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踊るダンジョン左遷  作者: 辺理可付加
さらばダンジョン課 さらば二階宗徹
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嵐のあとの幕間

 意外と、オレの処分が降るまでには一週間ほどを要した。

 一発で懲戒免職だと思っていたし、そうなるべきなのだが。


 オレのことが大事(おおごと)になれば、もちろん上にも監督責任が生まれる。


 しかし署長(あまり会ったことはない)とて受け入れたくない。


 なので本庁勤めや官僚になった同期に手を回しまくったらしい。






 また、本庁にも騒ぎにしたくない人たちがいたようだ。


 正当な取材であろうとマスコミが押し掛けるのは好ましくない。

 そもそも不祥事は隠蔽できるならしたい。


 何より、また連中がオレに近付く口実を与えたら。



 今度こそ神野のことまで明るみに出るかもしれない。



 他にも今回のことが起きた理由を追求された場合、


『小田嶋のワンマンで、彼女がいないと他に動ける人材がいない』


 という体制の脆さがバレてしまう。


 なんならこれはすでに、畠山ショックによるダンジョン課全体への取材ラッシュ。

 あれで出た記事などにより、SNSなんかで多少問題視されはじめているのだ。

 我々も公的機関、嬉々として批判したがる層がいる。


 とにかく、本庁にとっても都合の悪いことがいっぱいなのだ。



 結果、擁護派と厳罰派が地味に紛糾し、時間が掛かったのだ。



 そのあいだ、オレはどうしていたかというと






 もう真冬、外の喫煙所に行くのも億劫な日の昼前だった。


 しかしオレは空気清浄機を抱き締めていたわけではなく、



 邦央大学附属病院の病室にいた。



 別に急な病気で搬送されたとかではない。

 最寄りの喫煙所がここってわけでもない。


 普通にお見舞いに来たのだ。



「具合はどうだ」

「リハビリ始めようとして看護師さんに止められました」

「さすが頑丈だな」



 窓際のベッド、早くも上体を起こしている小田嶋の。


 謹慎とはいえ、江戸時代みたいに完全外出禁止ってわけでもないし。


「五十嵐さん、だっけ、の方には行ったの?」

「もう退院したよ。だからもう来ることもないと思ってたんだがな。まさか同じところに入院するとは」

「うふふ、残念」


 小田嶋はクスクスと笑う。


 その表情。

 リハビリなどと強がってはいるが、やはりまだ響くようだ。


「それでだな、小田嶋」


 そんな体に酷だとは思うが。


 オレだって本来、謹慎を命じられてフラフラ外へ出る神経はしていない。

 お見舞い以上の用事があって来ているのだ。


「おまえを刺した、秋山直之についてなんだが」


 トラウマかもしれないが、しなければならない話がある。


「……二階さん謹慎中でしょ? 情報入ってるの?」


 小田嶋の表情は変わらなかったが。

 ベッドサイドの水を取る動きに合わせて、ナチュラルに視線を外す。


「粟根が教えてくれたよ」

「なのに二階さんが言いに来るんだ」

「よく分からんが、『オレが伝えるのが一番いい』と思ったそうだ」

「そっか」


 少し周りくどい会話を挟んだが、彼女も観念したらしい。


「それで?」


 オレともう一度視線を合わせる。


 だからオレも、気持ちが揺らがないうちに伝える。

 逃げずに。



「ダンジョンSランク層内で、遺体で発見されたよ」

「……そうですか」



 小田嶋のリアクションは、なんとも()()()()()()ものだった。


 当然自分を襲った相手が死んでザマァ見ろとかいうタイプではない。

 だが、


「死因は大量出血だそうだ」

「そっか」

「どうやら丸腰のところをモンスターに襲われたらしい。決して」

「決して?」


「……おまえが片腕切り落としたせいじゃない」


「そうかな」


 そんなに虚しい顔をするなよ。

 被害者なんだぞ、おまえは。


 アイツが死んでまで、どこかを痛める必要はないんだ。


 そんな顔しないでくれ。


 なんとか彼女の気持ちを軽くしたくて。

 でも口下手なオレにはうまいセリフなんか浮かばなくて。


「その、なんだ。お礼参りとか、気にしなくていいんだぞ」


 なんなら一番無神経かもしれない言葉を口走っていた。


 すると小田嶋は、


「私が、さ」


 ポツリと呟くと、閉じられた窓の外へ目を向ける。


「昔、彼のヤラセを映しちゃって」


 この季節の空気で喉が乾燥したような声、


「中途半端に悪事を暴いて。まともに罪を償わせなかったばっかりに、こんなことになっちゃって」

「小田嶋」


 葉がすっかり落ちてしまった植木のように寂しげな雰囲気、


「みんなに迷惑を掛けたし、人を死なせてしまった」

「そんなことはない!」


 冬という季節そのままのような、静かな後ろ姿だった。


 この季節、地域によっては雪に閉ざされたりするという。

 小田嶋はそういうところの出身ではないそうだが。


 なんだかオレの言葉も、うまく届いていないような気がする。


 その証拠ではないだろうが。

 彼女も雪のなか独り立つように、

 誰も聞いていないからできる独白のように、言葉を続ける。


「だから、今の警察官って立ち場は、しっかり罪を償う場へ導ける……素敵な仕事、なんだろうけど」


 すぅー、と、静かに深く息を吸い込む気配がする。

 それからハッと、今度ははっきり息を吐く音がする。


「どうしてだろう。やっぱりスッキリしないね」


 もうオレには「小田嶋」と呼び掛けることすらできない。

 無駄だろうし、そもそも聞こえちゃいない、いや、

 余計な相槌を挟んでいい状況じゃなかっただろう。


 彼女は数回、激しく首を左右へ振る。

 傷口に響くなど気にもしないように。


 それからようやく、こちらを振り返り、



「なるのが遅すぎたんだね」



 八の字の眉で、イーッと歯を見せ、

 笑った。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

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よろしくお願いいたします。

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