の街を自転車で飛ばしている。

 なぜなら、


 渡された書類に書いてある住所に見覚えがあったから。


 それは何やら嫌な予感をさせ、尚且つ



 それは、書類の中に紛れていた地図で、ほぼ確定させられたから。



 だが、だが現場に着くまでは。

 まだこの目で直接見るまでは完全に確定はしない。


 そう考えて、いや自分に言い聞かせて。

 人工島の街を駆け抜けるのだが






「あ、あ、あ……」


 現実とは残酷である。

 オレは一切道に迷うことなく、


 むしろ妙に見慣れた道ばかりを通って


 今日から勤務先となる交番へ到着した。

 そこは、



「なんてこった、なんてこった……」



 なんと、




 隣にダンジョンの受付があるなんていう立地だった。




「あ! 二階さん、おはようございます! 制服姿なんて新鮮ですね!」

「あ、あぁ。あぁ……」                                                      


 今日もカウンターにいる常田さんが、オレの気も知らずに手を振る。


「こ、こんなところに交番、あったかな?」

「最近工事してましたでしょ!? ほんのついこのまえ完成しました!」

「そ、そ、そうか」


 すごく絶望的な気分だが。

 希望を捨てるにはまだ早い。


 そうさ、立地がたまたまここにあるだけかもしれないじゃないか。


 動悸と眩暈を覚えつつ、


「おはようございま〜す」


 なるべく小声で交番に入ると、


「は〜い。引き継ぎの時間ですね〜、って」


「あ」

「あら」

「うわあぁ」


 デスクに着いて書類整理をしていた警官は、


 長身の女性で、にっこりした顔立ちで、手がデカくて、

 目を閉じているようで、実はうっすら開いている……



「二階さん」

「小田嶋ぁぁぁ」



 制服を着た、小田嶋夏菜奈巡査部長だった。


 彼女がここにいるということは、


「なぁ、小田嶋。もしかしてここは」

「はい。警視庁ダンジョン前署管轄、



『ダンジョン前交番』へようこそ」



「ってことは」


 怯え震えるオレに対し、小田嶋は目を閉じ、人差し指をルンルン振る。



「ここは日本唯一! ダンジョンで事件が発生した際、即駆け付けられるよう併設された交番です」



「う、ウソだ。オレは、オレはダンジョンから解放されたんだ。もうあんな危険で非常識な日々からは解放されたんだ」

「二階さんもここに配属されたのね。グッドです♪」

「何がグッドなんだ!」


 彼女はデスクから立ち上がると、こちらへ歩いてくる。

 思わず一歩退がると、Sランク挙動により一瞬で間合いを詰められる。


「ひっ」

「二階さん」


 小田嶋の大きな手がオレの手を包む。

 まるで『逃がさない』とでも言うように。

 相変わらずコイツは目が笑ってないんだよ。




「ダンジョンのエキスパートとして配属された者同士。最前線でがんばっていきましょうね♪」




「ノオオオオオオオオオオ!!」




 この日のオレの絶叫は、ダンジョン内部にまで響いたとか。


 せっかくオサラバと思ったのに、



 この大穴は、まだまだオレを逃してくれないらしい。











      踊るダンジョン左遷 〜それいけ警視庁ダンジョン前署〜


                  完

本作はこれにて完結となります。

最後までお読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけましたなら、

☆評価、『いいね』などをよろしくお願いいたします。

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