表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
踊るダンジョン左遷  作者: 辺理可付加
さらばダンジョン課 さらば二階宗徹
53/57

嵐のあとの嵐

 目を覚ますと天井があった。

 ダンジョン内の人工の空とは違う、白い天井。


 背中に伝わる感触も違う。

 最後に意識があった土の地面とも、


 二階さんの腕とも違う、柔らかいマットレス。


 ここは、もしかして。

 ぼんやりする頭をゆっくり起こしていると、


「あれ? これ、目ぇ()いてる!?」

「開いてる開いてる!!」


「よかったぁ! 夏菜奈さ〜ん!!」


「うわ」


 すぐ横にドアップの、素子ちゃんの泣き顔が出現する。


「ダメでしょ! 傷口(ひら)いたらどうするの!」


 どうやら飛び付こうとしていたらしい。

 真澄ちゃんが抱き止めている。

 二階さんが来るまえは、この二人でツーカーみたいなとこあったよね。


 そう、二階さん。


「ねぇ、ここって」

「病院ですよ! 夏菜奈さん助かったんですよ!」

「二階さんがやってくれました!」

「うん。それで、二階さんは?」


 とにかくまずはお礼が言いたい。


 それに、探索者ですらない二階さんがSランク層まで。

 絶対危ない目に遭ったはず。

 無事を確認したい。


 だけど、


「えーと、その、二階さん、ですけどね」

「ちょっと今、ね」

「えぇ、はい、えぇ」


 急に二人とも歯切れが悪くなる。

 まさか。


「ねぇ、ちょっと。もしかして何かあった?」

「あぁ! 落ち着いて! 傷口!」


 文字どおり血相が変わったのか。

 二人は慌てて、起き上がろうとする私を押さえ込む。


「大ケガとかはありません! 五体満足!」

「ただちょっと擦過傷(さっかしょう)まみれでメロンみたいになってますけど!」


 作り笑いがすごい。

 反比例でこっちは顔が険しくなっちゃう。


「じゃあなに」

「そ、それがですねぇ」


 二人して目配せばっかり。

 明らかに続きを押し付け合ってる。


 でも割とすぐに、素子ちゃんが意を決して切り出してくれた。



「署に呼び出されてて……。今ちょっとお見舞い来られないんですね」






 あの後三雲に連れられ、オレたちは無事ダンジョンをあとにした。


 アイツ、律儀にSランク層までは入らなかったが、律儀に入口で待っていた。

 逃げ出すこともできたのに。


 それだけあの『ドレイン・ドラセナ』が大事なんだろう。



 小田嶋は常田さんが呼んでおいてくれた救急車で病院へ搬送。


 はっきり言って、これ以上オレにできることはない。

 あとは医者の腕と小田嶋の回復力次第だ。


 救急車は間に合ったとはいえ、傷は深く出血が激しい。

 内臓が傷付けられている可能性もあるし、まだ命が助かるかは分からない。


 よしんば助かったとしても。

 傷跡や歩行障害が残るとか、そういう可能性だってある。

 捜査一課にいたころ、『それで退職する同僚を何人も見た』という先輩がいたし、



 五十嵐のことが頭をよぎる。

 オレはまた、守れなかったのかもしれない。



 オレたちのとは違うサイレンを響かせ走り去る救急車を見送りながら、

 そんなことを思った。



 しかし、黙りこくるオレに三雲は違うことを思ったらしい。


「なぁ。なんならオレが勝手に脱獄したことにしてもいいぞ。それを追い掛けてきたってことならアンタも」


 何やら、気を遣ったのだろうか。

 だが、


「ま、そんな誤魔化しが効けばいいがな。それに、そんなことしたらおまえの刑期が伸びるぞ」

「アンタが逮捕とかになった方が困るんだよ。誰がドラセナの約束守るんだ」

「そのときは同僚に金でも託すさ」


 これが軽口か素直な諦観なのか、もうオレにも分からなかった。


 そのまま動けないでいると、駐車場の奥から、



「二階さん……」

「二階くん……」



 上総と日置係長が、ゆっくりこちらへ歩いてくる。


「分かっています」


 オレが短く伝えると、上総は天を仰ぎ、係長は目を背ける。


 彼の手には、手錠が握られている。






 ダンジョン課に戻ったオレを待っていたのは、青ざめた表情の課員たち。

 粟根と水崎さんはオレの代わりに小田嶋の側に付いてくれているので不在。

 そして、


「二階」


 相変わらずほぼ無表情だが、

 それでもオーラとでもいうのか。

 ただごとではない気配を纏った、仁王立ちの敷島課長。


 全員がオレと課長の顔を交互に見やる。

 まるでマスコミに囲まれてパトカーへ詰め込まれる犯罪者のような。

 だが分かっていたことだ。


 真っ直ぐ、堂々と。

 課長の前へ進み出る。



「覚悟はできています」


「おまえなぁ」



 オレとしては、言えた義理ではないなりの誠意だったのだが。

 課長は眉根を押さえる。


「なぜいつもそういう方に思い切りがいいんだ」

「いかなる処分も覚悟しています」

「それは当然だがな」


 課長はため息をつくと、椅子に腰を下ろす。


「それは追って本庁から通達がある。オレから言えるのは『呼び出しがあるまで謹慎していろ』だけだ」

「ご迷惑をお掛けします」

「ご迷惑、か」


 課長は一旦体ごと横を向き、タバコを取り出し咥える。

 が、火を付けずにソフトパックへ戻した。


「オレが、オレたちが言いたいのはな。処分よりそのことだ」


 彼は再度、オレへ向き直る。


「どうして組織で解決しようとしない」

「それは」

「迷惑も、責任も、苦労も。捜査を全員で背負うための警察であり、課だろう。私立探偵じゃないんだ」


 後ろでガタッと音がした。誰かが動いたんだろう。

 思わず振り返ると、鳥江くんがオレを見ている。


「たしかに我々は小田嶋のワンマンに頼っている面は大きい。『どの口が』と言われるかもしれん。だが」


 向き直ると、今度は課長の目線が少し下がった。


「その分裏から支える形でも。何か降り掛かればみんなで荷物を軽くする。そう思って各員努力してきたつもりだ」


 その目に浮かんでいる感情を読まれたくないのかもしれない。


「だから、おまえがそう感じてくれなかったのが、無念だ」

「課長……」


 そうか、そうだよな。

 それが組織ってもんで、仲間ってもんで。


 今さらになって気付かされる。



 思えば神野とうまくやれなかったことで。

 五十嵐を守れなかったことで。

 それを自分のせいだと思ったことで。



 オレはいつから、『誰も巻き込まない』ことに執着していた?


 誰も巻き込まなければ誰も被害に遭わない。

 一人でやれば責任も自分にしか降り掛からない。

 だからみんな安全だ。


 そう思い込んで。


 本来なら全員で、お互いを助け合える方針を考えなければならないのに。

 かえっていらない負担を掛けてしまっている。



「オレは……」

「二階」


 呆然とするオレに、課長は静かに声を掛ける。


「とにかく、今日はもう帰って休め。疲れたろう、体中傷まみれだ」

「……はい」


 ふらふら自分のデスクへ戻るオレに、


「二階さん!」

「二階さん!」

「二階くん!」


 上総や鳥江くんに係長。

 みんなが駆け寄り、何はなくとも肩に手を置いてくれる。


 その優しさが、どうにも傷口にしみた。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