直線距離約463km
次にオレたちが行なったのは、
「これ意味あるんスかね?」
「エイサーよりはあるだろ」
「でも普通にサイズ足りないと思うんですよ」
橋の上で肉や魚を振る奇行。
『誘き寄せ作戦その2:エサで気を引く』
鳥江くんのご指摘はもっとも。
「おーい! A5ランクのサーロインだぞー!」
粟根が掲げる霜降りステーキ肉も、怪獣からしたらポテチの破片みたいなもんだ。
「にしても、高いもん買ってきたんだな」
「全部経費で落ちるそうですし。それなら高級な方が向こうも喜ぶでしょ」
「明らかに貨幣経済の中で生きてなさそうな造形してるけどな」
だがまぁ、まだ肉なだけマシかもしれない。
「係長、それは?」
「ビールよ!」
「バーベキューじゃないんですよ。水崎さんも」
「私バーベキューにはじゃがバターがないと辛抱たまらないんです」
「だからバーベキューじゃないんだって」
一応こんなのでも任務の一環だというのに。
何を自分たちが飲み食いしたいもん買っとるのだ。
まぁ『エアロドンの気持ちになって考えてみよう』もバカらしいが。
「ちゃんとお金払ったんだし、いいじゃない」
「あいつが誘き寄せられなかったら元も子もありません。それに変なもん買ってたら経費おりませんよ」
「えー」
ちなみに買いに行ったスーパーは無人だったので鳥江くんがレジを打った。
なので誤解なきよう、火事場泥棒ではなかったと明記しておく。
ポイント5! 5! 5パーセントアップ! ではなかったとも補足しておく。
それはいいとして、
「課長。ヤツの動きは?」
「うーむ」
オペラグラスで物騒なバードウォッチング中の課長。
その答えは
「向こうのスーパーマーケットを破壊して、ドッグフード食い漁ってるな」
「えぇ……」
それでいいのかダンジョン産翼竜。
たしかに最近のペットフードはCM見てると、オレのおつまみよりゴージャスだが。
「すごいなアイツ。器用にネコ缶開けてるぞ。飼い主がやってるのを見て覚えたのかな。頭がいいんだな」
「本格的に観察してる場合じゃないでしょう。ヤツの気は引けているんですか」
「先ほどドン引きはさせたんだがな」
「アンタがやれっつったんだ!」
失敗のようだ。
「さて、次に移行するか」
「まだやるのか……」
「こんなもんでいいかな?」
「ちょっとブサイクじゃね?」
「人間基準でカワイくても仕方ないでしょ」
「というか、これでメスと認識されるのか?」
「ここに粟根ちゃん印のリボンが付いてるでしょーが!」
「絶対エアロドンにその文化ないって」
あれからそれなりの時間を浪費しコピー用紙を貼り合わせて
「できたか」
「できました!」
「よし! 掲げろ!」
「それっ!」
消防から借りてきた特殊車両で、橋の上部構造のトラスに登った上総と鳥江くん。
二人が縄を引っ張り上げると、横断幕のように展開されたのは、
『誘き寄せ作戦その3:メスエアロドンのイラストでメロメロにする』
「本当にこれでいけるのか?」
「何を!? 粟根画伯の腕を疑うんですか!?」
「おまえが描いたのリボンだけだろ」
「水崎画伯の腕を疑うと!?」
「水崎さんが描いたのは少女マンガみたいな背後の花だろ。いらないだろ」
ちなみに本体自体もヨ◯ハマタイヤみたいな顔してる。
明らかにダメそうだが、
「おぉ!」
オペラグラス課長が声を上げる。
「どうしました!」
「めっちゃこっち見てる!」
「ウソでしょ!?」
「アイツ、オスだったんですね!?」
「そこから!?」
そういえば粟根の言うとおり見切り発車だったが、この際どうでもいい。
うまくいけばなんでもいい。
この意味不明な作業さえ終われば!
