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踊るダンジョン左遷  作者: 辺理可付加
二階決死行! Sランク層の惨劇
50/57

禁じ手

「二階さん!」


 そのなかで、止めはしないが付いてくるのは粟根だ。

 何か言いたげだが、こちらから先手を打って塗り潰す。


「それで例のアキヤマ、秋山直之は、小田嶋と因縁があるんだったな?」

「えっ、あっ、はい」


 すると彼女の脳内はそちらへ引っ張られてしまう。


「秋山はかつて『安芸守』っていう名前でダンジョン配信者をやっていたんです」


 話を聞いているうちにエレベーターが来る。


「大人気でした。Sランクなので見られる光景がレアってこともありますけど」


 相槌を打たずに先へ進むが、決して無視しているわけではない。

 それは粟根も分かってくれているらしい。


「『マナーの悪い探索者を成敗する』っていう世直し系なのが受けまして」


 話を勝手に進めてくれる。



「ただ、ある日それがヤラセだと判明しまして。あれ?」



 が、エレベーターが1階で止まらず地下へ行ったことに気が取られる。


「どうしてバレたんだ」

「あっ、はい」


 定期的に水を向けてやる必要があるかもしれない。


「偶然を装って『迷惑役』と遭遇しないといけませんからね。毎回ロケハンと打ち合わせをしてたんです」


 廊下に粟根の声と革靴の音が響く。

 オレは相変わらず相槌を打たずに、その先の窓口に声を掛ける。


「鍵を開けてくれ」

「はい」


 ガタン、と重い音とともに開く鉄格子の引き戸。


「あの、ここって」


 粟根も気付いたらしい。緊張が走る。


「それで?」

「はい、



 その様子をたまたま配信に移してしまったのが、夏菜奈さんです」



 後ろでガシャンと戸が閉まる。

 なんだか絶望感を煽られる音だ。


「奥の方にチラッと映っちゃっただけなんですけども。後日一緒に映ってた人が『迷惑役』で出たもんですから」


 たしかにそれは大問題だろう。

 テレビや配信者のヤラセは、人によっちゃ一番許せないまである。


「それで秋山は大炎上、ダンジョン配信者『安芸守』は廃業となりました」


 粟根の声がか細くなる。

 自分の話している内容は関係ないだろう。

 ただ、


「おぉ若いねぇちゃ〜ん」

「こっち来て話そうゼェ」


 左右から向けられる、仄暗い視線に怯えているのだろう。


「というわけで、秋山は夏菜奈さんを恨んでいる可能性大というわけです!」


 だから彼女は掻き消すような大声で締め括った。


「逆恨み100パーセントだがな」


 オレも最後に相槌を打つとともに、

 ある()の前で足を止める。


 そう、ここは、



「久しぶりだな、熱血刑事(デカ)



 鉄格子に隔てられた向こうから声がする。

 相変わらず()()()()()感じの響きだ。


「あぁ、何日ぶりだ。おまえはたしか、三雲(みくも)(たける)というんだったな。



『ミミッくん』」



 ここはダンジョン前署の留置場。

 ウチで捕まえた被疑者たちを閉じ込めて置く場所。


 本来留置には72時間という制限がある。

 それ以上は勾留となり、拘置所へ移送されるのだが。


 実際は拘置所の数が少ないこともあり、留置場に置かれ続けることも多い。


 しかも、ここダンジョン前署は特に。

 被疑者の多くがダンジョン探索者ということもあり、


『おまえのところで預かっとけ。他所に出すな』


 と、小田嶋を当て込んだような処置が取られている。



 ゆえに彼はいまだここにいるのであり、


 それだけ彼らは凶悪で危険な犯罪者ということであり、


 オレと粟根はその巣窟にいるのである。


「に、に、二階さん!」


 さっきまで秋山の来歴をスラスラ語っていた粟根だが、今は歯の根も合わない。


「こんなところに、な、何しに来たんですか!」


 もっともな疑問だろう。


 だが、あるいは流れで薄々勘付いているのかもしれない。

 なのでオレも、粟根には答えず『ミミッくん』に話し掛ける。


「三雲」

「なんだ」

「おまえ、Aランク探索者なんだってな」

「もう剥奪されたけどな」


 うれしくはなさそうだが、恨みがましくもない。

 ぶっきらぼうド真ん中の返事だが、


「そうか、まぁいい。



 オレをSランク層まで連れていってくれ」



「は?」


 さすがに今のは、簡単にスルーできる内容ではなかったらしい。

 だが、


「いやいやいやいやいや! 正気ですか!?」


 声を上げるのは粟根の方。


「正気だ」

「絶対正気じゃない! 二階さん自分が何言ってるか分かってますか!?」

「もちろんだとも」

「あのねぇ!」


 ここまでずっと、オレの後ろで縮こまっていた粟根が前に回り込む。



「あなた、凶悪犯を勝手に檻から出すって言ってるんですよ!?」



「そうだ」


 だからこそオレも、真っ直ぐ見つめ返す。


「そうだじゃない! そんなことしたら危ないで済みませんし! 何より二階さん!」


 すると粟根は真っ直ぐオレの両肩をつかんだ。



「懲戒免職になっちゃいますよ!?」



 言われなくとも分かっている。

 分かっちゃいるが、



「構わん。小田嶋の命には変えられんからな」



「二階さん!」


 肘までオレの胸板に付けて叫ぶ粟根だが、


「なぁ、盛り上がってるところ悪いが」


 そこに三雲が割り込む。


「オレはライセンス取られるまでもなくAランクだ。Sランクには行けないし、『同伴者規定』もBまでだぞ」

「そんなことは分かっている」


 分かっている。

 つまりは警察官が『ルールを知ったうえで無視している』と宣言したのだ。

 彼の眉が動く。


「おまえはオレをSランクの入り口ギリギリまで……『連れていく』必要もないな。ただおまえ一人で行ってくれ」

「どういうことだ」

「オレは同伴者じゃない。おまえが切り拓いた道を勝手に追従するだけだ」

「ほう」

「だからオレのことは気にしてくれるな。あとは勝手になんとでもする」


 じっと黙り込む三雲。

 嫌だというよりは、話の内容を吟味しているような。


 じっくり考えたすえの言葉は、


「オレが協力するメリットは?」


 これまた冷静で当然の内容。


「デメリットはあるぞ? 脱獄と取られたら刑が重くなる」

「それだけはさせない。オレがなんとしても庇ってみせる」


 力強く、とまではいかないが、動揺せずに答えるも。

 彼の表情は動かない。


「そんな権限が本当にアンタにあったとしよう。で、オレのメリットは?」


 冷めた瞳に、ここでオレは鉄格子を握る。



「『ドレイン・ドラセナ』」



「!」


 さすがの三雲も、今の響きには明確に腰を浮かせた。


「小田嶋によると、まだ枯れていないそうだ」

「……そうか」



「おまえが協力してくれるなら。オレが自腹切ってでも安全な場所へ移送しよう」



 これまたトンデモ宣言だという自覚はある。

 だが、粟根は青ざめつつも何も言わなかった。


 すると『ミミッくん』も、


「その話、



 本当だろうな?」



 鉄格子一つ隔てて、オレと顔を突き合わせた。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

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よろしくお願いいたします。

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