強行軍二人
「あ! 二階さん、お久しぶりですね!」
冬は早いもんでもう夕方になりはじめるころ。
相変わらず受付には常田さんがいる。
そういえばオレは謹慎以来来ていない。
「今日はいつもと違う組み合わせ……あれ?」
「あぁ、いつものメンツはな。今回ばかりは巻き込めないんだ」
さすが彼女は記憶力がいい。
オレの相方がいつもと違うだけでなく、それが誰かも気付いたらしい。
「じゃあまた、あとでな」
余計なツッコミをされるまえに、オレたちはゲートをくぐった。
コツコツとEランク層へ向かう階段を降りる無機質な革靴の音。
覚悟して来たのだが、緊張感に体が強張る。
「なぁ、その靴で走れんのか?」
見透かしたように、オレの前を行く三雲が背中で呟く。
「気にしなくていい。自分でなんとかする。おまえはとにかく急いで血路を拓いてくれ。1分1秒が惜しい」
「それはいいけどな」
彼がポケットに手を突っ込むと、チャリチャリ音がする。
獲物の銀弾を手に馴染ませているのだろう。
「たしかにオレはヒョロいし、しばらく檻の中にいた。それでもアンタよりは断然足が速い」
「だろうな。探索者ってのはいつもそうだ」
「オレにピッタリ付いてこれるならともかくだ。あまり離れすぎると無意味になるぞ。むしろ物音を聞いて寄ってくるヤツがいたら逆効果だ」
そういえば当の『ミミッくん』逮捕のときも、小田嶋先行となったが。
彼女はわざわざスカンクみたいなのを倒しておいてくれた。
今回もそうしてもらえれば助かるのはそうだが。
毎回都合よく進路上にいるともかぎらない。
逆にソイツを追って遠回りしてたんじゃ、小田嶋が助からないかもしれない。
「……気にするな。特殊マグナム弾も結構強いもんだ」
「そうかい」
それ以上は三雲も何も言わない。説得する義理もないだろうし。
もっとも、マグナム弾は申請して受け取るもの。
飛び出してきたオレが持っていないことを、彼は知るよしもないだろう。
会話をしているうちに階段は終わり、重厚な両開きのスライドドアを開けると、
「じゃあ、せいぜい気張って付いてこいよ」
言うや否や、三雲は広がるEランク層へ飛び出す。
最短距離で真っ直ぐ行ってもらえば、見失ってあとをたどれるだろう。
すぐに見えなくなりつつある彼の背中を追って、オレも草原へ駆け出した。
二階さんは今どこにいるんだろう。
署か、アスファルトの路上か、もしかしてもうダンジョンに着いたのか。
どこでもいいけど、立ち往生してなきゃ、
いや、
立ち往生しててもいいから、危ない目に遭ってないといいけど。
逆にこっちは、
「はぁ、はぁ」
狭くて薄暗い、石造りのダンジョンの廊下。
洞窟と一緒で、最低限の換気がされているとは思うんだけども。
でも閉塞感と変わり映えしない景色が、酸素を薄く錯覚させる。
「ま、一番は、息上がってる、せいだけどさ」
背中の左下がジンジン痛む。
本当なら人間、痛むところはついつい抑えるものだけど。
今そうすると、止血したバンドの上から手に血が付くしやめた。
言うほど止血できてないのかも。
「く、ふぅ」
正直、もう左脚は感覚がなかったり。
歩けているから動いてはいるんだろうけど。
心許ないから左側の壁に体を擦り付けるようにして進んでいる。
なんて思っている先から、
「うあっ」
壁に付いている左手が血で滑って、派手に転んだ。
今ので傷口が開いたらどうしてくれるの。
行きにチェストから拾ったダンジョン産傷薬。
効果は高いけど軟膏だから縫うほど万能じゃない。
「う、ぐぐ、ぐ……」
右腕に力を込めるんだけども、
起き上がれない。
というか起き上がる気が起きない。
少し心が折れかかっているのかも。
もういいかな。
なんか痛みも薄まってきたし。
寒いのと床が硬い以外、言うほど文句のない死にざまかもしれない。
なんて思っていると、
「グルルルルル……」
「やぁ、血の匂いに釣られたな?」
廊下の先から、3匹の『サーベルパンサー』が姿を現した。
まぁ正直、Sランク層のなかじゃそこまで怖い相手じゃない。
だからか、ふやけた意識が恐怖でシャッキリすることもなくて。
ぼんやりその表情を眺めていると、
「ぷっ」
思わず笑ってしまった。
だって、キツめ、とは言わないけど鋭い目付き。
それでいて野生動物特有の、どこか静かで穏やかな瞳。
なんだか二階さんにそっくりなんだもん。
ごめんね二階さん。謝っとくね。
そう、二階さん。
不思議と右腕に力が戻る。
感覚のない左脚が地面を踏み締め、体を持ち上げる。
「どけよ」
寒かった体が、少しだけ熱っぽくなる。
「二階さんと約束があるんだ。どけよ」
『サーベルパンサー』どもが一歩退がる。
この時点でもう、私の勝ちは決まった。
野生の世界はケガしたら終わり。
治療もできず、狩りもできずに死んでいくだけになってしまう。
だから彼らは『ケガしない』を第一に考える。
まるでプログラミングされたロボットかのように忠実に。
だから一歩『恐れた』瞬間、ヤツらは本気で戦えなくなる。
『いつ安全に逃げ出すか』の世界になる。
だけど私は違う。
「私は、いいもんね」
メイスはどこかで落として来たけど、斧一本あればじゅうぶん。
「ケガしても、辛いことがあっても。
みんなが助けてくれるもんね!」
それがSランク探索者も普通の刑事も変わらない、
「どうだ、まいったかダンジョンども」
人間の強み。
「小田嶋! 無事でいてくれよ!」
正直、Dランクまでは取り越し苦労だった。
三雲が作った道に、そう面倒なモンスターは現れず、
オレも特に発砲することはなかった。
進む自体も、思ったより速く走れた。
草原はともかくジャングルも。
EランクDランクは割と通い慣れたこと。
何より心理的に、ライセンスで許されている、
『行けるレベル』と保証されていることが大きかったのだろう。
そういった要因があったからかは知らないが、
「クアアオ!!」
「ちっ!」
目の前には、巨大なサボテンの先端にヘビの頭が付いたような怪物。
Cランクの砂漠に入った途端、行き詰まってしまった。
「コイツ、マグナムじゃなくても効くんだろうな?」
だが、そんなことを言っている場合じゃない。
「邪魔を、するなぁ!!」
オレを信じて戦っている仲間がいるんだ。
どうか、もう少し堪えてくれ、小田嶋。
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