「よし! 絵を揺らしてアピールするぞ!」
「おーっ!」
ついに低クオリティな文化祭劇みたいになってきたところに、
「アンタらさっきから何やってんの」
まだいた市民の皆さまの怪訝な声。
やめろぉ! こんなところを見るな!
しかしそうも言っていられない。
一応説明の義務があるだろう。
みんな絵を揺らすのに夢中なので、オレが向かうことに。
「えー、ただいま例の怪獣をこちらへ誘導しているところなんです」
「は!? あんな危険なヤツをこっちに!?」
「勘弁してくれよ!」
「今すぐやめろ!!」
おぉ、なんとぐうの音も出ない至極真っ当なお言葉。
避難が済んでいない人もいるし、会社が潰れる(物理)のも困るだろう。
「ど、どうかご理解ください!」
「ふざけんなー!」
「お役所仕事がー!」
「いい加減にしろー!」
巻き起こる怒号に飛んでくるペットボトル。
こんなものに立ち向かわなければならない公務員の悲哀を噛み締めていると、
「二階さーん!!」
「後ろーっ!!」
『皆さまのお声』に負けないくらいの、粟根や上総の声がする。
「ん?」
思わす振り向くと、
そこには
「ギャオオオオオオン!!」
「あ」
エアロドンがすぐ後ろまで来ていた。
という状況を理解する間もなく、
「お、お、お!?」
「二階さーん!」
なんか、クレーマー、じゃない、市民の皆さまが遠く?
というか、なんか、足が地面から離れて、
オレ、浮いてる?
つまり、
「逃げてーっ!」
「イヤーっ! 二階さんが食べられちゃうー!!」
ジャケットの奥襟を咥えられて、エアロドンに拉致られようとしている!?
「おああああああっ!?」
「その人美味しくないよーっ!!」
「じゃがバターと交換しましょーっ!!」
女子たちのズレた交渉も虚しく、オレの体がどんどんスカイハイへ。
このままでは小腹満たしのスナックにされてしまう!?
恐怖に恐れ慄くも、これといった抵抗もできずにいると、
「グギャアアアアオ!!??」
急に断末魔を上げるエアロドン。
となると、
「お?」
当然、
咥えられているオレの体は、宙にリリースされる。
「わあああああ!!」
着地できるのか足の骨が折れるのか微妙な高さ。
だが混乱して受け身ができなさそうなことを考えるとマズい高さ。
南無三!!
思わず目を瞑ってしまったそのとき、
「大丈夫? 二階さん」
ふと耳に届く、優しい声。
同時に体もアスファルトに叩き付けられることなく、ふわりと抱き止められる。
目を開けると、オレをお姫さま抱っこしているのは、
「お、お」
「二階さんよくがんばったね? ベリィグッドです♪」
「小田嶋!?」
「小田嶋です♪」
「おまえ、南紀白浜にいたんじゃ!?」
「あー、うん」
小田嶋は答えるまえに、一度後ろを振り向く。
一撃KOされたエアロドンに動く気配がないのを確認して、オレを地面に降ろす。
「だから急いで来ました」
「急いで!?」
「走って」
「走って!?」
「お待たせ」
「いやおかしいおかしい!」
「おかしくないよぉ。だからここにいるんだもん」
「いるのがおかしいの!!」
「二階さーん! 無事ですかー!? 夏菜奈さーん!」
オレの抗議を掻き消すように、粟根がこちらへ走ってくる。
小田嶋は彼女をギュッと抱き締めながら、
「いえーい」
なぜかオレにピースサインを向け、
「じゃあ、ホテルまだ一泊あるんで」
走って南紀白浜まで戻っていった。
ちなみに回収されたエアロドンはダンジョンに帰されたらしい。
帰すな。
あのまま飼われてても困るけど。
お読みくださり、誠にありがとうございます。
少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、
☆評価、ブックマーク、『いいね』などを
よろしくお願いいたします。




